エ〇ゲ世界で或る上位存在曰く「叫べ、太陽ォォォ!」 作:糸をなんとかしろ!
なんでも食べてもいい、と言われたならまず何を思い浮かべるだろうか。
太陽の実*1、大地の実*2。こんがり焼けた肉、チョコレート……それとガリガリくんソーダ味*3。
今、それが目の前のテーブルに置いてあるとしたら?
円卓の前で椅子に座した男は遠慮なく実に手を出した。
うまい。水分をたっぷり含んだ新鮮な果実だ。今度はこんがり肉、美味い。焼きたてだ。食べても食べても減る事のない食べ物の数々。しかれど、空腹が満たされても尚、食えと何か人間らしきものが急かしてくる。
「腹ァいっぱいだ……もう食べられない……」
何かが食べ物を掴み男の口にねじ込んでくる。抵抗しようにも不思議と体が動かない。
あぁ、これは夢なんだ。そう自覚した時には外側から声が聞こえてきた。
『もう食べられないって……随分と呑気な夢を見ているんですね』
冷ややかな女の声。
待ってくれ、今謎存在に無理やり飯を詰め込まれているんだ。違うんだ、そこまで呑気じゃない。と、懸命に訴えても当然外側の声の主に届くはずがない。
『これ明らかにうなされてるような……何か夢の中でトラウマめいたことをされてない? この人』
冷ややかな女の声とはまた別の、穏やかながらもちょっと焦っているようにも聞こえる女の声。
――そうだ、その通りだ。もっと言ったれ。
もごもごと口の中に何故かぬるいガリガリくんを謎存在に詰め込まれながら男は心の中で彼女の声を応援する。
『行き倒れていたとはいえ、そこまで重度の栄養失調ではないでしょう。腹痛は治しておきましたのであとは本人の気力次第です』
――あ、起きればいいじゃないか何やってんだ俺。
冷ややかな女の声に我に返った男は手と足と瞼に全身全霊の力を籠める。そして先ほどの苦悶はなんだったのかと聞きたくなるほど簡単に謎存在の手を払いのけて、飛び出すように上半身を起こして閉じた瞼を自らこじ開けた。
「ひゃあっ!? 突然起きた……」
跳ね上がるような起き方をしてしまったらしい。
ベッドのそばで看病でもしていたのか、冷ややかな声の主ではない方の声の主が肩と月光のような銀色の髪を跳ね上がらせた。それと見るからに大きな胸部の肉もばるんと跳ねた。
纏っているものは修道服――のようにも見えるが少しばかり露出が多すぎやしないか。裾はふとももくらいにまで切り詰められていて、剥き出しの足は黒いタイツに覆われている。胸元は半透明のもので隠れているようで隠れていない、豊満なそれの上半分をむき出しにしているに等しいそれに男は咄嗟に目を逸らした。
修道女と言っていいのだろうか。多分ウィンプルを被っているので知らない文化のものなのだろう。きっとそうだ。
その一方で――
「目が覚められましたか」
冷静に男に声をかけてきた冷ややかな声の主は露出の少ない修道服だった。二人とも首元に十字架が提げられている所から見るに本当に修道女なのかもしれない。
銀髪の方に比べて小柄でかつ胸元まで伸びるブラウンの髪を二つ結びにしている。その垂れ目の碧眼が男の顔を覗き込んだ。
「いいですか? あなたにお話があります。落ち着いて聞いてください。貴方は墓場の付近で棺桶を引きずったまま倒れていました」
「墓場――」
小柄な修道女が言うには墓場の付近と言っていた。
だが覚えがない。最後に見た光景は荒野だった。墓場などというものがあった記憶がない。
「そのままここの修道女があなたを回収、数日間こうして眠っていたのです。責めるつもりはありませんが、一体何故あのような場所で棺桶を引きずって行き倒れを……」
数日間――睡眠不足と軽い栄養失調、食中毒、あとは熱中症か。
眠っていた原因に思い当たる節しかなく、それを誤魔化すように男は口を開いた。
「あれはただの棺桶じゃない。それに俺はヴァンパイア*4ハンターで……」
「ヴァン……吸血鬼の狩人? 聞いたことがありませんが」
「え?」
「えっ」
「「え??」」
素っ頓狂な男の声と小柄な修道女の疑問符の応酬が繰り広げられる。双方とも「何言ってんだこいつ」という思いが酷く籠っていた。
「ここ、ギルドはないのか。組合証ならある」
懐に収められたカードを見せる。組合証にはNAMELESSと刻印されていた。年齢は21、所属はサン・ミゲル、ハンターズギルド。役職はヴァンパイア・ハンター。しかし小柄な修道女は酷く怪訝な顔でその差し出された組合証をまじまじと見ていた。
「ネームレス……名無し?」
当然そこに引っかかるだろうなと予測していた名無しの男は首を縦に振った。
「うん、名前などない」
名無しの権兵衛、ジョン・ドゥ、張三李四、それに該当する名前無き存在。
きっとつけてくれた親は居たのだろう。親無くして子は存在し得ないのだから。けれども名無しの男は自分の親という存在を知らない。知る前に居なくなってしまったのだから。確かなのはとある一族の――太陽仔*5の血を引いている絶滅危惧種だという事ぐらいだ。
「……何かで呼びたいなら名無しか太陽仔でいい」
しばしの硬直。
ややあってから小柄な修道女は「わかりました」と淡々とした口調で返した。
「話を戻しましょう。やはり聞いたことがありません。ヴァンパイアなんて架空の生き物を狩る存在なんて……」
「そうか」
どうやら完全に見知らぬ土地らしい。
世紀末世界とはなんだったのか。アンデッドの存在はありとあらゆる場所で出現しているはずだというのになぜヴァンパイアの存在を知らない人間がいるのか。
こんな時、おてんこさまがいれば……とふと気を失う前までそばに居たはずのひまわりもどきの生命体の事を思い出した。
――おてんこさま*6どこ行った!?
慌てて周囲を見渡したものの、あのひまわりもどきの顔はどこにもない。気配もない。とはいえここのヴァンパイアすら知らない修道女におてんこさまはどこ? などと聞くわけにはいかない。下手すれば常識外の存在の可能性だって大いにあり得る。
「そういえば、連れが居たんだが……俺一人だったか?」
すると小柄な修道女はこくりと頷いた。
となれば何かしらの拍子に逸れてしまったか、死んだと判断してサン・ミゲルに帰ったか。後者の方は確率として低そうだが。なにぶん死んでいるなら太陽感とやらで分かるはずだ。
消去法で前者だ。
「サン・ミゲルなる地も知りませんが。恐らく遥か彼方の地から来られたのでしょう。ここは何者かによって異形の呪いをかけられた村、アルセゾン。その修道院です。呪いの強い墓場よりはずっと安全とはいえ、体の調子が戻ったら早く離れるといいでしょう」
きっと職業病なのだろう。
呪いという言葉に太陽仔の眉間がぴくりと動いた。
「呪い……?」
その時だった――
バタン、と音を立てて修道院の扉を乱暴に開く音がした。
差し込んでくる弱弱しい光と共に入ってきたのはみすぼらしい恰好の村人だった。
「たっ……助けてくれ! ゾンビが! ゾンビが出たんだ!」
主要人物リストと頻出用語の解説とか要りますかね……?
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いる。
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無くても大丈夫やない?