いつか何処かの戦場にいた誰かの記録   作:防水工

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特別頁 カルデア特別戦術演習 その1

それは、カルデア最後のマスターである少女、藤丸立香の一言から始まった。

 

「ねぇ、ブリテンとマケドニアって戦ったらどっちが強いの?」

 

カルデアキッチンで食事や酒盛りに興じていた多くのサーヴァント達、中でも同じテーブルで酒杯を傾けていたアルトリアとイスカンダルが、マスターたる少女と、少女の付き人のように脇に控えるソルジャーを見て固まる。

 

「「それは勿論、私/余の……」」

 

「「は?/ぬ?」」

 

和気藹々としていたカルデアキッチン内が、俄に殺気立つ。

 

「聞き捨てなりませんね、征服王。

我が故国が劣ると?」

「此方こそ聞き捨てならんな、騎士王よ。

我がマケドニアこそ最強にして絶対である!」

 

バチバチと、目に見えない火花が両者の間で散る。

周囲で飲んでいた他のサーヴァント達が「おっ、やるか?」「賭けようぜ!」と野次馬根性を丸出しにする者と、「ここで宝具はマズい!」と慌てて皿を持って避難する者に分かれる。

その騒ぎの中、別のテーブルで静かに本を読んでいたロード・エルメロイⅡ世が、盛大に胃薬を水で流し込んでいた。

 

「……ッハァーーー。

なんだその小学生みたいな張り合いは。

……おい、ライダー! キッチンで『王の軍勢』を広げる気じゃないだろうな!? 厨房が全部砂に埋もれるだろう!」

 

「ふはははは! 案ずるなウェイバーよ! 余とてエミヤ殿の作る美飯が砂まみれになるのは御免被る! だが、売られた喧嘩を買わぬは覇王の沽券に関わるというもの!」

「売ったのは私ではありません、あなたが我がブリテンを侮ったからです!

……マスター!!

少し、シミュレーションルームをお借りしてもよろしいですね!?」

 

アルトリアが、完全に座った目で立香を振り返る。

自分の何気ない一言が、とんでもない国家間の代理戦争を引き起こしてしまったことに気づき、立香は「あわわわ」と冷や汗を流した。

 

「えっ、あ、ごめん! ほんの軽い疑問だったっていうか……! ほ、ほら、二人とも落ち着いて!」

 

立香が止めに入ろうとした、その時だった。

彼女の背後に静かに控えていた鋼の兵士――ソルジャーが一歩前に出た。

 

「……マスター。

提案があります」

 

ソルジャーは一歩前に出ると、両軍の王に向けて恭しく、かつ敬意を込めて一礼した。

 

「……私の中の『数億の残骸(データ)』。……これを分割・再構成し、両王の生前の軍勢として出力することが可能です」

「「ほう?/なんと」」

 

アルトリアとイスカンダルの目が、同時にソルジャーへと向く。

 

「条件を提示します。

一、我が影の宝具による軍勢は双方1万。

二、両王の命令に完全に従属し、ブリテン兵およびマケドニア兵の姿、装備、練度を完全に再現。

三、兵科は歩兵、騎兵、弓兵、補給隊、並びに双方の固有兵科を有するものとする。

四、戦場はシミュレーションルームの『2km四方の丘陵地帯』に設定。

五、勝利条件は『敵軍の8割撃破』もしくは『本陣の制圧』。

六、指揮官として、双方縁のあるサーヴァントを2騎まで帯同可能とします。

……以上の条件であれば、カルデアの施設を破損することなく、極めて精緻な『どちらが強いか』の解答をマスターに提示できるかと」

 

ソルジャーの淀みないプレゼンテーションに、キッチン内が水を打ったように静まり返った。

そして次の瞬間――。

 

「素晴らしい!! さすがは数億の兵を束ねる器よ、話が早い! ……おいアレキサンダー! ウェイバー! 食後の運動だ、付き合え!」

「え!!僕もやっていいの!?」

「……私はやめ……引っ張るなバカ!!」

「……受けて立ちましょう!!

…サー・ガウェイン、サー・ランスロット!!

騎士の誇りを見せる時です、甲冑を持ちなさい!」

「ハッ! 我が剣は太陽と共に!」

「御意のままに!!」

 

両陣営が、凄まじい熱量を放ちながらシミュレーションルームへと足早に移動していく。

取り残された立香は、引き攣った顔でソルジャーを見上げた。

 

「……ソルジャー?

もしかして、中の人たちも……」

「肯定します、マスター。

私の中の『ブリテンの戦死者達』と『マケドニアの戦死者達』が、今か今かと殺気立っております。

双方譲るつもりは毛頭無いようです。

さぁ、我々も参りましょう」

 

ソルジャーの声は相変わらず機械的だったが、その足取りはどこか、祭りに向かう子供のように弾んでいた。

 

 

 

 

〇〇〇

 

 

 

「全く君達は……。

ま!!カルデアを破壊されるよりマシだし、私もちょっと気になるから良しとしようじゃないか!!

こんな世紀の一大決戦なかなか見れるものじゃないからね!!」

 

カルデア所長代理、世紀の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉で、決戦準備の狼煙が上がった。

 

イスカンダルとアルトリアは互いに控室として用意された更衣室で戦域図を睨み軍略を練り始める。

 

カルデア職員の調整によって、シミュレーションルームの広大な空間は、完全なる「戦場」へと変貌していた。

吹き抜ける風の匂い、土の踏みしめられる感触、そして万を数える兵士たちが放つ圧倒的な熱気。ソルジャーの宝具が演算・再現したそれは、ただの仮想現実をとうに超え、英霊たちの記憶の底にある「あの日の戦場」そのものであった。

ダ・ヴィンチの合図とともに、両陣営の思考は極限まで加速する。

 

 

「ウェイバーよ、相手はあの騎士王に、太陽の騎士と湖の騎士だ。いかに万の軍勢とはいえ、真正面からぶつかれば戦列など容易く突破されよう

何か策はあるか?」

「分かっているならなぜ受けた……!」

 

胃薬の追加を噛み砕きながら、ロード・エルメロイⅡ世は忌々しげに葉巻に火を点けた。

 

「……はぁ、いいか?

相手はあの円卓の騎士だ。

歩兵同士のぶつかり合いならマケドニアのファランクス(重装歩兵の密集陣形)に分があるが、連中の前衛には規格外の重戦車も真っ青なバケモノが二騎も控えている」

 

マケドニア軍側の控室。

ロード・エルメロイⅡ世は、ホログラムの戦場マップに噛み付くような視線を向けていた。

彼の脳内では、すでに何百通りものシミュレーションが破綻と再構築を繰り返している。

円卓最強の一角であり、太陽の騎士と謳われたガウェインと、無双の武練を誇る湖の騎士、ランスロット。

彼らが正面から突撃してくれば、いかに強固な長槍(サリッサ)の壁であろうと、紙切れのように突破されてしまう。

 

「……ゆえに、罠を張る。

ランスロットは知略にも明るい騎士、故に遊撃手となる可能性が高い。

となると、ブリテン側の前衛にはガウェインが配置されるだろう。

中央のファランクス部隊は、ガウェインが接触した瞬間に『意図的に中央を後退させる』」

「ほう、包囲殲滅陣か、ウェイバーよ」

 

イスカンダルが、豪快に笑いながら顎を撫でた。

 

「そうだ。

ガウェインの太陽の加護による突破力は防げない。

なら、防がずに深く引き込み、左右から幾重にも槍衾を浴びせて機動力を殺す。

奴が足止めされている間に……アレキサンダー」

「うん、分かってるよ、先生!」

 

若き日の征服王、アレキサンダーが愛馬ブケファラスの首を優しく撫でながら応じる。

彼の瞳には、純粋な闘志と、未来の自分の戦列に加わるという無邪気な歓喜が宿っていた。

 

「僕の騎兵三千で、敵の右翼を大きく迂回する。狙うはブリテン軍の側面と背後……騎士王の陣形をかき乱して、ガウェイン卿の救出に向かわせないようにすればいいんだね?」

「その通りだ。

機動戦において、お前達の右に出るモノはない」

 

エルメロイⅡ世の言葉に、イスカンダルは満足げに頷いた。

余は果報者だ、と覇王は内心で笑う。

自らの背中を預けるに足る、これほど頼もしい軍師と、過去の己自身。

ならば為すべきは、ただ一つ。

この軍勢の絶対的な「要」として、王の威風を示すことのみ。

 

「よし! 策は成った! 行くぞアレキサンダー、ウェイバー、ソルジャーよ!!

蹂躙の時である、存分に駆けようぞ!!」

「ははは、任せてよ!!」

「はぁ……まったく」

「はっ!!マケドニア総戦死者選抜一万、必ず勝利を捧げます!!」

 

マケドニア兵の姿をしたソルジャーが直立不動で敬礼し、4人は意気揚々とシミュレーションルームへ一歩踏み出した。

 

 

 

一方、ブリテン軍控室。

アルトリア・ペンドラゴンは、戦域図のマケドニア軍の布陣を冷徹な瞳で見下ろしていた。

カルデアの食堂で見せていた柔らかな表情は一切ない。

そこにあるのは、無数の屍の上に立ち、国を護り抜いた「王」としての顔だった。

 

「……マケドニアのファランクス。

正面からの物理的突破は極めて困難な、まさに歩く城塞です。

しかし、裏を返せば『側面や背後の対応に遅れる』という致命的な弱点がある。

……相手の軍師殿も、それは承知のはず」

 

アルトリアの思考は澄み切っていた。

長槍を密に構えた陣形は、個々の兵士の動きを制限する。

故に機動性を活かした流動的な戦闘は不得手。

で、あるならば、相手が採る戦術は「強固な中央で受け止め、機動力のある騎兵で側面を突く」鉄床戦術となる。

 

 

「サー・ガウェイン。

貴方は左翼の歩兵四千を率い、敵の右翼——いえ、中央寄りの斜めから楔を打ち込みなさい。

おそらく敵は貴方を引き込み、包囲しようと動くでしょう」

「御意。

……しかし王よ、包囲されると分かっていて突っ込むのは、下策では?」

 

ガウェインが眉を寄せる。

彼の忠誠は揺るぎないが、シミュレーションとはいえ、今一度集ってくれたブリテン兵を無駄死にさせる気は毛頭なかった。

 

「ええ、普通の将であれば。

しかし、貴方の剣は包囲すらも焼き尽くす。

敵の思惑通りに動くふりをして、その包囲陣の内側から敵陣を完全に内破させなさい」

「——なるほど。

我が太陽の剣、重装歩兵の密集陣形など、まとめて薙ぎ払ってご覧に入れましょう」

 

ガウェインは不敵に微笑んだ。

彼の『聖者の数字』による恩恵は、この仮想空間の「昼」の設定においても健在だ。

圧倒的な膂力と魔力放射による範囲攻撃は、密集陣形にとって最悪の天敵となる。

 

「そして、サー・ランスロット」

 

アルトリアは、傍らに静かに控える白銀と紫の騎士に視線を向けた。

 

「敵の遊撃部隊が我々の側面を突いてくるはずです。

貴方は遊撃として本陣を護りつつ……戦況が綻んだ瞬間、単騎で敵軍師、あるいは征服王の首を狙いなさい」

「……我が王の命のままに。

この身の武練、すべて我が王のために」

 

ランスロットの瞳の奥で、静かなる闘志の炎が揺らぐ。

生前、王を裏切り国を割ってしまった後悔。

それを雪ぐ機会を与えられた喜びが、彼の凄絶な集中力をさらに研ぎ澄ませていく。

いかなる精神状態にあろうと万全の戦闘能力を発揮する『無窮の武練』。

彼の視界はすでに、戦場を俯瞰する盤上のようにクリアだった。

 

「そして…ソルジャー」

 

3騎の傍らに控える、ブリテン騎士の姿となったソルジャーに口を開く。

 

「また貴公らと戦場を駆ける事ができる、我等にとってこれ程心強いことは無い、互いに力を振るいましょう」

「はっ!!我等ブリテン総戦死者選抜一万、我等が王と円卓に勝利を!!」

 

 

 

 

両軍の準備は整った。

 

 

いよいよ、遥かな時代を超えた泡沫の一大決戦の火蓋が切って落とされる。

変性亜種特異点の第3節を乗りに乗りまくって書いたが故に、カルデア軍を名乗る不明勢力関係で所々書き直したい場所があります。只、書き直すと少しばかり設定が変わる部分があるので、アンケ取ります

  • 書き直して
  • 別にいいよ
  • そんな事よりおうどん食べたい…
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