もうガジェットとマシンだけでいいんじゃない?   作:黒月悠生

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 にわかがさらけ出されてしまいますわ〜。




No.1 実技試験!

 『個性』。

 過去、突如として人類に目覚めた異能の総称。

 

 現代において『個性』の発現率は九割を超えており。

 世代を追う毎に『個性』を発現しない者──俗に言う『無個性』は減っている。

 

 それこそ絶滅危惧種の希少生物とされる程に。

 なんなら研究対象にすらなっている。

 

 なぜ『個性』が発現する為の要素、『個性因子』を持たずに生まれるのかと。

 

 また。

 『個性』は世代を追う毎に深化しており、その多様性も能力としての強度も。

 第ゼロ世代とは比較にならない。

 

 その上で。

 

 『個性』には『個性特異点』という考え方が存在する。

 一つの『個性』として、出力がバグを疑う程に向上する事だと思ってくれればいい。

 

 更に。

 『個性変異(ミューテーション)』という現象がある。

 両親の血筋を遡ってもまったく当てはまらない、独自の『個性』を宿して生まれる事を言う。

 

 何が言いたいのかといえば。

 

 

 ──俺の『個性』は理屈じゃ説明できない程に異様。

 

 

 ただそれに尽きる。

 

 

 

 

    \────\── 〈 ◯ 〉 ──/────/    

 

 

 

 

『ふむ......』

 

 『雄英(ゆうえい)高校』。

 日本国内において、『士桀(しけつ)高校』と双璧を為すヒーロー(・・・・)養成校。

 

 正門の時点で見上げる程の大きさ。

 幅も広く、出入りしやすい。

 

 今日これから受験(・・)という事もあって、日本各地から集まってきた中学生達が校内へ進んでいるが、狭苦しさは無い。

 

 朝の冷えた空気に、通り行く奴の吐息が白く結露する。

 

 ......寒そうな奴多いな......

 

 厚着している者も多い。

 が、『個性』の関係上か薄着でも平気そうな者も......チラホラ。

 

 改めて見上げれば、高層ビルかと言わんばかりの校舎。

 更には強化ガラス張りという徹底ぶり。

 ......現時点で簡易の要塞だな......

 

 視線を下ろす。

 

 次々と『雄英』に入っていく受験生達を眺める。

 ......まぁ、ライバルの観察、といえばそれもある。

 

 だが何よりも。

 一方的に知っている顔を確認したい、という思いの方が強い。

 

 でなければ、わざわざ霊体(・・)でここに留まる理由は無い。

 さっさと中に入っている。

 

 一人二人と、目的の奴らを見つけていくことしばらく。

 

 緑の癖毛、そばかすのある顔の少年が一人。

 

 薄い金髪、赤く、鋭い三白眼の少年が一人。

 

 茶色のショートボブ、赤い頬の少女が一人。

 

 最重要の三人を確認。

 ......よかった。

 下手をすれば......特に緑髪の少年はいなかっただろうから。

 

 基点であり、原点の一つであり、特異点に近い。

 

 それが、一つの物語において『主人公』のシンボルを与えられる者の共通点。

 

 『いる』か『いない』かは酷く大きな問題となる。

 

 今回の場合、入試に現れるか否か。

 

 そして、継承(・・)しているか否か。

 

 どれも否なら......面倒といえば面倒だったが......

 

『......まぁ、いいか』

 

 おっと、しまった。

 

 霊体での声は基本、聞き取れる奴は少ないが。

 勘、あるいは感が鋭い奴や、電気系の『個性』を持つ奴には聞き取れてしまう可能性がある。

 

 その際に頭痛をはじめとした身体的不調、不快感、不安感をはじめとした精神的不調を与える可能性も、当然......ある。

 

 ......癖とはいえ、気を付けねぇと。

 

 緑髪の少年が妙な顔で固まっているのを見届けて。

 

 俺も校内へ入った。

 

 壁を(とお)り抜けて、受験生達から離れた男子トイレで実体化。

 一応の気遣いのつもりだが、『個性』によっては気付かれるんだよな......

 

 カバンを肩に提げたままトイレを出た。

 静かに迅速に講堂へ向かう受験生の波に合流。

 

 流れに合わせて歩いていく。

 

 見る限り、そして聞く限り。

 受験生達の心境は大雑把に二種類に分かれている。

 

 本気で合格する為に(のぞ)み、大なり小なり緊張している者。

 

 いわゆる記念受験の者。

 こっちは精神的に圧されて気まずそうにしている者と、グループを形成して気楽な様を見せている者に分かれている。

 

 まぁ、記念受験に来るのも分からなくはない。

 

 今日の試験は『雄英高校ヒーロー科』、その実技試験。

 たとえ落ちても、『普通科』のみならず『他科』への併願が許されている以上、『雄英高校』に通える可能性がある。

 

 完全に落ちた場合でも、『雄英高校』や『士桀高校』に挑んで落ちた、というのは一種の箔になる......らしい。

 二次試験でのステータスとして大きく示せるとか。

 

 であれば、人生でも数少ないイベントを楽しもうとするのは、それはそれで良い事だ。

 少なくとも『雄英』に挑む事を諦めたり、全力で挑んで完全に折れて進めなくなるよりは、余程マシだ。

 

 一つの経験としてもアリだしな。

 

 ──だからこそ......胸を張って笑えるように、頑張って欲しい。

 

 心持ち流れの速い周囲に少しずつ抜かれながら歩く事少し。

 何人か一般教師や事務員に会釈して講堂へ。

 ......やっぱデカい校舎だ......

 

 講堂の指定された席に座った。

 

 照明は暗い。

 一応、足元に誘導ライトはあるし手元の資料も問題なく読めるが......雰囲気作りか......?

 

 左右に座った男子学生は違う制服だ。

 ......そりゃぁそうか。

 

 講堂の空気は少し重い。

 緊張している側の影響か、張っている。

 

 ......しかし後ろの列でよかった。

 おかげで......色々と見やすい。

 

 一度、軽く周りを見渡す。

 

 まだ入ってくる者達がいる。

 ......時間になれば始まるだろうし、しばらくはここにいる奴らを眺めてもいいか。

 

 ......肉体に変化が現れない『発動型』の『個性』を持っている奴が多いな......

 いや、俺からすれば『個性』なんて全て『異形型』なんだが......

 

 見て分からなくても、『中身』が変質するなら『異形』と変わらない気がする......まぁ、見た目の分かりやすさで呼び分けるのも大事か。

 

 情報の区分と整理はしやすい。

 『異形型』と『発動型』の大枠を用意して細分化する。

 ......どうやっても、曲解する奴はするからな......

 

 見ていると、学生の流れが止まった。

 

 後は時間まで待機か......ひとまず、確認したい者は全員確認できた。

 問題は誰が合格するか......

 

 ──そして誰が落ちるのか。

 

 資料に目を通す。

 上から下まで、ページを捲って。

 

 特に難しい事も書いていないし、知らなかった部分に面白い事が書いてあるわけでもない。

 しいて上げるなら、実技試験の服装指定が特に無い事かな。

 持ち込み自由なのは事前に知ってたし。

 

 オシャレしていいって事だもんな......ドレスアップするか......?

 

「......ん」

 

 空気が変わって気配が揺れた。

 

 ステージ上のスポットライトが点く。

 モニターの明度が上がる。

 

『受験生のリスナー! 今日は俺のライヴによーこそー!!』

 

 反響する、加工の薄い声。

 下手にマイクとスピーカーを使って拡声するよりもキレイに通るのは、本人の発声技量の賜物。

 もちろん『個性』もあるが。

 

『エヴィバディセイッ──ヘイッ!!』

 

 耳に手添えてコールを待っているのは、当然『雄英』の教師。

 

 『ボイスヒーロー』、『プレゼント・マイク』。

 トサカのように逆立てた長い金髪、サングラス、ヘッドフォン、首周りのマイク兼指向性スピーカー。

 黒基調のコスチュームだな。

 

 『個性』は『ヴォイス』。

 鼓膜を破壊する程の大声を出せる上、音の高低は自在。

 遠距離の音波攻撃を行える。

 当然近距離だと威力が向上する。

 

 言っちまえば、歩く音響兵器。

 

 更にサポートアイテムで強化している堅実性があり、接近を許さず、しかし遠距離から確実に行動不能にさせる。

 ただし、音の伝わりづらい地中からなら接近しやすい。

 

 水中でも効果の高そうな『個性』だ......

 

『──こいつぁシヴィー......!!』

 

 ──あ。

 反応すれば良かった。

 俺もノリ良く行くのは好きだぞ。

 気分が少し上がる。

 

 オーバーな動作と勢いで誤魔化してるが、声も手も細かく震えている。

 

『なら受験生のリスナーに、実技試験試験の概要をサクッとプレゼンするぜ! アーユーレディ!?』

 

 なおさら反応すれば良かったな......

 

『──YEAHH!!』

 

 ......あ。

 ......まぁ、いいか。

 

『入試要項通り! リスナーはこの後ッ! 十分間の模擬市街地演習を行なってもらうぜッ!!』

 

 十分。

 思っているより短い。

 

 試験会場はAからGの七つ。

 それぞれの会場に、出身校が被らないように割り当てられている。

 

 モニターでは分かりやすく色分けまでされてる。

 丁寧だな......

 

『持ち込みは自由! プレゼン後は、各自指定の演習会場に向かってくれよなっ!』

 

 受験票に記載されたアルファベッド通りに、だな。

 シンプルで良い。

 

『──O.K.!?』

 

 おっとしまった。

 

 まだ間に合うな。

 

 ──位相ズラして分体出して......少し移動。

 声は少し変えて、空間に響くように声だけを。

 

『── ALL RIGHT!!』

『──ぉお!? コールありがとよリスナーッ!! いつでもくれていいからなっ!』

 

 あぁ、思ったより本音だこれ。

 余程シンとした状態が苦手らしい。

 

 周りの受験生は、驚いている者が多い。

 首を振って周りを確認している者もいる。

 

 ......若干、不快そうにしてる奴もいるな......余程真面目なのか、単純にノリが苦手なのか、あるいは、って感じか......

 まぁいいか。

 

 あと、一人小さな独り言が多い奴が。

 あれはもう癖だが、大丈夫か......?

 

 真面目な奴が、緊張で視野が狭まると確実に絡む。

 俺のコールで関心を誘導したけど、俺の事は見つけられないだろうから八つ当たりされそう......

 

 ミスったかな......

 

『演習場には! 『仮想(ヴィラン)』を三種っ! 多数配置しており、攻略難易度に応じてポイントを設けてある!』

 

 資料に記載された計四種のロボット。

 現在説明時点で、一から三のポイントを割り振られた三種。

 

 装甲の強度や移動方法、攻撃方法が変わる。

 程度はいまいち把握していないが、持ち込みと戦術によっては一般平均の身体能力でも倒せるだろう。

 特に一ポイント辺りは。

 

『各々なりの『個性』で、『仮想(ヴィラン)』を行動不能にし、ポイントを稼ぐのがリスナーの目的だ!』

 

 あぁ、倒す(・・)のではなく、行動不能でいいのか。

 なら個人の破壊力はそこまで重視しなくてもいい。

 

 いや、それもそうか。

 

 『ヒーロー科』である以上、受験生はプロの『ヒーロー』を目指している。

 

 『個性』を用いた犯罪を行う者、『(ヴィラン)』に対し。

 『個性』も用いて周囲を守り、『(ヴィラン)』を捕縛する職業『ヒーロー』。

 

 アイドルのような人気取りの側面も持つ以上、この国では『ヒーロー』は『殺生権』を持たない。

 

 仮想とはいえ『(ヴィラン)』。

 破壊のみでは殺す事を目的としているようなモノ。

 

 ......まぁ、うん。

 ......だったら戦闘能力より見るべき面があるってのは、否定しない。

 

 これは『雄英』側や『プロヒーロー』側よりも、一般人の──『世論』の影響が強過ぎる。

 

 ......専門職に、ズブの素人が口出すのもどうかと思うんだが......

 

『もちろん!! 他人への攻撃など、アンチヒーローな行いはご法度だぜ!?』

 

 ヒーローとして考えるなら、むしろ共闘と救助は推進できると見ていいか。

 

 声を響かせているとはいえ、分体を念の為移動させ──

 

『──質問よろしいでしょうか!?』

 

 生真面目な声。

 指先までピンと力の籠った、直角というか鋭角というか、固い挙手。

 

 融通の効かない気配が既にしている。

 緊張で少し暴走気味になっていると見るべきか......

 

『O.K.!』

 

 プレゼン・マイクが受験生を指差し、スポットライトが当てられた。

 挙手と同時に立っている勢い......

 

「プリントには、四種の『(ヴィラン)』が記載されております! 誤載であればッ、日本最高峰たる『雄英』において恥ずべき痴態!!」

 

 堂々と声を張っている。

 前のめりに近い。

 

「我々受験者はっ! 規範となる『ヒーロー』のご指導を求め! この場に座しているのです!!」

 

 姿勢は変わらず、固過ぎる直立。

 

 そして、自分を絶対基準として認識している可能性がある。

 正しさの押し付けに近い認知、自分の意見を大衆の意思として押し通そうとする交渉術。

 

 柔軟性が無く、厄介。

 善意で他者を圧し潰し殺す可能性のある言動。

 

 自分にとっての普通を周りに押し付けている。

 

 また、その為に『雄英高校』を盛大に侮辱している意識が無い。

 あまりに礼を欠いた指摘。

 

 話はまだ終わっていない。

 最後まで聞かず結論を出した思考の速さと余裕の少なさ。

 

 型に嵌っている内は順当に強いだろう。

 だが想定外を叩きつけ、奇策を取り続ければ優に自滅を誘える可能性が高い。

 

 まずもって、『雄英』に所属する者達、在校生、卒業生をはじめとした関係者一同。

 更には現在ライバルである周囲の者達をすら軽んじる発言。

 

 質問者は現在中学三年生で、私立のエリート校とされる『聡明』出身。

 また立ち居振る舞い、思想に明確な理想像が滲んでいる状態。

 

 ......なんにせよ、まだまだこれからだ。

 

「ついでにそこの縮毛の君っ!!」

 

 振り返って指を差した。

 その動作一つ一つがガチガチでキレがある。

 

 ......だから、勢い......

 

「先程からボソボソと......気が散る!」

 

 この場で指摘する必要性は低いな。

 事情の考慮が一切無い。

 

 公共の場では公私を分け、私語厳禁だという先入観か......?

 発言を許された状況、だからこその注意......?

 

 だとしても、下手を打てばこれだけで受験生一人を潰せる可能性は高い。

 相手によっては完全にアウトだ。

 

「──そして先程大声を上げた者!!」

 

 おっと......見つけていないのに指摘するのか。

 

 周囲をゆっくりと睨みつけるように見渡している。

 

「この場は決して遊楽の場ではないっ!! 物見遊山のつもりなら即刻っ! 『雄英(ここ)』から去りたまえ!! 居座るならば、以後ふざけた態度は慎むように!!」

 

 見つからない事に対する苛立ちも含んでいるな。

 周囲を圧する、正しさを建前にした感情の発露。

 関係無い者達まで萎縮させる怒声。

 

 プレゼン・マイクが許している以上、正当性は薄い。

 先のやりとりは感謝を建前にした注意ではなく、証拠として『いつでもくれていい』という文言がある。

 この発言は、注意するならば必要は無い。

 

 ......つまり。

 まだまだこれから、成長する余地を大きく残しているという事。

 そもそも、中学三年生でこの度胸、胆力は並じゃない。

 

『──オーケーオーケー! 受験番号七一一一(なないちいちいち)くん、ナイスなお便りサンキューな!』

 

 事を荒立てない方に持っていくか。

 まぁ、妥当か......? 下手に突けば質問者にダメージを与える可能性が高い。

 指摘された者や萎縮してしまった者をフォローしようにも、少なからず角が立つ。

 

 『雄英』への侮辱を流す点も含めて、これ以上は無い、か......?

 

『四種目の(ヴィラン)はゼロポイント! そいつはいわば、お邪魔虫!』

 

 モニターにシルエットが追加された。

 

 ......まぁいいか......

 

『ゲームはやるか!? ギミックモンスターみたいなモンさっ! 各会場に一体! 所狭しと大暴れしているギミックよ!』

 

 む......? ふむ。

 

 モニターに、ドットのプレゼント・マイクがゲームキャラクターのように動いている。

 

『倒せないことはないが、倒しても意味はない......! リスナーには、うまく避けることをおすすめするぜ......!?』

「──ありがとうございますッ!! 失礼致しましたッ!!」

 

 ギミック、面白いよな......

 あぁいう遊び心好きだぞ。

 

 一礼して座り、声を張り上げた質問者へのライトが消えた。

 

 俺も分体を消した。

 あと一回コールは無理だな......プレゼント・マイクの配慮が無駄になる......

 

『俺からは以上だ!! 最後にリスナーへ、我が校校訓をプレゼントしよう!』

 

 一回できただけで充分か......

 

『かの英雄! ナポレオン=ボナパルトは言った! 『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』と!!』

 

 ナポレオンか......

 ジャンヌ・ダルク、シャルル・ド・ゴールなどと同じく、フランスの英雄。

 

 名言が多く、一部では語録としてよく使われるとか。

 非常に親しまれている英雄だ。

 

『更に向こうへ......!! PLUS ULTRA!!』

 

 モニターに盛大に映る文字。

 

 これで試験説明は終了。

 

 模擬試験会場へ移動だ。

 

『それでは皆......! 良い受難を......!!』

 

 

 

 

    \────\── 〈 ◯ 〉 ──/────/    

 

 

 

 

 校内の敷地が、バスが必要になる程の広範囲。

 模擬市街地演習場からも分かるが、規模感のズレた面が窺える。

 

 『演習会場E』。

 

 周りには、各自動きやすい格好に着替えた者達。

 中には何かしらの道具や『サポートアイテム』を持っている者もいる。

 

 それぞれが、ロボット相手に頑張っている。

 

 会場入り口から、唐突な開始の合図と共に動き出して既に五分。

 残りも五分。

 

 ここまで俺は、受験生達のサポートを主体にしつつ、会場全体の把握を。

 一応、受験生の群から溢れたロボットを倒してもいる。

 

 今は──

 

 ──ズズン......!!

 

 側に建つビルを超える巨体のゼロポイントが出現。

 その影響で建物の崩壊なんかが起こったから、受験生のサポートを。

 

 巨体のロボから離れる者、逃げる者が多い為、二次被害を防いでおかないと負傷者が増える。

 

 ついでに。

 ロボがデカすぎて、動くと建物が崩れてる。

 ......危ねぇな......

 

 大き過ぎる影に呑まれてパニックを起こしそうになっている者もいる。

 

 ......潰しとくか。

 

 視線の先。

 ゼロポイントと比べるにはあまりにも小さい影が、いくつも動く。

 

 ......離れて見てると虫が飛んでるみてぇだな。

 

 メシャ、バチンッ、なんて小さな音が聞こえる。

 ロボットの内側やら関節部分から。

 

 すぐに動きが止まった。

 

 そして、ガシャンガシャンと崩れ落ちた。

 

 ......よし。

 動力部、蓄電部、接続部破壊。

 できればどかしたいが、どかす場所が無いから放置。

 

 残り二分。

 

 各個体(・・・)の情報を精査。

 損傷ナシ。

 

 受験生達の負傷も軽微。

 切り傷擦り傷も対処の必要は無いが、万が一がある。

 終了後に手当はしておくか。

 打撲が後に響いた、というのも寝覚が悪い。

 

 何より、『雄英』の看護教諭である『リカバリーガール』の負担を軽減できる。

 

 『妙齢ヒロイン』、『リカバリーガール』。

 希少な『回復系』の『個性』の持ち主であり、彼女がいるからこその『雄英』の破天荒。

 

 ......とはいえ、リカバリーガールは老体だ。

 演習会場一つ分の負担が無くなるだけでも大きいだろう。

 

『──試験!!』

 

 『雄英高校ヒーロー科』の倍率は三百を超える。

 一クラス二十枠、内二枠は推薦。

 ヒーロー科は二クラスだから、三十六枠。

 

 千人以上の受験生を一人で診るのは、身体を考えても負担が大き過ぎる。

 まぁ、余程大きい怪我か、後が危ない負傷、帰宅に支障が出る場合のみしか『個性』は使わないだろうが。

 

 それに、演習会場に散っている演習用ロボットや監視用のロボもある。

 ある程度はAI側で判断を下すだろう。

 

 ......意外と、移動以外の負担は小さいのか......?

 

『終〜!! 了〜!!』

 

 動きを止めた受験生達の状態を確認。

 明確に負傷している者のみだが回復(・・)を。

 

 ......まぁ、こんなモンでいいか。

 

 終了後は各自帰宅できる。

 一度演習会場から校舎まで戻らなきゃならないが......バスを待つのも少し......

 

 ......自分で行くか。

 

 ビルの屋上で立ち上がる。

 演習会場に散らしている全個体を回収。

 

 こっちを見ている一機のドローンに小さく手を振った。

 

 ゆらりとビルから飛び降りて、一瞬。

 

 全ての目が外れた。

 

 霊体化して、魔法(・・)を使って〈テレポート〉。

 荷物を回収して。

 

 ......帰るか。

 

 

 

 

    \────\── 〈 ◯ 〉 ──/────/    

 

 

 

 

 東京都椎羅(しいら)区。

 

 山梨と神奈川に隣接する、小さな区。

 

 周囲を山に囲まれた高原の街。

 

 春は桜が咲き、夏は涼しく、秋は紅葉し、冬は雪が降る。

 はっきりとした四季があり、環境として悪くは無い。

 

 しかし。

 

 この街には。

 いや、この椎羅(しいら)には。

 

 (ヴィラン)すらも寄り付かない。

 

 いつかの事故とそれに伴う噂が元、行政すらも介入をやめてしまった、事実上放棄された区。

 

 土地を購入する類の正規の手段、情報操作の類のグレーな手段。

 どちらも活用した結果。

 

 今となっては、強行しない限り国も手を入れられない秘境。

 

 ライフラインもネットワークも。

 いずれも断たれた陸の孤島。

 

 そんな椎羅(しいら)に足を運ぶ物好きも、まぁ、少ないとはいえいる。

 椎羅区に繋がる道は無いから、移動は面倒なはずなんだが......

 

 単純に山を超えてくるか、道を問わない移動手段を持つか。

 

 例えばここに住んでいる俺や──

 

「HAHAHAHA! 空気が綺麗な良いところじゃないか! 来る途中にも素敵な景色に目を取られてしまってね! 思わず転んでしまうところだったよ!」

 

 ──アメリカンなリアクションを取る男のように。

 

 『No.1ヒーロー』、『オールマイト』。

 金髪に碧眼、彫りが深くハッキリとした顔立ちで、強面の類。

 だが、滅多に絶やさない快活明朗な笑いが負の印象を吹き飛ばしている。

 

 身長、体重、どちらも二百を超える筋骨隆々の巨漢。

 立ち居振る舞い、纏う気配、どれも歴戦から更に踏み込む程の強者。

 

 その力、その在り様。

 

 まさしく英雄。

 

 既に五十を超え衰えているとはいえ、覚悟と矜持に陰りは無い。

 

 分厚い筋肉の鎧を覆っているのは、黄色いストライプ柄のスーツ。

 ......パッツパツなんだが......?

 

 見上げていた視線を下ろす。

 

「やあ!」

 

 オールマイトに抱えられた、スーツ姿の白い毛。

 ......これ(・・)で来たのか......?

 

「初めまして! 私は根津(ねづ)。『雄英高校』の校長さっ!」

「初めまして。遠路はるばる足を運んでいただき感謝を」

 

 頭を下げた。

 

 『根津』。

 『ハイスペック』という、人間以上の頭脳という『個性』が発現した白い鼠。

 現在においては人として、どころか偉人として扱われている傑物。

 

 『個性倫理』における第一人者。

 

 直接戦闘能力よりも、戦術考案、指揮、交渉、観察、分析といった頭脳戦や情報戦では圧倒的な脅威となる。

 

「OH! 少年! 緊張しているのかい? 大丈夫! そんなに固くなる必要ないぜ!」

「そんなに気を遣ってくれなくても大丈夫なのさ! もっと力を抜いていいよ」

 

 頭を上げた。

 

 根津を見て、オールマイトを見上げて。

 あぁ、本心らしい。

 

「......礼儀作法に疎く、口も態度も悪い。それでも構わないか?」

「HAHAHA! 安心しな少年! 君が良い子なのは分かっているさ!」

「もちろんさっ! 子ども達が元気で素直にいられるよう努めるのが、我々大人の役割なのさ!」

「......なら、甘えさせてもらう」

 

 良い大人、という奴だ。

 

 俺から目を逸らさず、悪感情一つ見せない二人。

 ちゃんと見ているぞ、という意思表示でもあるんだろう。

 

 ......まぁ、なんでもいいが。

 とりあえず会えて嬉しい。

 

「......まずは家へ。用はそれから聞く」

 

 半歩引いて道を開け、道の先を指し示す。

 先導するが、ジェスチャーとしてな。

 

「ああいや、すまないね。今日は時間がなくて、ここで話してもいいかい?」

「うぅむ、すまない少年。私もぜひティーブレイクを楽しみたいところなんだが......実はこの後も、やらなければならない事が山積みなんだよ」

 

 ......そうか。

 

 入試から一週間。

 合格発表を考えれば当然か。

 

「......そうか。もてなしもできなくてすまない」

「いやいやっ! 気にしないでくれ少年っ! 私としては良い気分転換になったんだ! なにせ書類仕事は苦手でね!」

 

 ......いや、まぁ......そうだろうな......

 

「本当に申し訳ない。私も君とは、ぜひ腰を据えて話したいと思っているのさ」

 

 ......真面目か......? そこまで真剣にフォローしてくれなくてもいいぞ......?

 それに、話をしてみたいのは俺もだ。

 

 どちらとも、機会があればゆっくりと話してみたいと思っている。

 ......前々からな。

 

「......なら、話を聞こう」

 

 半身にしていた身体を戻す。

 二人を正面から見据えた。

 

「合否判定について、で合っているか?」

「その通りなのさ!」

 

 これはあくまで情報の再確認。

 いわば様式美に近い。

 

「さぁて! 折角だから私から伝えさせてもらおう!」

 

 ノリがいいなオールマイト。

 好きだぞ、そういうの。

 

「ではっ! 『雄英高校ヒーロー科』の! 君の判定は──!?」

 

 ......判定は〜......?

 

 

 

 

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