エ〇ゲ世界で或る上位存在曰く「叫べ、太陽ォォォ!」 作:糸をなんとかしろ!
「どうして俺を牧師って事にしたんだ」
それからというもの。
伸びた荒くれ者のリーダーの後始末はマスターに任せて太陽仔とリーリアは修道院に引っ込んだ。帰途は無言だったが修道院に入るや否や太陽仔は言葉を発した。
「ヴァンパイアハンターであることを伝えるのを遮ってまで言う嘘だったのか、それは。完全にマスター信じ切ってたぞ。俺が牧師だって」
「少なくともこの町においてヴァンパイアハンターなるものを知る人はいません。それを名乗るくらいなら牧師であると名乗っておいた方がまだマシです。まだ異能が使えることの理由づけにもなりますから」
「…………」
ふと、太陽仔の脳裏にある単語がよぎった。
魔女。
かつてそう呼ばれた者が迫害されたと言う話ならある。異能が故に敵と見做されたとある少女*1の話を。
あの亜高速移動は月光魔法の一種だ。
それは名もなき太陽仔がサン・ミゲルに身を置くきっかけとなった、黒衣のヴァンパイアハンターが教えた魔法。
体力を使う代わりに瞬間移動したかのようなスピードでの移動を可能とする。
負けられなかったという理由はあった。
それでも元々魔法なぞ使わずとも勝てる試合だったというのに、太陽銃とリーリアが質となった時、無意識に怯えていた。負けるという万に一つの未来に、怯えていた。
ヴァンパイアハンターが知られていない状況であんな魔法を使えばどうなるか、少し考えれば分かったろうに。
リーリアに守られたのだ。今先ほど。
「……迂闊だった」
躍起になり過ぎていた。
1人頭を抱える太陽仔にリーリアが「気にしないでください」と言うもののこれで晴れて聖職者の端くれ扱いだろう。
洗礼を受けなければならんのか。などと思考を巡らせていると──
「何をしたのか、話していただきましょうか」
何かよからぬ事を察知したハーニャが不気味なほどにこやかにリーリアと太陽仔を出迎えた。
「「あ、はい」」
説教コース待った無しだ。
その時、リーリアと太陽仔の心は同じだったと言う。
◆◆◆◆◆
「さて、状況を整理しましょう」
翌日。勝手に太陽仔の事を牧師にしたので怒られたリーリアと荒くれ者に喧嘩を売ったので怒られた太陽仔の前にハーニャがイーゼルに架けられた絵を取り出す。
地図だ。
アルセゾンの地理が示されている。
「まず私たち修道女はこの地、アルセゾンで発生した呪いの原因を炙り出し、これを根絶する事を最終目標としています。その一方でヴァンパイアハンターたる貴方は故郷を襲った魔物の追撃。そして無くしてしまった道具の回収をする事が目的。ならばリーリアのアルセゾンの調査に貴方も同行するといいかもしれませんね」
それは太陽仔も臨むところだった。
実際の所、リーリアの行くところには恐らく闇の力が待っているのだろう。もしかしたらペイルライダーに当たるきっかけもあるのかもしれない。
果てしなく低い確率だが、やらないよりはマシだ。
「あぁ。それに装備を失った以上、ペイルライダーどころじゃない。そもそもやつも見失った以上は一旦飯の分は仕事をする」
おてんこさまがどこに行ってしまったのかも知りたいところだ。
「貴方の魔法機械についても神官たちが興味を示し、大枚を叩いて入手したというのも気になります」
「あんたらの所の教会とは違うのか?」
気分を害するかもしれない。
一緒にするなと。それでも太陽仔からすればなんであれ答えが欲しかった。返答次第で自分の立ち位置が変わってしまうのだから。
宗教なぞ星の数ほどあれど、仮に同じ神を信仰していようが解釈の一つ二つの違いで争いなぞ平気で起こる。そういうものだ。だがそれは宗教がというよりは人間の性なのだろう。
人は言語という縄と棒を手に入れた。
宗教という言語によってコミュニティを作り上げ、解釈と言う言語によって袂を分つ。
けれどもハーニャから淡々と告げられた現実はひどくシンプルな答えだった。
「はい。彼らは異教の徒。信仰するものも異なります。彼らは……外なる者という存在を信仰しているようですが」
何だそれは。
一度も聞いた事も無いものに太陽仔は疑問符を浮かべる。だが、リーリアにもハーニャにも問い掛けても判然としない回答しか返って来なかった。
「妊婦が聖職者に攫われたってのも?」
「恐らく彼らでしょう。目的はその妊婦が孕んだ、赤子」
この2名がやるようには見えないが念のため。
ハーニャは即答で返すと、太陽仔は心の中で安堵した。それと同時に疑問が浮かぶ。
「生まれてすらないガキンチョ攫ってどーすんだよ……」
洗脳でもして外なる者を信仰する兵士でも作る気ではあるまいな。
邪悪な想像がもやがかった姿で太陽仔の脳内に現れる。
その昔、師匠だった黒衣のヴァンパイアハンターも幼少期に攫われイモータルの尖兵として働かされていたという。まさかそう言う類の話なのか。
「それは──」
ハーニャが何かを言おうとしたその時だった。
バタン、と修道院の扉を開ける音がした。
今度はなんだ。
太陽仔、ハーニャ、リーリアの視線が扉の方に向く。
そこには女性が1人。
──あらおめでたさん
お腹を見ると分かりやすく大きく膨れていた。
命が宿っている。そういう体だ。
「先日、ゾンビが現れた時貴方たちによって救われた者です」
あの空腹かつガス欠寸前で太陽仔がゾンビたちを太陽銃で消し飛ばしたのはちょうど先日のことだ。
物事が目まぐるしく起こり過ぎていて太陽仔も昨日のことを振り返ろうとすると目を回しそうだった。
こうして自分たちの行動で繋げられた命がある。
それは胸を張って誇れる事だ。
ヴァンパイアハンターという仕事は生命を次に繋げる為に命を賭ける者の事を言う。
「先日は、ありがとうございました!」
深く頭を下げる妊婦に太陽仔が1人ほっこりしていると、ハーニャがぱたん、と何かを落とす音を立てた。
落としたのは手に持っていた筆。
「……いけない」
「へ?」
これのどこに不穏を感じる要素があったのか。ハーニャの反応に太陽仔が要領を得ないでいると、妊婦の小さな悲鳴じみた苦悶の声が修道院の中に響いた。
「くぅっ……」
まずい。
こう言う時は医者を呼べばいいのか。太陽仔が混乱していると、ハーニャが妊婦の前に駆け寄りその膨れた腹に手を当てる。
「……やはり。太陽仔様、家族を呼んでください!」
「家族ゥッ!? 医者を呼んだ方がよくねえ?!」
訳がわからず、太陽仔が裏返った声でツッコミを入れる。わざわざ家に運ばすとも医者を呼んでしまえば解決することだろうに。だが、ハーニャはこれまでにない程に焦り切った声色で殴り返すように言い放った。
「お医者様の力が通じるものじゃありません!」
冗談やおふざけで出る言い方ではない。
ふと過ぎる呪いという単語に太陽仔も何かを感じずにはいられなかった。
餅は餅屋。大人しく彼女の言う事に従おう。
「……わかったよ!」
結局というもの。
呼べたのは弟だけだった。
父親は一体誰なのかは分からないし、その知ってそうな弟と妊婦も口を閉ざしている。
父親の存在がよほどタブー的な存在なのだろう。
これ以上深入りする者でもないのだろうが。
リーリアと太陽仔は隅っこでハーニャの独壇場と化した看病の現場を見守ることしかできなかった。
「姉さんは大丈夫なのか?」
妊婦は修道院のベッドに寝かせている。あの陣痛に耐える事に疲れ切ってしまったのだろう。
彼女の苦痛をある程度抑えていたのはハーニャの手際のいい準備のおかげだ。
「容体は安定しましたがあまり油断はできません」
「すまない。姉さんとお腹の中の子供を助けてくれた上にこうして面倒まで。あんたたちは妊婦や赤子を連れ去っていく聖堂の神官連中とは違うんだな」
妊婦の弟も同じ聖職者に対してあまり良い感情は持っていないらしい。
どれだけ碌でもないんだ。聖堂の神官共は。
おてんこさまが聞いていたらきっと憤慨しそうだ。と、この場にいない彼の事を思い出す。
問題のアルセゾンの聖堂はハーニャが作った手作りの地図によると、この村からやや離れた西側にある。まるでタールのように黒々とした沼の向こうにある。
サン・ミゲルの聖堂とはやや趣の違う──イモータルあたりが好きそうな陰鬱としたような聖堂だ。
どうせそんな所から出てくるのだから神官はよほど陰険かつ陰湿な奴に違いない。
「その神官連中、碌でもないな」
「そう言えば君は修道女さんと一緒にゾンビを倒していたっていう……」
「牧師だ。はるか遠い所から来てな」
開き直ることにした。
牧師問題の全ての元凶たるリーリアの頬がちょっと綻んだような気がして、「ん?」と太陽仔が彼女の方を見るとすぐさま真顔になっていた。
ハーニャは「仕方ありませんね」と言わんばかりにため息をついてから、話を戻した。
「残念ですが、落ち着いて聞いてください。彼女のお腹に宿っているのは人の赤子ではなく、この世ならざる存在の先触れです」
「……え?」
弟や妊婦よりも先に疑問符を浮かべたのは太陽仔だった。
「このままではそれは肉体を得て『忌み子』としてお姉さんの身体から産まれ出ます。そうすれば母体も、そしてこの町も大変危険です」
「ちょっと待って。父親は人間……なんだろう?」
「仮にそれが人間であろうが魔物だろうが関係はありません。生まれ落ちる生命が忌み子として生まれ落ち、死と呪いを撒き散らす存在と堕ちる。それがこの地、アルセゾンに降りかかった呪い──」
かつて、どこかで聞いた話がある。
生まれる前の赤子という存在は生と死の境目にいる存在なのだと。
その生と死の境目に呪いが介入した時、種は滅ぶということなのだろう。
太陽仔はふと、気を失った妊婦の腹に手を置く。
こんなどう見てもただの人間の女が化け物を孕んでいるとは思えなかったのだ。だが──その胎に触れたその時だった。
肌が粟立つ。
腐った肉を掴んだような感触、それでいてその感覚が指先から手の甲へ、手の甲から肩へ。肩から胸へ。胸から腹へ、首へ、頭へ、脚へ、爪先へ。
気付けば手を離していた。
「ッ──!」
本能が訴えている。太陽の一族の血が叫んでいる。
危険だ。これ以上深入りをするな。
イモータルと相対した時の感覚とはまた違う。これを野放しにしておけば生きとし生ける生命というものが犯され、陵辱される。それを本能が勘付いている。
ハーニャの物言いと同時に太陽仔のこの世のものとは思えないものと相対した人間の出す反応のそれを目の当たりにした弟も落ち着いてなどいられなかった。
「姉さんが化け物を産む……? そんな! なんとかならないのか!」
ハーニャの小さな肩を掴み揺さぶる。
どんな化け物かはさておき、姉や町すら脅かす存在が生まれるなどと救いのない状況など誰も望むはずがないのだ。
「…………確実とは言えませんが、お姉さん
俯きハーニャの表情は見えない。だがそんな彼女から淡々と告げられた言葉は希望でもあり絶望でもあった。
姉たる妊婦が生きていられるという希望。
そして生まれるはずだった子供に未来はもとより存在せず、奪い返す事ができないという絶望だった。
「
主要人物リストと頻出用語の解説とか要りますかね……?
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いる。
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無くても大丈夫やない?