よく澄んだ冷たい空気に吐息が白く染まる。
オールマイトの分厚い肩の上に移動した
......わざとらしい......
恐らく、だが。
意識して警戒しないように、そして警戒させないようにしているんだろう。
いや、
曰く付きの区にたった一人だけ住む奴。
ましてや
推測は勝手だし、詮索も好きにして良い。
聞かれれば答える。
──疑うなら気が済むまでどうぞ。
「──のっ! 前にっ! 君の総合成績について明かそう!」
エンターテイナーだな、オールマイト。
大きく広げた両腕。
落ちる気配も無い根津も、同じように大きく両腕を広げた。
「まずは
......ん、そんなに倒してたか......?
いや、外周部は機動力に劣る二ポイントや三ポイントが大半だった......
......記憶を辿って数えてみれば。
ふむ、倒してた。
「だけど勿論! それだけじゃないぜっ!」
座った体勢のまま、根津がピョコッと跳ねた。
興奮しているのか、テンションを上げているだけなのか。
ノリがいいな。
「そう! それだけじゃぁないっ! 我々は『雄英』!! そして受験生諸君は、ヒーローを志す者たちっ!!」
「ならばっ! 私たちはしっかりと見ているのさ!! もう一つの基礎能力をっ!!」
『ヒーロー』という職業に就くなら。
職業でも『ヒーロー』は
「我々『ヒーロー』は!! 命を賭して綺麗事実践するお仕事だ!!」
「
ただ力を振るうだけなんて、
力の使い途。
間違えちゃぁならねぇ。
俺の力。
その
誇れるように。
「あまりにも広い範囲を正確に把握し続けっ! そして会場内の受験生をサポートし続けた!!」
「受験生たちがパニックに陥らないように、集まるロボットを調整し続けていた!」
「ゼロポイントの被害を考慮し! 迅速かつ静かに対処して見せた!!」
「何よりも! 試験終了後にも気を抜かず、他の受験生たちの手当までもしてくれた!」
オールマイトと根津。
交互に言葉を並べ立てていく。
二人の興奮による熱が、冷えた空気を温めている。
「
「合計で百三十八ポイントなのさっ!!」
「筆記っ! 実技っ! ともに文句無しの首席合格だっ!! 少年!!」
そうか首席か。
思った程感慨は無いな......むしろ
「来いよ少年!!」
「
二人とも、強い熱意と共に手を差し出してみせた。
「「『ヒーローアカデミア』
一陣の風が吹き抜ける。
降り注ぐ一条の光が、笑顔の二人を照らし出した。
......あぁ。
......眩し過ぎるぜ......
\────\── 〈 ── 〉 ──/────/
山を降りて
そこで初めて道路に面するというのだから恐ろしい。
いわく、椎羅区に繋がる道は無いのだとか。
ん〜! NO WAY!
──おっと見えた。
車の傍に着地する。
「先生、着きましたよ」
私のスーツの内に隠れている校長先生に声をかけた。
移動の負荷に耐える為にも必要だったとはいえ、いたく申し訳ない......
もぞもぞと動いているのが分かる。
「──ふ〜......! ありがとう、オールマイト」
「いえいえ。むしろこのような方法しか思いつかず、申し訳ありません......」
「君はまったく......無理を言ったのは僕の方さ。提案した僕がいいと言っているんだから、大人しく受け取っておくれよ」
「むぅ......! 分かりました......」
私の肩に移動して伸びをしている先生に、神妙に頷いておく。
ガチャリ、と音が聞こえた。
目を向ければ、車の運転席から
ここまでの運転を担当してくれた彼女にも、本当に頭が下がる。
「お疲れ様です、校長先生。オールマイト」
「待たせてしまって悪かったね」
「いいえ、お気になさらず。欲を言えば私も行きたかったですけど」
「ははは! 素直なのはいい事なのさ!」
私の肩からするすると降りた先生。
レディースーツ姿の香山君の言葉に、先生は気を害した様子もなく笑っていらっしゃる。
車へ向かって歩き出した先生の後に、私も続く。
「すまないな香山君。私が連れていければ良かったんだが......」
「いえ、大丈夫ですよオールマイト。気になさらないでください」
「そうかい......?」
むぅ......私は人の機微には疎い方なんだ......
いまいち判断がつかないよ、香山君......
若干気落ちしつつ、後部座席のドアを開き、先生を車へ乗せた。
私も車へ──の前に。
全身から力を抜く。
全身から煙が吹き出して、身体が一気に軽く、けれど重くなった。
もうこの気怠さにも慣れてしまったな。
それから、車の中へ。
ドアは香山君が閉めてくれた。
「ありがとう、香山君」
「ふふっ、どういたしまして」
香山君が運転席に。
いや本当に。
色々とありがたい......
「えぇと、それで──」
車のエンジンがかかる。
香山君の目が、バックミラー越しに私たちを見た事に気付いた。
「......彼について。あの場所について......どうでしたか......?」
「む......」
「そうだねぇ......」
どこか言い淀む香山君。
横目に見てみれば、先生は言葉を選ぶように思索していらっしゃる。
私の感想も必要かな......?
車が動き出すのを感じながら、改めて思い出す。
冷たいが、よく澄んだ空気。
自然に囲まれた、広くとも静かな街。
過去にはそこそこ発展していたのだろう街並みだった。
また荒れた雰囲気は無いが、何度か見た事のあるゴーストタウンに近い様子だった。
......しかし、どうにも違和感がある。
「まずは、そうだね。私は椎羅という場所に赴いたのは初めてだが、良い場所だったよ。空気も綺麗で自然も多くて、私も住んでみたいと思った程さ」
先生も似たような考えでいらっしゃったか。
「街自体もそれなりに発展しているように見受けたね。都会からみれば田舎、田舎から見れば都会、といったところかな?」
「私も、そのような印象を受けました。しかし、どうにも違和感が......言葉にはできないのですが......」
「違和感......ですか?」
「ふむ」
香山君が疑問の声を上げた。
私と香山君の言葉に、先生は一度頷き、何かを考えているご様子。
すぐに顔が持ち上がって、私へ目を向けた。
「ではオールマイト、改めて思い返してごらん。君なら気付けるはずさ。思い出すべきはあの街の
「状態......ですか......」
うむぅ......しかし、静かな街だった。
人の居ない街、ゴーストタウンとしては見覚えがある。
荒れた雰囲気はまったく無い綺麗な街で......
──ん?
「おや、なにか気が付いたかい?」
「いえ、その......ゴーストタウンにしては、荒れた雰囲気は無かったな、と、思いまして。綺麗な街でした」
「そうだね。綺麗な街だった」
違和感の元は、恐らく
しかし何に引っ掛かっているのか......
......うぅむ、分からない。
「事前に軽く話をしたけれど、覚えているかい? あの街は曰く付きなのさ」
「確か......十年以上前にある事故が起こったと。それから人が減っていき、今では事実上放棄された区画、でしたよね......?」
ちょっと忘れかけていたが、思い出したからセーフ!
「細かい部分が抜けているよ、オールマイト」
「ぐふぅ......!」
あ......! アウトでしたか......! 不甲斐なくて申し訳ありません......!!
いやしかし先生の話は長くてですね......ごほんっ。
「椎羅区で事故が発生してから、たった三年で、全ての住人が外へ出たのさ。それからは、気勢の良い若者や
確かにそんな事が......あったような......なかったような......?
いやしかし、三年で一つの区画から人がいなくなるものだろうか......? アメリカならともかく、ここは日本だしな......
事故が原因とは言うが、全住民が避難する程なら、街はもっと荒れているはず......
──ん?
「しかし不思議な事に、椎羅区へ踏み入ろうとした若者は、口を揃えてこう言ったのさ。『入れなかった』、と。気が付けば、『椎羅近くの全然違う道にいた』、とね」
「ん〜! オカルトじゃないですか。そこまで範囲の広い『幻惑系』の『個性』......というにも、違和感がありますね」
「そうだね」
神妙に頷く先生の手がゆらゆらと、何かを描くように動く。
「その場合、『個性』を常時発動させている事になる。少し現実的ではないのさ。しかし問題はこれだけではなくてね」
OH......まだあるのですか......? 既に私は混乱寸前なのですが......
しかしまぁ、私の様子などおかまいなく、先生は口を開いた。
「問題は椎羅区に踏み入ったとされる
「ん......? 踏み入ったとされる......? それは一体どういう......」
「とある
OMG! そんな事があったのですか......!?
「では椎羅区とは、未確認の
「いいや、どうやらそうでは無いらしいのさ」
What‘s......? あぁいやそうか、それだとあの少年が住んでいる事の説明がつかない。
そもそも今から数年前の話でしたね......
大変な失礼を......はやとちり致しました......
「
『チームアップ』か。
どんなプロどうしが組んだのか......
地元の事として大規模にはなりずらいとしても、事務所三つは組むかな......?
「結果はどうだったのでしょうか」
「ふむ。結果だけで言えば......」
ふと、先生が一度息を吸った。
なんでしょう......少し怖いのですが。
「『異常ナシ』、だったそうだよ」
「異常、ナシ......? え、では『ヒーロー』たちは椎羅区に入れたのですか?」
「そう、その通り。どうやら若者たちのように、入れない、なんて事もなく。調査はつつがなく行われたらしいのさ」
それはなんとも......
「奇妙ですね......」
「奇妙と言うなら、この話もだろう。いわく、消息不明になった
「......なに一つ?」
「うん。なに一つね」
私も長い間『ヒーロー』やって来たが、流石にそんな事態には......
......うん、遭遇した記憶は無いね。
「『ヒーロー』側も警察と協力したそうだが、異常は何も無かったようだね。やがて
「......なんともまぁ、オカルトな話ですね」
「オカルト、というなら。もう一点疑問をあげよう」
私の事を、その柔らかな肉球でポンッと叩いて、先生はお言葉を続けられた。
「椎羅区の調査は、住民が居なくなった後の異常として、行われたものだよ」
「それは、まぁ......」
「分からないかい? その調査では異常ナシ、とされているんだ」
「ん〜......?」
椎羅区の調査が行われたのは、住民が居なくなった後。
調査結果は異常ナシ。
では、何もなかった、という異常が残るお話では......?
「その、いいですか......?」
「おや、香山くん。もちろんだよ。気になったらいつでも話してくれて構わないのさ」
運転中、どこか遠慮がちに声を上げた香山君が、バックミラーごしにチラリと私たちを見たのが分かった。
「彼は、椎羅区出身ですよね? 十年以上前に事故が発生して、三年が経って調査が行われた。仮に事故発生がちょうど十年前だとしても、彼は当時八歳です。
あの少年か......! 失念していた! なぜ気付かなかったんだ私は......!
「住民が居なくなった後に異常ナシ、というのは、確かにおかしいですね......! それでは彼がいなかった事になってしまう!」
「その通り」
十にも満たない幼い少年が住んでいる事が確定しているなら、異常ナシはそれこそNonsense!
「ちなみに、事故発生は今から十年以上前で、住民が全員いなくなった、とされるのが事故発生から三年だろう? そして『ヒーロー』と警察の合同調査が行われ、
つまり、事故発生から五年で人が寄り付かなくなった、という事ですか。
「
「なんと......! 行政が主導で区を放棄したのですか......!?」
「それだけ不気味だったのだろうさ。原因不明が過ぎる上に、区としても小さい。道の迂回もできる以上、放棄する方が安上がりだと判断したのだろうね」
事故発生から僅か七年で......!?
いやそれではあの少年は一体どうやって生きていたんだ......!?
少しばかり慌ててしまったが、仕舞っていた少年の資料を取り出した。
「オールマイト。彼の資料を確認するのは、少し待ってほしいのさ」
「え......? は、はぁ......分かりました」
取り出した資料を裏返して、膝の上に伏せておく。
「さて。椎羅区は、それから今に至るまで、変わらず誰も近寄らない場所なのさ。あの子以外には誰も住んでいない」
「それはそれで、なんと言ってよいか......」
思い出す。
目を離せば消えてしまいそうな程、儚い雰囲気を纏っていた少年。
力の抜けた、どこか眠そうな彼の目は、見ているこちらの方が眠気を誘われてしまった。
身長は百八十はあった。
体格も健康的だった。
となれば、ただ一人で生きていたのだろうか......
あの広く綺麗だが静かな街で。
たった一人で。
「......少し、話が長くなってしまったね」
先生が息を吐いた。
はて、長くなった、とは? 椎羅区の話ではなかったかと......
「ではオールマイト。あの街の違和感は、なんだと思う?」
──あ。
あー! そうだった! そんな話をしていましたね確か!
私の椎羅区に対する認識が足りていないとかで、その為に説明なさっていたと!
いや待ってください。
え、少し......?
え......?
「気付かないかい?」
「えっ、あぁいえ失敬! 少々お待ちを......!」
えぇと、違和感ですね!? えぇはい考えます!
道が無く、山々に囲まれた高原の街。
静かなゴーストタウンとなっているが、とても綺麗で荒れた様子は無く......
しかし事故が原因で住民が居なくなっており、若者たちが入れなかったり
......綺麗で荒れた様子が無い。
綺麗で、荒れた様子......?
「......荒れていない、綺麗な街......? 住民がいない......事故があって住民がいなくなった......」
むむ......いや、さすがにこれはおかしいな......
「気付いたようだね。その通りなのさ。荒れていない綺麗な街。なんともおかしな事だと思わないかい?」
「ええ......考えてみれば、確かに。このような異常、気付けば大きいですね」
「そう、そうなのさ。これはまったくもって大き過ぎる異常なのさ」
ポンッと私の身体を叩いた先生が、大きく頷いて見せる。
「住民全員が区を出る程の事故だったというのに、どこも荒れた気配は無かったのさ」
「ええ。十年近く放棄されたにしては、街の状態も良すぎます。ゴミが無い、植物による侵食が無い、というのは、彼が片付けたと見ても問題ないでしょう。実技試験の様子からして、できない事はないかと。しかし......」
思わず言い淀んだ私を見て、先生はまた大きく頷いた。
「あの子一人で荒れた街を修復できるのか......当然の疑問なのさ。違和感に戻るよ。では、事故とは一体なんだったのだろうか」
街に明確な被害は見当たらなかった。
だとすれば、『個性』事故? 私も前に、水質をお酢に変える『個性』に遭遇した事はあるが......
あれとて被害にはなりうる。
しかしそういった『個性』では、街を放棄する程にはならないはず......
「あの子以外の、全ての住民が椎羅区から出たのはなぜだろうね? 若者たちが椎羅区に立ち入れなかったのは?
では『幻惑系』か? いやしかし、だとすれば『個性』の持続時間と効果範囲がおかしい。
どれだけ強力な『個性』であろうと......それこそ『ブースト』に類する薬を使っても、二日と保たないだろう。
年単位なんて、どう考えても途中で死んでいる。
「......私には、単なる『個性』事故とも思えません。しかし、それ以外の可能性も思い付かず......」
「『個性』事故。確かにそれもあるのだろうさ。恐らくだけど、住民がいなくなったのはあの子の『個性』事故が原因。しかしそれ以外には、別の要因があるのだろうね」
という事は、椎羅区に入れない事、
「だとしても、だよ。椎羅区に住み続けているのは、あの子だけなのさ。最も疑わしく、最も怪しいのは間違いない」
「っ! しかし先生! 彼はそんな少年には......!」
「分かっているのさ。落ち着きなよ、オールマイト」
「し、失礼致しました......」
......やってしまった。
とはいえ、指摘されればその通り。
まさしく返す言葉も無い。
「なによりおかしいのは、あの子の『個性』が暴走したとして、街が綺麗な状態で残るのか、という点だよ。さぁ、資料を見てごらん」
先生に促されるまま、膝の上に伏せていた資料を手に取る。
改めて、その内容を確かめた。
『
『個性』は──
「──『変身』......」
『個性』によって生成した道具で変身できる。
また、変身に関連する道具......ウェポン、ガジェット、マシンといった物の生成も可能であり、それらを完全に制御し操作する事もできる。
これら生成したアイテムは他者に貸し与える事も可能だが、使用するにはなんらかの適性が必要であり、その大半は、実質的に自分専用。
更に、『個性』発現時に肉体の構造が変質している為、『発動型』、『変形型』、『異形型』の『複合型』である、と。
「......やはり強力な『個性』だ......しかし、この『個性』の暴走といっても......」
「そう、その通りなのさ。資料の情報から推測するなら、あの子の『個性』が暴走すれば、破壊が起こるだろうね。けれど、街に傷は無かった」
ここまで上がった問題に、彼の『個性』を当て嵌めようにも、あまりに不自然すぎる。
毛色が違うにも程があるだろう......
「また、これまで上げた問題とも整合性が取れないのさ」
「ええ、本当に」
「まったくもって手詰まりと言っていいね。あまりにも情報が少なすぎる。推測しようにも、関連性が見出せない」
先生でどうしようもないなら、私など及びもつきませんよ......
一つ大きな息を吐いた先生が、ポンッとその手を打ち鳴らした。
「総じて。あの椎羅区については、綺麗で静かな街ではあるが、どうにも不自然である、という事になるね」
「そうですね......いままでの異常性も、あの少年についても。どうしても違和感が拭えません......」
OH......Shit......! これではあの少年を疑っているも同然......っ!
未来ある少年が
「......オールマイト」
「っ!」
ポンッと、私の身体を叩く柔らかな感触。
俯いていた顔を先生に向ければ、先生は、優しげに微笑んでいらっしゃる。
「疑い、考えるのは僕の仕事さ。君は......君と香山君は、ただあの子を信じてあげてほしい」
「はいっ! もちろんです!」
「......ええ......! もちろんです、校長......!」
運転中ではあるが、香山君も決意の滲んだ力強い声だ。
そうだ。
私たちはただ、幼くも大きな可能性を、信じて正しい方向へ導くのみ。
『平和の象徴』として......! 必ず守り抜いてみせる......!
「うん。頼んだよ」
満足そうに頷いた先生が、ポンッポンッと手を叩いた。
「さて! それじゃあ彼について......
彼について......そういえば、そうでしたねぇ......
......えぇはい。
正直言いますと......忘れておりました......はい......
誠に......! 申し訳なく......!!
「オールマイト。君はどうだった? あの子を見て何を感じたかな」
「ぅえっ、えぇはい......! その......目を離せば、消えてしまいそうな程希薄でしたね。肉体は健康的で、私たちを街で出迎えてくれた事には驚きました」
いや、ホントに。
訪問する、と事前に伝えていたとはいえ、山を越えて街が見えた時、彼が街中に立っていたのは本当に驚いた。
それも私と目が合ったし。
もっと言うと、私の着地地点から不自然にならない位置取りでもあった。
う〜んこの......
「正直末恐ろしいですね......彼の『個性』が『変身』である以上、実技試験も、『個性』の副次効果だけであの結果だった、という事ですし」
「身体能力についても未知数。試験終了後、全てのカメラから消えた事も含めて、まだまだ底が見えていない。ふむ、実に頼もしいね!」
筆記試験の結果からしても、彼は知識もある。
「知識も充分。話していた限りですが、どうにも、先生に近しい思考能力もあるような気がして......」
「ふむ......僕と同じだけの演算能力があるかは、流石に分からないけれど。情報処理、展開性、柔軟性、速度と、実技試験から窺えるだけでも、近いかもしれないね」
なんと......! 先生がそこまでおっしゃるとは......!
先生の『個性』、『ハイスペック』は、人間以上の頭脳というモノ。
『演算系』の『個性』の中でも特に珍しく、かつ『演算系』として、そのポテンシャルをフルに発揮できる性質がある。
そんな先生をして、
「気付きたくない事に気付き、知りたくない事を知る。今日話した限りでは問題は無さそうだったけど......もしかしたら、周りの者たちと、まともに会話できなかった事もあるかもしれない」
そう、か......高い思考能力とは、そのような弊害もあるのですね......
「あの子が試験で見せたアイテム、その動きを覚えているかい?」
「会場全体に、数えきれない程広がっていたアレですか......」
「そう。あのアイテムの殆どは、様々な生物を模していた。金属質の身体で生物的な動きを見せ、その動きに不自然さは無かっただろう?」
確かに。
掌大のサイズ感もあいまって、愛嬌すらも感じた。
鳴き声も上げていたようだし、とても可愛らしいアイテムだった。
アレがおそらくガジェットなのだろう。
「もしあの子が、あのアイテムの一体一体を制御していたとしたら?」
「え......? アレを、ですか......?」
「ある程度の自律行動ができたとしても、あの手の『個性』は、生成する際のイメージは重要だ。試験の様子から、アイテムで得た情報は全て、あの子自身も受け取っているだろう」
ん......? それが一体どう繋がるのでしょうか......?
いえ、膨大な数のアイテムを緻密に制御するという離れ業......
ともすれば神技は、それこそ先生に匹敵する思考能力として違和感は無い。
アイテムからの情報を処理している、というのもまた、驚嘆はすれどもその通りかと......
生成のイメージ、その精密さも、確かに神技だと思います。
まず私はムリ。
「アイテムの動きや鳴き声も含めて分かる事......それは、あの子が高い観察眼と感受性を持っている、という事なのさ」
「それは......ええ。私は、あのアイテムの全てに命と意思が宿っている、と言われても信じてしまいますね」
「僕も同じだよ。生きている、と言われれば信じてしまう。では......それだけの観察眼と感受性を持つ子が、高い思考能力を持ち合わせている──」
それは......まさか──!
「あの子には......世界は、どんな風に見えているのだろうね? ......どんな事象に、どんな影響を受けるのだろうか......」
思考能力に由来する孤独感......だけではないと......!?
「ただ......」
先生が、大きく息を吐かれた。
見れば、どこか柔らかな笑顔を浮かべていらっしゃる。
「ただ、僕から見て、あの子は悪い子には見えなかった。とても優しくて理知的で、誰かを思いやる事のできる子だと思うよ」
ふと......実技試験において、彼が作り出したアイテムの動きを思い出した。
色々な生き物を模したそれらの中でも特に、動物をモチーフにしたのだろうアイテムが印象的だった。
怯えて竦む子を、時に励まし、時に叱咤していた動き。
鳴き声と動物らしい仕草だけで彼は......立ち止まった子に、俯いた子に、前を向かせた。
一歩を踏み出す......そんな勇気を、与えたように見えた。
私とは違う......私では、思いつきもしなかった在り方。
「私も......彼は、とても素晴らしい『ヒーロー』になると思います」
ふと見えたバックミラーに、嬉しそうに笑う香山君が映っていた。
......はて、まるで自分の事のように喜んでいるね......?
あぁ......! 香山君は、前々から
それはもう嬉しいだろう! 私にも分かるとも!
私も、『
想像するだけでも嬉しくなるからね!
「そうだね。あの子は、私たちが責任をもって導き、育て上げるのさ......!」
「はい!」
「ふふっ......! はいっ」
おー! と言わんばかりに腕を突き上げた先生に、私と香山君も大きく頷いた。
『平和の象徴』......その後継者を育てる為、だけではない。
次代の芽を、現『平和の象徴』として......! 守り! 育まねばっ!
「──とはいえ。あの子の不自然な点はまだあるのだけどね」
OH......
「せ、先生......? 今、とても綺麗に締まったところだったのですが......!」
「......校長先生? 綺麗に締めておきましょうよ、今のは」
「ふふふっ......! すまないね! ──だが意識はしておくべきだろう?」
んむぅ......! おっしゃる通りではあるのですが......! いやしかし納得が......!
ふと見てみれば、バックミラーごしの香山君の目も、心なしかジトっとしているような気が......!
「十年以上前。つまりは、どれだけ甘く見積もったとしても。五歳の子どもが一人、『個性』事故の後に封鎖された街で生きていた事になる」
先生の声に、わずかに冷たさが混ざり込んでいる。
......気がする。
「一般的な『個性』の発現時期と照合するなら、四歳を下回る時期かもしれない。香山くんや
その交流だって、彼が自発的に動かなければ、発生しなかった事になりますからね......
「......それでも、あの子が自分から椎羅区を出られるまで、一体どうやって生きていたのか。高い知性と感受性があって、本当に、孤独に耐えられるのだろうか......?」
彼の両親は一体どうしたのか。
......それは......酷く、単純な話。
しかし......!
親が子を、捨てるなんて......!
「......警戒とは別の意味で、気を付ける必要があるのさ」
もうありません。