エ〇ゲ世界で或る上位存在曰く「叫べ、太陽ォォォ!」 作:糸をなんとかしろ!
夢見の森。
そう名付けられたのはいつ、だれによるものなのか。
それを知る者はいない。
確かなのは夢見の木と呼ばれる特殊な花粉を採取出来る特殊な木が存在しているという事だけだ。
ハーニャが手に入れた情報によると森の中心に該当する木が一本生えているだけ。他の木はそれにはあたらず、まるで夢見の木を守るように周囲を取り囲む形で無造作に生えている。
霧が酷い。
気候の問題というよりは暗黒物質による異常気象に近い。
いつ、どこから魔物やらアンデッドが湧いてくるか分からない以上太陽仔も太陽銃をホルスターから抜かずにはいられなかった。
太陽銃の弾は太陽光を弾丸に変換したものだ。このアルセゾンにおいて太陽が無い上に予備バッテリーが無い以上あまり乱射は出来ない。
とはいえ弾切れになるか、ケチってゾンビに食われて死ぬかどちらかを選べと言われたら太陽仔は前者の方を選んだ。
「この瘴気は一体……」
リーリアも太陽仔とは違う第六感で何かに勘付いている。
「これは何者かの手が入っているな」
「えぇ」
犯人の目星は何となくついていた。
このような魔術的な真似が出来るような者などあの聖堂の神官か、終末の四騎士連中かのどちらかだ。意図してこの地にピンポイントに仕込みをしたというのならばとんだ食わせ物だ。
ハーニャの話の通りならば、妊婦は時限爆弾だ。それを解決する代物を封じてしまえば無事に爆弾は爆発。忌み子がこの世に生まれ堕ちるという訳だ。
太陽仔の血の警告からしてハーニャの話は脅しでも何でもない。
地面が呻く。
「ッ」
何かが来る。そんな直感の騒ぎと共に太陽仔は咄嗟にリーリアを突き飛ばすように押し倒した。
「きゃあッ!?」
同時に倒れていくリーリアに飛び込むように太陽仔が覆いかぶさり倒れる。手からふにっとした柔らかい感触がしたような、そして「ひゃん!」と短い色気づいた悲鳴めいた声が気がしたものの何に触れたのか、なんの悲鳴か気にしている余裕は太陽仔にはなかった。
その次の瞬間、地面のうめき声が絶叫に代わる。
水気を帯びた苔がこびり付く地面を突き破り、鋭利な先端が天目掛けて伸びていく。
それは巨大な木の根。異常成長した植物が殺しに来たのだ。
リーリアから横に転がるようにして離れて、太陽仔は咄嗟に太陽銃をその根目掛けて発砲した。
無駄弾なし。全弾命中。
被弾した根はまるで退散と言わんばかりに元居た地面にするりと引っ込んだ。
「……こういう嫌な予感だけは当たる」
ギャンブルは当たらないのに。
そう愚痴りながら太陽仔は立ち上がりながらリーリアを見る。突然突き飛ばして変な打撲をしてないか心配になった。
「大丈夫か?」
リーリアは身を起こしていたが返事はない。何か呆然としている。
太陽仔は手をリーリアの目の前で「おーい?」とヒラヒラとさせるとやっと第一声を出した。
「…………はいっ!?」
「…………大丈夫?」
「え、えぇ。異常成長した植物……あれは一体」
次が来ないとは限らないとリーリアは立ち上がる。
事実彼女の読みは正しかった。霧の向こうから紫色の何かがふよふよと飛んでくる。それはまるでクラゲのようであった。
「……エネヌト!?」
「なんだそれは」
リーリアのその声色はまるで来ないで欲しい訪問者を前にした人間のそれで、少なくとも友好的な存在ではないことは確かだった。
太陽仔は咄嗟に太陽仔の銃口を向ける。
「あれはぬめり。生物の歪みから生まれたぬめりが膨れ上がった存在──人を喰らい、体液を啜る魔物ね」
幸い動きは緩慢だった。
太陽仔が発砲するよりも先にリーリアが杖で光の矢を放つ。
急所を1発。墜落していくエネヌトたちに太陽仔とリーリアは即座に奥へと走り出した。
また地面が唸り声を上げている。異常成長を起こした植物たちが牙を剥こうとしている証拠だ。
──何が夢見の森だ。
夢は夢でも悪夢の方だ。
一定間隔で根が下から突き刺してくる。
太陽銃が効いていたというよりは次の攻撃に備えて潜ったという方が正しかったらしい。
逃げ回る先々にエネヌトが浮遊してこちらにゆっくり迫ってくる。
距離があるならまだしも地上スレスレで低空飛行して行く手を塞いでくる個体は厄介だ。
太陽銃でワンショットキルしつつ、先程までエヌネトだったものの塵を浴びながら太陽仔とリーリアは走る。
幸い向こうに偏差攻撃という概念薄いらしく全力で走っていれば攻撃は当たらない。
エヌネトが邪魔くさいだけだ。
太陽仔は思考する。
一定方向に進めば進むほど森の敵意が強まり、異なる方向に進むほど森の敵意が弱まる。
おそらくこれは一種の防衛本能だ。となれば逆に敵意が強くなる方向を進めばいい。
それを理解した時太陽仔はある方向を走り出す。リーリアは多くは尋ねる事なくそれを追う。
太陽仔の血が騒いでいる。
闇の気配が近い。
「──これか」
気付けば根が地面から襲うことは無くなっていた。
自滅を恐れるだけの知能はちゃんとあるようだ。
眼前には他の木の3倍ほどの屈強な幹と無数に別れた枝たちを有した大木だった。
木の下には人骨が転がっている。
花粉採取でもしようとして何かにやられたのか。
「確かにこれは夢見の木。──でも、この魔物は一体」
その屈強な幹には違う生物めいた目玉が生えていた。その上に──人間のようなシルエットが木と同化していた。
その体格からして女性のそれだが、人間にはあり得ない緑、植物そのものの色と化している。それでいて目から花が生えており、体の節々を貫通して蔦が生えている。
養分にされているのか。これは。
下腹部を見ると僅かに膨れている事と頭にリーリアに似たウィンプルを被っていることから、おそらくあの妊婦と同じ症状になった修道女が夢見の花粉を採取しようとしてやられたようだ。
「……まぁ、普通の木に目玉なんて付いてねえし人間を養分にする訳がないわな」
「牧師さん! 危ない!」
「はっ!?」
下から蔦が伸びていた。リーリアの警告も虚しくその蔦は太陽仔の腕に絡みつく。
地面の唸り声が無かったので油断をしていた。
太陽銃で焼き切ろうとするよりも先にリーリアが杖で叩き切る。
「野郎……!」
目玉目掛けてフルチャージした太陽銃を放つ。
薄暗い森に不釣り合いな山吹色の弾丸が夢見の木の目玉に炸裂した。だが──
「……効いていない!?」
「蔦で防ぎやがったか。器用な真似しやがる」
蔦が太陽弾を防いだのだ。
それでいて炸裂時に発生した衝撃波すらまともに効いていない。
ドラグーンの威力をこれだけで済ませた事に太陽仔は内心驚愕していた。
ソル属性にある程度の耐性があるのか。この木は。
リーリアも同じく矢を連射するものの全て蔦で受け止められている。
じゃあクラウド属性で吹き飛ばしてやるか。
と、考えたものの肝心のクラウドレンズが手元に無いのである。
──ソルとルナしかねぇ!
属性変更が出来ないのがどれだけ不便な話なのか、今この瞬間思い知らされている。
初めて太陽銃を託された時にはすでにレンズは全属性揃っていた。
蔦たちが次々と侵入者たる2人を引っ叩き、養分にしてやろうと鞭のようにしならせ振るう。
リーリアは杖で捌き、太陽仔は避けながら太陽銃で蔦を追い払う。
延々と闇雲に捌いていても埒があかない。
太陽銃のフレームパーツを外し、懐に仕舞う。
「自分で銃を壊した!? 一体何を!」
「掻っ捌く!」
入れ替わりにとあるパーツを懐から引き抜く。
フレームパーツ、サムライ*1。
近接専用のフレームたるそれはあの手の敵には有効だろうと太陽仔は踏んだ。
蔦を避けながら換装したそれを太陽仔は振るう。
斬。
残光を残して半円状に振るわれた一撃は蔦を焼き切るには充分すぎる威力をしていた。
銃口からは1mほどの光の刃が伸びている。
銃には不釣り合いな射程と、最悪な燃費。
その代わり得られるものがある。
収束した太陽光で与える絶大な火力と、切断力だ。
「銃が……剣に!」
「俺たちを喰うなら腹ァ壊すぞこの食いしん坊が」
また蔦が伸びる。
今度も切断してやる。サムライ形態と化した太陽銃を構える──しかし。
蔦は太陽仔のもとに伸びなかった。
代わりに先端には──花が咲いていた。
「……ッ!」
ばふん!
と何かが弾ける音がした。
弾けたのは──花粉だ。思わず吸い込んだその時、リーリアと太陽仔は頽れる。
「あぁっ……うぅ……」
「ぎぼぢわるっ!」
視界が揺らぐ。
これが夢見の花粉の能力か。まるでアルコールを飲まされた時のような感覚に太陽仔は吐き気を催す。
──ふざけんな、酒は苦手なのに……!
おっさんたちのアルハラで夜中吐き気を覚えながらサン・ミゲルの夜道を彷徨った嫌な思い出が蘇る。あの時アクセサリー屋のキッドに背中を摩ってもらったことを思い出す。
千鳥足で真っ直ぐな歩行も覚束ない。
「はぁっ……はぁっ……」
「……クソッタレが」
リーリアの頬が赤く上気し、息が荒い。完全に幻惑されている。
ほぼ、根性だった。太陽仔は無理矢理自身の意識を押さえつけるように全身に力を込める。
──野郎ォッ!
そして闇雲に太陽刃を振るい、蔦を、そして花を斬る。
酔いが醒めるまで待ってはいられない。幹目掛けて太陽仔は突進した。
視界がダブる。
一つのはずの幹に生えた目玉が二つに見える。その目が歪みまるで幻惑に踊らされている己を嘲笑っているようだ。
「見えた!」
揺らぐ視界が一瞬だけピントが合ったその時、太陽銃から発せられる光の刃を真っ直ぐに目玉目掛けて突き立てた。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!」
名状し難い悲鳴のような音が耳朶を打つ。
そして──
「切り裂けェッ!」
血を吐くような叫びと共に大きく横に振るうとその刃は目玉そのものを切り裂いた。
サムライの真価はその圧縮、収束されたエネルギーにある。下手な刀剣より斬れるそれは夢見の木に寄生した化け物にも有効だった。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!」
名状し難い悲鳴と共に、目玉が雲散霧消していく。黒い霧となって消えて行くそれを見届けながら太陽仔はそのまま地面に寝転がった。
「……あー吐きそ」
イモータル程で無いにせよ骨が折れる相手だった。心骨が軋むような感覚と、胃のムカムカと喉奥から込み上がる何かに必死に抵抗しながら太陽仔は天を仰いだ。
養分にされていた人間の姿は夢見の木の下に転がっているが息はもうない。体の節々も腐敗している事から力尽きてかなりの時間が経過していたのだろう。
「さ、流石手慣れているわね」
這うようにして寝転がった太陽仔のもとへと向かうリーリアに太陽仔は「んなわけ」と返す。
「慣れてねえよ。なんなんだこのバケモン……」
「明らかに魔物に寄生されていた。私たちがここに来ることを見越していたというの……」
「ならとんだ食わせもんだ。俺たちの行動を読んでるって事じゃねえかふざけやがって……うっぷ」
何かが戻りそうになったので慌てて太陽仔は自らの口元を抑える。
その一方でリーリアは本来の目的を思い出して、ふらふらと千鳥足で夢見の木へと向かう。
当の太陽仔は耐性が無かった。
というより無いくせして無理やり動かした反動が今来ている。
「そうだ、花粉を」
「悪ィ……」
体を動かす気力はない。
そんな中、すぐ隣できらりと緑に光る何かが視界に入る。
「「これは……」」
リーリアと太陽仔の声が重なる。
太陽仔は地を、リーリアは天を仰ぎながら。そして──
「花粉がない……夢見の木が、枯れかけている……! あの魔物が吸い尽くしていたと言うの……!?」
リーリアから告げられたのは、絶望だった。
主要人物リストと頻出用語の解説とか要りますかね……?
-
いる。
-
無くても大丈夫やない?