エ〇ゲ世界で或る上位存在曰く「叫べ、太陽ォォォ!」 作:糸をなんとかしろ!
酒場からやや離れた場所。
開けた荒地で、太陽仔と荒くれ者たちが対峙していた。
「一体何をしようと言うんですか」
リーリアが剣呑な目つきで隣の太陽仔に問いかける。
事と次第によっては実力で止める気満々でいる。修道女の敵は人間ではなく魔物だ。
太陽銃でも抜いてあの荒くれ者たちを撃ち抜くつもりでいるのか、と言外に言っているようにも太陽仔には見えた。
ホルスターを外し、収められたままの太陽銃をそのままリーリアに突きつけた。
「はい」
「なっ……」
「俺は殺しをやるつもりはない。そして連中をぶちのめす選択肢も今回は一旦保留だ。だから今からやるのは
黒衣のヴァンパイアハンター仕込みの太陽銃ならば、あの荒くれ者を消し炭にすることも容易だろう。だがやる気はない。
???氏*1仕込みの格闘術ならば、あの荒くれ者を全員投げ飛ばし、地面とキスさせることも容易だろう。だがまだ保留だ。
少しの逡巡から、リーリアは太陽銃が収まったままのホルスターを受け取った。
「だが、あの白のレンズは──いや、太陽銃は大切な預かりものだ。だからどうしても取り返したい」
「……信じます」
「あいよ」
太陽仔がリーリアの前に出たせいで、彼女がどんな顔をしているのかうかがい知る事は出来ない。
知るために振り向くこともしなかった。
「遊びだつったな。このまま俺たちとやりあって殺されてえって事か?」
にたにたと荒くれ者たちが雁首を揃えて笑う。
丁寧にこん棒やら短剣やら物騒なものを持っているあたり殺る気満々元気はつらつだ。太陽仔は内心「うへぇ」となりながら近場に落ちていた木の枝を拾い上げた。
「ルールは簡単だ」
荒くれ者たちを取り囲むように大きな円を描く。
彼らは4人。酒場で真っ先に太陽仔を殴ろうとした素手のデカブツと、短剣を持った針のように細い体の男、こん棒を持った筋骨隆々の男、そしてリーダーの男だ。
太陽仔を含めて5人は余裕をもって殴り合いが出来そうな大きさの囲いを作ってから説明を続けた。
「俺はこの円の中にいる。制限時間内に俺に一滴でも血を流させたらお前たちの勝ちだ。立ち合いは今回無理を言って協力してくれたマスター*2がやる。砂時計で時間を測る」
太陽仔の体内時計の計算によると大体5分程度だ。
それまで限られた範囲で逃げ回る。4対1の不利な状況下油断すれば血が流れる事になる。
「俺はお前らに攻撃はしない。俺が勝てば、お前の持っているその白いレンズを返してもらう。お前たちが勝てば俺が持っている山吹色のレンズをやる」
「馬鹿じゃねえのこいつ!」
「4対1で逃げ切れる訳がないだろ頭湧いてやがるぜ!」
取り巻き達の哄笑が木霊する。
真っ当な指摘だった。荒くれ者たちも荒事自体の経験はその見てくれの通り当然相応にあるだろう。20代の若造如き一滴血を流させる事など赤子の手をひねるくらい簡単だ。きっと。
「オイオイ、何言ってるんだ? こんなふざけたゲームに付き合わせるならこっちも欲しいものを選ぶ権利って奴がある」
それはリーダーも同じだった。
勝利を確信したかのように半笑いで条件を継ぎ足していく。
売ったと思われる他属性のレンズ──フレイム、フロスト、クラウド、アース。こいつらがどれだけの値打ちがあったのかは知らないが、ルナを残しているあたり相応の値打ちはあったはずだ。
だというのにそれだけでは不満だったか。
──がめつい野郎だ。
太陽仔は内心舌打ちしながら「なんだ」と返した。
「お前の後ろに居る修道女だ。そいつ、お前のカキタレだろう?」
「あ?」
「フコーヘーじゃないか? お前の売った喧嘩を買ってやっているんだ。条件の一つや二つ増やすのが筋だろ?」
「お前、増やしたら逃げると思わないのか……それに、そこの修道女は他人だ。遭ってそんなに時間も経っちゃいない」
リーリアが条件にさせられるのは太陽仔としても望むものではなかった。
当然負けてやる気は一切なかったものの、それでも巻き込まれた当人はたまったものじゃない。太陽仔もまた、鼻で笑いながらわざとらしく両手を広げた。
「掛け金にさせたいんだろうが、掛け金としちゃなんの役にも立ちゃしない。もっと他に無いのか──」
「わかりました」
「へぁッ!?」
その時、リーリアが口を挟んだ。
想定外の反応に太陽仔の作った表情が崩れて思いっきり頬を引きつらせる。
「……何言ってんの?」
それは怒り。
太陽銃パーツや棺桶を失った事を気に病んでの捨て躰。それをやって自らを痛めつけるという行為への怒りだ。怒気の孕んだ語調が小さい声ながらもリーリアの耳には低く響いていた。
「それが貴方の大切なものだというのなら、わたしはこの身を賭けます」
「あのなぁ、だから言ったろ。償いならやめろと」
「……それは──違うわ。償いなんかじゃない」
首を強く横に振るリーリアから敬語が消えた時、少し彼女の地が見えたような気がした。
故に真っ直ぐな目が逆に威圧していた太陽仔をたじろがせた。
「大切な預かりもの……だったら、貴方の手元に戻るべきです」
いつもの口調に戻ったリーリアに太陽仔は俯く。
そうだ。託されたのだ、この太陽銃は。
今となっては新型の太陽銃が現れ、持ち歩く古代遺跡とすら揶揄する者もいる。けれどもこれは──数多くの希望が繋いできた希望だ。絆なのだ。
太陽銃本体があれば面目は立つだろうが、完全な形でいつか返さなくてはならない。
あの伝説の戦士、ジャンゴに。
「だから、負けないでください」
負ける気など無い。そんな太陽仔の心を見透かしたようにリーリアは真っ直ぐに見つめる。そんな風に言われたならば余計に負けられなかった。
元より太陽銃のメインパーツを賭けに出している時点で負けるつもりはないが、そこに後ろにいる修道女の信用に応えるためというおまけもついた。
「──あいよ」
リーリアから荒くれ者に向き直る。
彼女の意向については──ちゃんと耳にしていたらしい、一人が舌なめずりをし、下衆な笑みを浮かべる。
「話は付いたようだな。この女の牛みてえな乳で遊べるってわけだ」
下衆な視線は完全にリーリアの豊満な胸元に向いていた。
そして肉付きのいい脚に向いていた。金と暴力と女で形成された脳みそだ。ある意味では分かりやすい。
「まだ勝負は終わっちゃいないって言うのに勝った後の事考えてんのか。旧世紀でこんな古事成語があるらしいぜ。取らぬ狸のナントやらってさ」
「あン? どう見ても俺たちが勝つだろ。4人に勝てると思ってんのか? このタンカス野郎が」
一触即発。
太陽仔が地面に脚をざりと僅かに滑らせる。マスターが砂時計をひっくり返した次の瞬間──先に動いたのは荒くれ者たちだった。
初手は針のように細い男。短剣を逆手持ちにして横一文字にその刃を閃かせる。
取った。細い男は確信していた。
だが──その時にはもう太陽仔は男の背後に立っていた。気配を感じた細い男が振り向いた時には既に太陽仔の姿は短剣の届く距離から大きく離れていた。
「ばッ──馬鹿な」
太陽仔の姿が消えると、2,3歩先の場所に現れ、また消える。
点滅し、四方八方に動き回る太陽仔に、観戦していたリーリアも、見届け人だったマスターも目をぐるぐると忙しなく動かして太陽仔の動きを追う。
荒事に慣れていたはずの荒くれ者たちも慌てて動き回る太陽仔の後を追う。
デカブツは必死に太陽仔を掴んでしまおうと丸太のように太い腕を振るう。しかし空を切り、次の瞬間デカブツの肩の上に太陽仔が乗っていた。
振り払おうとデカブツが抵抗しようとした瞬間に既に太陽仔は地上に飛び降りてまた動き回る。
こん棒を持った男が捉えた、と言わんばかりに太陽仔の前に飛び掛かりこん棒を振り下ろすと、最小限の動きでそれを躱して見せる。左右に振るわれる一撃はバック宙しながら避けていく。
リーダーもまた、痺れを切らして剣を振り回すもまるで当たりはしない。
太陽仔が血を流す以前に完全に荒くれ者たちは彼を捉える事は出来ていなかった。
男たちの息が上がる。砂時計は既に尽きていた。この
「まるで霞とやりあってるみてぇだ……なんなんだ、お前は!」
荒くれ者のリーダーの忌々しげな問い掛けに太陽仔は掌にある白く光るものを見せると、リーダーの顔が一気に蒼白になり自らの懐をまさぐる。
今になって気付いたのだ。レンズをどさくさに紛れて奪い返された事に。
「なっ! いつの間に……! 奪ったな!?」
「奪う? 返してもらうんだよ」
太陽銃パーツが一つ。
レンズ:ルナを取り戻したことで太陽仔は懐にそれを仕舞う。それを見た荒くれ者のリーダーが太陽仔に掴み掛かろうと飛びかかる。
「ルールはルールだ」
当然の如く、荒くれ者の拘束にはまるでかからない。それに疲れ切ったこん棒持ちが負けを認めないリーダーに向かって声を上げた。
「駄目だ! 完全に遊ばれてやがる! 今わかった、奴はいつでも俺たちの首を刈り取ることが出来た……! その余裕が奴にはある。あの人間離れした動きでいつでも! 奴は警告しているんだ、いつでも俺たちのことを皆殺しに出来ると!」
──いやそこまで言ってねえよ
謂れのない恐れを抱かれる事に太陽仔も少しばかり心外だったが、完全にリーダー以外は及び腰となっていた。
まずはデカブツが、無言で逃げ出すと細い男、そしてこん棒持ちが続いてこの場を離れるために一目散に走って逃げていく。
完全に手詰まりとなったリーダーのいく先。それは──
「ヒ……ヒヒ!」
リーリアだった。
手が彼女に伸びる。リーリアの表情が恐怖に染まりかけたその時男の身体が宙を舞った。
「追い込まれて丸腰のやつを人質にしようとする。それを読んでないと思っていたのか」
太陽仔に投げられたのだ。それを理解した時、男は唖然として太陽仔の所業を疑った。
「ばかっ……なっ……喧嘩は嫌いだって……」
「嫌いだからってインファイトが出来ないって訳じゃない。あとアレはちょっとだけ嘘だ。好きでも嫌いでもねえ。無駄な暴力沙汰はやりたくないだけだ」
暴力沙汰なぞ日常茶飯事だ。人の心に闇が棲んでいる世界で、サン・ミゲルの外を出れば人間同士食べ物の奪い合いが平気で起きる世界で。日常に好きも嫌いもあるものか。
投げ飛ばされた彼が気絶するのを太陽仔は見下ろしながら大きくため息をついた。
「はぁ……往生際の悪い」
大人しく逃げていれば全力で投げられなかったろうに。
変な体勢で気絶したリーダーをちゃんと仰向けにして物陰で寝かていると、見届け人のマスターが口を開いた。
「アンタは一体何者なんだ……」
なにぶん亜高速移動をかました上で男4人の攻撃をノーダメージで切り抜けるようなものが普通なはずもない。とはいえヴァンパイアハンターたるもの普通では成り立たない。
「……俺か。俺はヴァンパ──」
「牧師です!」
リーリアが割り込んだ。
「……え?」
「この人は牧師なんです!」
リーリアの遮るように放たれた大声に太陽仔はただ目をビー玉の如く丸くしていた。
主要人物リストと頻出用語の解説とか要りますかね……?
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いる。
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無くても大丈夫やない?