相棒はカンフー童女   作:ユーカリの木

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一章:いのち短し恋せよ人よ 4

 東セクターの駅から高速鉄道に乗り、北セクターを経由して西セクターへ向かう。車両の中はこれでもかと人が詰め込まれている。四人は奇跡的に座れていた。

 

 前の席のオライオンはイヤホンをしてぶつぶつと何事かを呟いている。首が上下に振られているから、きっと布教が完全に完成したのだろう。隣のフェンはニヤニヤが止まらず、スマホを見ながら満面の笑みを浮かべている。二人の後ろの席に座るペルテテーは、穏やかな表情でハルキの肩に首を乗せ、指を絡めている。

 

 ハルキは、昨夜のことを思い出して思考が飛んでいた。

 

 朝からペルテテーの顔をまともに見れなかった。照れくさくて、恥ずかしくて、でも見ないなんて嫌だから顔を見て、心臓が爆発する。その繰り返し。朝のハルキは確実にポンコツだった。

 

 握られた指をぎゅっとペルテテーが力を入れる。気恥ずかしさで顔が真っ赤になりそうだ。いや、きっともう熟れたリンゴのようになっているはずだ。

 

 必死になって電車内の液晶広告を見る。内容が入ってこない。ペルテテーの色々な表情ばかりが脳裏に浮かぶ。思考を取り戻そうと、必死になって頭を回転させる。

 

 今日のペルテテーはかっこよかった。緋色の髪の上にキャップを被り、レザージャケットに腕だけを通して、ノースリーブのタートルネックに、ショートパンツ姿。一か月前に一緒に買い物に行き、彼女が選んだ服装。でも、おへそも足も大胆に出ていて、ほかの誰かの目に入るかと思うと、なぜか焦燥で胸がいっぱいになる。

 

 いっそのこと二人で抜け出してどこかに行きたい。ライブなんて人の集まる場所に連れて行きたくない。二人きりになれるところで身を隠したい。

 

 でも、フェンが楽しみにしている。オライオンの心境は謎。ペルテテーも、きっと初めてのライブに期待している。ハルキだけが完全に今日の目的から頭がずれている。

 

「ハルキ、お菓子食べる?」

 

「……ああ、いや、いまは大丈夫」

 

「うん? どしたの?」

 

「その……いまのペルテテーを誰にも見せたくなくて……いっそどこかに連れて隠してしまいたいなってさ……」

 

 ペルテテーが肩で頭をぐりぐりする。角が微妙に当たって痛い。

 

「……バカ、これ以上私を落としてどうするの」

 

 言葉に迷う。伝えるべきか悩んでしまう。でも、ペルテテーは言葉を尽くしてくれたから、できる限り返したい。

 

「朝、ペルテテーの顔が見れなかった。昨日のことが恥ずかしくて、でも本当はずっと見ていたい。お陰で心臓が朝からずっと変だ」

 

「もうっ……もうっ。これ以上私を喜ばせないで。これ以上あなたの気持ちを聞いたら、駅を出たらあなたを抱えてきっとどこかに行っちゃう」

 

 これ以上はダメらしい。だけど、ひとつだけ伝えたいことがある。これだけは、いま心の底から望んでいることだから。

 

「ライブ終わったら、少しでいいから、一緒にいてくれないかい?」

 

「……うん。デートしたい」

 

 その後、言葉は交わさなかった。体温だけを渡し合うだけで良かった。これ以上ないくらい幸せなのに、もっと寄越せと心が暴れる。これ以上なんてハルキは知らない。でも先があるなら、できればペルテテーと一緒に進みたい。

 

 幸福な時間はすぐ終わる。目的の駅に着き、フェンを先頭に高速鉄道から降りる。駅に入ると、むっとした獣の匂いがほのかに漂う。ベスティアが多い地区である証拠だ。

 

 駅中は東区と違ってごちゃごちゃしていた。なにせベスティアの種類が多い。クマに狼、狸に猫、ワニだって両足で歩いている。それが駅の中でそれぞれが商売しているのだ。さすが、商人気質のベスティア連合王国が隣接しているだけある。

 

 おお、とフェンがカメの店主へ駆け寄る。

 

「この前食べ損ねた蒸しパン! よっつおくれ!」

 

「お~、嬢ちゃん、お目が高いなぁ~。ここの蒸しパンは、ここらでいっちば~ん甘くておいしいぞ~」

 

 ほいっと、フェンが紙袋を受け取り、スマホで決済を完了する。

 

「ありがと~な~。またおいで~」

 

 カメのベスティアがのほほんとした声でフェンを送る。

 

 とててて、と戻って来たフェンが紙袋からひとつ蒸しパンを取り出し、思い切りかぶり付く。

 

「うまっ、うまっ!」

 

 表情はにっこりを通り越してどろどろに溶けている。そのままの顔で、フェンが紙袋をオライオンへ渡す。

 

「ほれ、ぬしらも食べぃ! 今日は我の奢りよ!」

 

 フェンが、奢り……だと? 天変地異の前触れか?

 

「お、サンキュ。ふむ、うまいなこれ」

 

 オライオンが早速蒸しパンを頬張る。彼の手から紙袋がハルキに渡される。

 

 ペルテテーが取り出し、ハルキの口に持っていく。そのまま一口食べる。

 

「うん、いけるね」

 

 ペルテテーも食べかけを口に入れて満足そうに笑った。

 

「ん……おいし」

 

 全員が蒸しパンを食べながら駅を出る。高層ビルが並ぶ東区とは異なり、眼前には商店街が入口を開いている。屋台の数も多く、さまざまな匂いが交じり合っているのに臭くない。

 

 フェンは商店街ではなくビルが並ぶ方向へ歩き出す。だが、目線はちらちらと商店街へ流れている。あれは絶対なにか食べ物を求めている。

 

 しばらく大通り沿いに歩くと、正面にスクリーンを映すビルが見えた。多様な種族が人ごみを作っている。眼前の通りは歩行者天国なのか、人々が道路の前でスクリーンを眺めながら周囲の人と楽しそうにはしゃいでいる。

 

 スクリーンを見ると、ディアナライブのミラースクリーン会場と書かれていた。当選できなかったファンはここでライブを見るらしい。なかなかの大盤振る舞いだ。

 

「ぬぅ、人が多いのぉ……よし!」

 

 フェンが素早い身のこなしでオライオンの背後に滑り、思い切り背中に乗る。

 

「蹴散らせ! オライオン号!」

 

「おう! ……ってできるか! 普通に地道に中に入ろうぜ。チケットあるんだから俺らはライブハウスに入れるんだ」

 

 騒ぐフェンをおんぶしたオライオンが、人ごみをかき分けライブ会場の入口へ進んでいく。ペルテテーがハルキの腕に自分のそれを絡めて寄り添う。

 

「ん、私たちも行こ?」

 

「そうだね。フェン達に追いつこう」

 

 ペルテテーと一緒にハルキは人ごみに入っていく。

 

 

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