覇王伝説第二章   作:ノワールキャット

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迎える新馬戦

 トレセンに来てから毎日坂路とプールを使ったトレーニングを続けている。

 私のスタミナはとにかく凄いらしく、周りの人は度肝を抜かれたような顔をしていた。伊達に幼少期から走り込んできたわけではない。そんなに柔じゃありませんよ、私は。

 

 それとスタミナを鍛え続けるだけでなく、他の馬とも併走をしてレースというモノを学んだ。これがまた色々と刺激的で面白い。

 私はスタミナに絶大の自信を持っているが、やはりスタミナが多いだけではダメらしい。加速が未熟なために最高速度に到達まで時間が掛かる。あとは位置取りとかも結構重要らしい。他には育成牧場と違って真っ直ぐ走るだけではないので、コーナリングの際にどうしても人を乗せているとフォームが少し崩れる。

 原因は分からないが、恐らくはバランスや重心にズレが生じているからだと思う。ここは先輩達の動きを真似て、取り入れられる所は積極的に取り入れて改善させていこう。

 

 私はスタミナが多いからか、昼間はずっと動かされ続けている。おかげでフォームの調整が存分にできる。やっぱり数をこなせばある程度形になるのだな。最初こそ私のフォームが変わり続けたことで騎手の人達は怪訝な顔で見ていたが、ぎこちなさがなくなり、安定し始めると驚きの表情に変わった。

 

 芝で走るのがメインだが、時にはダートも走っている。パワーを要求されるのが特徴だが、馬並に走れる私はそこまで苦戦しなかった。しかし馬並に走れるというだけなので、併走したらやはり置いて行かれる。まぁ、場数が違うからな。こうなるのは必然だった。

 

 他にも適正距離を見極めるためか色んな距離で走ったりしている。1600mや1800mだったりするが、どうにもこの距離だと相性が悪いように感じる。

 ただ併走を続けても中々先着できなかったので、思い切って逃げ*1を打ってみたりもした。スタミナ任せにそのまま逃げてみたが、最後のコーナリングで外に大きく膨れてしまい、距離ロスになってしまった。しかし最終的に負けてしまったが、僅差であったのでコーナリングを磨けば武器になるかもしれない。

 

 他馬と併走することが多いが、もちろん坂路とプールでのトレーニングも続けている。

 プールは脚に負担をかけることなく、全身の筋肉と心肺機能を効率的に鍛えられる。心肺機能が強くなれば持久力が向上して必然的に運動能力を向上させられる。

 坂路は下半身が鍛えられてネックだったスピードの向上にも役立った。これで鍛え続ければ直線だけで末脚一気というパフォーマンスもできるかもしれない。まぁ、これはできたらでいいし、こんな追い込み*2をするには道中はとにかく溜め続けなくてはいけない。私がそんな瞬発力を身に付けられるとは限らないので、今は堅実に体を鍛え続けよう。

 

 そんな風にデビューに向けての準備が着々と進められていたが、今日は伊和本さんが見慣れない人を連れて来た。

 端的に言い表せばナイスミドルなイケオジで、何とも不思議な縁を感じた。また何故か嶺苑さんと同じように私に子供のように輝く瞳を向けていた。

 

「よし、分かった。ありがとう。で、どうだ、倭達。乗ってみるか?」

「はい、乗らせてください」

 

 彼は倭達さんという人らしい。それにしても随分と食い気味に答える。彼も嶺苑さんのように何か私の気に入る部分でもあったのだろうか?

 

 倭達さんを背に、コースへと入ってから早速走り始める。そして走り始めてすぐに分かった。この人は乗り方が上手い。

 重心が常に私の真上にあり、まるで私の癖を知っているかのように滑らかな重心移動をして見せた。とても走りやすかったので、ついついスピードを出してしまった。

 

 それから少しして、私から降りた倭達さんは伊和本さんと話していた。倭達さんの感覚だとやはりスタミナが突出していると感じているらしく、まだまだ発展途上であるそうだ。

 やっぱり私って晩成型なんだなー、と思っていたが、倭達さんがいきなり伊和本さんに向けて頭を下げ、「僕を乗せてください!」と叫んだ。

 

 いや、びっくりするから唐突に叫ばないでくれよ。馬になって耳も良くなったんだから。まぁ、何か感極まることでもあったのだろう。

 その後に倭達さんに撫でられながら「よろしくな」と言ってくれた。どうやら彼が私に乗ってくれる騎手らしい。私も彼を乗せて走るのは気持ちよかったからもう一度乗って欲しいくらいだ。それに、彼にはまた別の何かを感じてるのだ。

 騎手を自由に選べるなら彼が良い。彼に乗ってもらいたい。

 

 

 

 そんな一幕があってから数日後。倭達さんが正式に私の主戦騎手になったことを聞かされた。そして私の主戦騎手が決定したことに伴って私のデビューする日も決定した。

 デビューが近くなって来たことでトレーニングが段々厳しくなってきているのが分かる。

 倭達さんが頻繁に乗りに来て、私のトレーニングを手伝ってくれた。乗り方も上手いし、私が賢いと分かっているからか鞭もあまり使わない。あとは私に色々と話しかけてコミュニケーションを取ろうとしている。

 

 意外と饒舌で私がテイエムオペラオーの子供であることにびっくりしたことを話してくれた。何でも倭達さんはそのテイエムオペラオーの主戦騎手であったのだ。

 

 どうして倭達さんから不思議な縁や何かを感じるのかと思ったが、テイエムオペラオーの主戦騎手であったと聞いて私は自然と納得した。私の父親はあのテイエムオペラオーなのだ。きっと第六感のようなもので繋がりを感じ取ったのだろう。

 

 そうして着々と競走馬デビューに向けて準備が進められた。

 ゲート試験という、競走馬デビューを果たすための試験も行ったが、一発合格してやりましたよ。「これで準備はできた」と伊和本さんが私の頭を撫で、あとはデビューを果たすだけである。

 

 そうしたある日。私は何頭かの馬と一緒に馬房から出されて馬運車へと乗せられた。これから競馬場へ移動するのだろう。馬となってから初めてのレースだ。一体何処に行くことになるのだろうか。

 私が競走馬デビューする第1戦。一回しか味わえない、記念すべきレースでもあるのだ。折角ならば勝利して華々しいデビューを飾ってみようじゃないか。

 

─◇◆◇─

 

 場所は新潟県新潟市、新潟競馬場。

 今日は重賞*3のレースが無いため、いつもよりも賑わいが控えめだが、それでも数多くの人が往来している。 

 

 競馬場内に設置されている馬主席*4で今日この競馬場でデビューを果たす愛馬を見に来た馬主の嶺苑と、その同伴者に生産者の尾崎と鹿嶋の姿があった。

 

「今日はわざわざ呼んでくださり、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「それには及びません。私にとっても、あなた達にとっても貴重な晴れ舞台です。来て頂けてよかった」

 

 嶺苑の同伴者として馬主席へ招かれた尾崎と鹿嶋は普段はクローゼットに(しま)いっぱなしであるスーツを着用していた。初めて訪れた場所であり、ドレスコードがあると聞いていたが、周りを見る限りでは馬主同士で和気藹々としている様子が見られるので、そこまで畏まっていなくて安堵していた。

 

「北海道まで遠かったのではないですか?」

「いえいえ、そんなことは。寝ていたらあっという間でしたよ」

「私達こそ招待して頂きありがとうございます」

 

 今日の第5レースの新馬戦では遂にランがデビューする。嶺苑が惚れ込んだ愛馬であり、尾崎と鹿嶋は仔馬の頃からずっと可愛がっていた子だ。特に鹿嶋はこのデビュー戦をこの目で観戦できることを嬉しく思っていた。レースはテレビで見ることになると思っていたが、こうして直接観に来ることができるとは思わなかった。チケット代を出してくれた嶺苑には感謝しかない。

 

「いやぁ、ランも立派になったなぁ。あんなに小さかったのに」

「鹿嶋さん、感動にはまだ早いのでは?」

「気持ちは分かりますけど、まだレースはこれからですよ。その言葉は、無事に勝った後にかけてあげてください」

 

 まだレースが始まっていないというのに、感極まったのか、涙が溢れてしまう鹿嶋とそれを慰める尾崎と嶺苑の2人。

 

「馬名、聞きましたよ。随分と洒落ていて良い名前ではないですか?利口なランにピッタリですよ」

「それを言って頂けるならば悩んだ甲斐がありました。いや〜、あの子に相応しい名前を考えるのは大変でしたが、楽しかったですよ」

「可愛がってくれているようで私も嬉しいですよ。ところで、一つお聞きしたいことがありまして……」

「はい、なんでしょう?」

「あの子の馬名の意味を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

《2枠2番レッドエレノア、単勝は2.1倍で鞍上はクリストファー・ローメル騎手、1番人気です。続いて2番人気のオメガジェルベーラ、鞍上は十咲京汰(とさきけいた)騎手で単勝は3.9倍です。続けて4番人気ファイトエルフ、鞍上はミゲル・デオドール騎手です。次に5枠8番のテイエムベルレクス、単勝29.5倍で8番人気、鞍上に倭達龍司騎手を迎えます。続いて……》

 

 実況席から出走馬の解説が入る。

 嶺苑が悩み悩んで名付けたテイエムベルレクスは8番人気だった。

 

「そうですね、やはり父のオペラオーに因んだ名前を付けたかったので、オペラオーから『オペラ王』と称されたジュゼッペ・ヴェルディを連想しました。しかしそのままヴェルディと名付けるのも味気ありませんでしたので、王で何かいい呼び方はないかと探しました。キング、エンペラー、カイザー……まぁ、中々しっくりこなかったんですが、ラテン語のレクスを見てピンと来ました」

「なるほど、ヴェルディとレクスの二つを組み合わせて、ベルレクス……良い響きですね」

「えぇ、我ながら良い名前を考えたと思います。ですが……規則とは言え、ベルレクスではなく、ヴェルレクスと表記したかったですね。こちらの方が格好良い」

「「あぁ〜……」」

 

 何となとなくだが分かってしまう尾崎と鹿嶋。本当に感覚の問題だが、『ベル』よりも『ヴェル』の方が良いと感じるのは男の性だろうか。

 

「発走まであと30分……今から待ち遠しいですね」

「ですね。嶺苑さんはどうですか?」

「そりゃあ、私は何十回とその気持ちを味わいました。辛酸を舐めたことも多々ありますが、この発走前のドキドキがやはり忘れられない。しかし、新馬戦というのはGIと比べてもやはり特別なレースだよ」

 

 新馬戦というのは特別なレースだと嶺苑は答える。

 GIレース含む重賞は改修工事の場合を除いて毎年、同じ場所、時期、距離で開催される。極論を言えば、馬をずっと現役のままで走らせていれば勝利するチャンスはあるのだ。絶対に無理な話だが。

 

 自分の所有馬が重賞を勝てばそれは嬉しい限りだが、新馬戦を味わえるのはどの馬も1回だけなのだ。そう考えれば新馬戦というのはやはり特別なモノだ。無事に走り切ってくれるか、どんな走りを見せてくれるのか……様々な思いが錯綜するが、その中には新馬戦でしか味わえないモノが多数含まれる。やはり嶺苑の中で新馬戦が特別なモノであるという思いは変わらない。

 

「あっ、出て来ましたよ!嶺苑さん!」

「おっ、そろそろか」

 

 テイエムベルレクスの初出走まで、後少し。

 馬主席から見守る男性3人は固唾を飲んで見守っていた。

 

─◇◆◇─

 

 桃色を基調に、腹には緑一本輪、袖は黄縦縞……この勝負服に身を包むと、まだ若手だった自分を思い出す。

 

 デビューしてから3年目だというのに、デビューから引退まで全26戦、テイエムオペラオーの背に乗り続けた。こんな未熟者を乗せながら、皐月賞、二度の天皇賞・春、宝塚記念、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念と七つのGIを勝った。

 一歩も引かない勝負根性と最後まで諦めない不屈の闘志、ここぞとばかりに伸びる末脚、自分から進路を選択する賢さ……挙げればキリがないが、自分には勿体無いほど素晴らしい名馬だった。

 

 だけどそんなオペラオーを2001年の天皇賞・春以降、勝たせてあげられなかった。八つ目のGI勝利を挙げることができなかった。自分よりももっと上手い騎手だったら、崗辺(おかべ)さんや(たけ)さんだったらGIを8勝以上していた、もしかしたら三冠馬にも成れたかもしれない程の馬だった。

 

 オペラオーからはこれ以上ない程、色んな贈り物を貰った。だけど自分は何も返せなかった。それからオペラオーに誓った。GIを勝って、一流の騎手になると。

 

 それからは腕を磨き続けた。重賞レースを勝利し、全国リーディングにも上位に食い込むようになってきた。GIレースでも掲示板に載ることは何度もあったが、結局は勝ち星を挙げられなかった。

 GIタイトルまであと一歩の所まで迫れるのに勝てない。焦りや不甲斐なさが立ち込めて心内を支配したが、それでも平静・冷静に努め続けた。そんな日々を過ごしていたが、嘗ての師匠に呼ばれたと思うと、1頭の馬を紹介された。

 

 額の流星と尾花栗毛が特徴の馬。未だ最強と疑わぬオペラオーの姿が重なり、騎乗を任された時は本当に嬉しかった。それがオペラオーの子であることを知ると、ますますのめり込んだ。

 

 この子はきっと、オペラオーが送り出した後継者(第二の覇王)だ。この子ならば、オペラオーが行けなかったところまで必ず届く。

 そんな子の騎手を任されたのだ。まずは新馬戦を無事に勝利して送り出すことが、今の自分にできる小さな恩返しである。

 

「ふぅー……よしっ!」

 

 倭達は自らを鼓舞するように頬を叩いた。感傷には浸っていられない。もうすぐでレースなのだ。気持ちを切り替えねばならない。

 

「倭達、気分はどうだ?」

「大丈夫です。寧ろ高揚しています」

「ならいい。だけど慎重に騎乗しろよ。例え道中折り合えなくても押し切ってしまえる程のポテンシャルがランにはある。だが必要以上に負担はかけるのは好ましくない」

「はい。なのでいつも通り、前目に付ける先行策*5でいきます」

 

 騎乗前、倭達は伊和本との間で確認を行う。いつも通りの先行策で、レースを進めることは一致していた。先行策である理由は伊和本が競走馬の脚に負担をかけるとして、倭達に馬を先行させて競馬をすることを教えたからだ。

 先行策は競馬において王道と呼べる磐石の型。倭達が乗り続けたテイエムオペラオーもこの戦法で勝利しているのだから特に不満はない。

 

「あぁ、それと最後だが……馬が前に行ってしまったら、行かせてやってくれ」

「それは……逃げということですか?」

「結果的にそうなるな。ランは賢いから掛かることはないが、記念すべき第1回のレースだ。気持ち良く走らせてやってあげてくれ」

「分かりました」

 

 確かに初動は大事だ。このレースでランに不満が溜まってしまえば、今後の現役にマイナスに働いてしまう。あの竹さんが『理想のサラブレッド』と評したサイレンススズカ*6も控える競馬よりも馬なりで逃げさせる方が圧倒的に強かったのだから。

 

「よし、行ってこい!」

「はい!」

 

 伊和本に背を叩かれて送り出され、倭達はパドックへ向かう。

 パドックへ出れば、今回の新馬戦に出走する14頭が待機している。自分以外の騎手も準備を済ませており、騎乗を始めている。倭達も自身の騎乗する馬、ラン改め、競走馬テイエムベルレクスに騎乗する。

 

「じゃあ倭達さん、お願いします」

「はい」

 

 厩務員の坂原に引かれて、再びパドックを周回する。テイエムベルレクスが入れ込んでいる様子は……ない。非常に落ち着いており、乗った感触からコンディションは万全だ。

 

《4番人気ファイトエルフ、鞍上はミゲル・デオドール騎手です。次に5枠8番のテイエムベルレクス、単勝31.5倍で8番人気、鞍上に倭達龍司騎手を迎えます。続いて4枠6番コスモヴァーズ、単勝57.2倍、12番人気です。鞍上は川叢晶英(つむらあきひで)騎手です。7枠12番ラッキーアドバンス。本日は6番人気での出走です。単勝22.2倍、鞍上は井志椅秋(いしばししゅう)騎手です》

 

(やっぱり……人気はあまりないか。寧ろ8番人気ならまだ評価されてるのか?)

 

 やはりだがテイエムベルレクスの評価はあまりよろしくない。サンデー系の血が流れていない血統を考えれば当然と言えるが、それでも8番人気まで浮上したのは馬の状態の良さから判断したのだろうか。

 

 パドックを再びもう一周すると、誘導馬の後を付いて行き、地下馬道を通って本馬場入場を果たし、各馬返し馬*7を済ませて行く。

 

 いよいよ出走の時である。

 

─◇◆◇─

 

 地下馬道からコースへ姿を現した14頭の競走馬達。各馬は返し馬を済まし、ゲートへと入る。

 

《新潟競馬場第5レース、2歳新馬戦。芝1800m、天気は晴れ、馬場は良馬場とのことです。競走馬達の記念すべき晴れ舞台、今回は14頭の出走になります》

 

 新馬ということもあってゲート入りを拒否する馬がチラホラと見られ、ゲートへと入っても入れ込んでしまっている馬も見受けられる。

 その中でテイエムベルレクスは終始落ち着いており、緊張している様子を感じさせなかった。

 

《本レースは14頭がデビューを迎えます。果たしてどの馬が勝ちぬけるのでしょうか?1番人気はクリストファー・ローメル騎手騎乗のレッドエレノア。父にハーツクライ、母にサビアーレという血統。2番人気はオメガジェルベーラ、3番人気はオルファリオンです》

 

 スターターが立ち、ファンファーレが鳴る。

 

《各馬、順調にゲート入りを済ませます。さぁ、大外14番プラウドデイが入りました。態勢整いました。係員が離れます。ゲートが開いて、今スタートしました!少しバラけたか?しかし8番のテイエムベルレクスが抜群のスタートを決めて早くもハナを切って先頭に立ちます》

 

 レースはテイエムベルレクスが逃げる形でレースが始まった。

 場内の一部で「おぉ!」と小さく騒ぎ立った。騒ぎ立った理由は騎手を務める倭達龍司の存在である。どんな馬であっても先行策でレースを進める倭達のレーススタイルとは異なる戦法だったからだ。

 

 であれば馬が掛かってしまったのかと思えば馬は口を割っておらず、しっかりと折り合ってレースを進めている。倭達も手綱を持ったままで、馬も騎手も落ち着いている様子だった。

 

《先頭に立つのはテイエムベルレクス、後続とは2馬身差のリード。逃げて行きました倭達龍司。2馬身後ろに11番のタガノアンピール。それに続いて7番のヤマニンイリザブルと13番のオルファリオン、4番ファイトエルフが後を続きます。それを見る形で5番マスカレードシチーと14番プラウドデイが前目に付いております。先行集団はこの形で、中団からは1番人気のレッドエレノアと2番人気のオメガジェルベーラ、そして9番コスモワンエイティ。本レースの注目馬2頭は中団におります。そして後方には1番アポロマーキュリーと10番ニシノアモーレ、6番コスモヴァーズの4頭が固まっています。殿を務めるは12番のラッキーアドバンスです!》

 

 逃げるテイエムベルレクスを先頭に最後方のラッキーアドバンスまでおおよそ10馬身程の差がある。しかし2番手以降からは団子状態のようになっている。

 

 テイエムベルレクス騎乗の倭達に焦りはなく、後続馬で手綱を必死に押している馬が居る中で倭達は未だに持ったまま。逃げ馬は先頭で逃げる故に空気抵抗を最も受けやすい。そのためにスタミナが最後まで持たず、最後の直線でズルズルと後退してしまう。しかしテイエムベルレクスのスタミナは折り紙付きだ。問題はない。

 

《各馬第3コーナーを曲がって第4コーナーへ向かいます。隊列に大きな変化はありません。おっとここで、9番のコスモワンエイティが徐々にですが上がってきました!先頭は依然としてテイエムベルレクス。800のハロン棒*8を通過、1000mの通過タイムは61.1秒です!このまま第4コーナーをカーブして先頭直線に入ります!》

 

 第4コーナーを曲がってからはゴール板まで659mと長い直線が待ち構えている。

 新潟競馬場の芝1800mは第3コーナーを曲がるまで748m、先も述べた通りゴール板まで659mと長い直線が特徴だ。直線の長さは日本最長である。

 そして直線が長いと有利と働くのは差しや追い込みなど、爆発的な末脚を持った馬かロングスパートができる馬かのどちらかだ。先頭集団はどれだけ前で粘れるかが勝敗を分ける鍵になる。

 

《各馬600のハロン棒を通過して直線コースへ入ります!先頭で入ってきたのはテイエムベルレクス!テイエムベルレクス依然先頭で持ったまま!さぁ、後続も追い上げて来ました!バラけて外から来るのはニシノアモーレとオメガジェルベーラの2頭!レッドエレノアはどうだ!?レッドエレノアはどうだ!?レッドエルノア伸びが悪いか!?》

 

 直線に入り、ここからはどれくらい余力を残していたかになる。1000mの通過タイムは61秒と2歳馬の平均タイム。しっかりと折り合えているならばそこまで大きな消耗はない。

 

《ここが正念場だ!残り400の標識を通過!外から迫るはニシノアモーレとオメガジェルベーラ!先頭のテイエムベルレクスを捉えにかかる!後続はどうだ!しかし先頭はテイエムベルレクス!テイエムベルレクス!倭達は持ったまま!倭達は持ったままだ!ニシノアモーレが抜け出すが、これは捉えられるのか!?懸命に追うニシノアモーレ!しかし先頭はテイエムベルレクス!2馬身差リードでゴールイン!逃げ切りました、テイエムベルレクスと倭達龍司!タイムは1分、48秒2!余裕な逃げ切り勝ちです!》

 

 他馬を寄せ付けず、テイエムベルレクスは楽に逃げ切って勝利した。他馬が鞭を使って必死に追う中で、騎手の倭達は終始持ったまま。

 

 テイエムベルレクスは息一つ乱しておらず、まだまだ余力を残した状態で勝利した。

 8番人気という低評価を覆し、テイエムベルレクスは新馬戦を勝利。2着には9番人気のニシノアモーレ、3着に2番人気オメガジェルベーラが入着した。3着のオメガジェルベーラと2着のニシノアモーレとの着差は4馬身差、2着のニシノアモーレと勝ち馬のテイエムベルレクスとの着差は2馬身差であり、新馬戦とはいえ、テイエムベルレクスはレースで自らのポテンシャルの高さと能力を示して見せたのだ。

 

 馬主席で尾崎と鹿嶋は「やったー!」と喜びを分かち合っており、嶺苑と伊和本は言葉には出さなかったが、その心内は喜びの感情で溢れている。倭達はポンポンと首を叩いており、「よくやった。頑張ったな」と声をかけ、愛馬を労った。

 

 しかし、これはまだ序章に過ぎない。第二の覇王伝説のほんの一幕に過ぎないのだ。

*1
スタートから先頭に立ち、そのまま先頭を譲らずにゴールまで逃げ切る戦法の一つ。競馬では華のある、ロマン溢れた戦法だが、逃げ切り勝ちは距離に応じてスタミナが必要となる。

*2
道中は最後方を進んでスタミナを蓄え、最後の直線で前の馬をごぼう抜きする戦法。優れた瞬発力と持続力が必要で、馬群を苦手とする馬が主にとる戦法。

*3
競馬のレースの中でも特に格の高いレース。毎年同じ時期に同じ条件で行われる「繰り返し重ねて開催される賞」が名前の由来。

*4
競馬場に設置された、馬主とその同伴者のみが入室できる特別席。

*5
隊列の中間より前で競馬をし、逃げ馬を見ながら進む戦法。安定した結果を出す確率が高いが、それ故に実力が一番大きく現れる。

*6
1998年の宝塚記念優勝馬。「異次元の逃亡者」「最速の機能美」と称され、破竹の6連勝で天皇賞・秋に挑むが、レース中に予後不良となり安楽死。中距離において史上最強だと推す根強いファンも多く、杉本アナウンサーの「私の夢はサイレンススズカです」は非常に有名。

*7
コースを走るウォーミングアップ。

*8
ゴールから1ハロンごとにたてられた標識。しかし書いてあるのはゴールまでのメートルであり、4と書かれていたらゴールまで400mということ。




というわけで、主人公の馬名はラン、改め「テイエムベルレクス」に決定しました。元とした名前の案は「テイエムヴェルディ」で、それを提案してくれのたびりーばーさんです。ありがとうございます!

名前の由来は「オペラ王」という異名を持った作曲家のジュゼッペ・ヴェルディとラテン語で王を意味するレクスを組み合わせた感じです。執筆者的には「テイエムヴェルレクス」にしたかったけど、文字数制限が……

その他にもたくさんの応募ありがとうございます!
びりーばーさん、たろーれさん、ほんさくちょうぎさん、永徳さん、neighborさん、まち針さん、カイザレックスさん、あいおじさん、bebebeさん、うどん伯爵さん、hyugeru29さん、サキトさん、トリックさん応募ありがとうございました!

今回の新馬戦は実際のレースを参考にしましたが、レースを見れなかったのでほぼほぼ私の想像で保管しています。今後は執筆者があんまり重要じゃないと思ったレースは省略すると思います。
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