ホントに合流と言っていいんでしょうか......
「──担任の
目の前で、教室の中に向かって淡々と告げている。
『
『抹消ヒーロー』、『イレイザー・ヘッド』。
長い黒髪に黒い眼、無精髭。
首元に巻いた特殊な布、『
腰元に複数設けられたポーチ、後ろ腰のナイフ。
『個性』は『抹消』。
発動して目視した相手の『個性因子』を不活性化させる。
瞬きで解除されるが、奇襲、不意打ち、多対多の集団戦などでは無類の強さを発揮する。
また、高い格闘技能をはじめとした戦闘術を修めている。
が、弱点もある。
『増強型』では無い為に、身体能力や機能に限度がある。
主に視覚能力の強化である為だ。
良く鍛えられており、身体制御にも優れているようだが......
「早速だが......
体操服を取り出して見せて。
その目が、俺へ向いた。
「お前も聞いてたな」
「......あぁ、分かった」
「なら早くしろ」
呆気に取られている教室内をスルーして、相澤消太は身を翻す。
後を追う。
途中、横目で教室内を見てみれば、思考停止した顔がいくつか。
......まぁ、仕方ないと言えば仕方ないか。
相澤消太に追いついた。
横に並ぶ。
「......初めまして。
横目に見てみれば、同じく横目に俺を見た相澤消太と目が合った。
少し充血しているな......重度──ギリギリ中度のドライアイか。
......まずは関係を築いてから、だな。
「そんな事、一々気にしねぇよ」
「......ありがとう。相澤消太、でいいか?」
「ああ。だが先生と呼べ」
「......分かった。よろしく頼む、相澤消太」
「......はぁ......よろしく」
溜息を吐きつつも受け入れてくれたようだ。
殆ど足音を立てない相澤消太と共に歩く。
無気力、気怠げだが、緩く警戒を続けている。
常に最低限気を張っているのか。
ヒーローとして立っている時は、常在戦場の気があると見ていいな。
......これは確かに、強く、厄介。
戦術的に、真っ先に狙われるな。
「......おい、着替えに行け」
「......ん、あぁ。着替えは一瞬で済む」
「『個性』か」
「......そうだ」
更衣室まで行く必要は無い。
『魔法』を発動する為の指輪、『ウィザードリング』。
その内の一つ、『ドレスアップウィザードリング』。
使用者の衣服を変化させ、任意の姿に変える効果を持つ。
......別に、ソレが無くても変えられるが。
「......相澤消太」
「なんだ」
「......ガジェットを出してもいいか......?」
「ガジェット......入試の時のか」
「......あぁ、そうだ」
淡々と歩く。
少し黙った相澤消太は、考えが纏まったのか、横目に俺を見た。
「......四体までだ。それから、目の届く範囲で動かせ」
「......分かった。ありがとう」
『ディスクアニマル』、『
『メモリガジェット』、『バットショット』。
それから......そうだな。
『ディスクアニマル』、『
瑠璃色の狼型。
『カンドロイド』、『トリケラカンドロイド』。
深緑色の、トリケラトプス型。
「九條お前、それ──ガジェットっつったか。最大いくつ出せる」
『茜鷹』と『バットショット』を飛ばせ、『瑠璃狼』と『トリケラカンドロイド』を手の上に。
その様子を見ていた相澤消太の前に、『茜鷹』を飛ばしてみた。
「......数か。種類によるが......無数に」
「......無数......? 入試の時はどうだ」
そもそも、『ディスクアニマル』と『カンドロイド』でさえ、数を用意して運用するタイプのガジェットだ。
「......一部だな。俺一人で模擬市街地を制圧するなら、もっと数を出していた」
「......その様子だと、数を出しても制御し切れるようだな......」
目の前を飛ぶ『茜鷹』を目で追って、人差し指を伸ばす相澤消太。
『茜鷹』で指先を突いて、『バットショット』で挨拶するように鳴き声を。
「......制御できない時は、動かないだけだ」
「限度は把握しておけ」
「......千は問題無い」
「......そうか......」
二体のガジェットを見ていた目が、俺に向けられた。
一周回った呆れと、驚異の色が大きい。
......まぁ、そんなに出す必要性は無いが。
こっちを見ている相澤消太に向かって、『瑠璃狼』が一鳴き。
『捕縛布』の上に飛び移る。
『トリケラカンドロイド』は、俺の手の上で相澤消太を向いて一鳴き。
「......」
「......気に入ってくれたようだな。良かった」
「......さっさと行くぞ」
歩く速度が少し上がった。
合わせながら、『茜鷹』で抗議するように鳴き声を上げる。
『バットショット』が『茜鷹』を宥めるように動き。
『瑠璃狼』が首を傾げながら鳴く。
俺の手の上で、『トリケラカンドロイド』も首を傾げた。
\────\── 〈 ◯ 〉 ──/────/
「......おい、そろそろ着替えろ」
異様に広いグラウンドに出てすぐ。
じゃれつくガジェットに反応しながら、相澤消太が俺を見た。
......ちなみに、『トリケラカンドロイド』は今、相澤消太の手の上にいる。
「......『個性』を使うぞ」
「ああ。早よ」
掌を模したバックルを腰元に出す。
右の薬指に指輪を。
右手をバックルに
〈ドレスアップ! プリ〜ズ!〉
魔法陣が浮かび、制服が『雄英』の青い体操服に変化する。
......これもまたコスプレだな。
少し上がる。
「......そいつが『個性』か?」
「......いや、あくまで基礎能力の一つだ。『変身』は別にある」
「そうか......」
「......本来の『変身』を考えれば。これもまた、ガジェットのような派生能力と言える」
「つまりまだあるのか。情報量が多い」
「......そうだな。俺の『個性』だけで図鑑は作れる」
「......」
溜息も出ない、呆れと驚愕が混ざった目だ。
......俺が『個性』の全てを把握している、とでも認識したか......?
......いや、正確には、
「......図鑑というか、辞典......?」
「......」
俺の呟きから目を逸らした相澤消太は、ガジェットの相手に戻った。
......思考を投げたな、今。
いや、まぁ......理解も納得もできるが......
余程ガジェットを気に入ってくれたようだ。
バックルと指輪を消す。
「......そういえば、お前が制御してるんだよな」
「......あぁ。気に入ったなら、他にも出すが」
「いや、それはいい」
「......動物のようなモノもあるぞ」
正確にはガジェットでは無いが。
相澤消太の目が俺を向いた。
「......いや、いい」
......悩んだな、今。
......猫は変身形態くらいしかないから、断ってくれて良かったかもしれない......
兎は、『
......女性陣が気に入っていた。
「......覚える必要は無いが、教えておく」
『茜鷹』と『瑠璃狼』が、相澤消太の傍で鳴き声を上げる。
「......そいつらは、『ディスクアニマル』。『茜鷹』と『瑠璃狼』だ」
相澤消太の目が二体を確認。
一拍置いて、『バットショット』が一鳴き。
「......そいつは『メモリガジェット』。『バットショット』という」
クルリと一回転した『バットショット』に目が向いた。
『トリケラカンドロイド』が前足を持ち上げて鳴く。
「......そいつは『カンドロイド』。『トリケラカンドロイド』だ」
俺の出すガジェットは、基本的に戦闘補助を行う事ができる。
......俺の影響で、『
並の犯罪者──『ヴィラン』なら、ガジェット三体で安定した制圧ができる。
恐らく、数を出せば『原典』の敵の大半は撃破できる。
......俺が、『変身』しない理由の一つだ。
最大の理由は、俺なりの『戦う理由』と『覚悟』。
──おっと。
......思考が逸れた。
「一応、ある程度の性能を把握しておきたい。基本的な性能でいいから、後日纏めて持ってきてくれ」
雰囲気に隠れているが、真剣な気配が宿っている。
警戒という面でも、教師という面でも、戦力という面でも。
把握する必要性は高い。
「......何か、情報媒体はあるか? スマホでもいい」
「ん......あるが、何をする気だ」
相澤消太がポーチからスマホを取り出した。
これから使う用のモノか。
「......借りてもいいか?」
「......ああ」
黒いスマホを受け取り、少し
ロックを解除して、テキストデータを作成し移行。
ローカルに保存して、名前を付けて。
......テキストデータだと調整の必要が無い。
楽と言えば楽だな......
スマホをスリープにして、干渉をやめた。
相澤消太に返す。
「......俺の出せるガジェットについて、基本的な情報を纏めておいた。後で確認して、教員側で共有しておけ」
「......は?」
相澤消太の呼吸が変わった。
「......あくまで基本の情報だ。そこは注意しろ」
「いや待て、おい」
スマホを受け取りながら、冷めた声を刺してくる。
あからさまな警戒を滲ませて睨みつけてくる黒い眼を、静かに見返した。
「......詳細は省くが、俺はデータに直接干渉できる」
「......それは、どこまでだ」
「......ネットワークが続くなら、どこまでも。同質かつ同等の力でのみ、俺を妨害できる」
一応、俺は
......一部の『変身』に必要だからだろう。
俺の身体は、『人間』を始めとした複数の因子で複雑に構成されている。
......『個性』発現時に、
「......!」
「......制御はできている。できなければ、『俺』というデータが崩壊し、消失するだけだ」
何かを噛み締める相澤消太が、その眼を細める。
髪がザワリと揺らぎ、黒い眼に赤い光が走った。
「......そうそう使わない力だ。今の作業を失敗しても、貧血になる程度で済む。過度に心配してくれるな」
「......」
「......ありがとう、相澤消太」
......情が深く、優しい人だ。
纏う雰囲気で隠されているが、酷く暖かい心を持っている。
軽く話しただけだが、合理主義者で
それでも。
相澤消太が、どうして『ヒーロー』という職を続けているのか。
......良く分かった。
特殊な呼吸だ。
吸気が長く、呼気が短い。
全体的に細く、静かだ。
コレがヒーローとしての戦闘体勢なんだろう。
それ程の感情の揺れ。
様々な感情が入り乱れた末の。
ジッと俺を見据える眼を見て、笑って見せる。
四体のガジェットを、感謝を示すように動かした。
「......」
眼が揺れる。
呼吸が変わる。
髪の揺れが収まり。
相澤消太は目を閉じて、深く息を吐いた。
「......一応、分かった。自分で、把握できているようだしな......」
繕っているが、声が微かに揺れている。
本当に優しい。
......あるいは、
四体のガジェットで励ますように。
鳴き声を上げながらクルクルと動くガジェットを見て。
相澤消太は、また一つ溜息を吐いた。
「......もしかして、お前がガジェットを出すのも......
「......理由の一つだ。ガジェットを増やせば、処理するべき情報は増える。だが、『俺』というデータの重さと密度も増す」
そもそも、『俺』というデータの情報密度は並の存在じゃ比較にならない。
並大抵のデータへの直接干渉を失敗した程度じゃ、貧血以上になりはしない。
その状態で、ガジェットがあれば更に増す。
ただそれだけで。
理由としても小さく収まる。
「......とはいえ。ガジェットを出していないと落ち着かない、という理由の方が大きい。四体も許可してくれるなら充分だ」
「......そうか......」
相澤消太の声と視線が少し落ちる。
四体のガジェットで声を上げてじゃれつく。
......『捕縛布』と髪で見えずらい口元に、小さくて不器用な笑みが浮かんだ。
「......相澤消太」
「ん、どうした」
反応した声は芯が通っていて、眼に揺らぎも無い。
......大丈夫そうだな。
「......そろそろ、クラスの者たちが見える。切り替えろ」
「そうか。分かった」
相澤消太は小さく呼吸を繰り返す。
意識してやっているモノだ。
三、四と繰り返す内に、雰囲気が教室前での状態に変わった。
「......」
「......」
一応、距離を取ろうと足を動かしたら、眼を向けてきた。
......静かな眼だが、暖かさが隠れている。
距離感が近いと思ったんだが......相澤消太が気にしないのなら、動く必要も無いか。
俺と相澤消太の周りを『茜鷹』が一周する。
二人の間で『バットショット』がクルリと回り。
『瑠璃狼』と『トリケラカンドロイド』が嬉しそうに振る舞い、鳴き声を上げる。
つい、と、相澤消太の視線が外れた。
俺もまた、校舎の方へ眼を向ける。
体操服に着替えた一年A組の者たちが見えた。
俺たちに気付いて、駆け寄ってくる。
色々と、情報の処理が追いついていないんだろう。
困惑の大きい顔だ。
......まぁ。
色々とこれからだ。
......俺も楽しませてもらう。
\────\── 〈 ◯ 〉 ──/────/
「「「「「「『個性』把握テストォ!?」」」」」」
全員が集まって声を揃えた。
......いや、全員ではないが、初日なのに息ピッタリだな。
俺と相澤消太が隣り合って立ち、集まっているクラスの者たちとは少し距離がある。
......俺の立ち位置、これでいいのか......?
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「『ヒーロー』になるなら、そんな悠長な行事──出る時間無いよ」
「......っ」
茶色のショートボブで赤い頬の少女に、冷めた答えを返す相澤消太。
動揺の身動きが、グラウンドの砂で音を立てる。
......今、ガジェットは俺と相澤消太の周りで大人しくしている。
ソレもまた、雰囲気を異様にしているんだろう。
「『雄英』は『自由』な校風が売り文句......そしてそれは先生側もまた然り」
相澤消太の語り口に動揺が絶えず、不安を募らせ緊張を示す者が多い。
「お前たちも中学の頃からやってるだろ? 『個性』使用禁止の体力テスト」
クラスの者たちは静かだ。
相澤消太が出したスマホの画面を見せる。
よくある体力テストの『項目』が八種。
「国は、いまだ画一的な記録を採って平均を作り続けている。合理的じゃない......まぁ文部科学省の、怠慢だな」
事実その通り......と、言うよりも。
政府の体制と民衆の認識、倫理、思想と実際の行動。
......問題点は、より大きい。
......例えば、『I・アイランド』であれば、『個性』の使用は自由だ。
アメリカであれば、『ヒーロー』に『
......それぞれの理由、背景。
そこに意識が向かず、狭まった視野と浅いまま止めた思考で忌避するから、今も社会は停滞している。
「......」
一瞬、相澤消太の視線が俺に向く。
細めた眼を合わせて、すぐに逸らす。
それだけで意図は伝わったようだ。
相澤消太は薄い金髪の少年に眼を向けた。
「......あー、
「......?」
「お前中学の時、ソフトボール投げ、何メートルだった?」
「六十七メートル」
『
強いて言うなら、最初から俺に対して少し意識が向いているが。
......少し意外だが、俺と相澤消太のやりとりを違和感に思っていないようだ。
......いや、俺が相澤消太の近くに立っている、という状態がノイズになっているのか。
狙ってなかったが......まぁいいか。
「──じゃ、『個性』を使ってやってみろ」
ボール投げ用の測定器を渡された爆豪が、シンとした状態で移動する。
「円から出なきゃ何してもいい。早よ、思いっきりな」
ボール投げ用の白線、円の内で。
爆轟は、軽く身体を解す。
「......んじゃまぁ──」
過度な緊張は無い。
構え、大きく振りかぶった。
「──死ねえ!!」
勢いの良い投擲、気勢のある声。
そして、爆破と爆発音。
その三つは、ほぼ同時だった。
......凄まじい。
積み重ねた経験というより、生来のセンス。
研鑽を積んだ肉体と、センスによる繊細な『個性』制御。
その結果が──
「......まず自分の『最大限』を知る。それが『ヒーロー』の素地を形成する合理的手段」
測定の終了を伝える通知音。
相澤消太がクラスの者たちへ見せたスマホ、その画面。
──七百五点二メートル。
視線が、スマホの画面に集中する。
......静かに、『茜鷹』をボールの回収に向かわせた。
「「「「「「うおおぉお!?」」」」」」
驚愕の声。
不安が解け、昂揚している。
「七百五メートルってマジかよ......」
「何コレ! 面白そうっ!」
「『個性』思いっ切り使えんだ! さすがヒーロー科ぁ!」
三人。
だが、それ以外にも興奮している者はいる。
......同時に、緊張が続く者、増した者も。
「......面白そう、か......」
冷えた声が、必要以上の興奮に対する水となる。
「『ヒーロー』になる為の三年間、そんな腹積りで過ごす気でいるのかい?」
相澤消太の纏う気配に、再び不安の芽が出た。
良い事を思いついた、とばかりに。
相澤消太の口元が大きく歪む。
「──よし......! 八種目トータル成績最下位の者は、見込みナシと判断し──除籍処分としよう......!」
「「「「「「はああああ!?」」」」」」
動揺と驚愕。
もしくは戦慄か......
逆に燃える者、自信故か揺らがない者もいる。
戻ってきた『茜鷹』からボールを受け取り、指先で頭を撫でた。
「生徒の
前髪を掻き上げて抑え、笑顔という挑発を見せる。
相澤消太の挑発に、各々が言葉無く反応する。
......熱が上がっている。
「......っ──最下位除籍って......! 入学初日ですよ!? いやっ! 初日じゃなくても理不尽すぎる!」
茶色のショートボブの少女。
不安、恐怖、緊張と、ここに至るまであまり晴れた顔をしない。
胸元で固く握りしめた両手が、分かりやすく示している。
が、それはそれ。
......理不尽、という言葉に。
抗議に。
思うところがないでもない。
相澤消太の傍で静かに飛ぶ『バットショット』が、とても小さく鳴き。
『瑠璃狼』が身震いし。
『トリケラカンドロイド』が頭を振る。
俺の傍で飛ぶ『茜鷹』も、とても小さく、短く、一鳴き。
相澤消太が、横目に俺を見た。
......が、反応は返さない。
「......──自然災害、大事故......そして身勝手な『
淡々と語る声には、確かな重さがある。
クラスの者たちも、身を引いて聞くのみ。
「そういう
冷たさと圧。
無気力、気怠げな様子からは差がありすぎる程に。
だからこそ、ただ静かに受け止める他無い。
「これから三年間、『雄英』は全力で君たちに苦難を与え続ける。更に向こうへ──『
笑い、差し出した人差し指を曲げる。
クイクイ、と。
挑発に似せた激励。
相澤消太なりの、『ヒーロー』としての教示。
「全力で乗り越えて来い」
発破としては、少し重いか......?
だが、クラスの者たちは、各々思うところがあるらしい。
一拍、二拍、と置いて。
気が引き締まり、全体として適度な緊張に落ち着いた。
最初から妙な柔らかさと緩さを見せるよりは、余程効果的だろう。
「──さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」
相澤消太の言葉に合わせて、四体のガジェットを動かす。
短く、力強く、気合を入れるような鳴き声を上げて。
チラリと俺を見た相澤消太に、ボールを放った。
「......んじゃ、五十メートル走からだ。行くぞ」
無造作にボールを受け取って先導する。
ガジェットの鳴き声が響く。
『茜鷹』と『バットショット』が相澤消太の前に出て。
隣に並んだ俺の肩に、『瑠璃狼』が飛び移った。
「......お前も、全力でやれよ」
「......本気でやる。だが、『変身』はしない」
「......」
大半には聞こえないだろう小さな声。
横目に睨んでくる相澤消太に眼を向ける。
「......俺の『変身』は、形態が複数ある。それぞれスペックが違う。記録を採るなら、素体のままの方がいい」
「お前......厄介な『個性』だな......」
「......形態は、百を超えるぞ」
「......」
『変身』ごとに能力も違う。
体力テストでは、なんの判断基準にもならない。
......分体を出せば、同時に複数の記録も採れるが......まぁ、意味は無い。
溜息を噛み殺して、一瞬眉間に皺を寄せて。
俺から視線を外した相澤消太は、『トリケラカンドロイド』を指先で突いた。
......本気でやる、と言った以上、大人気なくても加減はしない。
「......それと」
「......」
俺を見ていないが、聞いているのは分かる。
......若干、呆れの気配が滲んでいるが。
「......俺は、俺の『戦う理由』に従って『変身』する」
「......っ」
言っている内に、言葉に圧が乗ったか。
相澤消太が、息を呑んだ。
「......俺の『覚悟』、そのもの。見せびらかし、誇示するようなモノじゃねぇ。俺が『力』を振るうのは、『守る』時だけだ」
ガジェットを出す事。
ウェポンを出す事。
マシンを出す事。
どれもまだいい。
──だが。
『戦う』為に『変身』するのは。
俺の『理由』と、『覚悟』を示す時だ。
「......すまない。少し昂った」
「......いや......いい。気にするな」
相澤消太以外には、耳の良い者だけが違和感を抱いた程度に収まった。
......気配の制御、上手くいったようだ。
......まぁ、いい。
「......テストは本気でやる」
「......分かった」
雰囲気と、相澤消太が隠している緊張を和らげる為に、ガジェットを動かす。
......全てじゃないが、本音の吐露だ。
少しは、俺を信じてもらえるようになればいいが......
──ともかく。
体力テストだ。
五十メートル走から、順にこなしていこう。