もうガジェットとマシンだけでいいんじゃない?   作:黒月悠生

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 ホントに合流と言っていいんでしょうか......



No.4 A組合流

「──担任の相澤(あいざわ)消太(しょうた)だ。よろしくね」

 

 目の前で、教室の中に向かって淡々と告げている。

 

 『相澤(あいざわ)消太(しょうた)』。

 『抹消ヒーロー』、『イレイザー・ヘッド』。

 

 長い黒髪に黒い眼、無精髭。

 首元に巻いた特殊な布、『捕縛布(ほばくふ)』に黒ずくめ。

 腰元に複数設けられたポーチ、後ろ腰のナイフ。

 

 『個性』は『抹消』。

 発動して目視した相手の『個性因子』を不活性化させる。

 瞬きで解除されるが、奇襲、不意打ち、多対多の集団戦などでは無類の強さを発揮する。

 

 また、高い格闘技能をはじめとした戦闘術を修めている。

 が、弱点もある。

 

 『増強型』では無い為に、身体能力や機能に限度がある。

 主に視覚能力の強化である為だ。

 

 良く鍛えられており、身体制御にも優れているようだが......

 

「早速だが......体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 体操服を取り出して見せて。

 

 その目が、俺へ向いた。

 

「お前も聞いてたな」

「......あぁ、分かった」

「なら早くしろ」

 

 呆気に取られている教室内をスルーして、相澤消太は身を翻す。

 

 後を追う。

 

 途中、横目で教室内を見てみれば、思考停止した顔がいくつか。

 ......まぁ、仕方ないと言えば仕方ないか。

 

 相澤消太に追いついた。

 横に並ぶ。

 

「......初めまして。九條(くじょう)とがねだ。口が悪く作法に疎い。不快であれば喋らない」

 

 横目に見てみれば、同じく横目に俺を見た相澤消太と目が合った。

 

 少し充血しているな......重度──ギリギリ中度のドライアイか。

 ......まずは関係を築いてから、だな。

 

「そんな事、一々気にしねぇよ」

「......ありがとう。相澤消太、でいいか?」

「ああ。だが先生と呼べ」

「......分かった。よろしく頼む、相澤消太」

「......はぁ......よろしく」

 

 溜息を吐きつつも受け入れてくれたようだ。

 

 殆ど足音を立てない相澤消太と共に歩く。

 

 無気力、気怠げだが、緩く警戒を続けている。

 常に最低限気を張っているのか。

 

 ヒーローとして立っている時は、常在戦場の気があると見ていいな。

 ......これは確かに、強く、厄介。

 

 戦術的に、真っ先に狙われるな。

 

「......おい、着替えに行け」

「......ん、あぁ。着替えは一瞬で済む」

「『個性』か」

「......そうだ」

 

 更衣室まで行く必要は無い。

 

 『魔法』を発動する為の指輪、『ウィザードリング』。

 その内の一つ、『ドレスアップウィザードリング』。

 

 使用者の衣服を変化させ、任意の姿に変える効果を持つ。

 

 ......別に、ソレが無くても変えられるが。

 

「......相澤消太」

「なんだ」

「......ガジェットを出してもいいか......?」

「ガジェット......入試の時のか」

「......あぁ、そうだ」

 

 淡々と歩く。

 

 少し黙った相澤消太は、考えが纏まったのか、横目に俺を見た。

 

「......四体までだ。それから、目の届く範囲で動かせ」

「......分かった。ありがとう」

 

 『ディスクアニマル』、『茜鷹(あかねたか)』。

 『メモリガジェット』、『バットショット』。

 

 それから......そうだな。

 

 『ディスクアニマル』、『瑠璃狼(るりおおかみ)』。

 瑠璃色の狼型。

 

 『カンドロイド』、『トリケラカンドロイド』。

 深緑色の、トリケラトプス型。

 

「九條お前、それ──ガジェットっつったか。最大いくつ出せる」

 

 『茜鷹』と『バットショット』を飛ばせ、『瑠璃狼』と『トリケラカンドロイド』を手の上に。

 

 その様子を見ていた相澤消太の前に、『茜鷹』を飛ばしてみた。

 

「......数か。種類によるが......無数に」

「......無数......? 入試の時はどうだ」

 

 そもそも、『ディスクアニマル』と『カンドロイド』でさえ、数を用意して運用するタイプのガジェットだ。

 

「......一部だな。俺一人で模擬市街地を制圧するなら、もっと数を出していた」

「......その様子だと、数を出しても制御し切れるようだな......」

 

 目の前を飛ぶ『茜鷹』を目で追って、人差し指を伸ばす相澤消太。

 

 『茜鷹』で指先を突いて、『バットショット』で挨拶するように鳴き声を。

 

「......制御できない時は、動かないだけだ」

「限度は把握しておけ」

「......千は問題無い」

「......そうか......」

 

 二体のガジェットを見ていた目が、俺に向けられた。

 一周回った呆れと、驚異の色が大きい。

 

 ......まぁ、そんなに出す必要性は無いが。

 

 こっちを見ている相澤消太に向かって、『瑠璃狼』が一鳴き。

 『捕縛布』の上に飛び移る。

 

 『トリケラカンドロイド』は、俺の手の上で相澤消太を向いて一鳴き。

 

「......」

「......気に入ってくれたようだな。良かった」

「......さっさと行くぞ」

 

 歩く速度が少し上がった。

 

 合わせながら、『茜鷹』で抗議するように鳴き声を上げる。

 『バットショット』が『茜鷹』を宥めるように動き。

 

 『瑠璃狼』が首を傾げながら鳴く。

 

 俺の手の上で、『トリケラカンドロイド』も首を傾げた。

 

 

 

 

    \────\── 〈 ◯ 〉 ──/────/    

 

 

 

 

「......おい、そろそろ着替えろ」

 

 異様に広いグラウンドに出てすぐ。

 

 じゃれつくガジェットに反応しながら、相澤消太が俺を見た。

 

 ......ちなみに、『トリケラカンドロイド』は今、相澤消太の手の上にいる。

 

「......『個性』を使うぞ」

「ああ。早よ」

 

 掌を模したバックルを腰元に出す。

 右の薬指に指輪を。

 

 右手をバックルに(かざ)した。

 

〈ドレスアップ! プリ〜ズ!〉

 

 魔法陣が浮かび、制服が『雄英』の青い体操服に変化する。

 

 ......これもまたコスプレだな。

 少し上がる。

 

「......そいつが『個性』か?」

「......いや、あくまで基礎能力の一つだ。『変身』は別にある」

「そうか......」

「......本来の『変身』を考えれば。これもまた、ガジェットのような派生能力と言える」

「つまりまだあるのか。情報量が多い」

「......そうだな。俺の『個性』だけで図鑑は作れる」

「......」

 

 溜息も出ない、呆れと驚愕が混ざった目だ。

 ......俺が『個性』の全てを把握している、とでも認識したか......?

 

 ......いや、正確には、もう(・・)『個性』じゃないんだが......

 

「......図鑑というか、辞典......?」

「......」

 

 俺の呟きから目を逸らした相澤消太は、ガジェットの相手に戻った。

 

 ......思考を投げたな、今。

 いや、まぁ......理解も納得もできるが......

 

 余程ガジェットを気に入ってくれたようだ。

 

 バックルと指輪を消す。

 

「......そういえば、お前が制御してるんだよな」

「......あぁ。気に入ったなら、他にも出すが」

「いや、それはいい」

「......動物のようなモノもあるぞ」

 

 正確にはガジェットでは無いが。

 

 相澤消太の目が俺を向いた。

 

「......いや、いい」

 

 ......悩んだな、今。

 ......猫は変身形態くらいしかないから、断ってくれて良かったかもしれない......

 

 兎は、『兎山(うさぎやま)ルミ』が喜んだが。

 アレ(・・)はぬいぐるみのような可愛らしさがあるからな......

 ......女性陣が気に入っていた。

 

「......覚える必要は無いが、教えておく」

 

 『茜鷹』と『瑠璃狼』が、相澤消太の傍で鳴き声を上げる。

 

「......そいつらは、『ディスクアニマル』。『茜鷹』と『瑠璃狼』だ」

 

 相澤消太の目が二体を確認。

 

 一拍置いて、『バットショット』が一鳴き。

 

「......そいつは『メモリガジェット』。『バットショット』という」

 

 クルリと一回転した『バットショット』に目が向いた。

 

 『トリケラカンドロイド』が前足を持ち上げて鳴く。

 

「......そいつは『カンドロイド』。『トリケラカンドロイド』だ」

 

 俺の出すガジェットは、基本的に戦闘補助を行う事ができる。

 ......俺の影響で、『原典(・・)』よりも性能が大幅に向上している。

 

 並の犯罪者──『ヴィラン』なら、ガジェット三体で安定した制圧ができる。

 恐らく、数を出せば『原典』の敵の大半は撃破できる。

 

 ......俺が、『変身』しない理由の一つだ。

 

 最大の理由は、俺なりの『戦う理由』と『覚悟』。

 

 ──おっと。

 ......思考が逸れた。

 

「一応、ある程度の性能を把握しておきたい。基本的な性能でいいから、後日纏めて持ってきてくれ」

 

 雰囲気に隠れているが、真剣な気配が宿っている。

 

 警戒という面でも、教師という面でも、戦力という面でも。

 把握する必要性は高い。

 

「......何か、情報媒体はあるか? スマホでもいい」

「ん......あるが、何をする気だ」

 

 相澤消太がポーチからスマホを取り出した。

 

 これから使う用のモノか。

 

「......借りてもいいか?」

「......ああ」

 

 黒いスマホを受け取り、少し干渉(・・)

 

 ロックを解除して、テキストデータを作成し移行。

 ローカルに保存して、名前を付けて。

 

 ......テキストデータだと調整の必要が無い。

 楽と言えば楽だな......

 

 スマホをスリープにして、干渉をやめた。

 

 相澤消太に返す。

 

「......俺の出せるガジェットについて、基本的な情報を纏めておいた。後で確認して、教員側で共有しておけ」

「......は?」

 

 相澤消太の呼吸が変わった。

 

「......あくまで基本の情報だ。そこは注意しろ」

「いや待て、おい」

 

 スマホを受け取りながら、冷めた声を刺してくる。

 

 あからさまな警戒を滲ませて睨みつけてくる黒い眼を、静かに見返した。

 

「......詳細は省くが、俺はデータに直接干渉できる」

「......それは、どこまでだ」

「......ネットワークが続くなら、どこまでも。同質かつ同等の力でのみ、俺を妨害できる」

 

 一応、俺は情報(データ)生命体でも(・・)ある。

 ......一部の『変身』に必要だからだろう。

 俺の身体は、『人間』を始めとした複数の因子で複雑に構成されている。

 

 ......『個性』発現時に、そう(・・)なった。

 

「......!」

「......制御はできている。できなければ、『俺』というデータが崩壊し、消失するだけだ」

 

 何かを噛み締める相澤消太が、その眼を細める。

 髪がザワリと揺らぎ、黒い眼に赤い光が走った。

 

「......そうそう使わない力だ。今の作業を失敗しても、貧血になる程度で済む。過度に心配してくれるな」

「......」

「......ありがとう、相澤消太」

 

 ......情が深く、優しい人だ。

 纏う雰囲気で隠されているが、酷く暖かい心を持っている。

 

 軽く話しただけだが、合理主義者で現実主義者(リアリスト)である事も分かる。

 

 それでも。

 

 相澤消太が、どうして『ヒーロー』という職を続けているのか。

 

 ......良く分かった。

 

 特殊な呼吸だ。

 吸気が長く、呼気が短い。

 全体的に細く、静かだ。

 

 コレがヒーローとしての戦闘体勢なんだろう。

 

 それ程の感情の揺れ。

 様々な感情が入り乱れた末の。

 

 ジッと俺を見据える眼を見て、笑って見せる。

 

 四体のガジェットを、感謝を示すように動かした。

 

「......」

 

 眼が揺れる。

 

 呼吸が変わる。

 

 髪の揺れが収まり。

 

 相澤消太は目を閉じて、深く息を吐いた。

 

「......一応、分かった。自分で、把握できているようだしな......」

 

 繕っているが、声が微かに揺れている。

 

 本当に優しい。

 ......あるいは、甘い(・・)

 

 四体のガジェットで励ますように。

 

 鳴き声を上げながらクルクルと動くガジェットを見て。

 相澤消太は、また一つ溜息を吐いた。

 

「......もしかして、お前がガジェットを出すのも......ソレ(・・)が理由か......?」

「......理由の一つだ。ガジェットを増やせば、処理するべき情報は増える。だが、『俺』というデータの重さと密度も増す」

 

 そもそも、『俺』というデータの情報密度は並の存在じゃ比較にならない。

 並大抵のデータへの直接干渉を失敗した程度じゃ、貧血以上になりはしない。

 

 その状態で、ガジェットがあれば更に増す。

 

 ただそれだけで。

 理由としても小さく収まる。

 

「......とはいえ。ガジェットを出していないと落ち着かない、という理由の方が大きい。四体も許可してくれるなら充分だ」

「......そうか......」

 

 相澤消太の声と視線が少し落ちる。

 

 四体のガジェットで声を上げてじゃれつく。

 

 ......『捕縛布』と髪で見えずらい口元に、小さくて不器用な笑みが浮かんだ。

 

「......相澤消太」

「ん、どうした」

 

 反応した声は芯が通っていて、眼に揺らぎも無い。

 

 ......大丈夫そうだな。

 

「......そろそろ、クラスの者たちが見える。切り替えろ」

「そうか。分かった」

 

 相澤消太は小さく呼吸を繰り返す。

 意識してやっているモノだ。

 

 三、四と繰り返す内に、雰囲気が教室前での状態に変わった。

 

「......」

「......」

 

 一応、距離を取ろうと足を動かしたら、眼を向けてきた。

 

 ......静かな眼だが、暖かさが隠れている。

 

 距離感が近いと思ったんだが......相澤消太が気にしないのなら、動く必要も無いか。

 

 俺と相澤消太の周りを『茜鷹』が一周する。

 二人の間で『バットショット』がクルリと回り。

 『瑠璃狼』と『トリケラカンドロイド』が嬉しそうに振る舞い、鳴き声を上げる。

 

 つい、と、相澤消太の視線が外れた。

 

 俺もまた、校舎の方へ眼を向ける。

 

 体操服に着替えた一年A組の者たちが見えた。

 俺たちに気付いて、駆け寄ってくる。

 

 色々と、情報の処理が追いついていないんだろう。

 困惑の大きい顔だ。

 

 ......まぁ。

 色々とこれからだ。

 

 ......俺も楽しませてもらう。

 

 

 

 

    \────\── 〈 ◯ 〉 ──/────/    

 

 

 

 

「「「「「「『個性』把握テストォ!?」」」」」」

 

 全員が集まって声を揃えた。

 ......いや、全員ではないが、初日なのに息ピッタリだな。

 

 俺と相澤消太が隣り合って立ち、集まっているクラスの者たちとは少し距離がある。

 ......俺の立ち位置、これでいいのか......?

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

「『ヒーロー』になるなら、そんな悠長な行事──出る時間無いよ」

「......っ」

 

 茶色のショートボブで赤い頬の少女に、冷めた答えを返す相澤消太。

 

 動揺の身動きが、グラウンドの砂で音を立てる。

 ......今、ガジェットは俺と相澤消太の周りで大人しくしている。

 

 ソレもまた、雰囲気を異様にしているんだろう。

 

「『雄英』は『自由』な校風が売り文句......そしてそれは先生側もまた然り」

 

 相澤消太の語り口に動揺が絶えず、不安を募らせ緊張を示す者が多い。

 

「お前たちも中学の頃からやってるだろ? 『個性』使用禁止の体力テスト」

 

 クラスの者たちは静かだ。

 

 相澤消太が出したスマホの画面を見せる。

 よくある体力テストの『項目』が八種。

 

「国は、いまだ画一的な記録を採って平均を作り続けている。合理的じゃない......まぁ文部科学省の、怠慢だな」

 

 事実その通り......と、言うよりも。

 

 政府の体制と民衆の認識、倫理、思想と実際の行動。

 ......問題点は、より大きい。

 

 ......例えば、『I・アイランド』であれば、『個性』の使用は自由だ。

 アメリカであれば、『ヒーロー』に『(ヴィラン)』制圧時の『殺生権』が付与されている。

 

 ......それぞれの理由、背景。

 

 そこに意識が向かず、狭まった視野と浅いまま止めた思考で忌避するから、今も社会は停滞している。

 

「......」

 

 一瞬、相澤消太の視線が俺に向く。

 

 細めた眼を合わせて、すぐに逸らす。

 

 それだけで意図は伝わったようだ。

 相澤消太は薄い金髪の少年に眼を向けた。

 

「......あー、爆豪(ばくごう)

「......?」

「お前中学の時、ソフトボール投げ、何メートルだった?」

「六十七メートル」

 

 『爆豪(ばくごう)』、と呼ばれた少年の反応に妙な部分は無い。

 強いて言うなら、最初から俺に対して少し意識が向いているが。

 

 ......少し意外だが、俺と相澤消太のやりとりを違和感に思っていないようだ。

 

 ......いや、俺が相澤消太の近くに立っている、という状態がノイズになっているのか。

 狙ってなかったが......まぁいいか。

 

「──じゃ、『個性』を使ってやってみろ」

 

 ボール投げ用の測定器を渡された爆豪が、シンとした状態で移動する。

 

「円から出なきゃ何してもいい。早よ、思いっきりな」

 

 ボール投げ用の白線、円の内で。

 

 爆轟は、軽く身体を解す。

 

「......んじゃまぁ──」

 

 過度な緊張は無い。

 

 構え、大きく振りかぶった。

 

「──死ねえ!!」

 

 勢いの良い投擲、気勢のある声。

 

 そして、爆破と爆発音。

 

 その三つは、ほぼ同時だった。

 

 ......凄まじい。

 積み重ねた経験というより、生来のセンス。

 

 研鑽を積んだ肉体と、センスによる繊細な『個性』制御。

 

 その結果が──

 

「......まず自分の『最大限』を知る。それが『ヒーロー』の素地を形成する合理的手段」

 

 測定の終了を伝える通知音。

 

 相澤消太がクラスの者たちへ見せたスマホ、その画面。

 

 ──七百五点二メートル。

 

 視線が、スマホの画面に集中する。

 ......静かに、『茜鷹』をボールの回収に向かわせた。

 

「「「「「「うおおぉお!?」」」」」」

 

 驚愕の声。

 不安が解け、昂揚している。

 

「七百五メートルってマジかよ......」

「何コレ! 面白そうっ!」

「『個性』思いっ切り使えんだ! さすがヒーロー科ぁ!」

 

 三人。

 

 だが、それ以外にも興奮している者はいる。

 ......同時に、緊張が続く者、増した者も。

 

「......面白そう、か......」

 

 冷えた声が、必要以上の興奮に対する水となる。

 

「『ヒーロー』になる為の三年間、そんな腹積りで過ごす気でいるのかい?」

 

 相澤消太の纏う気配に、再び不安の芽が出た。

 

 良い事を思いついた、とばかりに。

 相澤消太の口元が大きく歪む。

 

「──よし......! 八種目トータル成績最下位の者は、見込みナシと判断し──除籍処分としよう......!」

「「「「「「はああああ!?」」」」」」

 

 動揺と驚愕。

 もしくは戦慄か......

 逆に燃える者、自信故か揺らがない者もいる。

 

 戻ってきた『茜鷹』からボールを受け取り、指先で頭を撫でた。

 

「生徒の如何(いかん)先生(俺たち)の『自由』......! ようこそ! これが『雄英高校ヒーロー科』だ!」

 

 前髪を掻き上げて抑え、笑顔という挑発を見せる。

 

 相澤消太の挑発に、各々が言葉無く反応する。

 ......熱が上がっている。

 

「......っ──最下位除籍って......! 入学初日ですよ!? いやっ! 初日じゃなくても理不尽すぎる!」

 

 茶色のショートボブの少女。

 不安、恐怖、緊張と、ここに至るまであまり晴れた顔をしない。

 胸元で固く握りしめた両手が、分かりやすく示している。

 

 が、それはそれ。

 ......理不尽、という言葉に。

 抗議に。

 

 思うところがないでもない。

 

 相澤消太の傍で静かに飛ぶ『バットショット』が、とても小さく鳴き。

 『瑠璃狼』が身震いし。

 『トリケラカンドロイド』が頭を振る。

 

 俺の傍で飛ぶ『茜鷹』も、とても小さく、短く、一鳴き。

 

 相澤消太が、横目に俺を見た。

 ......が、反応は返さない。

 

「......──自然災害、大事故......そして身勝手な『(ヴィラン)』たち。いつどこから来るか分からない厄災......日本は理不尽にまみれている......」

 

 淡々と語る声には、確かな重さがある。

 

 クラスの者たちも、身を引いて聞くのみ。

 

「そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのが『ヒーロー』。放課後どっかの店で談笑したかったならお(あい)(にく)

 

 冷たさと圧。

 

 無気力、気怠げな様子からは差がありすぎる程に。

 だからこそ、ただ静かに受け止める他無い。

 

「これから三年間、『雄英』は全力で君たちに苦難を与え続ける。更に向こうへ──『Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)』さ」

 

 笑い、差し出した人差し指を曲げる。

 クイクイ、と。

 

 挑発に似せた激励。

 相澤消太なりの、『ヒーロー』としての教示。

 

「全力で乗り越えて来い」

 

 発破としては、少し重いか......?

 

 だが、クラスの者たちは、各々思うところがあるらしい。

 

 一拍、二拍、と置いて。

 気が引き締まり、全体として適度な緊張に落ち着いた。

 

 最初から妙な柔らかさと緩さを見せるよりは、余程効果的だろう。

 

「──さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」

 

 相澤消太の言葉に合わせて、四体のガジェットを動かす。

 

 短く、力強く、気合を入れるような鳴き声を上げて。

 

 チラリと俺を見た相澤消太に、ボールを放った。

 

「......んじゃ、五十メートル走からだ。行くぞ」

 

 無造作にボールを受け取って先導する。

 

 ガジェットの鳴き声が響く。

 『茜鷹』と『バットショット』が相澤消太の前に出て。

 

 隣に並んだ俺の肩に、『瑠璃狼』が飛び移った。

 

「......お前も、全力でやれよ」

「......本気でやる。だが、『変身』はしない」

「......」

 

 大半には聞こえないだろう小さな声。

 横目に睨んでくる相澤消太に眼を向ける。

 

「......俺の『変身』は、形態が複数ある。それぞれスペックが違う。記録を採るなら、素体のままの方がいい」

「お前......厄介な『個性』だな......」

「......形態は、百を超えるぞ」

「......」

 

 『変身』ごとに能力も違う。

 体力テストでは、なんの判断基準にもならない。

 ......分体を出せば、同時に複数の記録も採れるが......まぁ、意味は無い。

 

 溜息を噛み殺して、一瞬眉間に皺を寄せて。

 俺から視線を外した相澤消太は、『トリケラカンドロイド』を指先で突いた。

 

 ......本気でやる、と言った以上、大人気なくても加減はしない。

 

「......それと」

「......」

 

 俺を見ていないが、聞いているのは分かる。

 ......若干、呆れの気配が滲んでいるが。

 

「......俺は、俺の『戦う理由』に従って『変身』する」

「......っ」

 

 言っている内に、言葉に圧が乗ったか。

 

 相澤消太が、息を呑んだ。

 

「......俺の『覚悟』、そのもの。見せびらかし、誇示するようなモノじゃねぇ。俺が『力』を振るうのは、『守る』時だけだ」

 

 ガジェットを出す事。

 

 ウェポンを出す事。

 

 マシンを出す事。

 

 どれもまだいい。

 

 ──だが。

 

 『戦う』為に『変身』するのは。

 

 俺の『理由』と、『覚悟』を示す時だ。

 

「......すまない。少し昂った」

「......いや......いい。気にするな」

 

 相澤消太以外には、耳の良い者だけが違和感を抱いた程度に収まった。

 ......気配の制御、上手くいったようだ。

 

 ......まぁ、いい。

 

「......テストは本気でやる」

「......分かった」

 

 雰囲気と、相澤消太が隠している緊張を和らげる為に、ガジェットを動かす。

 

 ......全てじゃないが、本音の吐露だ。

 少しは、俺を信じてもらえるようになればいいが......

 

 ──ともかく。

 

 体力テストだ。

 五十メートル走から、順にこなしていこう。

 

 

 

 

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