12月28日、中山競馬場。
1年の総決算たる有馬記念が終わり、2017年の競馬もいよいよ終わりを迎えようとしていた。今日施行されるのは中央競馬で最も新しいGIレース。『希望に満ちた』または『望みを持つ』の意味を冠したホープフルステークスだ。
有馬記念で魅せられた熱の余韻を残し、このレースを見ようと中山競馬場に訪れた来場者数は5万人を軽く超え、スタンドには観衆が押し寄せている。
《去年このレースを勝った馬は今年の三冠馬のライバルの1頭となって、ダービーで激闘を演じました。そして4日前の有馬記念、この中山競馬場で覇道を突き抜けた三冠馬の弟が同じ舞台で初の大舞台に挑みます。今年はGIになったホープフルステークス。正真正銘今年最後の中央、GIファンファーレです》
場内に流れるファンファーレ。そしてそれに合わせて湧き上がる5万人を超える観衆の手拍子。演奏が終了したファンファーレの余韻と共に、ゲート前で周回している出走馬達に惜しみなく注がれていき、大歓声に迎えられてゲートインが始まった。
《晴れ、良馬場。冷たい空気の中、絶好の舞台です。18頭立て。
第34回、この回数はラジオたんぱ杯、ラジオNIKKEI杯を受け継いでいます。第34回のホープフルステークスGI。牝馬が2頭、参戦しています。枠入りはまだ1頭もゲートの中に収まっていません。冬の西日を受けて、今、悠然と内枠の馬から入っていきます》
GIIから昇格し、GIレースとして第1回目を迎えたホープフルステークスに集った優駿は全部で18頭。年々価値の高まっていく中距離路線に伴ってフルゲートとなった。
《ウォーターパルフェ、リュヌルージュ、9番のサンリヴァルも収まっていきます。さぁ、来年へ向けてこの大きなステップ、GIのタイトルを獲得する馬はどの馬でしょうか。フラットレー、収まりました。
元々のこの中山のホープフルステークスでは、外国人ジョッキーの活躍が目立っています。今年もクリスティン、ミゲルの両デオドール、そしてローメル、3人の外国人ジョッキーが騎乗しているレース。有力馬にそれぞれ騎乗しています》
本レースで注目されているのは外国人ジョッキーが騎乗する2番人気から4番人気に推されたタイムフライヤー、 ルーカス、フラットレーに加えた無敗のまま3歳四冠を達成した三冠馬テイエムベルレクスの全弟であるテイエムノアアークの4頭。特にテイエムノアアークの人気は突出しており、単勝1.5倍の圧倒的支持を集めた上に2番人気であるタイムフライヤーの単勝5.8倍と差を付けていた。
《14番に本レース1番人気の倭達龍司騎手が騎乗、テイエムノアアーク、内に2番のトーセンクリーガー。更にマイハートビート、シャルルマーニュは十咲京汰騎手が鞍上。
2歳の若駒、次々にゲートに収まって、最後は18番ナスノシンフォニー。18頭のゲートイン完了。GIホープフルステークス。係員離れました》
ガシャリと大外のナスノシンフォニーがゲートの中へ入り、金属音と共に扉が閉じられる。全18頭がゲートの中へ収まり、場内に一瞬の静寂が訪れた。そして──ガシャンッと各馬が一斉に飛び出した。
《スタートしました!18頭飛び出しました!テイエムノアアークは良いスタートを切って、おっ、ちょっとナスノシンフォニーが外へ膨れていってしまいました》
ゲートが開くと同時に全18頭が飛び出し、各馬一斉に前へ向かい始める。しかし大外のナスノシンフォニーだけが、外へ寄れてしまい、距離ロスを生んでしまう。
《ジャンダルムは好スタート、竹裕じわっと外から上がっていきます。真ん中から9番のサンリヴァル、更に12番のジュンヴァルロ、この辺りが前に上がっていこうとしています。正面スタンド前の影の中、そして内からはトラインもいきました。前は3頭です。倭達龍司は無理には行きません。テイエムノアアークを下げて後方待機を選びます》
5番のトラインがハナを切り、それを追って9番サンリヴァルと12番ジュンヴァルロが続く。本レース1番人気のテイエムノアアークは後方へ待機して現在後方から4番手の位置に付く。
バラついたスタートとなって始まった本レースで、逸走したナスノシンフォニーは再び馬群へ取り付いていき、2馬身離れて後方に。前へ行くことができなかった15番のワークアンドラブはナスノシンフォニーの更に後ろから先行集団を追う。
《前には3頭、その直後には内を突いて2番のトーセンクリーガーが行きました。さぁ、その外は3番のウォーターパルフェで、1、2コーナー中間をこれから目指していきます。西日を受けました》
冬の西日を受け、色彩豊かな勝負服が照らされながら、トラインを先頭に第1コーナーに入る。それに続く16頭とそして大幅に遅れながらも必死に食らい付こうと脚を動かす14番のワークアンドラブ。
《さぁ、各馬1頭ポツンと最後方だけ置かれて、17頭が前固まりました。先頭はトラインです。外から9番のサンリヴァル、更にその外を通ってジュンヴァルロ、この3頭が競り合います。その後は3馬身差、外を通ったウォーターパルフェ、内からは2番のトーセンクリーガー。あと8番のシャルルマーニュ続いて向こう正面》
第2コーナーを回り切って各馬向こう正面に入る。
逃げたトラストは内に付いて先頭を維持している。その外にはサンリヴァルとジュンヴァルロが並んで2頭付いて、先頭は3頭固まった状態。そこから2馬身開いてトーセンクリーガーとウォーターパルフェが続き、8番のシャルルマーニュが追走している。
《その直後、シャルルマーニュを追って1番リュヌルージュ続いて、外を通ってロードアクシス、更には10番のルーカスが続いています。そのあとちょっと切れてジャンダルムはこの位置。内を突いて6番マイハートビート、更に11番のフラットレー、それから内18番のナスノシンフォニー差を詰めていきました。外を通ってはステイフーリッシュ、更にその外を通ってピンクの帽子シャフトオブライト》
中団以降から続くのはシャルルマーニュを追うリュヌルージュ、しかし外から追い上げにかかるロードアクシスがリュヌルージュを追い抜いて7番手に上がる。変わってリュヌルージュと並ぶ10番ルーカス。それに続くのはジャンダルムとマイハートビートの2頭、その2頭の間を割ってやって来るフラットレー。1馬身半差程離れて内からナスノシンフォニー、ステイフーリッシュ、シャフトオブライトと3頭が続き、ステイフーリッシュとシャフトオブライトは外から追い上げ始める。
《そしてここ、ここに居た。タイムフライヤーの外、後ろから4番目、オレンジの帽子、1番人気のテイエムノアアークはここに居る。そしてすぐ後ろに内でじっくりと待機、7番のタイムフライヤー、後方で脚を溜めています。更に1頭ポツンと大きく遅れました、最後方14番ワークアンドラブ。3コーナーのカーブを回っていきます》
そしてもう間も無く第3コーナーカーブに差し掛かる。後方集団、後ろから4番手の位置で仕掛ける機会を伺い続ける唯一の重賞2勝馬のテイエムノアアーク、そしてその内側に付いている黒に赤十字がクロスした勝負服、タイムフライヤー。更に大きく離され、鞭が入りながら、遥か先に行ってしまった馬群を追い続けているワークアンドラブ。
縦長のようになっていた隊列はワークアンドラブを除いて塊となってきており、それは第3コーナーに入ってそれはより顕著になる。そしてここから仕掛け時と見た騎手が手綱を動かし始め、テイエムノアアークを外から交わしてタイムフライヤーが上がり始めた。
《前の方は依然としてゆったり流れて、今度は12番のジュンヴァルロ先頭。外9番のサンリヴァルが2番手。その後3番手は3番ウォーターパルフェ。そして動いていった16番のジャンダルム、外から一気に上がっていく。一歩前には10番のルーカスが居ます!テイエムノアアークも動き始めている!》
第3コーナー中間辺りから脚を痛めたのか、動きに乱れが出て後退していくトラインを交わして併走していたジュンヴァルロが先頭に躍り出ると、それを追うサンリヴァルもペースを上げ始める。そして前方で動きが出たことを察知し、後方待機していた後続の各馬達も続々と動き始めた。
《前にはさぁ、この有力馬が固まってきた。後ろをチラッと見たが、9番サンリヴァル
各馬に鞭が入り始めていよいよ第4コーナーをカーブして直線へ向き、追い比べが始まった。騎手達は手綱を押し、鞭を入れて加速を促し、前へ行こうと追い上げる。
テイエムノアアーク鞍上の倭達龍司は下手に外へ出そうとせず、馬群の中で鞭を入れてテイエムノアアークに合図しながら馬群を捌いてどんどんと進出していく。そして道中で脚を溜め続けていたテイエムノアアークも倭達から鞭が入ったことで有り余っている体力をエンジンに注ぎ込んで、一気にギアを上げて末脚を爆発させた。
《外から3番のウォーターパルフェが迫っている!そして外から上がってきたジャンダルム!ジャンダルム!そしてその外を通って後方一気の強襲か、7番のタイムフライヤー!しかしジャンダルムとルーカスの馬群を破って這い出て来たテイエムノアアーク!一気に先頭に立った!》
200の標識を通過した辺りで外から駆け上がるタイムフライヤーと馬群を割ってやって来るテイエムノアアーク。2頭の強襲によって先行集団は一気に捉えられ、先頭へ躍り出るが、テイエムノアアークは豪脚を繰り出してタイムフライヤーすらも突き放しにかかった。
《これは1頭次元違いの末脚!3馬身から4馬身、5馬身とあっという間に差を広げて更に前へ!追い縋る7番のタイムフライヤー!内で粘った16番ジャンダルムと4番手の13番ステイフーリッシュ!14番のテイエムノアアーク、快勝ゴールイン!兄貴の後を追ってテイエムノアアーク!》
馬群を割って出たテイエムノアアークは先頭へ躍り出ると、後続に影を踏ませずに着差を広げてそのまま押し切って優勝した。
《中距離の2歳王者に輝きました、テイエムノアアークオペラオー産駒、GI制覇です!勝ちタイムは2分0秒5、これで重賞3連勝です!最後内から力強く割って出て、2着タイムフライヤーになんと6馬身差!鞍上は倭達龍司、これで今年GI6勝目!》
GIレースとして生まれ変わったホープフルステークスで、1頭だけ34秒台の末脚を繰り出したテイエムノアアークはGI昇格後のホープフルステークスの初代王者の座を圧巻の競馬で手に入れてみせた。
検量室に引き上げていったテイエムノアアークと倭達龍司。検査を無事に終えて着順が確定すると、倭達は勝利ジョッキーインタビューへ向かい、テイエムノアアークはホープフルステークスの優勝レイを首に掛けられた。
「えぇ、GIに昇格した最初のホープフルステークス、見事な勝利を飾って見せました倭達龍司ジョッキーです。おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「GI昇格後の最初のホープフルステークスを勝ちました。今のお気持ちをお聞かせください」
「最高ですね。アークの今年の目標だったレースを勝つことができて嬉しいです」
「今日のレースプランはどのように考えていましたか?」
「末脚の光る馬ですので、中団以降で控えようとは考えていました。すんなりとゲートから出ることができたので今日は楽に位置を決められました」
「今日の手応えはどうでしたか?」
「テンションは高いですけど、レースに真面目な馬ですので手応えは非常に良かったです。今日乗ってみて『良いな』って思えたので力を発揮してくれるだろうと思いましたね」
「最後の直線、抜群の手応えで前へ出ましたね」
「はい。僕の予想よりも勢いが凄かったですね。GIだったからいつもと違った雰囲気で興奮してたのかもしれませんね」
「2着のタイムフライヤーに6馬身差付ける圧勝でした。この時の手応えは如何でしたか?」
「凄まじいの一言に尽きますね。加速が僕の予想以上で、100%以上の力を発揮してくれたのだと感じています」
「来年のクラシックが非常に楽しみになりました。この馬の将来性についてどう感じていますか?」
「まだまだこんなものじゃないと思っています。課題面は色々とありますが、この末脚は大きな武器になります。それを重賞で示してくれましたので、非常にポテンシャルが高い馬です。来年のクラシックで間違いなく主役を張れる馬だと思います。これからの成長が本当に楽しみです」
「最後に、応援してくれたファンへ一言メッセージをお願いします」
「えぇ、今日はありがとうございました!来年もベルレクスとアークと一緒に頑張っていきますのでよろしくお願いします!」
その一言を最後にインタビューは拍手と共に終了した。
最後の写真撮影でテイエムノアアークは首に掛けられた赤き優勝レイを誇らしげに見せ付け、威風堂々とした姿が写真に収められた。