エ〇ゲ世界で或る上位存在曰く「叫べ、太陽ォォォ!」 作:糸をなんとかしろ!
修道女の朝は早い。
気付けばリーリアに揺すられ叩き起こされた太陽仔はしぶしぶ起きることにする。二度寝は許さないし許されない。……主にハーニャが。
早朝は清掃。当然の如く太陽仔もこれに付き合う。
元々このアルセゾン修道院は主を失って久しく魔物の巣窟と化していたという。
太陽仔がアルセゾンを訪れる前はリーリアがこれを祓って魔物こそどうにかしたものの埃はいくら払い除けてもいくらでも湧いてくる。
魔物がいなくなろうが埃は一生現れ続けるのだ。その点においては魔物なんぞよりタチの悪いものと言えよう。
さて、朝食を済ませたら朝飯だ。
皿の上に置かれたパンは黒かった。
手に取った時確かな硬さのようなものを感じながら太陽仔はそれを口にする。
──かって
パンのその黒い表面が噛み砕くはずの歯を拒んだ。生地に水が足りていない。そう言う硬さだ。
いつもの事とは言えこの硬さは常軌を逸している。
清貧を是とする修道女が口にするものは当然、そういうものであるべきなのだろう。
この太陽仔は修道女でもなければエセ牧師、血生臭い仕事を生業とするヴァンパイアハンターなのだが。
顎に力を込めて噛み砕いてみる。
一口齧るだけでも精一杯だ。
失敗したまずい干し肉並みのそれに太陽仔は眉間に皺を寄せる。
以前太陽仔が食べていた果物自体も修道女自身が口にすることはあまりないのだという。病人に振る舞うものだとかなんとかで。その為朝食のラインナップに果物が並ぶのはレアケースだ。
強いて言うなら腐る一歩手前まで来てやっと消費するくらいか。
そして、この地における水というものは治療やら何やら余程の事がなければ使いたくないものだ。
なにぶん普通に手に入るような安い水は離れた地から仕入れたものでアルセゾンにおいて手に入る水は大体人間の許容範囲を超えて汚れているか呪われている。
酒か牛乳、果汁で作られた飲み物の方が安全なのだ。
ギコギコとナイフでパンを一口サイズに削り口に頬張る。口の中の唾液でふやかしてごくりと飲み込んだ。
「血呑み沼地?」
……と、硬過ぎるパンと格闘していたうちに話が進んでいたようで、同じく朝食を摂っていたリーリアとハーニャの話声がやっと頭の中に入り込んだ。
どうやらハーニャが新しい調査先の話をしていてそれにリーリアが聞いていたらしい。
血呑み沼地とは随分剣呑な名前だ。
「はい。この修道院から西の方角。あの夢見の森からもっと奥に広がる沼地に忌み子がいるという情報があるのです」
「ヴァンパイアでもいるのか」
太陽仔が口を挟む。
するとハーニャが思い出したように「あ」と口を開く。
「そう言えば貴方、ヴァンパイアハンターを自称してましたね……」
「自称言うな」
ハーニャからすれば太陽仔はヴァンパイアハンターというよりは魔物を狩れる得体の知れない男だ。
世紀末世界の人間からすればヴァンパイアハンターの仕事はモンスターだろうがイモータルだろうが狩るものなのだから平常運転。とはいえ何も知らない人間からすればヴァンパイアハンターらしい事何一つやっちゃいない。
「残念ながらそこの成り立ちはヴァンパイアではありません。ヒルが多く棲息していてそこからその名前がついたのです。故にこの地にはヒルが異常成長して魔物と化したヒルが跋扈しているのです」
ヒルの魔物。
太陽仔の想像力では巨大なヒルが薄暗い沼地にうねうねと蠢いている光景をひり出すだけで精一杯だ。
「そこにいる忌み子の浄化をするのが当面の目的となります」
そこで浮かんだ太陽仔の疑問はこうだ。
敵はどのような敵なのか。先の妊婦の夢の中に湧いてきた顕現する前の卵のようなものだった。
完成された忌み子を見た事がない。
「どんなやつなんだ。血呑み沼地の忌み子というのは」
「集めた情報によれば、村人が産み落とした異形の赤子が沼地に捨てられそのまま原生生物を取り込んで異常成長を果たしたものだとされています」
ハーニャがよいしょ、とどこからか持ってきた紙をテーブルの上に広げる。そこには巨大な黒く、巨大なヒルが描かれていた。先端には通常の何倍にも肥大化した赤子の顔のようなものが
「……マジかよ」
──朝飯に見るもんじゃなかった。
悍ましく、それでいて冒涜的なそのフォルムを見て後悔しながら太陽仔は黒いパンの最後の一欠片を放り込む。
「人間の数倍程の体躯を持ち、その体躯相応の触手で対象を攻撃、捕食をするのだと言うのです」
危うくあの妊婦もこのような怪物を生み出すところだったようで、太陽仔はひどくげんなりとした。
「既に数多くの人間、遠方からやってきた商人が犠牲になっており、餌にされ血を吸い尽くされ、女性は捕食され苗床にされたのだとか」
「……どいつもこいつも女か」
──下半身で生きてんのかこの化け物共は。
心の奥にしまっておいたリーリアのあの悲惨な姿が脳裏をよぎる。
修道服が溶け、剥き出しとなったあらゆる箇所と太腿を伝うナメクジの体液。
いつでも殺せただろうに、あのナメクジはそのような事をしなかった。
なお、この件については秘薬の副作用で酔っ払った事で記憶から飛んだことにしている。
リーリアが可哀想だったので見て見ぬ振りをした。なお彼女当人はその太陽仔の嘘を信じている。
「魔物に共通することは繁殖が優先事項にあること。そして人間の女性はその肉体の都合上孵卵器としてちょうどいいのでしょう」
「……あー、そういう」
「不妊の加護がある修道女でも孵卵器にされれば加護も意味を為しません。ですから……」
「「絶対に食われるな」」
リーリアと太陽仔の声がハモると、双方顔を見合わせてちょっとだけきょとんとしてから何事も無かったかのようにハーニャの方に2人とも向き直った。
それにハーニャはなんとも言えない顔をしていた。
◆◆◆◆◆
アルセゾンの村から西へ。
相も変わらず行商人向けに用意されたはずの石造りの道は魔物の天国と化していた。
ゾンビが闊歩し、スライムのような化け物ことエヌネトが這い蹲る。
それを太陽仔は太陽銃で急所に1発。
アルセゾンの魔物には慣れてきた。無力化されて崩れていくゾンビを前に太陽仔は得物の太陽銃をスピンさせてからホルスターに納める。
「手際が良いわね」
そう感嘆するリーリアも片手間に太陽仔が撃ち漏らしたゾンビをほんの数秒で仕留めている。
杖から発せられる刃で首を刎ねる。
道中の魔物程度ならば1分も経たず全滅させられる。統制も取れていない効率も何もない魔物の動きなど迎え撃つ事など造作もない。
魔物の影が消えたところで太陽仔とリーリアは警戒を解く。
この世界における魔法。リーリアの行使する魔法は誰もが持つという魔力を使って行使するものだ。
魔力は人間の体液に走っている。唾、血、母乳、果ては以下略。
ハーニャが無知な太陽仔の為に猿でもわかる修道女講座(居眠りしたらご飯抜き)を開いてくれたので太陽仔も粗方把握していた。
『誰もが持ってるって事はじゃあ、俺も修行すればそっちの魔法使えたりするのか?』
『どうでしょう。私たちの行使する魔法と、貴方の行使する太陽魔法と月光魔法。これらとも在り様は異なっているようですし、もしかしたら私たちの行使する魔法が貴方は使えない可能性もあります」
『こんがらがりそうだから変に覚えない方がいいか……』
『ややこしいので私たちの魔法は浄化魔法。そちらの魔法は引き続き太陽魔法と月光魔法と呼びましょうか』
そんなハーニャとのやり取りがあったのはつい昨日の出来事だ。
誰もが魔法を行使する事ができるわけではない。
修道女たちは一般的な人間より魔力は多く持っている。そしてリーリアはそんな修道女の中でもその魔力は多く持っているのだという。
ハーニャが意味深に、片隅で一人で杖の手入れをしていたリーリアの豊満な胸を見ていたのをよく覚えている。乳がデカけりゃ魔法もたくさん使えるのかと言うにもセクハラもいいところなので黙っていたが、ハーニャの目がちょっと虚ろだったのでまあそう言う事なのだろう多分おそらくきっと。
「……?」
太陽仔の視線に気付いてちょっと考え込んでから「どうしたの?」と微笑みかけてくるリーリアに、我に返った太陽仔は黙って首を横に振った。
「なんでもない」
胸の方は見ていないのでセーフ。とまで言わないがどうでもいいところで変に不信感持たれても困るだけだ。太陽仔は何事も無かったかのように沼地の奥まで歩を進めていく。
静かだった。付近の沼からゴポッと空気が漏れる音が聞こえるだけで魔物の気配はない。
流石に暇を持て余したかリーリアが口を開いた。
「牧師さんが来てからと言うもの、随分と仕事が楽になったわね」
「そうか?」
「これまでハーニャと二人でやって来たし、こうして別の修道女が同行したり貴方みたいな異なる存在と肩を並べる事はなかったから」
「ちょっと舞い上がった?」
「……っ…………ちょっとだけ」
図星。そして目を逸らしてもごもごと言うリーリアに太陽仔はちょっと笑いを堪える。
牧師という肩書きを押し付けて来たのは彼女だ。それにハーニャが渋い顔をしていたのはよく覚えている。太陽仔を守る為の方便なのはわかってはいるがそれからずっと牧師と念を押すように呼んでいたのは彼女だ。
自分が開き直って牧師を名乗った時嬉しそうにしていたリーリアを思い出しながら太陽仔は「いいんじゃない?」とちょっと雑に返した。
別に悪い事はしちゃいないのだ。そして彼女の嘘に乗ったのも太陽仔自身の判断だ。
「背中頼むぜ、同業者」
「ん」
それに、危なっかしいのだ。
根拠はない。けれども彼女が死神に魅入られているような、そんな気がしているのだ。
主要人物リストと頻出用語の解説とか要りますかね……?
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いる。
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無くても大丈夫やない?