エ〇ゲ世界で或る上位存在曰く「叫べ、太陽ォォォ!」 作:糸をなんとかしろ!
「今……なんつった」
信じ難い現実に太陽仔の目が見開かれる。
リーリアも錆びたブリキ人形の如く太陽仔の方を助けを乞うように見て来るが、助けて欲しいのは太陽仔も同じ気持ちだった。
「……枯れているのよ」
「寄生してたあの目玉野郎がほとんど本体になってたって事か」
寄生虫が死ねば宿主も死ぬ。この手の話はよく聞く話だというのにどうしてなんとかなると考えていたんだ。
太陽仔は自嘲する。揺らぐ視界と意識がもう投げ出せと誘惑してくるようだった。
「クソッタレが」
太陽仔が力なく毒づいているとぱちぱちぱち、と手を叩く音がした。
まるでショーを見せてもらった観客の拍手のそれだ。
それをやっているのは太陽仔でもなければましてやリーリアでもない。では、誰か──
闖入者、と言うべきだろう。
概ね太陽仔と同じくらいの身長だろう。まるで暗い井戸の底のように黒いコートが全身をすっぽり覆い、その素顔は
それは森の奥の闇から湧き出るように現れた。
「いやぁファンタスティック! たった1人だけの為に血を吐くとは流石は太陽意思の代行者だ!」
何が楽しいのか太陽仔には理解ができなかった。
ただその神経を逆撫でしてくるだけだ。だがその髑髏の仮面から放たれた太陽意思の代行者。その単語からして堅気ではないことだけは理解ができた。
「突然現れて誰だ、テメェ」
加えて太陽仔の内にはその苛立つ神経とは別の嫌悪感がそこにあった。
太陽仔の血が言っている、この男は
むき出しの敵意で発せられるその言葉はその血の矛盾した警告に対する反感が籠っていた。
「誰だテメェなんてご挨拶だなぁ兄弟。それにしても母胎を連れて聖職者ごっこかい? 牧師さんなんて呼ばれてさ」
──母胎?
その単語を指し示すものは太陽仔ではない。リーリアのことだ。
とはいえ、耳を貸すという選択肢は今の太陽仔にはなかった。気にするべきはあの忌み子という時限爆弾を抱えた妊婦のことだ。
「悪いがお前みたいな不愉快な奴を兄弟に持った覚えはねえ。それに聖職者になった覚えもねえ。俺は好きにした、あいつも好きにしている。そんだけだ」
緑色に光っていたものを掴む。
ゆらり、と立ち上がり太陽仔は太陽銃のフレームをサムライからドラグーンに切り替える。そしてソルのレンズを取り外し、違うものに切り替える。
「テメェの正体を訊くのは後だ。とっとと
「ほう、早速回収したアースのレンズを使うのか。それで?」
アースのレンズは植物の成長などを促進させるだけの力を持っている。
おそらく、あの夢見の木の異常成長はこのレンズが悪用された結果だ。だからそのレンズを喰らい寄生していた魔物を倒した事でレンズが排出されたのだ。
だから、今の夢見の木を元に戻すにはこれの力が必要不可欠だ。
バッテリー残量は僅か。とはいえライジングサンは1発残っている。
「ライジングサン頼りか。まぁ、足りないとは思うが。あの寄生生物は栄養の大半を持っていっていたのだからね。ま、せいぜい頑張りたまえ──僕はポップコーン片手に見物に徹しているよ。太陽仔の──歴代太陽銃の継承者たちのその無駄な足掻きを僕は愛しているからね」
「あ?」
次余計な事言うならその頭蓋に弾丸を叩き込むぞ。
そんな意を込めて睨みつけると、髑髏の仮面はヘラヘラ笑いその片腕を天にかざした。
「暗黒転移」
──やはりイモータルなのか。
聞き覚えのある魔法の名前と共に髑髏の仮面の男は姿を消す。
見知らぬ転移魔法を目の当たりにしたリーリアは1人完全に置いてけぼりのまま困惑していた。
「何なの……あの人」
「知らん。初対面の知らねえ奴が勝手に訳知り顔で茶々入れてきたってだけだ。俺だって知りたいくらいだ……」
「これから何を?」
「太陽銃でどうにかやってみる」
夢見の木。それなりの大きさ故に相応のエネルギーが必要だろうことはあの髑髏の仮面の言う通りだ。とはいえこのまま引き下がれる程太陽仔という男は物分かりのいい生き物ではなかった。
ドラグーンには通常ショット、チャージショット以外にもエネルギー波を放射するスプレッド*1がある。
太陽仔は迷いなくそのスプレッドを夢見の木目掛けて放射した。
緑色の光が夢見の木を照らす。
とはいえ変化が起きる前にその弾は切れた。
「行けッ!」
弾が切れたならば次は弾を再装填すればいい。太陽銃の場合は太陽光という弾丸を込めるのだ。
故に太陽仔はライジングサンを頭上に飛ばす。ライジングサンーー貴重な太陽銃グレネードであり魔力で練られた
太陽の欠片が生み出す、この地に不釣り合いな光。森に満ちた瘴気を焼き払いながら、太陽銃に力を与える。
そして太陽エネルギーを限界までチャージさせてから再び放射。
「木に生気が!」
リーリアも夢見の木が蘇りかけている事を察知したのか表情がみるみる木と同じように生気が戻る。
……もしかしたら、夢見の花粉を手に入れることができるかもしれない、と。あの妊婦を救うことができるかもしれない、と。
しかし──あの髑髏の仮面の予言は当たっていた。
数刻してそのスプレッドも止まった。花粉が落ちる前に。
「チッ……弾切れか」
カチッカチッとトリガーが空撃ちを告げる乾いた音だけがこの森の中に響く。
癪だった。酷く。
花粉による幻惑が治ったリーリアは立ち上がり、太陽仔の隣に立つ。
「まだ私にも魔力はあります。私に撃たせてください」
「…………」
無駄だ。
そう言う気力もなく太陽仔は無言で太陽銃を渡すもののリーリアが同じように魔力を込めてトリガーを引くものの、スプレッドも出る兆候はまるでなかった。
「太陽仔にしかこいつは使えない」
「……くっ」
これでは救えない。
忌み子が産み落とされ、妊婦は死ぬ。髑髏の仮面の言った事に間違いはなかった。最初から詰んでいたのだ。
だが、太陽仔はそのリーリアが構えた太陽銃に手を置く。
「……大丈夫だ、まだネタはある」
「でも太陽は──ッ」
このアルセゾンにおいて太陽は無い。
じゃあ何でチャージするつもりなんだ、とリーリアは無言で訴えかける。
太陽仔は太陽銃を返して貰い、カートリッジ……つまりグリップ部分を外し、それを強く握りしめた。
「まだネタはあるんだ。それは──俺自身が燃料になる事だ」
手元から光が溢れ出る。
太陽仔の生体エネルギーを太陽銃に食わせる。そうすればまた撃てるという算段だ。
とはいえこれは非常時の手段だ。極力天窓とライジングサンでなんとかしろ、と。黒衣のヴァンパイアハンターは言っていた。
黒衣のヴァンパイアハンター、かつて暗黒仔と呼ばれた男は自らの命を削る手段に長けていた。
これも一種の裏技だ。こんなやり方はおそらくガンデルソルを作った者たちも想定などしていないだろう。
命が吸われるような感覚。とはいえ、死ぬわけじゃ無い。死にかけるだけだ。
完全に満タンになるまでチャージ仕切ってから再び太陽銃を夢見の木へと向け放射する。それでも足りない。
──ならば、俺を喰らえ、ガン・デル・ソル!
2度目となれば意識が朦朧とする。
夢見の木の幻惑ではない。単に死にかけているだけだ。ぐらつく身体、震える腕と太陽銃をもう片方の手で押さえる。
「牧師さん! 顔色が!」
「そいつぁ気のせいだ!」
明らかに様子のおかしい事に勘付いたリーリアが止めにかかる。それでも太陽仔が止まることはなかった。笑って誤魔化した。
「──言ったろ、明日もまた陽は昇るって」
名もなき太陽仔はこの言葉が嫌いだった。今でもあまり言いたく無い言葉だ。
いつ死ぬか、太陽が閉ざされるか分からないというのにそんな保証出来ない事なんて言うんじゃない、と。
だが
「これは受け売りの受け売りなんだが……この言葉は別に明日は明日の風が吹くような、無責任な保証なんかじゃない。約束だ、とある人が言った。最後まで足掻くという、約束だ。最後まで。戦って、戦って、戦い抜いて。その先に何があっても決して諦めるなって。それが、そう、それこそがーーーー!」
リーリアには最後の言葉が聞き取れなかった。メキメキと音を立てて成長を始める夢見の木の音にかき消されたのだ。とはいえ太陽仔は何かを言っていた。
放射され続けるアース属性のスプレッド。
力を継続して注ぎ込まれた夢見の木が徐々にその尽きかけた生命を取り戻していく。
生体電池と化した太陽仔の力は最早残ってなどいなかった。膝が笑う。
今ここで少しでも気を抜けば倒れてしまう。それでもなおも立つ事を、太陽仔は選んだ。
「死ぬ気なの!?」
閉じそうな目をこじ開けながら撃ち続ける太陽仔にリーリアが悲鳴混じりに叫ぶ。
その時太陽仔は自覚した。側から見ればきっと死にかけているのだ、と。
黒衣のヴァンパイアハンターや伝説の戦士たるジャンゴほど尋常ならざる力を持ってなどいない。だが──それでも
「死ぬつもりは……ねェェェェェェッ!」
雄叫びと共に限界値まで吐き出されたスプレッド。完全にその限界を超えた時、その幻惑と酷使された身体に蝕まれた視界はブラックアウトした。
太陽仔が最後に見た景色は、落ちていく花粉と倒れいく太陽仔に手を伸ばそうとするリーリアの細い腕だった。
主要人物リストと頻出用語の解説とか要りますかね……?
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いる。
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無くても大丈夫やない?