いつか何処かの戦場にいた誰かの記録   作:防水工

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活動報告に企画等書いてあります


特別頁 カルデア特別戦術演習 その3

一方その頃、戦域の端も端、激戦の中央から遠く離れた静かな森の中で、映像の中継とリアルタイム編集を行うソルジャーの影達が居た。

彼らはホログラムの多重モニターとミキサー卓を囲み、プロの放送技師顔負けの素早さで映像を切り替えている。

 

「なぁサムライ、イェニチェリ、アマゾネス、お前らどっち派? 俺はバニースーツのアーサー王良いと思うんだが…」

「俺はアレキサンダーきゅんかな…めっちゃ可愛い………しゅき……」

「拙者アレキサンダーきゅん大好き侍、義によって助太刀致す」

「勇士としてならアーサー王かしら。

アレキサンダーは武勇的に期待大だけれど」

 

最新鋭の通信機材を被った米軍レンジャー風の影、豪奢な軍服を着たオスマン帝国のイェニチェリ、鎧甲冑の尾張の武者、そして筋骨隆々のアマゾネス。

時代も国籍もバラバラな「名もなき戦死者」たちの影は、真剣な面持ちで映像編集の手を動かしながら、熱いオタク談義に花を咲かせていた。

 

「いや分かってない、分かってないよお前らぁ!

あのカジノで見せる大人の余裕と超絶バディ、それにバニースーツという近代文化の融合!

あれこそが文明の極致だろ!

おっぱいサイコー!!」

 

レンジャー兵が熱弁を振るいながら、モニターに映るアルトリアの凛々しい横顔をズームする。

 

「いやいやいやいや、 アレキサンダーきゅんの無垢なる笑顔こそが、我ら血塗られた兵士の心を浄化する唯一のオアシス!

見ろ、あの額に滲む汗!

この尊さの前には祖国オスマンも無血降伏待ったなし!

誰だってそうする!俺だってそうする!」

 

イェニチェリが涙ぐみながら、別アングルのカメラ(上空のMQ-9)が捉えた若き王の表情をスローモーションに切り替える。

 

「うーむ、良き良き。

マケドニアの若君が駆けるお姿……ふぅむ、完璧な美しさよ。

これぞ王道」

 

武者が、キーボードを猛烈なブラインドタッチで叩き、映像にキラキラとした謎のパーティクルを追加していく。

 

「あんたたち超絶気持ち悪いわね……。

でも、アーサー王やガウェイン卿の剣を振るう瞬間の背筋と広背筋の美しさは認めるわ。

ちょっとそこのカメラ、もっとローアングルからランスロット卿の踏み込みを撮りなさい。

筋肉の躍動感が足りないわよ」

 

アマゾネスが厳しいプロデューサーの目つきで、前線で走り回る撮影班(ドイツ兵&日本兵)にインカムで指示を飛ばす。

 

「いやぁ、しかし一番最高なのは………」

 

 

「エレナママだよな」

「信長公だな」

「ナイチンゲール女史か」

「ペンテシレイア様だな」

 

 

 

 

「「「「…はぁ?」」」」

 

 

 

新たな戦争が勃発した。

 

〇〇〇

 

そして、その彼らの「熱意(推し活)」は、ダイレクトにカルデアの観覧席へと送られていた。

 

「……えっと、ダ・ヴィンチちゃん。

なんか急に、映像のテイスト変わってない?」

 

立香は、メインモニターを見て目を瞬かせた。

先ほどまで泥と血と硝煙に塗れた泥臭い戦争ドキュメンタリーだった映像が、突如として「アイドルグループの超絶クオリティなライブPV」のような画面構成に切り替わっていたのだ。

画面の右半分には、桜吹雪のフィルターがかかり、スローモーションで爽やかに微笑むアレキサンダーの姿。

画面の左半分には、謎の後光(オーラ)エフェクトが追加され、神々しいまでの美しさと躍動感を強調されたアルトリアの姿。

ご丁寧に、画面の隅には「推しカメラ1」というワイプまで追加されている。

 

「あっはっはっはっ、 随分とアーティスティックな編集になったねぇ!

被写体への異常なまでの『愛』を感じるアングルだ!

カメラワークが完全にプロのそれだよ!」

 

ダ・ヴィンチは腹を抱えて笑いを堪えている。

立香は、背後に立つソルジャーをジト目で振り返った。

 

「……ソルジャー? 影の兵士さんたち、森の奥で何やってるの?」

「…………」

ソルジャーは沈黙した。

外套のフードの奥に隠れた目が、心なしか気まずそうに視線を逸らす。

 

「……報告します。

私の中の『数億の残骸(データ)』ですが、時空を超えて様々な英霊の姿を観測した結果、一部の兵士の魂が『概念的なファンクラブ』を結成するに至ったようです」

「概念的なファンクラブ」

 

言っている意味が一瞬理解出来ず、マスターたる少女はオウム返しのように呟いた。

 

「はい。

現在、映像編集班の内部で『バニー王派』『アレキサンダーきゅん保護協会』『筋肉と武練を愛でる会』による派閥争いが発生しており、結果として配信映像に彼らの『見たいもの(欲望)』が強く反映されている状態です。

……申し訳ありません。

なんというか……はい、申し訳ありません……」

「あ、いや、別に良いんだけどさ!」

 

ソルジャーは頭を抱えて気まずそうに謝罪した。

それを立香が慌てて止めた。

 

「というか、あの桜吹雪のアレキサンダーとアルトリアの映像、あとでデータでもらえないかな?

マイルームのモニターで流したいんだけど」

「……マスターがそう仰るなら。

編集班(武者)に最高の画質でエンコードさせましょう」

「…せ、先輩……あはは…」

 

ちゃっかり映像を要求する少女に後輩は呆れつつ苦笑いした。

 

 

〇〇〇

 

 

同じ頃、戦域の南東端に設置された野戦病院でも、別の意味で混沌とした事態が進行していた。

次々と運び込まれてくる(※ソルジャーの演算によって負傷した仮定の)影の兵士たちを収容するべく、天幕の中は野戦用ベッドと医療器具で埋め尽くされている。

しかし、天幕の片隅、テント内のベッドでは、サボり……もとい、負傷者役の「ソルジャーの影」たちが、ここでも熱いヲタク談義に花を咲かせていた。

 

「おい見たか? 上空のカメラから転送されてきたガウェイン卿のガラティーンなぎ払い。

あの絶対的な火力……たまんねぇよな!

圧倒的火力!!」

 

第二次世界大戦のアメリカ海兵隊員の姿をした影が、タブレット端末を見ながら興奮気味に鼻息を荒くする。

 

「筋肉ならイスカンダル王も負けてないぞ!

だが俺はあえて言おう…。

あの厳つい征服王の若かりし頃が、あんな可憐なアレキサンダーきゅんだという『ギャップ』!

これこそが人類史最大の神秘……想像するだけで失血死しそうだぜ」

 

包帯を巻きながら鼻血を垂らし熱弁を振るうのは、古代ローマ軍兵士の影。

 

「貴様ら、本当にわかってないな」

 

そこへ、第一次世界大戦のフランス軍従軍牧師の影が、やれやれと首を振って割り込んだ。

 

「戦場における真の癒やし(ヒール)とは『包容力』だ。

アーサー王のオルタのメイド服姿、あるいはバニースーツ姿での労いの一言……それさえあれば、千の銃弾を浴びようとも俺は立ち上がれる。

むしろフローレンス閣下に治療されるよりよっぽど生存率が上がるというもの——」

 

 

「——ほう? 私の治療より生存率が上がると?

それは実に興味深い」

 

 

「「「ハァッ!?」」」

 

 

突如、背後から掛けられた氷のように冷たい声に、影の衛生兵たちがカエルを潰したような悲鳴を上げた。

振り返った彼らの前に立っていたのは、純白の白衣に返り血(※仮想のデータ)を浴びた狂化ナース、フローレンス・ナイチンゲールであった。

 

その手には、なぜか身の丈ほどもある巨大な電動ノコギリ(医療用)が握られている。

 

「貴方たちの体組織は実に不衛生です。

全身の表面の一部が汚泥と硝煙で構成されているなど、重度の壊死(ネクローシス)と見なすほかありません。

直ちに患部を切断し、煮沸消毒ののち、清潔なガーゼを詰め込む必要があります!」

「ち、違います閣下!

我々は元からこういう仕様でして……ッ!

ギャァァァ! ノコギリの電源を入れないでくださいッ!!」

「騒々しいな、婦長。

患者を怯えさせてどうする」

 

怯え上がる影たちの前に、今度は杖を持った白衣の青年——アスクレピオスが、どこか楽しげな瞳を輝かせながら歩み寄ってきた。

 

「おいお前たち、安心しろ。

僕の麻酔は完璧だ。

お前たちのような『残骸のデータ』が寄り集まってできた疑似生命体……非常に興味深い。

血液も内臓もないのに、なぜ痛覚や感情をシミュレートできる?

その『概念的な臓器』がどう機能しているのか……ちょっと胸から腹にかけて、Y字に開いて(解剖して)確かめさせろ。

麻酔は完璧だから安心しろ」

「アスクレピオス様ぁぁぁ!?

麻酔が完璧でも物理的にバラバラにされたら死(消滅)にますぅぅ!!」

「案ずるな、バラバラにしてもデータなら再構築できるだろう?

最悪、僕が冥界から引っ張り上げてやる」

「そういう問題じゃないですぅぅ!!」

 

右からは、ノコギリを振り上げて「消毒(物理)」を迫る鋼鉄の婦長。

左からは、メスと未知の薬品を片手に「解剖(知的好奇心)」を迫るマッドドクター。

 

「さぁ、命を救うために歯を食いしばりなさい! まずはその不衛生な影の四肢から切断します!!」

「おいおい婦長、手足はいいが胴体は僕に譲れ。

データで構成された疑似生命体の肝臓を抉り出してだな……」

「——二人とも、いい加減にしてください」

 

絶体絶命の影たちの前に、颯爽と立ちはだかったのは、黒いコートの上から美しい白衣を翻した、疲れた顔のシャルル・アンリ・サンソンであった。

彼は頭痛を堪えるようにこめかみを強く押さえながら、二人のトンデモ医療従事者を窘める。

 

「ナイチンゲール殿。

彼らは『影』です、物理的な壊死ではありません。

消毒液をぶちまけても意味がないどころか、テントの中がアルコール臭で大惨事になります。

ノコギリをしまってください」

「何を言っているのですかサンソン。

不衛生は万病の元です。

黒いものはすべて白く漂白(サニタイズ)しなければ!」

「彼らの存在そのものを否定しないでください……」

 

サンソンは泣きそうになりながら、今度はアスクレピオスへと向き直る。

 

「アスクレピオス殿もです。

解剖してどうするおつもりですか。

彼らには物理的な内臓などありません。

メスを入れても魔力が霧散するだけです、医学的アプローチとして完全に間違っています」

「ちっ、堅苦しい奴め。

だが概念的な臓器の働きを観察するのは、今後の疑似生命体治療における大きなパラダイムシフトに——」

「なりません!

そもそも今は演習中でしょう。

あなたたちは本来の任務(負傷兵役)に戻ってください」

 

本来ならば「処刑人」であるはずの彼が、この医療テントにおいては誰よりも常識的で、誰よりも命(?)を重んじるまともな医者として機能していた。

 

「……サンソン先生……一生ついていきます……俺じゃなきゃ惚れちゃうね……」

「推しの話をしてただけなのに、なんで解剖されそうになるんだよぉ……」

「……後でサムライにアレキサンダーきゅんのデータ貰っとこ……」

 

サンソンの的確な指示(とツッコミ)により、野戦病院はなんとか崩壊の危機を免れ、再び慌ただしい前線の救護所としての機能を取り戻していくのだった。

 

 

 

変性亜種特異点の第3節を乗りに乗りまくって書いたが故に、カルデア軍を名乗る不明勢力関係で所々書き直したい場所があります。只、書き直すと少しばかり設定が変わる部分があるので、アンケ取ります

  • 書き直して
  • 別にいいよ
  • そんな事よりおうどん食べたい…
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