ハルキは意識を失いかける寸前、全力で引き金を引いた。だが、ノアは間に合わなかった。
消えそうな意識をマナ操作による自然治癒力の底上げで無理やり取り戻す。ナーガが地面に膝を落としていた。
「だから二点って言ったろ? 落第点だ。あたしの目標分かってんだから逃がしゃよかったんだよ。まあ、私の雷の前じゃ無駄だけどね」
動けないハルキとナーガに講釈を垂れながら、メルダーはトランクを持ってノアへ近づいていく。
まずい。痺れで身体が動かない。ナーガも武器を落とした。雷の耐性などない。ノアが攫われる。
ああ、とノアの傍で立ち止まったメルダーが首でハルキに振り返る。
「お前、成功品だろ? なんだっけ、アイラが前言ってたな……86番だっけ? お前も連れてったら役に立つかな?」
頭に空白が生まれた。
「……なんだって?」
「だから、86番。人工マナ操作……あー、なんだっけ? そのなんとか研究唯一の成功検体だろ? さっきの障壁見て分かったよ。そんな芸当できるのはそれしかないってね」
いや、とメルダーが頭を振る。
「人質はふたりもいらないか。実験データはあるとか言ってたし。じゃ、お前はゴミってことで、この子だけもらってくよ」
虚無が振り切った。
自然と身体が動く。弾倉を入れ替え、無心で引き金を連続して引いた。
「ピンチ! ピンチ! 今日も今日とてクー参上!」
「寝タイ。帰リタイ。ストライキしたい……デター」
殺意を込めてハルキは立ち上がった。すぐさまナーガへ遠隔で治癒を施す。
「起きろナーガ。こいつは――殺す」
「無駄だ」
再度頭上から雷が落ちる。クーとデターはすり抜けるが、ハルキとナーガにとっては致命打だ。
「折角気絶させるレベルで手加減してるんだ。こっちの慈悲を読み取ってほしいよ。でないと、いい加減ゴミ箱に捨てるぞ?」
地面に伏せる。全身が痙攣してまともに動けない。
その様を見て大きくため息をしたメルダーが、片手でノアを背負った。
「ナーガ、そのザマじゃ用心棒やめてよかっただろ。でなきゃ近いうちに使えなくて捨てられてただろうよ」
「はは、おどれ分かっとるんかぁ? うちのバケモンども敵に回したんやでぇ? 地獄の果てまで追い回して殺したるわ」
「知るか。負け犬は人間様のいない場所で吠えてろ。妖精種の用心棒に劣等種どもが束になって掛かって来ようが結果は変わらないよ」
「おどれぇ!」
「はいはい、負け犬負け犬。じゃああたしは行くよ」
ノアを抱えたままメルダーが跳躍する。雑居ビルの壁面を蹴りあがり、街の奥へと消えていった。
「マケタ、マケタ! ドウスル? ハルキ」クーの陽気な疑問。
「仕事ナイなら寝タイ……」デターにやる気などない。
「黙って消えてろ!」
ハルキは怒鳴ってクー・デターを消した。
左手で顔を押さえる。無駄な感情が渦巻いて吐きそうだった。新人が攫われた。ナーガという保険まで掛けて、それでも負けた。慈悲すら掛けられた。
幸せで寝ぼけていたのか? ここはどこだ。ケイオスシティだ。最低最悪の街だ。なぜもっと慎重にならなかった。どうしてもっと狡猾に手を打たなかった。
後悔はいい。時間の無駄だ。
左手を下ろす。天を見上げた。太陽はまだ高く、空はいつものように青い。
「ナーガ。すべての予定を変更する。全員招集だ。ノアを助ける」
「当然や。あの阿呆ドツキまわしたるわ」