相棒はカンフー童女   作:ユーカリの木

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一章:いのち短し恋せよ人よ 3

 あの日から、夜になるとペルテテーはハルキの部屋に来た。そして問うのだ、枕を抱えて顔を半分隠して「一緒にいていい?」と泣きそうな顔で。

 

 それだけで、ハルキは胸が痛かった。ペルテテーにこんな顔をさせている自分が心底憎かった。いけない訳なんてない。彼女が隣にいるだけで、心底安心できるのだ。なのに、それをどう伝えればいいのかが分からなかった。

 

「いいんだ。一緒に寝たいよ」

 

 どうにかして絞り出した言葉は、いつだって薄っぺらい。でもこれを聞いたペルテテーは、安堵の表情を浮かべてベッドに潜り込んでくる。互いに抱きしめ合って、体温を交換して、穏やかな気持ちになって眠りに入る。

 

 だけど、ペルテテーの言葉の真意が理解できなかったことが、ハルキにとってはどんな猛毒よりも痛い。なにより、心の機微に聡い彼女が悟らないはずがない。それなのに、彼女は何も言わず、ただ強く抱きしめてくれる。嬉しくて、それがたまらなくつらい。彼女に無理をさせている。自分の心すら満足に分からないこの欠陥品のせいで、大切な人をきっと傷つけている。

 

 ペルテテーの傍にいたい。時間が許す限り、永遠に。

 

 でも、あのペルテテーの言葉が分からない。自分の言葉で応えることができない。時間が経てばたつほど、彼女の言葉を踏みにじっているようでならない。

 

 毎日毎日考えているのに、心の底を何度掬っても答えがないのだ。

 

 やがて、週末の前日の夜になった。夕食を終え、雑談をし、夕食の片づけをして、順番にお風呂に入る。フェンがあくびをして自室に入り、ハルキとペルテテーだけがリビングのソファーにいた。

 

 今日は、今日だけでも誘おうと思った。

 

「ペルテテー……今日は――」

 

「一緒に寝させて。お願い」

 

 ペルテテーの懇願に、喉が引きつった。

 

「僕だって一緒に寝たい。お願いなんてしなくたっていいんだ」

 

 隣に座るペルテテーの手を取る。両手で持って額に当てる。

 

「君の傍にいたい。時間の許す限り。本当は、一秒だって離れたくないんだ」

 

 切実に出した言葉は、きっとペルテテーの返答にはならない。

 

「君だけなんだ。こんな風に思えたのは」

 

 ひっぐ、と嗚咽が聞こえた。ペルテテーがこちらを見つめながら涙を流していた。彼女が身体ごと押し付けてきた。

 

「ありがとう。ずっと、ずっと悩ませちゃってごめん」

 

「許してほしい。ここまで自分が欠陥品だなんて知らなかった……」

 

「お願い、ハルキ。自分をそんな風に呼ばないで。あなたは、私にとって大事な人なの。その人を悪く言わないで……」

 

「……僕が貶されると、ペルテテーはつらいの?」

 

「当たり前だよ。自分の心を抉られたように感じるの」

 

「僕も、ペルテテーがつらいって感じると、すごく嫌なんだ」

 

「同じだね。どうしよう、どうにかなっちゃいそうなくらい嬉しい。夢みたい……」

 

「ペルテテー……?」

 

「ね、ハルキ。お互いが一緒なのが分かったよね?」

 

「分かった。ペルテテーも同じ気持ちだったんだね」

 

 口に出した瞬間、心臓が高鳴った。顔が一気に熱くなる。

 

「ハルキ、心臓がドキドキしてるよ」

 

「ペルテテーといると、たまにこうなるんだ」

 

「――っ。ずるい、そんなこと言われたら、我慢できなくなっちゃうよ」

 

「なんでもいってほしい。ペルテテーの願いだったら、全部叶えたい」

 

「まずは一緒にベッドに入ろ?」

 

 身体を離したペルテテーを連れて部屋に向かう。ベッドに二人で潜り込んで抱き合った。昨日までの葛藤が嘘のように、ただ安心だけがそこにあった。何にも変えがたい、奇跡のような時間だと思った。

 

 眼前のペルテテーが、とろけた目でハルキを見つめる。桃色の唇が願いを口にする。

 

「ねぇ、キスがしたい」

 

「いいよ、しようか」

 

 ペルテテーの目じりから一滴の涙がこぼれる。ハルキはそれを指の腹で拭った。

 

 ペルテテーが顔を近づける。淡い、触れるだけの口づけ。

 

 それだけで、心臓が狂ったように動き出す。全身がかっ、と熱くなった。

 

「えへへ、しちゃった」

 

 ペルテテーの嬉しそうの笑み。だけど、ハルキはそれどころじゃなかった。

 

「ねぇ、ペルテテー……」

 

「なぁに?」

 

「……嬉しすぎて、たぶん、落ちる」

 

 すとん、とペルテテーの首筋に額を落とす。もう声が出ない。心臓がうるさくて、恥ずかしいのに、心が喜びで満ち溢れている。でも、キャパオーバーだった。

 

「ん、ありがとう。今日はゆっくり寝て」

 

 柔らかい声が届き、ハルキはそのまま意識を手放した。

 

 

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