覇王伝説第二章   作:ノワールキャット

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幕間:私と弟と相棒

 どうも、クラシック二冠馬となりました、テイエムベルレクスです。あだ名は引き続きランだ。

 

 春が過ぎて季節はとうとう夏に入った。日差しはどんどんと強くなっていって、気温もそれに伴って上昇していく。こうなってくると基礎体温の高い馬の体は堪ったものではない。そんな事情もあってか、春のクラシックを終えた私は気候が涼しい北海道へ戻ってきていた。

 放牧のために戻ってきたわけだが、今回は私の故郷ではなく育成牧場に来ていた。軽いトレーニングがメインでそこまで負荷の大きいことをやる事はなかった。

 

 基本はのんびりと過ごしながら、要所要所で気を引き締める。あと日課である走り込みを繰り返す毎日を送っていた。

 結局何処であろうと基本やることは変わらない。私は一貫して私を貫くだけである。

 

 さて……時期を考えればリトはもう既に育成牧場に移って競走馬となるための基礎的な訓練を受けているはずだ。あの臆病な性格だからな……暴れてないといいんだけど。リトも心配だがアークも大丈夫だろうか?あの子は確か夏頃にデビューする予定だと倭達さんから聞いた。なら今頃何処かでデビュー戦を迎えているはずだ。こちらもこちらで非常に心配だ。能力は恐らく将来性を見込んでも私と遜色はないはずだが、気性が如何せん悪過ぎる。

 気性が悪いというよりも元気が余り過ぎている感じだ。元から体力が多くて、興奮しやすい性格なのだろう。とにかくエネルギッシュだ。どうにか騎手を振り落とさないといいけど。

 

 私も2ヶ月ほど経ったら、またトレセンへ戻ってトレーニングをするだろう。春の二冠を獲ったのだ。このまま三冠目を獲りたいところである。取り敢えず体重が増え過ぎないように気を付けるとするか。

 

─◇◆◇─

 

 7月9日、函館競馬場。

 芝1800mで行われた2歳新馬戦にてテイエムベルレクスの全弟、テイエムノアアークはデビューした。

 

 無敗のクラシック二冠馬テイエムベルレクスの全弟であるテイエムノアアークは単勝1.5倍の1番人気に支持された。全兄の活躍が大きかったが、調教でも非凡な動きを見せ、タイムも申し分なし。何よりも鞍上に倭達龍司が迎えられたことも人気を集めた。

 

《向こう正面1000mを過ぎました。1000mの通過タイムは62秒!1番人気の7番テイエムノアアークは未だ後方で殿を務めています。先頭で逃げる2番のキョウエイルフィーとは11馬身ほどあるでしょうか?間も無く第3コーナーへ入ります》

 

 レースでは気性の悪さが出てしまい、スタートで出遅れるという致命的なロスを生んでしまう。最後方からのスタートとなり、道中は殿を務めてレースを進めることになった。

 

《先頭は依然として2番のキョウエイルフィー、キョウエイエルフィー先頭。3番のカレンシリエージョと生沿賢一は虎視眈々と狙っている。離れて4番のクリノクーニングは前へ詰め寄って、8番のクロフネプリンセスは5番手に浮上!さぁ、4コーナーカーブして直線向きました。さぁ、ここで一気に来る!ピンクの帽子!テイエムノアアークが一気に来た!》

 

 道中は無理に前へ行かず、脚を溜めることを倭達は優先した。追い込み戦法を倭達は好まないが、興奮しやすい性格である以上、テイエムベルレクスと同じ競馬は難しいと判断したが故である。しかしその資質と能力は間違いなく一級品。実際に調教でも抜群のパフォーマンスをテイエムノアアークは見せている。

 

《ソングオブローランとヒダルマを抜きまして現在6番手!凄い脚だ!テイエムノアアーク、一気に先頭集団へ迫る!残り200mを切った!残り200を切った!テイエムノアアークは4番手まで上がって!これは届くのか!4番手から3番手、2番手!今、クリノクーニングと並んでゴールイン!僅かに内のクリノクーニングが先着したか!?》

 

 結果としてテイエムノアアークは新馬戦を2着と敗退した。最後の直線だけで最後方から一気に捲って2着へ食い込んだ。1着のクリノクーニングとはクビ差であり、上がり3ハロンはメンバー最速の34秒ジャストと高い実力を示した。

 

 

 

「すみません……負けてしまいました。もっと早く仕掛けるべきでした」

 

 レース後、倭達は嶺苑と伊和本の2人に頭を下げて平謝りしていた。勝てるレースであったのに、負けてしまったことが申し訳なかった。せっかく騎手を任せてもらったというのに、期待を裏切ってしまった。

 

「まぁ、残念ではあるが、競馬っていうのはこういうものだ。そう簡単に勝てるもんじゃない。それに内容としては上々だ。末脚はメンバー最速でクビ差、そう悲観することはない。だろ?」

「そうですな。内容的にも悪くはない。良い点と悪い点を両方見れた良いレースだったぞ」

 

 自分のミスだと頭を下げる倭達を嶺苑は特に咎めはせず、伊和本もそれに同意する。

 

「今回のレースでやはりゲート難を解決する必要がありますね、これは根気良く向き合う必要はありますが、そこまで致命的のようにも見えませんでした。今回のは単純にスタートに失敗しましたね」

「そうだな。私も躓いたのではなく、上手く出れていなかったように見えた」

 

 ゲート試験こそ通ったが、以前からゲート難の兆候は見えていた。厄介だったのはテイエムノアアークのゲート難がどのようなタイプか分かりにくかったことだ。ゲート入りがすんなり行く時もあれば、そうでない時もある。スタートが上手く決まる時もあればそうでない時もあった。どちらのタイプであるかが分からなかった。

 

「倭達の感覚はどうだ?」

「僕は……やっぱりレース前にどれくらい興奮しているかで変わっているのかと思います。ゲート入りを嫌がっているよりもスタートが苦手な感じがします。実際のゲート練習でもすんなり出ることが多かったですし」

「ふむ、やはり単純なゲート難ではないな」

 

 テイエムノアアークは興奮しやすい気性であるが、レースになれば基本的に真面目に走る。斜行することも基本はなく、騎手の指示も聞いてくれる。興奮しやすい性格がどのように働くかが分からない、ある種博打的な要素に目を瞑れば他の気性難の馬と比べれば扱いやすい馬ではある。

 

「敗因もはっきりしている分、次回の対策も練り易い。能力は十分ありますので、出遅れ癖を抑えることができれば勝率はぐんと上がるでしょう」

 

 今回のレースの敗因は出遅れから生じた位置取りの不利である。スタートで出遅れ、最後方からレースを進めることになったことで最後の短い直線だけでは前を捉えきれずに2着と敗れたのだ。これには倭達がテイエムノアアークの気性面を考慮して後方待機を選んだという事情もある。もし、あともう100mもあれば楽々と差し切ってそのまま差が開いただろう。

 

「私達が懸念していた気性に関しても、想定していた以上に問題はなかった。次はもっと積極的に行っていいだろう」

「分かりました。では次は先行策で?」

「いや、あの末脚を見る限りでは脚質は差しか追い込みの戦法でも問題はない。私的にはあまりやりたくはないが、末脚は兄以上だろう。こんなにも強力な武器をぶら下げたままでは勿体無い。展開に応じて差しか追い込みかをその都度切り替えよう」

「了解です。やってみます」

 

 レースの結果を受け、課題点を再び炙り出す。また、浮き彫りになった問題点をカバーするための戦術を練り直していく。

 

「次のレースはどれを使う予定だ?」

「今の所は中一週の未勝利戦ですね。消耗もあまり見られませんので、ローテーションを多少詰めても問題はないでしょう。寧ろレースを使ってある程度エネルギーを発散させることも考慮してもいいかもしれません。まぁ、今年は2歳重賞に出れれば上々、と言った感じでしょうか」

「今年格上げされたホープフルステークスには出られると思うか?」

「そこまでは何とも……まぁ、出られたら、ですね」

 

 嶺苑は今年GIに昇格したホープフルステークスの名を出した。元々は牝馬限定戦のGIIIのレースだったが、格上げされて今年から2歳GIとして施行されるレースになった。

 近年価値が高まり続ける中距離路線に合わせて本レースは距離や開催場所が変化し、今年GIに格上げされたことによって2歳中距離路線の王者を決めるレースへと昇華された。

 

「僕としてはありだと思います。勝ち負けに関わらず、早めにGIの空気に慣れるのはプラスでしょうし、単純な比較とはなりませんが、翌年のクラシックの有力馬との差をある程度確かめられるかと。それに朝日杯と違って2000mなので追い込みのアークとまだ相性はいいと思います」

「う〜む……まぁ、そうだな。目標にしても特に支障はない。それに距離適性と脚質を考慮すればホープフルステークスを目標に据えてもいいでしょう」

「私としてもそうしてもらえると助かる。オペラオーのサイアーラインを繋ぐためにも実績を残して欲しいからな」

 

 種牡馬となって血を繋ぐにはやはり競走馬としての実績が重要だ。良血であれば実績を度外視して迎えられるが、テイエムベルレクスと同じ血統であるテイエムノアアークが血を求められることは基本はないだろう。そうなれば価値が向上し続ける中距離路線で少しでも多くの実績を残すのがサイアーラインを繋ぐ近道である。

 

「確約はできませんが、ホープフルステークスを最大目標にしましょうか。気性面や状態を見ながら2歳重賞を狙って出走を目指しましょう。まぁ、ある程度の興奮を抑えられるよう工夫を施さなくてはなりませんがね。逸走でもして調教再審査となっては笑えませんからね……」

「アークはまだ折り合いが付きやすいはずだ。興奮しやすいだけでステイゴールド*1ほどではないはずだ」

「まぁ……確かにあの馬と比べたらマシなような、気はします」

 

 3人共に苦い顔を浮かべたステイゴールドの現役時代は凄まじいの一言に尽きる。特にその暴れっぷりは有名で、逸走や斜行がとにかく多かった。その影響を受けないようにこちらも必要以上に気を配る必要があり、2001年の京都大賞典では斜行で落馬した騎手も居る。

 

「ステイゴールドよりかは扱いやすいでしょうね。真面目に走らせれば大抵のレースは勝てますよ」

「あの馬と比べるのも何か違うような気がしますが、そこはあまり心配する必要はないかと。ただ興奮しやすいだけで致命的と言えるほどの欠陥はあまりないですから」

「まぁ、今後に期待だな。鞍上は引き続きお前に任せる。頼んだぞ、倭達」

「はい、期待に応えられるよう頑張ります」

 

 一先ずは年末に施行されるホープフルステークスを目指すことが決定した。気性面で未だ幼さを見せるテイエムノアアークだが、そのポテンシャルの高さに陣営は心を躍らせた。

 そして中一週で函館競馬場の未勝利戦に出走。重馬場にて開催されたが、今度は向こう正面から仕掛け始め、直線で脚を伸ばしてカレンシリエージョに競り勝ち見事優勝。2着馬のカレンシリエージョに1馬身差を付けて未勝利戦から早くも脱した。

*1
1996年から2001年に活躍した牡馬。サンデーサイレンス産駒でその気性の激しさから「猛獣」と称された。調教師は「肉をやったら食うんじゃないか」と思うほど凶暴であったという。あと一歩GI勝利に届かず、上位入着を重ねたことからシルバー&ブロンズコレクターとしてファンに親しまれた。しかし引退レースとなった香港ヴァーズではロングスパートをかけて6馬身前方のエクラールを直線で猛追し、アタマ差交わして優勝を果たす。引退レースで念願のG1制覇を果たした。種牡馬となってからはその種付け料の低さから人気を集め、オルフェーヴル、ドリームジャーニー、フェノーメノ、ゴールドシップ、ナカヤマフェスタらGI馬を送り出して種牡馬としても大活躍した。




アークの馬名は葵関久さん案のテイエムノアアークに決定しました。
応募ありがとうございます!
他にも応募してくださった折口さん、空軍野郎さん、トリックさん、天都輝常さん、hyugeru29さん、Akaloveさん、応募ありがとうございます!
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