覇王伝説第二章   作:ノワールキャット

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皐月賞の前哨戦

 場所は千葉県船橋市、中山競馬場。

 今日の中山競馬場では皐月賞のトライアルレースである弥生賞が開催される。上位3着までの馬に皐月賞の優先出走権が与えられ、皐月賞と同じ競馬場・距離で行われる本レースはクラシック戦線に直結する重要な前哨戦として位置付けられている。

 本レースを制した馬からは後に三冠馬となったミスターシービー、シンボリルドルフ、ディープインパクト*1ら3頭がおり、関係者や競馬ファンからは登竜門的レースとして認知されている。

 

 後のクラシックレースに繋がるとして、有力馬も多数出走するが、本日圧倒的1番人気を集めたのは前年の2歳王者テイエムベルレクスである。

 JRA賞最優秀2歳牡馬に選出されたテイエムベルレクスはデビューから4連勝でGIを制覇した。当初は評価されなかった二流血統の馬がGIを勝利し、倭達騎手と伊和本調教師に15年ぶりのGI勝利を送ったのだ。これまで4戦で見せた走りは何れも手堅い勝利で、逃げと先行を柔軟に切り替えて制している。血統的にも中長距離路線でその本領を発揮すると見られている本馬は今年のクラシック候補の主役に躍り出たのだ。

 

「お前の本命は?」

「そりゃテイエムベルレクス一択だろ」

 

「どの馬応援するの?」

「ん〜、やっぱ倭達さんの乗ってるベルかな」

 

「この弥生賞はベルレクスが一番堅いな」

「だな。時計も悪くないし、普通にやれば負けんだろ」

 

「オペラオーの息子と倭達さんのコンビだろ?これは買うしかないでしょ」

「なっ、夢あるよな〜」

 

 競馬場に足を運んだ競馬ファンからはこのレースではほとんどがテイエムベルレクスを本命として見ていた。父テイエムオペラオーは中長距離戦で活躍し、その成績も距離が長ければ長いほど良好だ。晩成型かつステイヤー型であるテイエムベルレクスは不安要素も多かったが、2歳馬の時に見せた走りでその不安は払拭された。

 2歳王者を決めるマイル戦の朝日杯フューチュリティステークスにてテイエムベルレクスはレースレコードを更新して制する強さを見せた。しかも鞭は一度しか使われておらず、終始安定した立ち回りで完勝と言える内容であった。

 早熟馬とも戦える基礎の能力の高さと末脚自慢の多いディープインパクト産駒を退けるスピードも持ち合わせていることをレースで証明し、クラシックの大本命に推されているのだ。

 

 パドックで登場すればその期待は更に高まっていく。

 今年初の実戦となるが、不安を感じさせない足取りで周回しており、その雄大な馬体には更なる磨きがかかっている。大柄な体躯ながらもスマートでしんなりとしており、決して重さを感じさせない。鞍上には倭達龍司の姿があり、前年は遂に悲願であったテイエムオペラオー以来のGI制覇を飾った。引退式で「GIを勝って、一流の騎手になる」と言葉を残した彼はテイエムオペラオーの息子と共にGIを制するというドラマチックなGI勝利を飾った。

 

 テイエムベルレクスの能力と倭達龍司の人気も相俟って本レースでは単勝1.4倍の1番人気に支持された。2番人気のカデナの単勝3.3倍とは大きな差を付ける形になった。陣営のレース前のコメントでも「調整に問題はない」と自信を覗かせており、実際の調教でも好タイムを連発していることからコンディションは万全である。

 

 ターフへ姿を表せば、より一層その注目は集まった。日の光によって栗毛の馬体は照らされ、黄金の鬣は日の光を受けて更に輝きを放っている。そしてテイエムの勝負服を着た倭達龍司を乗せるその姿は2000年に君臨したテイエムオペラオーとのコンビを想起させた。

 

─◇◆◇─

 

《中山競馬場第11レース、本日のメインレースになります、弥生賞です。本レースは全13頭で争われます。天気は晴れ、馬場は良との発表です。圧倒的1番人気に支持されました、8枠13番のテイエムベルレクス。前年の2歳王者です。本日は大外からの出走になりますが、それを覆す走りを見せられるかが注目です。2番人気には冨久長悠逸騎手が騎乗します、カデナが行きます》

 

 ゲート入りは順調だ。特にトラブルなく全馬ゲート入りを完了して行く。

 本日の弥生賞の大本命は2歳王者のテイエムベルレクス。次点でカデナ、ダイワキャグニーと続いた。この2頭の単勝オッズに大きな差はなく、カデナは前走の京都2歳ステークスで重賞初制覇を飾り、ここまで4戦2勝で連対を外したことのない安定さ、ダイワキャグニーはここまで無敗で未だ重賞勝利はないが、前走の条件戦で33秒台の末脚を披露したその豪脚を評価されていた。

 テイエムベルレクスを倒す馬が居るならばこの2頭が筆頭に推され、他にも兄弟に活躍馬が居ることで5番人気に支持されたグローブシアター。名牝シーザリオ*2の子でその父はキングカメハメハ*3という良血馬で期待を集めていた。

 

《最後に大外13番のテイエムベルレクスが入って、ゲート入り完了。係員が離れます。さぁ、今年のクラシックを占う第一戦です。新たなクラシック候補が生まれるのか、弥生賞。ゲートが開いてスタートしました!》

 

 ゲートが開くと同時に各場が一斉に飛び出す。揃ったスタートを切るが、大外のテイエムベルレクスは更に一段と良いスタート切って一気に前へ向かう。

 

《13頭がスタートを切りました。まずまずの揃ったスタートになりました。大外のテイエムベルレクスは好スタートを切って一気に前へ行きます。さぁ、出を伺いながら、4番のダンビュライトがここは行くでしょうか?それを交わして10番のマイスタイル。マイスタイル、2番のテオフォルテ、そして4番のダンビュライト。ここでダイワキャグニーも上がっています。外から12番ディアシューター。少し前が激しくなってくるでしょうか?》

 

 正面のスタンド前を通過して大歓声に迎えられながら最初のコーナーへ差し掛かる。この時点でおおよその隊列は固まり、各馬のポジションが決定した。

 

《1番人気、13番のテイエムベルレクスは前から5番手の外目の位置、中団前方で落ち着きました。2番人気の11番カデナは後方から現在4番手で1コーナーを回っていきます。3番人気、9番のダイワキャグニーは前から2番手の位置です。中山2000m、GI皐月賞と同じ舞台、このトライアルレース弥生賞。さぁ、向こう正面に各馬が向かっていきます》

 

 第1コーナーを迎え、隊列は縦長な展開となった。10番のマイスタイルが2馬身差リードして逃げ、馬群の最後方に4馬身離れて殿を務めることになった6番のキャッスルクラウンが居る。

 

《10番のマイスタイルが2馬身のリード。その後ろにダイワキャグニーが現在2番手、内で2番のテーオーフォルテ、外から上がっていくのはディアシューターです。その後の5、6番手に4番ダンビュライトと13番テイエムベルレクスが居ます。更にその横から赤い帽子、偉大な兄に近づくための戦い、グローブシアター。内で1番のベストアプローチ。そして8番のスマートエレメンツ。真ん中に11番のカデナ、今週復帰の冨久長悠逸です。その外、交わして上がっていきました、コマノインパルスは2000mに拘ってきた馬です》

 

 向こう正面を走る13頭の馬達。縦長だった展開から、キャッスルクラウンが位置を上げていって5番のサトノマックスと入れ替わる形で後方から2番手の位置に付いた。その外からは後方に居たコマノインパルスも位置を徐々に上げていった。

 馬群は徐々に固まる形と変化していき、前方は若干団子状態となっていた。

 

《6番のキャッスルクラウンが居て、最後方に1戦1勝サトノマックスです。前半1000mが63秒2、スローペースでレースは流れています。さぁ、このペースを作っているのは10番のマイスタイル、善木山憲紘(よこやまのりひろ)。そして3番人気ダイワキャグニーが単独の2番手。ずっと12番のディアシューター、この態勢変わらず。そして13番のテイエムベルレクスは満を持して上がっていきます。それに合わせる形でコマノインパルスもここで上がってきました。この舞台が得意な7番のコマノインパルス上がっていきます》

 

 1000mを通過してから倭達は手綱を緩めてテイエムベルレクスの進出を開始させる。それに合わせてコマノインパルスも上がっていく。

 既に第3コーナーを回って、間も無く第4コーナーへ差し掛かる。ここを通れば最後は310mという短い直線での勝負になる。

 

《そして2番人気11番のカデナ、さあラストの末脚はどうか。ラストの末脚は届くのか。間も無く4コーナーをカーブ。さぁ、夢に近付く直線は310mの距離です!前が6頭並んだ!前が6頭並んだ!先頭はまだマイスタイル、そしてダイワキャグニー!ピンクの帽子、1番人気のテイエムベルレクスは前へ出た!》

 

 第4コーナーを越えていよいよ最後の直線に迎える。これまでスピードが乗っていた反動と外から上がったカデナを交わすために膨らんでしまうが、コーナリングが器用であるテイエムベルレクスは距離ロスを限界まで抑えて一気に前へ出る。

 後続馬はラストスパートに入っているが、鞍上の倭達はまだ鞭は使わずに持ったままだ。しかし横並びになっていた中でテイエムベルレクスは逸早く抜け出し、逃げるマイスタイルを捉えに脚を伸ばす。

 

《脚を伸ばして一気に来たテイエムベルレクス!内を突いて2番のテーオーフォルテ、コマノインパルス!外からオレンジの帽子、カデナがやって来ている!内でもう一度伸びるマイスタイルを交わしてテイエムベルレクスが先頭に立った!その外から11番のカデナが突っ込んで来る!》

 

 先頭へ躍り出たテイエムベルレクスを捉えようとカデナが外から迫って来る。ディープインパクト産駒として凄まじい末脚を見せる。しかしストライドが大きく、ロングスパートをかけてスピードに乗っているテイエムベルレクスまで届かない。

 

《カデナが捉えるのか!カデナが捉えるのか!カデナとベルレクス!ベルレクスだー!初戦を見事に制しましたのは、テイエムベルレクスと倭達龍司です!タイムは2分3秒1!これで無傷の5連勝!父の獲った皐月賞へ向けて更に前進です!》

 

 最後はカデナを3/4馬身差退けてテイエムベルレクスが優勝。無敗のまま重賞3連勝を飾り、順調に皐月賞へ駒を進めた。スタンドからはベルレクスのコールが響き、本番のGI皐月賞へ向けて勢みを付けた。

 

─◇◆◇─

 

「見事テイエムベルレクスで弥生賞を制しました、倭達龍司騎手です。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 

 記者からの祝福の言葉に倭達は感謝の言葉を返す。既に着順は確定し、ウイナーズサークルにて倭達は毎度恒例のインタビューを受けていた。

 

「最後の直線の手応えは如何でしたか?」

「とても良かったです。僕の合図にしっかりと反応して、馬自ら行ってくれました。スローペースの展開にも動じずに折り合うことができましたね。他の馬も脚は溜まっているだろう、と早めに仕掛けましたが、最後に勝ててよかったです」

 

「朝日杯では末脚にまだ課題があるとおっしゃっていましたが、どうでしょうか?」

「去年よりも改善できていました。調教でも好時計を連発していましたので、あとはそれを本番でも活かせるように心掛けていました。ロングスパートになりましたが、最終的には悪くないタイムを出せたと思います。瞬発力は付けられてきているので、今回のレースは非常に大きなモノになりました」

 

「本番に向けての印象はどうですか?」

「そうですね、ペースも早くなりそうですし、頭数も増える分やっぱりマークもどんどん厳しくなるでしょう。レクスはタフなので大きな問題には繋がらないと思いますが、僕自身の騎乗にもいくつか反省点がありますので、そこを突かれてしまわないように一層気が引き締まる思いです。能力は十分なので、馬の持ち味を最大限に引き出して一緒に挑みたいです」

 

「テイエムオペラオー産駒でクラシック制覇に向かうことになりますが、今のお気持ちは?」

「オーナーにも、先生にも、僕にも初のクラシックタイトルを贈ってくれたオペラオーの子供で挑むので昂ってはいますが、僕はオーナーの理解の下で乗せてもらっているに過ぎないので、その期待に応えてクラシックを勝ち取って、嶺苑さんと伊和本先生、そしてオペラオーにクラシックのタイトルを贈りたいと思っています」

 

「今日の勝利で自信も深まりましたか?」

「はい。休み明けの初戦ですが、調教でも常に良い動きを見せてくれたので特に大きな不安もなく、レースへ挑めました。これからもどんどんと良くなっていくと思います」

 

「ありがとうございました。本番も注目しています。お疲れ様でした」

「ありがとうございます。頑張ります」

 

 インタビューが終わり、関係者での口取り式が行われれる。馬主である嶺苑は倭達の肩を、テイエムベルレクスの首元を叩いて「よくやった」と彼らを労った。その様子は写真に収められ、後日のネット記事に掲載された。

 

─◇◆◇─

 

 3月5日、中山競馬場で行われた第54回弥生賞(3歳・GII・芝2000m)は、道中常に好位置でレースを進めた倭達龍司騎手騎乗の1番人気テイエムベルレクス(牡3、栗東・伊和本一蔵厩舎)が、直線で脚を伸ばして逃げる9番人気マイスタイル(牡3、栗東・今箕胤(こんみつぐ)厩舎)を捉えると、猛追する2番人気カデナ(牡3、仲武一也(なかたけかずや)厩舎)を3/4馬身差退けて優勝した。勝ちタイムは2分3秒1(良)。

 

 勝ったテイエムベルレクスは父テイエムオペラオー、母ブランベラルーシ、その父ホワイトマズルという血統。デビューから圧巻の5連勝、昨年の東京スポーツ杯2歳Sから続く重賞3連勝になる。

 

 道中は馬なりでレースを進め、最終コーナー手前からスパートをかけ始め、抜群のコーナリングで距離ロスを抑えると直線ではカデナの猛追を振り切ってフィニッシュ。鞭使わずの完勝であり、まだ余力を残してのこの勝利に陣営は期待を膨らませている。本番と同じ舞台でテイエムベルレクスが大きく夢を膨らませた。

 

 重賞連勝の勢いに乗って皐月賞へ。「僕自身の騎乗にもいくつか反省点がある」と気を引き締めつつ、「クラシックのタイトルを贈りたい」と宣言した。倭達龍司騎手にとってはテイエムオペラオー以来のクラシック制覇が懸かる年になる。一戦ごとに絆を深める相棒と共に大舞台へ挑む。

 

《ネット記事より一部抜粋》

*1
2005年のクラシック三冠馬。シンボリルドルフ以来21年ぶりに無敗で三冠を制し、14戦12勝、うちGIレース7勝の成績を残したサンデーサイレンスの最高傑作。「日本近代競馬の結晶」「英雄」と称され、JRAの宣伝もあって爆発的な人気を得たが、JRAの行き過ぎた行動と凱旋門賞失格処分によって疑惑の評価を押されてしまう。しかし彼はその走りで疑惑を払拭し、サンデーサイレンスの後継種牡馬として偉大な成績を残した。

*2
2005年のオークス優勝馬。同年にアメリカンオークスステークスを優勝しており、日米オークス二冠を成し遂げた。引退後はエピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアらGI馬3頭を送り出し、繁殖牝馬としても成功を収めた。

*3
2004年に史上初のNHKマイルCとダービーの変則二冠を達成した競走馬。ダービーではレースレコードを2秒縮めるパフォーマンスを見せ、実況は「最強の大王が降臨した!」と絶叫。後にこのレースは故障馬が続出したことで「死のダービー」と呼ばれた。

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