ソルジャーのセイントグラフイメージを作成しました
目次に貼ってあります
次回からソルジャーの登場した特異点の話になります
瓦礫と廃墟が入り乱れ、炎と硝煙の立ち込める灰色の都市。
その廃墟群の大通りの真ん中を、蒼い戦装束に身を固め、呪いの朱槍を肩に担ぐ戦士が1人、散歩でもするかのように歩いていた。
ケルト・アルスター神話に語られる、一騎当千の大英雄。
クランの猛犬と呼ばれる勇士、クー・フーリンその人である。
「さぁ、ちまちました探り合いは終いだ。
そろそろ決着を着けようぜ!」
クー・フーリンの声が廃墟群に響き渡る。
すると、大通りの奥から、重厚な軍靴の音が幾つも重なり合い、鬨の声のように迫ってきた。
大通りを埋め尽くさんばかりの軍服を来た戦列歩兵の群れ。
その先頭には、薄汚れた外套を着たサーヴァント、ソルジャーが居る。
戦列歩兵の音楽隊が勇ましくドラムを奏で、歩みを進める歩兵が声高らかに歌声を張り上げる。
征服王か、
はたまたヘラクレスか、
ヘクトルまたはリュサンドロスと人は言う!
偉大な英雄、英傑数あれど、
我等に比する者無きや!
英国の擲弾兵に
比する者無きや!
大英雄は
砲弾を知らぬ!
仇ら殄戮する
火薬の力を知らぬ!
だが、我らが勇士はそれを知る、
恐れを全て打ち棄てて!
いざ唱えよう、
英国擲弾兵を!
防柵を強襲せよと
命令が下れば
隊長は信管を、
我らは手榴弾を手に持ちて進む!
我らはこれを投擲し、
敵の耳を驚かす!
いざ唱えよう、
英国擲弾兵を!
「是非も無し、我等の全力を持って当たらせて頂きます。
……英国擲弾兵連隊、構えっ!!」
ソルジャーの鋭い号令が、勇壮な軍歌を切り裂いた。
ドラムの音が止み、歌声が止まる。
代わって、数百のマスケット銃が統制された動きで水平に構えられた。その銃口は全て、蒼い戦士一人に向けられている。
整然と並んだ赤衣の列兵たちの目には、恐怖も畏れも無い。
ただ命じられた任務を遂行する、鉄の規律と古の大英雄に挑む名誉と鳴り止まぬ高揚感だけがあった。
「へっ、悪かねぇ!!」
クー・フーリンは担いでいた朱槍を無造作に下ろし、片手でクルリと回した。
その顔には、絶望的な戦力差を前にしても微塵の揺らぎも無い。むしろ、激闘を予感した猛犬特有の、獰猛な笑みが浮かんでいた。
「だがな、ソルジャー!!
……その程度で、俺の足が止まると思うなよ!」
ドゴォッ!!
クー・フーリンが地を蹴った瞬間、廃墟のアスファルトが爆発したかのように砕け散った。
音速を超え、蒼い閃光と化した大英雄が、擲弾兵の陣列へ向かって一直線に突っ込む。
「撃てェッ!!」
ソルジャーの手が振り下ろされる。
直後、大通りを真っ白な硝煙が覆い尽くした。
雷鳴のような一斉射撃の轟音。
数百の鉛玉が、逃げ場のない弾幕となってクー・フーリンへと襲い掛かった。
常人ならば肉片も残らぬ、近代兵器による蹂躙。
――だが。
「……ハッ、甘ぇんだよ!」
硝煙の中から、嘲笑うかのような声が響く。
クー・フーリンは止まっていなかった。
蒼い身のこなしは、飛来する弾丸の軌道を不可視の力で歪め、あるいは槍の柄で弾き飛ばしている。
『矢避けの加護』
飛び道具に対し絶対的な回避・防御能力を持つ彼にとって、統制されているがゆえに軌道の読みやすい一斉射撃は、脅威にはなり得なかった。
「……」
ソルジャーが僅かに目を見開く。
“予測済み”とはいえ、英霊となったソルジャーの攻撃には僅かながら神秘が宿っている。
幻想種ですらこの圧倒的な火力の前に無傷では済まなかったはずだ。
だが、アルスターの大英雄はそれを最初から無かったかのように物ともせずに突撃してきた。
「次はこっちの番だ!
……まずは雑兵払いからいくぞ!」
一瞬にして距離を詰めたクー・フーリンが、最前列の歩兵たちの中央へ飛び込んだ。
「ハァッ!!」
紅い魔力を纏った朱槍が、薙ぎ払われる。
一振り。
ただの一振りで、最前列にいた十数人の擲弾兵が、上半身を吹き飛ばされて霧散した。
魔術的に強化された英霊の膂力は、人界の防具など紙同然に引き裂く。
「怯むな! 次列、突撃(チャージ)!! 擲弾兵中隊、手榴弾(グレネード)用意!」
ソルジャーの檄が飛ぶ。
吹き飛ばされた仲間の死体を踏み越え、次列の歩兵たちが銃剣をきらめかせながら突撃してくる。
同時に、後方からは導火線に火のついた手榴弾が次々と投げ込まれた。
「胸を借りるぜッ! 英雄さんよぉッ!!」
「英国擲弾兵の恐ろしさを教えてやる!!」
「ハッ、まとめて掛かってきやがれッ!!」
クー・フーリンは、突ん裂く銃剣を槍の石突で受け流し、迫りくる手榴弾を槍の柄で打ち返した。
ドカァァァンッ! ボォォォンッ!!
打ち返された手榴弾が、擲弾兵たちの只中で炸裂する。
悲鳴、爆炎、四散する肉体。
軍歌に歌われた勇士たちが、ケルトの猛犬によって文字通り蹂躙されていく。
それは戦闘というよりは、一方的な屠殺に近かった。
だが、ソルジャーは表情を変えない。
(……やはり、最精鋭の英国擲弾兵連隊であっても足止めにもならんか。
……ならば面制圧で足を止める!)
ソルジャーは、蹂躙を続ける蒼い戦士を見つめながら、自身の魔力を集中させた。
「……第2、第3大隊、展開!!
……『砲兵部隊』、照準固定。
目標、我が擲弾兵連隊もろとも、大通りの全域ッ!!」
彼は、自軍の犠牲を厭わない。
兵器(ソルジャー)として、彼は最も効率的な戦術を選択した。
「……容赦ねえな、テメェ」
爆炎の中で、クー・フーリンが初めて、ソルジャーの放つ異様な「冷たさ」に気づき、苦笑いを浮かべる。
彼は、死を恐れぬ兵士ではない。
死という概念を超越した、ただの機械だ。
「……全砲門、開けッ!!
一斉撃ち方!!」
ソルジャーの命令と共に、廃墟の彼方から、手榴弾とは比較にならぬ轟音が響き渡った。
それは、近代の「戦争」そのものが放つ、死の宣告であった。
〇〇〇
「ソルジャーと模擬戦?」
カルデアのシミュレーションルームは、先日の「代理戦争」による甚大なダメージの修復を終え、真新しい無機質な空間を取り戻していた。
しかし、その平穏は長くは続かなかった。
「ああ、悪いなマスター。
あんだけの派手なドンパチ見せられちゃあ、戦士の血が騒いで仕方ねえんだよ」
カルデアキッチンで昼食を取っていた人類最後のマスター、藤丸立香の隣で、肩で朱槍を担ぎながら、獰猛な笑みを浮かべて立つのは、アイルランドの光の御子、クー・フーリン(ランサー)。
彼の視線の先には、外套に身を包んだ鋼の兵士――ソルジャーが、いつものように直立不動で立香の脇に静かに佇んでいる。
「……マスター。クー・フーリン殿からの模擬戦の申請を受理します。
私としても、神代の英雄単騎との、全性能を行使した局地戦データは、非常に有益な物となります」
ソルジャーは淡々と告げた。
カルデアキッチンの隣のテーブルでコーヒーを飲んでいたダ・ヴィンチが、呆れたようにため息を吐いた。
「はいはい、後で報告書を書いてもらうからね。
……環境設定、どうする?」
「俺はどこでもいいぜ。
この野郎が一番やりやすい場所にしてやれ」
「……了解。
では、市街地戦(アーバンコンバット)を想定した『近代の廃墟』を所望します」
〇〇〇
「はぁ~、クー・フーリンもあんなにはしゃいじゃってもー…」
観覧席の特等席に腰を下ろした藤丸立香は、呆れたように肩をすくめた。
「仕方ありませんよ、先輩」
隣の席でモニターを見つめるマシュ・キリエライトが、困ったような、けれど真剣な表情で言葉を継いだ。
「クー・フーリンさんほどのケルトの大英雄にとって、あれほどの手応えがある未知の『軍隊』との戦闘は、武者震いが止まらないのだと思います」
「しかし、味方ごと面制圧、か。
ソルジャー君もエグい戦術を平然と取るねぇ」
ダ・ヴィンチがコンソールの数値を分析しながら、感心したように口を挟んだ。
「『矢避けの加護』で飛び道具の軌道を逸らされるなら、逸らす空間ごと爆発と熱量で埋め尽くす。
犠牲になった兵士たちも、ソルジャー君の宝具の一部だからこそできる、冷徹な近代戦の最適解だよ」
モニターの中では、無数の155mm榴弾が市街地の大通りに雨あられと着弾し、灼熱の爆風と土煙が全てを飲み込んでいた。
英国擲弾兵たちの姿は跡形もなく消え去り、廃墟のコンクリートは凄まじい熱で融解し、爆発で破壊され尽くされている。
「……対象の生体反応、依然健在。
流石は神代の英雄です」
爆煙の晴れぬ中、ソルジャーの無機質な声が響く。
「ゲホッ……ペッ!
容赦ねえったって限度があるだろ、この野郎!」
煙を切り裂いて飛び出してきたのは、全身煤だらけになりながらも、獰猛な笑みを全く崩していないクー・フーリンだった。
彼の周囲には青白いルーン文字が浮かび上がっている。
直撃の瞬間に、かろうじて展開した魔術の盾と持ち前の敏捷性が、致命傷を防いでいたのだ。
「俺にルーンの防御を取らせるとは恐れ入ったぜ。
しかし自分の手駒ごと吹き飛ばすたぁ、英雄のやることじゃねえな!」
「もとより我等は英雄ではありません。
人類が至った『殺戮の効率化』の残骸、その集積。
故に取れる有効打は限られますからね」
ソルジャーの外套の内側の影が這い上がり、その両手に新たな武器を形成する。
狭い市街地での近接戦闘(CQC)に特化した、自動散弾銃と塹壕用のトレンチナイフ。
「……第4フェーズへ移行。
白兵戦による制圧を開始します」
「ハッ! 飛び道具が効かねえからって、俺の土俵(インファイト)に上がってくるか! 上等だ!!」
クー・フーリンが地を蹴る。
ソルジャーはトレンチガン(散弾銃)を乱射しながら距離を詰め、クー・フーリンはそれを槍の回転で弾き落としつつ、必殺の間合いへと踏み込む。
ガキィィィンッ!!
朱槍の重い刺突とトレンチナイフが激突し、激しい火花が散る。
英霊としての純粋な膂力と武練は、クー・フーリンが圧倒していた。
しかし、ソルジャーは腕が切り飛ばされようと、腹を貫かれようと、その端から「別の兵士のデータ」を補充し、即座に肉体を再構成して死角からの反撃を繰り出していく。
無限の残機を持つ機械との、血みどろの白兵戦。
「……チッ、キリがねえな。
…ならば!」
クー・フーリンが大きくバックステップを踏み、朱槍を低く構えた。
その瞬間、廃墟の空気が凍りつく。禍々しい赤い魔力が槍の穂先に収束し、世界そのものが「死」の運命を確定させようと軋みを上げた。
「……警告。対象から極大の魔力収束を確認。因果逆転の呪い、回避不可」
「おうよ!俺を手こずらせてくれた礼だ、受け取れや!!」
ソルジャーの全神経が警笛を鳴らす。
クー・フーリンの全身の筋肉が軋みを上げて怒張し、爆発的な力を内包し始めた。
「その心臓、貰い受ける!」
大英雄が、地を蹴った。
「——『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』ッ!!」
赤い稲妻が、必中の因果をもってソルジャーの心臓へと伸びる。
絶対に躱せない。
絶対に防げない。
だが、ソルジャーは逃げず、ただ静かに己の胸の前に幾多の影を展開した。
「……宝具展開、『
ソルジャーの眼前に、無数の「影の兵士たち」が溢れ出し、幾重にも重なる壁となった。
グシャァッ! という嫌な音と共に、呪いの槍が影の兵士の心臓を貫く。
しかし、貫かれた瞬間、ソルジャーは眼前に影を溢れ出し続け、「存在の定義(コア)」を、次に貫かれる兵士、さらに次に貫かれる兵士へと、数億のストックの中を高速でタライ回し(シフト)させ始めたのだ。
「な……ッ!?」
クー・フーリンが目を見張る。
因果逆転の呪いは、確かに「ソルジャーの心臓」を貫き続けている。
だが、無限とも呼べる命のストックが、呪いの矛先を無限に逸らし、その威力を希釈していく。
やがて、数十万の影の兵士を貫き終えたところで——ゲイ・ボルクの切っ先は、ソルジャーの本体の装甲に僅かに触れた状態で、完全にその推進力を失い停止した。
「……迎撃態勢(カウンター)」
停止したクー・フーリンの四方を囲むように、ゼロ距離であらゆる時代の戦車が砲口を頭に照準して顕現する。
「……あー、クソッ! こりゃあ俺の負けだわ!」
クー・フーリンは構えを解き、大きくため息をついて両手を上げた。
「自分の命を数十万の兵隊に押し付けて因果をズラすなんて、タチの悪い手品だぜ。
俺の槍が息切れするなんて初めての経験だ」
ソルジャーは静かに武装を解除し、深く一礼した。
「……勝敗はクー・フーリン殿の判定により、当方の防衛成功と記録します。
……しかし、私の中の数十万の死者たちが、貴方の槍の前に戦闘不能となりました。
神代の大英雄、恐るべき武威です」
「へっ、お前もいいガッツしてるぜ、気に入った!!
今度は勝ちを取らせてもらうからな!」
『はーい、そこまで! お疲れ様!』
ダ・ヴィンチの明るい声が響き、廃墟の景色がピクセル状の白い光の粒子になって溶けていく。
立香はホッと息をつきながら、背もたれに深く寄りかかった。
「……やっぱり、サーヴァント同士の全力って凄いね……。
2人ともお疲れ様!!」
「おうマスター!
さぁて!ヤッた後は酒だ酒っ!!
おい兵隊!一杯付き合えよ!」
「ええ、ご相伴に預かりましょう」
笑いながら戻ってくるケルトの大英雄と、相変わらず無言で淡々と歩く鋼の兵士を迎え入れ、立香とマシュは連れ立ってカルデアキッチンへと向かった。
後々加筆修正するかもしれません
変性亜種特異点の第3節を乗りに乗りまくって書いたが故に、カルデア軍を名乗る不明勢力関係で所々書き直したい場所があります。只、書き直すと少しばかり設定が変わる部分があるので、アンケ取ります
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書き直して
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別にいいよ
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そんな事よりおうどん食べたい…