いつか何処かの戦場にいた誰かの記録   作:防水工

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花粉症と仕事に忙殺されて氏にそう…


第5頁 ボイジャーの記録

カルデアの天体観測室。

外の凍てつく寒さを遮断した静かなその部屋で、ボイジャーは一人、窓の向こうの星空を見つめていた。

遥かな旅路、深淵の闇を進む人類の願い。

カルデアで過ごす一時の奇跡に、ボイジャーは星を見上げながら思いを馳せていた。

 

そこに、重く、けれど極力音を立てないように配慮された足音が近づいて来る。

現れたのは、無骨な軍装に身を包んだソルジャーだった。

 

「……こんな夜更けに一人で星見かな?」

 

ソルジャーは少し離れた場所で立ち止まり、少し疲れたような声音で声をかけた。

そこにあるのはただの「歴戦の兵士」としての、少しお堅く、優しい響き。

ボイジャーは振り返り、大きな瞳で瞬きをすると、ふわりと微笑んだ。

 

「うん。君も、星を見に来たの?」

「いいや。

私の中の連中が、どうにも妙に騒がしくてね。

少し落ち着かせようと思って巡回警備に精を出していたんだが……お邪魔だったかな?」

「ううん、全然。

……ねえ、君の中から、たくさんの人の声がするよ。

遠くて、重たい声……」

 

ボイジャーが不思議そうに首を傾げると、ソルジャーは苦笑いをして、自分の胸元を軽く叩きました。

 

「ああ…、聞こえてしまったのか。

済まない。

……私の中には、人類史の裏で消えていった…戦場で死んでいった数億人分の兵士の記憶が詰まってるんだ。

痛い、苦しい、家に帰りたい……そんな泥まみれの泣き言ばかりが。

……君みたいな、絢爛な星の海を征く旅人が、聞くようなものじゃない。

……君に託された希望や願いの光まで、汚れてしまう」

 

ソルジャーは自嘲気味にそう言うと、視線を逸らした。

人類が宇宙へ託した最も無垢な夢と、人類が大地で殺し合った最も醜い現実。

自分がボイジャーの隣にいることは、酷く場違いな気がした。

しかし、ボイジャーは少しも嫌がる素振りを見せず、トコトコと歩み寄ると、ソルジャーの分厚い鋼の手に、自分の小さな手を重ねた。

 

「……よした方がいい。

我々の手は血と泥で汚れて——」

「ううん。

…悲しい声だけじゃないよ」

 

ボイジャーは、ソルジャーの瞳を真っ直ぐに、蒼く輝く瞳で見上げて言った。

 

「『家族の顔が見たい』。

『平和な明日が来てほしい』。

『こんな夜は、星が綺麗だな』って……。

君の中にいる人たちは、みんな、僕が旅する、あの光り輝く星の海を、愛していた人たちだね」

「…………」

 

ソルジャーは言葉を失った。

その瞬間、彼の中で常に渦巻いていた数億の悲鳴が、嘘のように静まり返った。

 

代わりに聞こえてきたのは、ボイジャーの口から発せられる、ゴールデン・レコードかのような微かな旋律のメロディのハミング。

波の音、鳥のさえずり、子供たちの笑い声、様々な国の挨拶。

それらを思い起こさせるハミングは、ソルジャーの中にいる兵士たちが、命を懸けて守りたかった「日常」の音そのもので…。

 

「……ははっ…、降参だな」

 

ソルジャーはゆっくりとしゃがみ込み、ボイジャーと同じ目線になると、大きな手で少年の頭をそっと撫でた。

 

「君が触れた途端、我々の中の悲嘆に暮れ、涙を流す者達が、急に大人しくなった。

……みんな、君のハミングに聞き入ってるみたいだ。

中には、母親や子、家族を思い出して泣き出している者もいる」

 

「泣いてもいいんだよ。僕、いろんな人の想いを乗せて飛ぶために作られたんだから」

 

ボイジャーが優しく笑うと、ソルジャーは深く息を吐き、憑き物が落ちたような穏やかな雰囲気を見せた。

 

「……なあ、ボイジャー。もう少しだけ、こうしててもいいかな?

彼等に、君の中にある『我々が愛した希望』を、もっと見せてやりたいんだ」

「うん、いいよ。……君たちのお話も、僕に教えて?」

「ああ。

とびきり泥臭くて、馬鹿げてるが……宇宙や星の光を愛した兵士達の話をしよう」

 

星明かりが差し込む観測室で、汚泥と血にまみれた兵士達は、星の海を往く少年の隣に腰を下ろした。

数億の亡霊たちは今夜だけは、故郷の音を聴きながら、穏やかなまどろみの中へと沈んでいった。

 

「……寝たのか、ボイジャー」

 

ソルジャーは、囁くような声で問いかけた。

返事は無い。

ただ、寄りかかって眠る少年の体から発せられる寝息が、ソルジャーの煤けた外套に優しく当るだけ。

 

 

ザザッ…

 

 

その時、ソルジャーの視界にノイズが走った。

ソルジャーの中に眠る数億の意識が、ボイジャーの無邪気に眠る姿に共鳴し始めた。

 

「……なんだ、これは」

 

ソルジャーの脳裏に、戦場の硝煙ではない、懐かしい匂いが流れ込んできた。

 

 

雨上がりの土の匂い。

 

 

誰かが焼いたパンの香り。

 

 

子供たちの笑い声。

 

 

そして、何処かの国で歌われていた子守唄。

 

 

それらはボイジャーが宇宙へと持ち去った、「人類が最も美しかった瞬間の断片」。

 

「…………ああ、……そうか。

……お前の中にあるのは、……俺たちが……守りたかったはずの、平和な日常なのか……」

 

ソルジャーの被る外套のフードから、一筋の光が溢れた。

 

それは、数億人の代表としてソルジャーが流した、初めての「個」としての涙だった。

 

『――ねえ、おとうさん。あの星、なんて名前?』

 

 

『――綺麗ね、あなた』

 

 

『――無事に帰ったら、一緒に畑を耕しましょう』

 

 

『――必ず帰ってきて、私達の下に』

 

 

 

 

 

『――すまない、先に逝く。

……どうか、お前たちは…生きて……』

 

 

『――ああ、もう一度……お前達と……あの夜空を………』

 

 

 

 

ソルジャーの中で、バラバラだった数億の悲鳴が、一つの大きな「祈り」へと収束していく。

彼らは、ボイジャーという小さな依り代を通じて、自分たちがかつて愛した平和な日々の記憶に、もう一度繋がることができた。

 

それは、確かに救いだった。

 

「…………嗚呼」

 

ソルジャーは、素手にした空いている方の手で、そっとボイジャーの柔らかな髪に触れ、優しく撫でた。

指先が、少年の体温を感じ取る。

 

「……お休み、ボイジャー。

……明日の朝、君が目を覚ますまで……、……数億の盾が……君の夢を守り抜く。

……過去の呪いも……、悪夢にだって、指一本……触れさせはしない……」

 

ソルジャーは、座ったまま背筋を伸ばした。

 

 

Are you going to Scarborough Fair?

《スカボローの市に行くところですか?》

 

Parsley, sage, rosemary and thyme

《パセリ、セージ、ローズマリー、タイム》

 

Remember me to one who lives there

《そこに住んでいる人に、わたしのことを思い出させてください》

 

She once was a true love of mine…

《その人はかつてはわたしの真の恋人でした…》

 

 

 

優しい声音で、子守唄のように、自分達の象徴の曲を口ずさむ。

 

その姿は、命令に従うだけの「道具」ではなく、たった一人の大切な友を守るために立ち上がった、誇り高い一人の「騎士」であり、弟を慈しむ兄のようだった。

 

 

変性亜種特異点の第3節を乗りに乗りまくって書いたが故に、カルデア軍を名乗る不明勢力関係で所々書き直したい場所があります。只、書き直すと少しばかり設定が変わる部分があるので、アンケ取ります

  • 書き直して
  • 別にいいよ
  • そんな事よりおうどん食べたい…
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