覇王伝説第二章   作:ノワールキャット

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飛ばせるところはサクサックと行きます。今回は全体的に雑かも。


新馬戦後と最大目標

 無事に新馬戦を勝利したテイエムベルレクス。

 初動から先頭に立ち、終始余裕の手応えでレースを進め、直線では鞭を使わずに2着のニシノアモーレに2馬身差をつけて快勝。デビュー戦を勝利で飾る華々しいデビューを果たした。

 レース後は関係者達で口取り式を行い、この時に撮影した写真は午後のネット記事へ掲載され、小さな注目を集めた。

 

 そして新馬戦後、テイエムベルレクスは伊和本厩舎へ間も無く帰厩した。

 

「やっぱり、あまり疲れてないな」

 

 テイエムベルレクスの様子を見て、伊和本はそう判断する。走った距離は1800mで、新馬戦だ。特に疲れる要素もなかったので、体力が有り余るのは容易に想像できた。

 

「レースでの手応えはどうだった?」

「終始落ち着いていました。掛かっている様子もなく、気持ちよさそうに走っていたので、そのまま止めずに馬なりでいかせました」

「それがこの結果か。やはり分かっていたが凄まじいな、この馬は」

 

 美人な顔付きをしているというのに、その肉体に秘める能力は2歳馬としては破格過ぎる代物だ。ただ走っているだけで他馬を置き去りにする、まるでマルゼンスキー*1のようだ。元のスピードが突出して速いからこそできる芸当だ。

 

「さて、無事に新馬戦は勝った。次はどのレースに出るかだ」

 

 嶺苑の言葉に伊和本と倭達は再び気を引き締める。

 新馬戦はまだまだ序の口。次に狙うのは条件レースか格上挑戦となるオープンレースか重賞レースになる。

 

「順序良くステップを踏むなら条件戦ですが……」

「いや、ランの能力を考えれば条件戦に出る必要はあまりない。私としては早いこと重賞レースに出して重賞の空気感に慣れさせたい」

「そうですね。早めに慣れておけば、ランが雰囲気に当てられることはないでしょう。賢い馬だから一度経験すれば忘れないと思います」

「よし、なら格上挑戦でいこう。次走はオープンか重賞だ」

 

 伊和本から言質は取れた。あとはレースを選択するだけだ。

 

「では……次走は野路菊(のじぎく)ステークスでどうでしょうか?1ヶ月半程の期間が空いていますし、場所も阪神なので輸送の負担もそこまで考える必要はありません」

「野路菊ステークス……分かった。では、次走をそこにしよう」

 

 休養期間も十分に取れており、開催場所も阪神と近い。特に異論はなかったので、嶺苑はそれを了承した。

 

「次走は決定した。ではその次も決めておこう。私は12月の朝日杯を今年の最大目標として決めているが、これについてどう思う?」

「僕はいいと思います。ランはGIでも勝ち切れる能力がありますし、1600mの距離を問題にしません」

「私も賛成です。やはりGIの空気に早めに経験できるなら、早いことに越したことはないでしょう」

「なら、2歳GIの朝日杯を最大目標にしよう」

 

 その後も話し合い、野路菊ステークス後はGIIIの東京スポーツ杯2歳ステークスを前哨戦に牡馬の2歳GI朝日杯フューチュリティステークスへ挑戦することに決定した。

 

「では12月の朝日杯のことも考えて調整を進めていきます」

「あぁ、よろしく頼む」

 

 今後の予定も決定し、それに向けての調教が積まれた。目下の目標は野路菊ステークス。距離は新馬戦と同じく1800mで距離不安は問題ない。休養期間も十分に取れているので、当日に何も起きなければ出走は問題ないだろう。

 

─◇◆◇─

 

 どうも、ラン改め、テイエムベルレクスという名前を頂きました。テイエムベルレクスです。正式に名前が付いたけど、ランっていう愛称が定着しているのか、普段の生活ではほぼほぼラン呼びは変わらない。

 

 つい先日に競走馬デビューを果たし、無事に勝利しました。

 スタートをバッチリ決めて、後ろの馬達に追い抜かせずにそのまま押し切った。やっぱり倭達さんの乗り方は上手だ。ついついスピードを上げてしまう。

 

 私の勝利に倭達さんも嬉しそうで、ゴール後に私の首元を優しく叩いて「よくやった」と喜んでくれた。

 レースが終わってからは出迎えた倭達さんの背中を叩いており、満面の笑みを浮かべていた。それから嶺苑さんと私の下に来て「流石オペラオーの子だ」と私を褒めてくれた。あとは鹿嶋さんと尾崎さんも来ていてびっくりした。特に鹿嶋さんは涙を流していて「立派になったな!」って凄く感動していて、その後ろで尾崎さんが慰めていた。

 感動しているところ悪いが、少し面白かった。

 

 その後はみんなで口取り式*2を行った。倭達さんは私が身に付けていたゼッケンを広げ、その隣に嶺苑さんや伊和本さんが並んでいた。

 小さな小さな勝利であるが、彼らにとっては特別なモノであることは間違いない。走った甲斐があった。

 

 レースが終わってからは厩務員の坂原さんに念入りに体を洗ってもらったり、獣医さんに体の隅々までチェックされた。特に異常はなくて、検査などが終わった後はご飯を食べてそのまま寝てしまった。体は疲れていないが、どうやら初めてレースを経験したことで分からない所で疲労していたのだろう。

 

 それから数日して私はトレセンに戻って来た。

 十分に休息して万全である私は、再びトレーニングを積む生活に戻った。次走も決定しているらしく、それに向けてのトレーニングをしていくらしい。

 

 次は何のレースを走るのだろうか。同じ1800mでやるのか、それとも更に長くするのか……まぁ、今だと判断しようもないな。取り敢えずはいつも通り、併走・坂路・プールのトレーニングをこなそう。

 

 そうしてトレーニングを続ける日々が始まったが、今度は1ヶ月くらいでまた馬房から出されて馬運車へと乗った。馬運車に乗ったということはレースに出る時がやって来たということ。私的には何時でも来いという心構えだ。体調は万全で問題はない。今日は一体何処で走るのだろうか。

 

─◇◆◇─

 

 場所は兵庫県宝塚市、阪神競馬場。

 野路菊ステークスへ出走登録を済ませ、再び調教を積んだテイエムベルレクスの第2戦。完璧だと自信を持って言える状態まで仕上げ、万全の状態で伊和本は送り出した。

 

「どうだ、状態は?」

「良いですね。緊張もしていませんし、凄く落ち着いてます」

 

 一度レースに出たことで感覚が分かったのだろうか?元から穏やかな気性であるが、非常に落ち着いている。伊和本は「これなら今日も大丈夫だ」と確信する。

 

「倭達、今日だが……」

「競りかけて来る馬が居たら控えて先行策に切り替える、ですね」

「あぁ、それでいい。変にちょっかいをかけて来る馬が居ないんだったら、馬なりで逃げ切らせていい。ランは賢いからオーバーペースになることはないはずだ。まぁ、そこまで気負う必要はない、気楽に行けよ」

「はい」

 

 伊和本に送り出された倭達は新馬戦と同じく、パドックで騎乗する。

 いつも変わらぬ感覚で、非常にリラックスしていることが窺える。

 

 今回のレースでテイエムベルレクスは2番人気に支持された。直線の長い新潟競馬場を逃げ切って勝利したことが高く評価され、しかも鞭を使わずに終始持ったままで危なげなく勝利したことがより一層評価を高めていた。単勝は3.1倍と1番人気のモーヴサファイアの単勝2.4倍と離れたが、それでもまずまずの支持を集めた。

 

(新馬戦よりもずっと人気がある。まだ1戦だけだけど、直線の長い新潟を逃げて勝ったんだ。そのレース内容が評価されている。マークして来る騎手はいるはずだ)

 

 倭達は恐らくマークされるだろうと予測した。勝ったのは新馬戦のみだが、直線の長い新潟競馬場を楽な手応えで逃げ切り勝ちをしたことは他陣営からしたら十分脅威と見られることだろう。

 直線の長いコースは差しと追い込みをする馬が有利というのは競馬界では常識だ。しかしテイエムベルレクスの出走した新馬戦には上がり3ハロン33秒台の豪脚を繰り出したニシノアモーレがいるにも関わらず逃げ切って見せたのだ。鞭を一度も使わずにだ。この情報を聞いて脅威だと感じない騎手はいない。

 

(要注意はモーヴサファイアだな。負けているけどこのメンバーで唯一重賞に出走しているし、残りの3ハロンで見せた末脚は強力だった)

 

 出走馬の情報を整理し、倭達はモーヴサファイアへの警戒を強めてレースへ挑む。手袋を嵌め直し、気持ちを切り替えた。

 

《1番人気に支持されました、冨久長悠逸(ふくながゆういち)騎手騎乗のモーヴサファイア。父はハービンジャー、単勝は2.4倍です。2番人気は新馬戦を逃げて2馬身差で快勝しました、倭達龍司騎手のテイエムベルレクスです。3番人気は父ルーラシップのナムラライラです。鞍上は生沿賢一(いけぞえけんいち)が務めます。さぁ、今年の野路菊ステークスには8頭の優駿が揃いました。本日の阪神競馬場第9レース、野路菊ステークス、間も無く出走です!》

 

「よし、行こう、ラン」

 

 テイエムベルレクスに向けて倭達は小さく呟いた。

 

─◇◆◇─

 

 阪神競馬場のファンファーレが場内で鳴り響き、ゲート入りは順調に進んで行く。

 ここでゲート入りを拒む馬はおらず、比較的スムーズにゲート入りは進んだ。

 

《本日の野路菊ステークスは曇り空ですが馬場は良とのことです》

 

 今回1番人気に支持されたモーヴサファイアは出走馬の中で唯一重賞レースを経験している馬だった。出走した新潟2歳ステークスは敗れたものの、上がり3ハロンは33秒5とメンバーの中で3番目に速い時計をマークした強豪馬だ。

 

《1番人気に支持されましたのは7番のモーヴサファイア。出走馬の中で唯一、重賞レース出走経験があります。敗れはしましたが、上がり3ハロン33秒5は間違いなく実力のある証です。2番人気はテイエムベルレクス。新馬戦では余裕の逃げ切り勝ちでデビュー戦を飾りました。このレースでも注目の1頭です。3番人気にはナムラライラが推されました。さぁ、全馬ゲートに収まりまして、係員が離れます。スタートしました!》

 

 ガシャンという金属音を伴ってゲートが開き、その音と共にゲートから真っ先に飛び出したのはテイエムベルレクスだった。

 今回のテイエムベルレクスの枠番は2枠2番で内側。スタートの上手いテイエムベルレクスなら内へ切り込むことはそこまで難しいことではない。

 

《抜群の先頭を決めて一気に先頭に立ちました、2番のテイエムベルレクス。1馬身差リードして逃げております。これを見る形で2番手追走するのは5番のオイカケマショウと7番のモーヴサファイア、そして8番のアメリカズカップ。中団からは3番のエスケークラウン、4番ナムラライラが続き、最後方には1番フレーバーと6番ユノディエールが位置しています。隊列は固まったまま各馬第3コーナーへ向かいます》

 

 抜群のスタートを決めて一気に先頭に立ったテイエムベルレクス。競りかけに行く馬はおらず、そのまま悠々自適に逃げの態勢に入る。

 

 今回のコースでは、最初のコーナーまで枠順にそこまで大きな有利不利はない。しかしスタートダッシュだけで後続とのリードを取るテイエムベルレクスを無理に追って競り合おうものなら、それだけでスタミナを大きく削る。体ができあがっていない2歳馬でそれをやるのはあまりにも無謀が過ぎる。

 

《テイエムベルレクスが最初に第3コーナーを通過、後続が後に続きます。1000mの通過タイムは61秒ほど。平均ペースで進みます。さぁ、ここで隊列に動きが出ました!ユノディエールが上がっていきます!ローメル騎手、ここで行きました!5番のオイカケマショウはちょっと下げたか!?》

 

 第3コーナーから第4コーナーへ。

 先頭は変わらずテイエムベルレクスで、コーナーを回って先頭のまま内のポジションを維持したまま直線に差し掛かる。そして外からはロングスパートを決めるつもりか、ユノディエールがペースを上げて迫って来る。

 

《第4コーナーを回って最後の直線に入りました!各馬スパートをかけ始めて先頭のテイエムベルレクスを捉えにかかる!2番手はモーヴサファイアとアメリカズカップ、外からはユノディエール!》

 

 最後の直線に入り、各馬の騎手達は追い上げ始めて一斉に先頭のテイエムベルレクスを捉えようと動く。しかし、倭達も手綱を押してテイエムベルレクスに合図を送っており、そう簡単に着差を縮ませない。

 

《モーヴサファイアとアメリカズカップが追い縋る!しかしこれは厳しいか!先頭はテイエムベルレクス!テイエムベルレクス!1馬身から2馬身、3馬身差にリードを伸ばして、ゴールイン!タイムは1分47秒!2着争いはモーヴサファイアとアメリカズカップの接戦となりました!終始楽な手応えで、またしても逃げ切り勝ちです!》

 

 今回も逃げ切り勝ちを収めたテイエムベルレクス。道中は終始楽な手応えでレースを進め、最後は軽く合図を送ったただけでリードを3馬身差まで広げて逃げ切った。

 

 嘗ての相棒を乗せて走るテイエムオペラオー産駒のテイエムベルレクス。この馬に往来のファンは淡い期待を抱きつつあった。

 未だ重賞勝利はないというのにファンはテイエムベルレクスから目を離せなかった。オペラオーと瓜二つの姿と強さ、そして主戦騎手を務めるのは父の相棒であった倭達龍司。この構想にファンはロマンを感じずには得られなかった。

 

─◇◆◇─

 

 新馬戦からおおよそ1ヶ月。今日は競走馬として二度目のレースだ。距離は同じ1800mらしい。

 今回は2番人気らしく、前回よりも高く評価されていた。

 

「よし、行こう、ラン」

 

 私の愛称を呟いて、倭達さんは私の首元を叩いていた。私はそれに対して小さく頷いた。

 

 ファンファーレが流れ終わって、私はゲート内でジッと待っている。初動は大切。スタートダッシュが上手く決まれば、それだけで有利になる。

 幸いなことにゲート練習で私は出遅れたことはない。目の前に集中して、馬の反射神経の良さならば、ゲートが開くと同時に飛び出すのはそこまで難しいことではない。

 

 ……今だ!

 

 ガシャンとゲートの音が鳴って、私は同時に飛び出した。リードは一気に取れたはずだ。倭達さんも特にアクションを起こしていないから、このまま逃げの態勢で大丈夫だと判断する。

 

 常に内を走るように意識し、そのままペースを崩さずにまずは最初のコーナーを目指す。先頭に立っているから空気抵抗は凄いが、スタミナ豊富な私にそこまで大きな支障はない。

 正確な体内時計があれば標識と時間を擦り合わせて自分のペースが分かるのだが、そんな特技はないし、そもそもレース中にのんびりと暗算していられる程の余裕はない。

 

 さて、意識をレースへ戻そう。

 今は恐らく後続とそこまで大きな差はない。逸脱したペースで走っていれば倭達さんが必ず合図を出している。出していないということは通常のペースで走っていると受け取っていい。感覚だが、後続との差はどれだけ大きく見積もっても今は1馬身差程度なはずだ。

 

 そうこうしているうちにコーナーへと差し掛かって来た。

 何度も倭達さんと練習したコーナーリングで綺麗にカーブし、内を維持しながら距離ロスをできるだけ抑える。やはり、倭達さんの重心移動は上手だ。スムーズに曲がれる。

 

 そしてもう一度コーナーを曲がり、いよいよ最後の直線を迎えた。先頭はもちろん、ずっと逃げ続けていた私だ。私が直線に入り、後続もそれに続いていく。後ろからピシパシと音が聞こえて来るから既にスパートを掛け始めているのが分かる。

 

 後方の外に少し目を向ければ、7番と8番のゼッケンを着けた2頭の馬が見えた。2頭のスピードにそこまで大きな差はない。ほぼ馬体をピッタリと合わせて私に迫って来る。それと同時に倭達さんが手綱を押して合図を出した。

 それに合わせて私もスピードを上げて追い上げる。

 

 後ろと横に気配は感じない。そのまま私は後続に影を踏ませず、スピードを維持しながら一番最初にゴール板を駆け抜けた。

 

 スタンドからの声援を受け止めながら、徐々にスピードを落としていった。完全に停止すれば、そのまま倭達さんに導かれてウイニングランを行った。スタンドの前まで行けば、溢れんばかりの声援が私達を出迎えた。

 

「勝ったよ、ラン。やっぱりお前は最高の馬だ」

 

 倭達さんが私を褒めながら首元を叩いてくれる。

 今回も無事に勝てたようで何よりだ。次のレースもこうやって勝てるといいのだが、そう単純にはいかないだろう。まぁ、今はこの勝利を喜ぼうじゃないか。

*1
1976年の朝日杯3歳S(現朝日杯FS)を大差と3歳マイルレコードで圧勝した名馬。絶対値の違うスピードで他馬を置き去りにし、持込馬でスーパーカーブームだったことから「スーパーカー」の異名を持つ。生涯成績は8戦無敗で2着との合計着差が61馬身とされる。

*2
勝った馬がウイナーズ・サークルで行う記念撮影のことを主に指す。




試しに主人公視点でレース描写もしてみたんですけど、やっぱりレースは難しいですね。
参考のレース映像があれば、擦り合わせもできるのですが、やっぱり映像を見られないと難しい。この手の小説を書いてる人の文章力と造詣の深さには本当に尊敬しますね。
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