相棒はカンフー童女   作:ユーカリの木

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三章:光は明るいほど、影は暗くなる 3

 ケイオス市で事件など日常だ。毎日どこかで殺人事件は起きているし、どこかでユニオンやマフィアが暗躍している。

 

 いずれ自分たちにも降りかかる日が来る。それは覚悟していた。

 

 だから、こんな報告が来ても、冷静に対処する必要があった。

 

「ハルキ……オライオンが、刺された。意識不明の重体だって」

 

 ペルテテーがスマホを取り落とす。ごつん、と床で鈍い音をたてた。

 

「どうして?」

 

 絞り出した言葉は、すべてが曖昧だった。オライオンが狙われた理由が分からない。通り魔があの屈強な前衛を刺せるはずがない。

 

 ぎりっ、とフェンが棍を握った。

 

「ぬしよ、誰がオライオンを狙ったか分かるか?」

 

「ルヴェイン? 事件は決着を見た。T3もあり得ない。クリスタルライン? キャンディサーカス?」

 

 思考を巡らせる。答えが出ない。

 

 ペルテテーが震える声を出す。

 

「もっと、早くに言わせればよかった……」

 

「ペルテテー、時間切れだ。話してくれ」

 

 三人が机に着く。ペルテテーがオライオンが抱えていた情報をつまびらかにする。それでも、ハルキの頭は答えを弾き出せない。

 

「オライオンは確かに致命的な情報を持っていた。だけど、世間に公表できるだけの、爆弾になり得るだけの証拠を握っていない。狙われる必然性がない」

 

「ディアナが電話で言ってた。キャンディサーカスの話をしたときに刺されたって。でも場所は個室の喫茶店。誰もいなかったって」

 

「誰もいない個室? キャンディサーカス、つまり麻薬の件か……」

 

 それで、なにが繋がる。ナンダが兵士を派遣したか? あり得ない。オライオンを気に入っていた男だ。ならキャンディサーカスで麻薬を流している男が狙った? 何人で? でも誰もいない個室だ。

 

 待て、明らかにおかしい。どうしてキャンディサーカスが麻薬を流している。論点はそこだ。あのマフィア組織で麻薬を流すメリットがない。バレたときのリスク、ディアナの評判が落ちることを組織は許容しない。

 

 ディアナの事務所関係は除外だ。アルゴリズムダンス側にメリットは皆無。むしろ迷惑だろう。なら、キャンディサーカスに麻薬を流している第三者か。

 

 麻薬の流通元など知らない。

 

 リビングを飛び出し自室へ。魔杖短剣《支配するイデア》を抜く。PCを立ち上げ、短剣の引き金を引いた。

 

「久シブリノ出番、クー登場!」

 

「ストライキ……デター」

 

 召喚した電磁精霊クー・デターに即座に命令。

 

「キャンディサーカスの納入リストを抜け。麻薬の痕跡を探せ! 全部だ!」

 

「ナイ! ナイ! 情報ナシ!」クーの宣言。

 

「取引先リスト……ナシ」デターの情報。

 

 クーとデターが空ぶった。あり得ない。

 

「監視カメラから怪しい人物情報を抜け!」

 

「ナシ! ナシ!」クーの降参宣言。

 

「監視カメラ、ナイ」デターの詳細情報。

 

「無いわけないだろ! やり直せ!」

 

「ハルキ、ネットない! キャンディサーカスのカメラアクセス不可!」クーが最悪の情報を出した。

 

 スタンドアロンか。それはそうだ。監視カメラをネットに繋げる必要はない。内部で完結させている。大きくない箱だからこその盲点。

 

「菓子屋だ! 全部取引先を抜け!」

 

「ナイ! ナイ! 取引先リスト、ナイ!」クーの声。

 

「バンド情報ナラ沢山アル……」デターの眠そうな声。

 

「くそがっ!」

 

 ハルキは机を叩く。いまどき紙で帳簿をつけているのか。このネット世界でどこまで非効率なんだ。

 

「ああ、あのナンダがPCなんて扱えるわけないよなぁ!」

 

 ハルキからしてみれば、キャンディサーカスは天然の要塞だ。電子戦を完璧に封じている。

 

「落ち着けハルキよ。我らが思考の要が取り乱してどうする」

 

 ハルキの腕をフェンが掴む。

 

「落ち着いてる。いま最高に落ち着いてるよ」

 

 待て。オライオンはなぜ狙われた。麻薬の情報を掴んでいたから?

 

 なぜディアナは狙われなかった?

 

 ディアナを殺す理由がない?

 

 でもディアナには麻薬の情報を知られたくない。

 

 ――集客。麻薬の入口。中毒者を作り出して、裏で麻薬をさばく。典型的な麻薬のやり取り。

 

 違う。問題はそこじゃない。オライオンが狙われた。同じ情報をいま持っているのは誰だ。

 

 ――気づく。

 

「フェン、ペルテテー! ここから逃げるぞ! 襲撃される!」

 

 クーとデターを消し、フェンと共にリビングへ入る。ペルテテーが外套姿の完全武装で立っている。玄関でかすかな音。

 

 ペルテテーが即座に左の青い剣をリビングの入口へ向け、魔法を発動。一瞬にして分厚い氷を作り出して塞ぐ。

 

「フェン! ハルキをお願い! 逃げるよ!」

 

 フェンが魔力を全開にしてハルキを掴み、窓から外へ跳躍。ペルテテーが入口を見ながら後退。氷が一瞬で斬り刻まれる。相手は景久クラスか!

 

 ペルテテーが幾重もの氷の壁を展開。生まれる氷が微塵になっていく。

 

「フェン! ペルテテーが!」

 

「黙っておれ!」

 

 フェンが庭を抜けて対面の建物の屋上へ着地。勢いを殺さず疾走。ペルテテーの姿が見えなくなる。心臓が痛い。

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