覇王伝説第二章   作:ノワールキャット

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宝塚記念楽しみですね。
何事もなければクロワデュノールが勝つと思いますが、やっぱり私はメイショウタバルに勝って欲しいですね。

それとこの小説の投票者が100人を超えました。読んでくださった読者の皆様には改めてお礼を伝えたいです。ありがとうございます!
ここまで頑張ってこれたので読んでくださる読者の皆様がいたからです。これからも頑張って書いていきます!


飛躍の時

 テイエムベルレクスと共にクラシック三冠を制した倭達龍司。テイエムオペラオーと共に20世紀末の日本競馬の頂点に君臨した騎手であり、唯一無二の相棒である。

 

 テイエムオペラオーの引退後はGI戦線を沸かせ、毎年重賞を連対するベテランの騎手として広く知られていた。人気薄の馬であっても時には好走、勝利に導くその手腕は地味ながらも着実な人気を集め、本人の誠実かつムードメーカー的性格から人望も厚い。

 

 彼はテイエムベルレクスで劇的な三冠制覇を達成したと同時に三冠ジョッキーの仲間入りを果たしたのはまだ記憶に新しい。テイエムベルレクスの主戦騎手として広く認知されているが、何もテイエムベルレクスだけに騎乗しているわけではない。

 騎手である以上別の馬にももちろん騎乗するし、依頼があればどんな馬であっても断らないのが彼のポリシーであるからだ。

 

 そしてテイエムベルレクスが三冠を制覇する以前から、彼は別の馬の背に乗って励み続けてきた。

 

 9月2日、札幌競馬場。

 第52回札幌2歳ステークス。

 

《インコース5番のロジャージーニアス、差がなく6番のコスモインザハート、外11番ロックディスタウン。俄にローメルの手が動き始めました。4コーナーへと向かっていく。1番人気のテイエムノアアークは依然として後方集団に待機しています》

 

《さぁ4コーナーにかかるところ。先頭、前は2番手からマツカゼが先頭に変わりました。追っていく14番ファストアプローチ、後ろからは11番のロックディスタウン。最後方にいたダブルシャープが前を捕まえんと上がってきた!外からもう1頭、テイエムノアアークも追い上げてくる!》

 

《直線コースに向かいます!先頭は14番ファストアプローチ先頭ですが、捉えに行く11番ロックディスタウン!

そしてダブルシャープ!テイエムノアアークも外から来ている!真ん中を割って11番ロックディスタウン!2番手粘っているファストアプローチにダブルシャープが迫る!しかし外から!外からテイエム、外からテイエムノアアークが差し切ってゴールイン!勝ったのはテイエムノアアーク!札幌の短い直線で豪快に外から差し切りました、テイエムノアアーク、倭達龍司!》

 

 未勝利戦を脱したテイエムノアアークの初の重賞挑戦となった札幌2歳ステークス。

 

 レースはまたしても出遅れから始まり、最後方からレースを展開する形となった。しかし掛かることなく追走し、最後の直線では上がり最速の末脚を繰り出して一気に捲ると、先頭集団のファストアプローチ、ダブルシャープ、ロックディスタウンらをまとめて差し切り、2連勝で重賞初勝利を飾った。鞍上の倭達龍司にとっても札幌競馬場で施行される中央重賞初制覇であった。

 

 11月12日、京都競馬場。

 第42回エリザベス女王杯。

 

《最後方からウキヨノカゼで、3コーナー、坂の頂上から下りにかかっていきます。

勝負所へ向けてまだ淡々とした流れ。クインズミラーグロ、藤丘洸太(ふじおかこうた)が引っ張ります。しかしリードはなくなった。クロコスミアが上がっていく。マキシマムドパリ、モズカッチャン、内を突くのかミゲル・デオドール。

さぁ、間に入ったその隣、ピンクの帽子、16番ヴィブロス、クリストファー・ローメルは何処から動くのか。クロコスミアは抜け出しにかかってルージュバックはまだ中段で4コーナーから直線だ!》

 

《先頭はクロコスミア、クロコスミアが早くも先頭に立った!マキシマムドパリ、内からモズカッチャン!モズカッチャン!更にはヴィブロス、大外からミッキークイーンが詰める!

残り200m!倭達龍司の左鞭が入ってクロコスミアが先頭だ!クロコスミアが粘る粘る!マキシマムドパリ!モズカッチャン!ミッキークイーンが来た!再び女王の座へ、ミッキークイーン!しかしクロコスミアが粘っている!もう一度伸びるか!モズカッチャンが来たぞ!》

 

《3頭並ぶか!クロコスミアか、モズカッチャン、ミッキークイーン!クロコスミア!クロコスミアだ!最後まで粘り切ったクロコスミア!モズカッチャン、ミッキークイーンの猛追僅かに及ばず!クロコスミアと倭達龍司がやりました!世代を超えた女王決定戦で、9番人気の伏兵が、新たな女王の座につきました!》

 

 11月の中旬に開催されたエリザベス女王杯では初コンビとなったクロコスミアに騎乗。前哨戦の府中牝馬ステークスを制し、クロコスミアにとって待望の重賞初制覇となったが、当日の人気は9番人気に甘んじ、ファンからは伏兵扱いであった。

 

 レースでは好スタートを決めて軽快に飛び出せば、道中は2番手から追走。逸脱したペースで走ることもなく、落ち着いてレースを進めれば、最後の直線では他馬よりも早めに抜け出して先頭に立ち、そのままゴールまでしぶとく粘って押し切り、肉薄するモズカッチャンとミッキークイーンを退けてGI初勝利を飾った。倭達龍司お得意の先行策が嵌まった勝利であった。

 

 11月18日、東京競馬場。

 第22回東京スポーツ杯2歳ステークス。

 

《3、4コーナー中間、インコース2番のゴールドギア、7番ルーカスは最後方。第4コーナーカーブに入ります。1番コスモイグナーツが先頭で、2馬身リードをキープ、600を切りました》

 

《4コーナーカーブ、2番手これも内ラチ沿い6番のケワロス。直線コースに入りました!その2馬身後ろ、5番のシャルルマーニュが3番手。外から4番カフジバンガード。更に外から3番のワグネリアンと並んで8番のテイエムノアアーク》

 

《今5番手から4番手を伺って、坂を上がってきます。その2馬身後ろ7番のルーカス、今5、6番手の一線ですが、ここで3番ワグネリアンと8番テイエムノアアークが並んで先頭に変わった!残り200の手前で一気に前へ!これはもう2頭の争いだ!》

 

《内から5番のシャルルマーニュ、外は4番カフジバンガード、更に7番のルーカスですが、前の2頭には届かない!さぁ、突き放した、2馬身、3馬身!壮絶な2頭の叩き合い!8番のテイエムノアアークが抜け出たか!2頭並んでたった今ゴールイン!外のテイエムノアアークが僅かに先着したか!》

 

《最後の直線で見事に制しました、8番テイエムノアアークが1着です。2着3番ワグネリアン、3着に7番ルーカス上がって、5番のシャルルマーニュ4着。4番カフジバンガード5着でした》

 

 新設GIレースのホープフルステークスのステップレースに指定され、後にGIIに昇格される東京スポーツ杯2歳ステークスでは夏からコンビを組んでいたテイエムノアアークと共に引き続き参戦。全兄のテイエムベルレクスが三冠馬になったことで期待が高まり、単勝1.2倍という圧倒的1番人気でレースを迎えた。

 

 スタートは出遅れずに、すんなりとゲートから飛び出した。しかし前には行かずに後方に控えて脚を溜めながら、レースを進めると第4コーナーから徐々に進出を開始し、直線ではワグネリアンとの競り合いを制してアタマ差先着。重賞2連勝を飾ると同時に全兄テイエムベルレクスとの兄弟制覇を達成した。

 

─◇◆◇─

 

「最近は随分と調子がいいじゃないか、倭達」

「そうですか?」

 

 いつも通りテイエムベルレクスの調教を終え、厩舎で有馬記念へ向けた簡単な打ち合わせを行なっていれば、唐突に伊和本からそう言われた。

 

「9月から数えて重賞6勝*1。そのうちGIが2勝*2だ。これは上澄みの騎手しか残せない成績だぞ」

「……そう言われると、そんなに勝っていたんですね」

 

 倭達は照れ臭そうに笑い、頬を掻いた。

 

「僕としては作戦が上手く噛み合ったということもありますし、馬のお陰でもありますので、そこまで誇ることではないんですよね」

「相変わらず謙虚だな」

 

 伊和本は苦笑を浮かべながら肩を竦める。

 

「もちろん勝てたことは嬉しいんですけど……やっぱり馬の力が大きいですね」

「馬の力を引き出すのも騎手に求められるものだ。エリザベス女王杯の騎乗は最たる例だろう。先行させたが道中はかなりリラックスして走れていた。早めに仕掛けて先頭に立ったらそのまま押し切れていただろ」

「それが僕の得意分野ですからね。それに先生から丹念に教えられた技術ですから。あっ、そういう意味では先生のおかげでもありますね」

 

 そう言って倭達は悪戯っぽく笑みを浮かべた。

 

「まったく……そうやってすぐ人に返す」

 

 伊和本はフッと笑い、机に置いておいたお茶を一口飲んだ。

 

「まぁ、その謙虚さが倭達らしいがな。だが、少しでいいから自分の仕事くらいは胸を張るんだ。調子に乗る必要はないが、あの勝利はお前の導いた結果であることを忘れんようにな」

 

 伊和本何処か呆れたように溜め息を吐いたが、その表情はどこか嬉しそうであり、笑みを隠せないでいた。

 

「本当に、何でも人の手柄にするところは昔から変わらんな」

「事実ですからね」

「口が減らん奴だ。……なら、その先生から一つ忠告だ」

 

 先ほどと打って変わって伊和本の声色は真面目なものへと変わった。表情は真剣なものとなり、その目付きは鋭い。

 

「こういう時こそ気を引き締めるんだ。『勝って兜の緒を締めよ』という言葉があるだろ?それと同じだ。順調である時こそ、勝ち続けている時ほど気を引き締めろ」

 

 その言葉を受けて倭達の表情も自然なものへと引き締まった。

 

「……有馬記念、ですね」

「あぁ……」

 

 伊和本は静かに頷き、カレンダーへと目を向けた。

 カレンダーの12月24日は赤丸で囲まれており、小さく有馬記念と書かれていた。

 

「知っての通りだが、有馬記念にはこれまでとレベルが違う。一線級の古馬達がわんさかと出走してくる。特に今年はその筆頭としてキタサンブラックが居る。……これまでとは一足も二足も違うぞ」

「……分かっています。お互いの戦術も似通っているのが純粋な力比べになると思います」

 

 テイエムベルレクスとキタサンブラックの戦法は非常に似通っている。というよりも互いの得意分野が同じだと言えるだろう。

 先行集団で折り合いをつけ、勝負所から長く脚を使って後続をねじ伏せる横綱相撲を得意とする。今のテイエムベルレクスならば一気に差し切ることも可能だが、直線の短い中山でその戦法はリスキーだ。先行または逃げるキタサンブラックを捉えられるかは賭けになる。

 

「しかし今年の有馬は凄いな。キタサンブラックを筆頭に、それを降したシュヴァルグランとサトノクラウン、二冠牝馬のミッキークイーンも居るのか。強敵揃いだな」

 

 出走を表明している馬達をリストアップしたメモを見詰めて伊和本は唸る。

 

「大丈夫です、先生」

「ん?」

 

 唸る伊和本を見て、倭達は声を上げた。その声色に先程までの遠慮がちな響きはなく、確固たる意志が込められていた。

 

「ランなら勝てます」

 

 倭達は一拍置き、それでいて揺るぎない言葉を続ける。

 

「僕が勝たせます」

 

 伊和本は一瞬だけ目を見開いた。

 それは明確な宣告であった。

 

 誰よりもテイエムベルレクスを知り、ただ1人の相棒として戦ってきた騎手としての覚悟がその言葉に込められていた。

 それを聞いて伊和本は小さく笑みを浮かべ、「……そうか」と短く答えた。

*1
GIを除いて札幌2歳S、ローズS、神戸新聞杯、東京スポーツ杯2歳S

*2
菊花賞、エリザベス女王杯




リュージの重賞勝利数(2017年)
1月17日 日経新春杯(GII) ミッキーロケット
3月5日 弥生賞(GII) テイエムベルレクス
4月16日 皐月賞(GI) テイエムベルレクス
4月23日 フローラS(GII) モズカッチャン
5月28日 日本ダービー(GI) テイエムベルレクス
9月2日 札幌2歳S(GIII) テイエムノアアーク
9月17日 ローズS(GII) ラビットラン
9月24日 神戸新聞杯(GII) テイエムベルレクス
10月22日 菊花賞(GI) テイエムベルレクス
11月12日 エリザベス女王杯(GI) クロコスミア
11月18日 東京スポーツ杯2歳S(GIII) テイエムノアアーク
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