相棒はカンフー童女   作:ユーカリの木

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三章:光は明るいほど、影は暗くなる 6

 キャンディサーカスの苦労人ナーガは、東セクターからとんぼ返りで西セクターへ戻っていた。長身の背は丸まり、全身から疲労がにじみ出ていた。

 

 夜の駅前から街路に出たところで、ナーガは全力でため息した。

 

「あかんて、わいもう働きすぎや。久しぶりに死んでまうわぁ」

 

 ポケットが震える。スマホが着信を受け取っていた。

 

「電話ぁ? もうなにぃ?」

 

 ナーガが嫌そうな顔でスマホを耳に当てる。内容を聞いて愕然とした。

 

「うそでっしゃろ? わい結構がんばったと思うんですがぁ?」

 

 相手の言葉は容赦がない。

 

「えぇ、わいナンダのおっちゃん好きなんですがぁ」

 

 内容を聞いてナーガは頭が痛くなる。

 

「早すぎませんかぁ? こちとら結構時間割いとるんですわぁ」

 

 要求が一方的だ。

 

「えぇ? あんた鬼かいな……。はいはい、分かりました。明日終わらせますわぁ」

 

 電話が切れる。ナーガの目がスマホを睨みつける。

 

「これだから白虎製薬は嫌いやねん。なにが序列一位や。人のことなんだと思ってんねん。あ~あ、転職しよっかなぁ。でも金困るしなぁ、はぁ」

 

 ナーガの嘆きが人ごみへ消える。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 東セクターの夜の駅前は無駄に光が眩しい。駅からの照明、街灯の明かり、ビルの窓から漏れる光。目がちかちかする。スクリーンからは白虎製薬のCMが流れる。思わず空を見上げる。星は見えない。

 

 ハルキはタクシーを拾って適当に隣駅を指定する。後部座席に身体が沈んでいく。バックミラーとサイドミラーを注視。付けられてはいない。隣駅でタクシーを降り、また別のタクシーに乗る。問題ない。

 

 ホテルの脇に停めてもらい、支払いをして建物に入る。エレベーターに乗っている間、思考はまったく回らなかった。

 

 部屋の扉をノック。

 

「僕だ」

 

 扉が開かれた瞬間、鬼の手が伸びて思い切り引っ張られる。気づけばペルテテーにきつく抱きしめられていた。

 

「……無事で良かった」

 

「大丈夫だよ。少し疲れたけど」

 

「もう寝よ?」

 

「寝たいけど、情報は共有しておきたいかな。色々あって、パンクしそうなんだ」

 

「うん。話したら寝て。お願い」

 

「約束するよ」

 

 抱擁を解いたペルテテーがそっと額に口づけし、手を引いてベッドに座らせてくれる。正面のベッドの上で瞑目していたフェンが、まぶたを開けた。

 

「成果は上々かぇ?」

 

「情報は揃ったよ。あとは詰めだ」

 

「うむ、ようやった」

 

 フェンがにやりと笑う。ペルテテーが隣に腰を下ろし、ハルキの腰に手を回して身体を支えた。

 

「まずは結論だ。やっぱり麻薬を撒いているのはナンダじゃなかった」

 

 一度堰を切れば、情報は口から濁流となって流れ出す。いつもなら精査してから出すものも、全部が一緒くたに言葉となって連なっていく。

 

 ふたりは何も言わず黙って聞いていた。

 

 すべてを語り終えたとき、身体が傾いた。ペルテテーが受け止める。

 

「もういいよ。寝ていいから」

 

「電話、頼んでいい?」

 

「うん、いいよ」

 

「明日のことは、明日決めよう」

 

「うん、ありがとう。もう大丈夫だよ」

 

 ペルテテーの声が遠くなる。疲労で脳はもうまっさらだった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 最悪な日だ。今ほど神を呪ったことはない。初めての恋人ができたその瞬間に、彼が刺された。大量に飛び散った血の匂いはいまだに消えない。

 

 手術室の扉は閉まったまま。オライオンはいまも必死に死と戦っている。ディアナにできることは祈るだけだった。

 

 落ち着け。取り乱したらいけない。ハルキ達は地下に潜った。ペルテテーからの連絡はない。目の前を通る看護師を捕まえて怒鳴り散らしてしまいにそうになるのを、なんとか止める。

 

 初めてできた愛しい人。

 

 初めて恋人同士になれた。

 

 天にも昇る気持ちだったのに、一瞬で突き落とされた。

 

 ただの無音が苦しい。いつだってどこだって、自分は愉快な会話の中にいた。その落差が、ディアナの心をじわじわと蝕んでいく。

 

「好きなんや。だからさっさと起きい。いつまでうちをひとりぼっちにすんねん」

 

 スマホが着信を表示する。ペルテテーだった。思わず縋りついた。

 

「うちや」

 

「ごめん、連絡が遅くなった。私たちも狙われててね、ようやく色々落ち着いたとこ」

 

 頭が真っ白になった。

 

「えぇ……?」

 

「いまは端的に、オライオンは無事?」

 

「……まだ手術中や」

 

「……そっか。あいつなら大丈夫だよ。うちの前衛は元気が取り得なんだ」

 

「分かってる、オライオンくんは死なへん。絶対に……」

 

「ディアナ、大事な話があるから、明日会えない? あと、付けられてる可能性がある。できれば慎重に行動してもらえると助かる」

 

「……付けられてる?」

 

「それから、あなたのお父さんも呼んで欲しい。誰にも言わないで、こっそりと抜け出してほしいって伝えてくれない?」

 

「分かった」

 

「詳細はDMで」

 

「うん、ありがとう」

 

「行けなくてごめんね」

 

「いいんや、電話、ありがとうな」

 

「うん、それじゃあ」

 

 

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「とあるライブで配られてるキャンディを売ってる場所急募」

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「次のライブまだかな。キャンディ欲しい」

「ディアナの動画消されてたな。やっぱ運営かな?」

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