相棒はカンフー童女   作:ユーカリの木

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一章:命は羽のように軽い 10

 北セクターのT3ビルの最上階。夜になってもなお煌々と照らす明かりの中で、ネズミの亜人であるエガリゼはノートPCの画面と向き合っていた。画面に映るのは、妖精種の女。見た目は二十代前半で、ボブカットの水色の髪が瑞々しく輝いている。画面で切れて殆ど見えないが、研究者らしく白衣を羽織っていた。

 

「ルミナス工房系列序列二位、エーテル研究所のアイラ様から直接連絡いただけるとは、きっと楽しいお話を聞かせてくれるのでしょうね」

 

 エガリゼは普段と変わらない微笑みをたたえている。

 

「そちらは前任者から責任者がお代わりになったようですね。こちらも立ち位置こそ変わってしまいましたが、前任者の方にはよくしていただきました」

 

 アイラの微笑。どこか人間からずれた、妙な笑みだった。

 

「面白い取引をさせいただいていたと、記録では確認しております。かなりの数を斡旋させていただいたようですね。数は85人とか。なかなか多いですね。その85名はお元気ですか?」

 

「ええ、すべては神の御名の下へ」

 

 エガリゼは笑みを深くした。

 

「面白い解釈です。神はなんと?」

 

「あの子らは至高へは届かなかった。この世界ではその領域へ辿り着けなかったのです。なんて哀れな子ら。故に神の下へ導かれました。きっとそれは幸いでしょう」

 

「素晴らしい解釈です。神の下では天秤は意味をなさないのでしょう」

 

「いいえ、天秤は神が持ちます。それが傾いたとき、神罰が下されるでしょう。妖精種と敵対した鬼種のように」

 

「なるほど、あなた方の行いは神によって正当であると審判を下されたのですね」

 

「いいえ、我らは常に神意と共にあります。神の前で透明であることが、我々が我々である所以なのです」

 

「ほう、興味深い。なるほど、それがあなた方、いえ、あなたが信仰する神の均等化ですね」

 

「神の均等化。面白い言葉まわしですね。私はこれを神の名の下の平等と受け取っています」

 

「ではアイラ様、神の体現者であるあなた様は我々になにを御所望で?」

 

「体現者など、そんな大それた存在ではありません。私はいわば神の指先。いえ、ただ神を信じ、行動するひとつの駒。すべてを捧げ、審判を下すのは神です。それが神意であり、私は神意に叶う限り動き続けます」

 

「なるほど、失礼しました。信仰に疎い私にご容赦を」

 

「構いません。あなたの言葉もきっと神意に適っているのですから。では、我々の取引を始めましょう。我々が欲するものは同じです。迷える子羊を導きたいのです」

 

「数はいかほどで?」

 

「前回と同じ規模を。多くを救いたいのです」

 

 エガリゼは表情をそのままにテーブルをこつこつと指で叩く。

 

「アイラ様、あなたに信仰があるように、私も信奉しているものがあります」

 

「なんでしょう?」

 

「均等化です。価値なきものには価値を、そして取引には同価値を天秤に掛けます。天秤が平行になったとき、私は取引を行います。なにより、価値の損失を私は悲しみます」

 

「その天秤は誰がはかるのでしょう?」

 

「価値を司る神、と言っておきましょう」

 

 ふふ、とアイラが上品に笑う。

 

「ご安心を。既に86番でノウハウは確立されました。神の下へ導かれることはないでしょう」

 

「なるほど、あなた方のいう至高の領域へ辿り着けると?」

 

「ええ、我々妖精種に肉薄するのです。これが至高でなくばなんなのでしょう」

 

「その果てにあるものを伺っても?」

 

「さあ、その先は神意に任せるしかありません。ですが、エガリゼ様には神意の一端をお伝えしましょう」

 

「素晴らしい。歴史的な場面ですね」

 

「クリスタルラインが動いております。六年前頓挫した我々のプロジェクトが再始動したのも、クリスタルラインからの資金提供が始まりです」

 

「価値は高まり、更に持続的に取引が行われる、そう受け取っても?」

 

 アイラが深く笑った。

 

「ええ、エガリゼ様の信奉する神も、きっとご納得いけるはずです」

 

「いいでしょう。均等化が取れました。取引といきましょう」

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