相棒はカンフー童女   作:ユーカリの木

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四章:間違うことは人間的だ 4

 ――SNSまとめサイト

「【朗報】歌姫ディアナ、駅前で公開告白を実施する」

「なにやってんのこの人w しかも告白しといてなんで逆ギレしてんのw」

「うわ~胸に来るわこれ。結局これ付き合うのかな?」

「これ男側がうますぎる。スマートに移動したぞ。てか俺なら下手すりゃふってる。この歌姫はそれだけのことをやらかした」

「なにが貧相な語彙だよw お前の方がよっぽど貧相だw」

「男の人哀れ」

「なにこの告白ひどすぎるw ラッパーならもっとまともな告白しろよw」

「この男、アッシュ・クリスタルラインじゃん。めっちゃ特殊個体倒してる探索者」

「なんだろうこの祝福したいのに全力で期待を裏切りそうな図は……」

「公式の発表まだー?」

 

 

 

「ディアナさん。あなたは天才です。僕の胃を壊すことにかけては右に出るものはいません」

 

 キャンディサーカスの客室。テーブルを挟んだ対面には、怒りと呆れを通り越して感動しているマネージャーのルカ。目の前にはなぜかカツ丼。昨日の昼間からろくに食事をとっていないディアナにとっては垂涎の品だ。

 

「えっと、これ食べてええん?」

 

「え、食べられると思ってるんですか?」

 

「はい、すんません……」

 

「僕はね、これでもディアナさんのマネージャーです。あなたに適した仕事を取ってくるし、不必要な仕事は弾いてきたつもりです。SNSの荒らしについても的確に対処しましたよ。そりゃあもう、右に左に上にと頭を下げましたよ。日々自分の頭の価値が下がっていくのには困りましたが、ディアナさんのためならばと奮起していました」

 

 日頃の苦労を思い浮かべたのだろう、ルカは腕を組んで天井を仰ぐ。ディアナの手が自然とカツ丼へ伸びる。

 

「おあずけ!」

 

「はぃ!」

 

 いいですか、とルカがディアナを指さす。

 

「あなたは有名人です。というより、あなたのあのふざけた告白で更に有名になりました! 各方面から仕事の依頼が来て事務所はパンクしそうです! 嬉しい悲鳴ですよまったくもう!」

 

「ふざけとらんわあ! あれがうちの本気や!」

 

「SNSのコメント見てから言ってくれますかねぇ⁉」

 

「知るかぁ! 乙女の告白を馬鹿にすんなや! エンタメじゃないんや!」

 

「あんたの存在がエンタメなんですよ! ラッパーでしょうが!」

 

 ぐるるるる、とディアナは喉を鳴らす。そろそろ本気で食事したい。ルカと目が合う。遂に想いが通じたか、彼はため息してカツ丼を滑らせた。

 

「さっすがルカ! もう大好きやでぇ!」

 

「なんで本番でそういう告白ができなかったんですかねぇ?」

 

「へ、ふぁんて?」

 

「もういいです、食べててください……」

 

 うまっ、うまっ、とディアナはカツ丼を頬張る。味付けが濃くて栄養が身体に染みわたる。マネージャーの前では上品に食べなくて良いのもまた素晴らしい。

 

「その犬みたいな食べ方やめません?」

 

「うっはい!」

 

 犬とはなんだ犬とは。ちょっとかき込んでいるだけだ。オライオンには絶対見せられない。少なくともいま見せたら半眼で眺められて別れを告げられる自信がある。

 

 あとたぶん、ハルキは鼻で笑う。すっごい無表情で笑う。あの男怖い。でも全部こちらが悪いから何も言えない。いつか復讐してやるとディアナは誓う。ペルテテーをけしかけよう。それでチェックメイトだ。うわぁ、うち最高に陰謀しとる。

 

 フェンも怖い。なんであの身体であんな殺気を出せるのか理解できない。でもファンだから許す。可愛いは正義や。

 

 ペルテテーは……絶対に怒らせないようにしよう。確実に殺される。でも大好き。

 

 ナーガは苦労人だ。きっとこの先も胃を悩ませるに違いない。ざあまぁ。乙女の純情を盗み見た罰だ。

 

 ルカの説教が終わったら新しい住まいの相談へ突撃しよう。絶対に部屋を確保する。金ならある。今ほど自分が稼いできた事実を感謝したことはない。

 

 カツ丼を食べ終わる。食材と料理人に感謝だ。

 

「あ、うちの箱で麻薬もどきばら撒いててん。どないしよか?」

 

「……はいぃ?」

 

 ルカが死んだ。しばらく起き上がりそうにない。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 オライオンの復帰。それはとても良い情報だ。心から祝福しよう。

 

 東セクターのオライオンの一人暮らしの部屋。間取りは1LDK。そこにはナーガを含めた仲間四人が思い思いにたむろっていた。

 

 当の家主であるオライオンは、入口に立って頭を押さえていた。

 

「で、なんで俺の部屋に四人もいるんだ。帰れよお前ら」

 

 寝ころんでいた緑髪の長身ナーガが顔を上げて答える。

 

「えぇ、わいがハルキはんの部屋ボロボロにしてもうてん。帰る場所ないんやってぇ。可哀そうやわなぁ」

 

「俺おまえに殺されかけたんだがなぁ⁉」

 

「生きとるやないかぁ。わいの技術に感謝しぃやぁ? 心臓の一ミリ右にずらしたんやぁ」

 

「嘘だよな! 絶対にお前殺しに来たよな! 医者が言ってたぞ! 左にずれたんだよ!」

 

「あははは、バレたぁ?」

 

「俺の胃がマッハで死ぬ! ハルキぃ! お前の人たらしいい加減にしろよ⁉」

 

 呼ばれたハルキは、部屋の片隅でひとり考え事をふたつ同時に進行させていた。

 

「うん、しばらくご厄介させてほしい。オライオンもたまに泊ったんだ。助け合いっていい言葉だと思うな」

 

「ちゃんとした返事じゃねえなぁ! 退院して家に戻ってみればこの有様だ」

 

 まあまあ、とキッチンで棚を漁るペルテテーが助け舟を出した。

 

「ディアナもすぐ来るだろうし、落ち着きなよ。彼氏さん」

 

 ぐっ、とオライオンが胸を押さえた。

 

「ああ、僕も動画で見たよ。なかなか興味深かったよ。最後にやってたのって、壁ドンってやつ? 壁なかったけど」

 

「いますぐに脳内から記憶ごとゴミ箱に突っ込んでくれ」

 

「SNSに動画出まわってるよ? 見る?」

 

「見たくねぇ……」

 

 ハルキはスマホを操作してオライオンへファイルを送信する。中身は駅前で繰り広げられたなんちゃってラブロマンスだ。喜劇と言い換えてもいいか。

 

「ハルキぃ……!」

 

「4K画質だ。存分に楽しんでほしい」

 

「……あとでひとりで見る」

 

「素直でよろしい」

 

「こいつ殴りてぇ……」

 

 ふむ、と画面上でゲームと睨めっこしていたフェンが、オライオンを呼ぶ。

 

「ぬしよ、勝負せんか? いまなら勝てる気がするのよ」

 

「いい覚悟だ。食物連鎖の現実を叩きこんでやろう」

 

「我がゲーセンで培った勝利の数だけ、我は食物連鎖の頂点に返り咲いたのだ」

 

 十分後。

 

 フェンが泣いていた。全身で、全力で泣いていた。

 

「うお~ん!」

 

「えぇ? フェンはん弱ないぃ? あんな一方的な試合初めてみたわぁ」

 

 四つん這いになっていたフェンが、ぐわっ、と立ち上がった。

 

「ナーガよ、掛かってくるが良い。食物連鎖の底辺に叩き落してくれよう!」

 

「えぇ? 僕見る専なんだけどなぁ」

 

 ナーガがしぶしぶとコントローラを受け取る。

 

 十分後。

 

 フェンが四つん這いになって泣いていた。魂で泣いていた。

 

「我、またしても最弱!」

 

 一通りキッチンの棚と冷蔵庫を見たペルテテーが一言。

 

「オライオンあんた……食材がないんだけど」

 

「料理しないんだよ。悪かったな……」

 

「仕方ないね。今日は出前にするしかなさそうだ」

 

 ペルテテーが料理を諦め、スマホで出前のチェックを始める。

 

 唐突に玄関の扉が空けられる。どたどたと走る音がしてリビングに入ってくる。

 

「可愛い彼女のおでましやでぇ!」

 

「このタイミングでそれ言うなよ……」

 

 ディアナの満面の笑み。オライオンが両手で顔を覆った。

 

「にしても、ここ狭いなぁ。これじゃあイチャつけへんで?」

 

「人の家に来ておいて自然に文句いうなよ……」

 

 さて、全員揃ったようだし、ひとつ目の課題を提示しよう。ハルキはのそりと身体を動かす。

 

「事務所設立の件、つまりは次の拠点について話をしようか」

 

「うちも部屋欲しい! お金はだす!」

 

 ディアナの反応が早い。フェンは既に要望を終えているのでゲームに夢中だ。

 

「六人じゃ想定してた5LDKじゃ足りないな……」

 

「えぇ? わいの部屋ももらえるんかぁ?」

 

 オライオンのぼやきにナーガが加わる。

 

「足がでない限り部屋を増やそうか」

 

 ハルキの言葉にオライオンが反応。

 

「改めて聞くが、期限は?」

 

「家がなくなっちゃったから、早めがいいな」

 

「のんびりでいいって言ってたのになぁ……」

 

「仕方ないさ。まあ、これもいい機会だし早めに詰めてこう」

 

「じゃあ明日から内見に行こう。気になる奴全員で行けば揉めることもないだろ」

 

「調度品は最悪後回しだね。最低限寝床を確保だ」

 

「まさかそれまでって……」

 

 オライオンの表情がみるみる崩れていく。ハルキは両手を合わせて拝んだ。

 

「ありがとうオライオン。君の好意には感謝しているんだ」

 

「家で五人面倒見ろってのかよ!」

 

 すぅ、と隣にペルテテーが座る。彼女も同じように両手を合わせた。こちらは鬼族の正式な礼だ。

 

「ホテルはお金もったいないんだ。私からもお願い」

 

「億持ってる奴が言う言葉じゃねぇだろ!」

 

 フェンがふぉっふぉっふぉ、と楽しげに笑う。

 

「あのオライオンがついにツッコミ役に回ったか。時が過ぎるのは早いものよのぉ」

 

「よし、ボコす。徹底的にボコす。ナーガ代われ」

 

 ナーガからコントローラを受け取ったオライオンが、画面上で暴れはじめる。フェンの表情が一気に絶望に染まった。

 

「のおおおお! 我、完全敗北!」

 

「うわーうちの彼氏みっともないわぁ……」

 

 ディアナの呆れ声だけが正当だった。

 

 

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