深夜テンションで書いてしまった。
世界樹教団の執務室には、いつものように穏やかな朝の光が差し込んでいた。教主は机に向かい、山積みになった書類と格闘していた。
ふと、羽ペンを握る手が止まり、ため息をつく。
「ふぅ、こんなに書類があったかな」
その時、執務室の扉が開き、ネルが入ってきた。彼女の顔はいつにもまして険しい。
「教主様、ただいま戻りました。」
教主は顔をあげ、笑顔でネルを迎えた。
「おかえり、ネル。どこかに行ってきたの?」
ネルは深いため息をつき、教主を見据えた。
「はぁ、教主様?昨日私が言ったことをお忘れですか?先日エルフたちから届くはずだった物資が獣人の村に届いたとディアナ村長から連絡があったではありませんか?これもすべて、教主様が受取先を誤って獣人の村に指定したからではないですか?」
教主は首をかしげて、記憶をさかのぼるように目を細めた。
「えっと、そうだったっけ?それなら私が受取に行けたらよかったのに」
ネルは額に手を当て、深く深くため息をついた。
「教主様?昨日の教主様は急に体調が悪くなったとかで、部屋から一歩も出なかったではありませんか?また、どこぞの幽霊が教主様の部屋に押し入ったのではないでしょうね?」
「あはは...」
「とにかく!まだまだ仕事は残っていますので、こちらも片づけていただかないと」
教主は書類の山を見て、苦笑いを浮かべた。
「ははっ、ちょっとだけ休憩したいなー。なんて」
その時、執務室の扉が勢いよく開け放たれた。
「教主!ネルが連れてきた獣人が遊びに行きたいっていうから言ってきていいよね?」
エルフィンがはじけるような笑顔で飛び込んできた。その後ろには猫耳の獣人のコミーと犬ミミの獣人バターが扉の陰から見守っていた。
ネルは眉をひそめて、厳しい声でエルフィンを叱った。
「女王様?入るときはノックをするようにとあれほど…、それから女王様にもお仕事を手伝っていただきます。」
エルフィンは口を尖らせた。
「えー!私、女王なのになんで仕事しなきゃいけないの!」
ネルは一歩前に出て、エルフィンをにらみつけた。
「女王様だからこそ、お仕事をしていただけなくてはなりません」
そのとき、コミーがのんびりとした口調で話し始めた。
「教主、女王はほっといてコミーたちと遊ばないかにゃ?コミーは獣人と妖精との経済格差の是正について論じられた本を探しに行かないといけないにゃ」
コミーは枕を抱えたまま、ゆっくりと室内を見回している。その隣でバターが目を輝かせながら言った。
「教主様と遊べるなんて嬉しいです~」
教主は微笑んで二人に手を振った。
「やぁ、コミー、バター。久しぶりだね。」
ネルは険しい表情で二人を見つめ、そしてエルフィンに視線を戻した。
「女王様、遊びに行くのは仕事が終わってからです。教主様も同じです。さあ、お二人とも席にお戻りください」
「いやーーー!今から仕事をしてたらきっと明日の朝になるんだから!」
エルフィンは教主の袖をぐいぐい引っ張りながらささやいた。
「教主!このままじゃネルにつかまっちゃうわ…逃げましょう!」
教主は困った顔をしたが、エルフィンの瞳には逃げ出す決意に満ちていた。
「えっ、エルフィン。それは...」
エルフィンは教主の手をつかみ、片方の手でコミーの持っていた枕を奪い取るとネルの顔面に直撃させた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ、コミーの枕が...」
「さあ、今よ!走って!」
「おにごっこ大好きです~」
「待つにゃ~~~」
エルフィンと教主は走る。バターは楽しそうについていく。コミーは放られた枕を拾い上げると抱えて後を追う。
ネルは憤怒に満ちた表情で叫んだ。
「教主様!女王様!待ちなさい!!!!」
だが、4人はすでに執務室を飛び出していた。ネルは深く深くため息をつき、追いかける準備を始めた。
四人は世界樹教団の廊下を駆け抜け、外へと飛び出した。エルフィンは楽しそうに笑いながら走り続けた。
「やったわ、久しぶりの大冒険ね!」
教主はちぎられそうになっている肩を抑えながら、息を切らして答えた。
「エルフィン…これはまずいよ…。ネルが怒ってる」
エルフィンは手を放すと振り返り、にっこりと笑った。
「教主!私が何の策もなしに出てきたと思う?」
「いや、エルフィンがそういうから逆に心配になってきたんだが...」
「なんでよ!!」
「日ごろの行いのせいかな…、それよりどこへ行くんだ?」
「大丈夫よ!まずはパン屋に行きましょう!おなかが空いたわ!」
コミーは枕を抱えたまま、ゆっくりと歩いてきた。
「コミーも本屋に行きたいにゃ。でも、パン屋も悪くないにゃ」
バターは嬉しそうに飛び跳ねながら言った。
「教主様達と一緒に遊べるなんて最高です~!でもなんで司祭長は怒っていたんでしょう?眠らせてあげたほうがいいんでしょうか?」
「しっ、バターその話はあとにするにゃ。コミーには完全無欠の計画があるにゃ」
バターは目を回しながらうーんとうなった。
「コミー、計画って?」
「教主!何してるの!早くいかないとネルに捕まるわよ...!」
「ああ…」
教主はなにやら嫌な予感を憶えたが、エルフィンにせかされて先に進むことにした。
その後、四人は町中を駆け抜け、最初のパン屋に到着した。店の前にはパンの甘い香りが漂っている。バターはくんくんと香りをかいでいる。
「いいにおいがしますね~!」
「あー!もう待ちきれないわ!」
エルフィンは目を輝かせながら店内に飛び込んだ。
「ひぃ、女王様がきた...!」
店主がおびえた表情で迎える。エルフィンはパンを次々口の中に放り込みながら言った。
「これとこれともぐもぐ…、これ!ぜんぶちょうだい!」
コミーは口を動かし続けるエルフィンを見ながらつぶやいた。その時、足元がわずかに揺れた。机の上のパンがかすかに震える。どこか遠くで、乾いた打撃音が響いた。
「地下でなにか掘ってる音がするにゃ」
「そんなわけないでしょう。ここはパン屋よ?」
エルフィンは気にも留めず、包装紙を奪い取った。
棚の上の皿が、もう一度かすかに鳴った。
「次はその砂糖菓子もお願い」
コミーは口を動かし続けるエルフィンを見ながらつぶやいた。
「王が飢えを知らない国では、飢えは統計になるのかにゃ」
「よくわからないこと言ってないでエルフィンを止めないと!」
まだ注文という名の強奪を続ける女王を止められるのは、自分しかいないと悟り、教主は拳を振り上げた。
ゴチン!
「ああああああ!なんで殴るのよ!」
「当たり前だろ!こんな足がつきやすい方法でどうやって逃げるっていうんだ!この馬鹿!」
「馬鹿っていう方が馬鹿でしょ!!おなかが空いた状態でどこに逃げるっていうの!!!」
「わわわ、教主様と女王様が喧嘩してる...」
「バターまだ待つにゃ。パンのにおいをかぎながらくるくる回るにゃ」
くるくる?うーんとうなるバター。ひとしきり目を回した後にはパンのにおいをかぎながら楽しそうに走り回った。
「とにかく、ここにはいられない!」
教主はエルフィンを無理やり連れやる。強奪されて泣き崩れる店主をよそにパン屋を後にした。
バターは元気よくついてきているが、コミーは疲れながらも何かを期待した目で教主を追った。
教主の足は自然とそこに赴いていた。
エルフィンの食欲を満たしながら、籠城できる場所といえば、もうあそこしか思い当たらなかった。
「エシュール!久しぶりね!」
エシュールは作業台の前で、パン生地をこねている最中だった。彼女は驚いた表情でエルフィンを見た。
「女王様…また来たんですか?」
「ふふふ…、今日の私はいつもとは一味違うわよ...」
「すまないが、私たちを少しだけかくまってくれないか?エルフィンがやらかしてネルに追われているんだ」
「教主様がいうなら仕方ないですね...。ところで、後ろの二人は…」
そう問おうとしたところで、エルフィンはエシュールの後ろに回り込み、いきなり彼女の手にかみついた。
「ぎゃああああ!女王様!パンを作ってる手をかまないでください!」
エルフィンは満足そうな表情で言った。
「さすがはエシュールね。エシュールの手はパンと同じくらい甘いわ!」
エシュールは慌てて手を引っ込め、エルフィンをにらんだ。
「そこに並んでいるパンは食べてもいいので、私の手を舐めないでください!」
エルフィンは目を輝かせ、教主に振り返った。奥ではエシュールが涙目になっている様子が見て取れる。
「やったわ!教主!エシュールから自由に食べる許可を引き出せたわ!これが女王の交渉術ってわけね」
教主は苦笑いを浮かべながら言った。
「交渉というか、脅迫に近いが…」
エシュールは深くため息をつき、店の奥に引っこもうとしたが、視界の端に見慣れた犬ミミが映り込んだ。
「あれ?バターじゃない!」
「あ、いつもおいしそうなにおいのする妖精さん…」
「ちょうどよかったわ!!」
エシュールが目を細めながらバターに向き直った。
「は、…はい?」
「このパンを盗み食いした女王様を今すぐ追い出して!!」
「え、ええっ!」
「あなたはまだここの生徒よね!魔法学校の学長としての命令よ!!」
エシュールが声を張り上げてバターに詰め寄る。
「エシュール!待ってくれ…。エルフィンがここにいることがばれたら、私もネルにつかまってしまう!!」
「ほうにょほうにょ!もぐもぐ…」
女王がなにやる言っているのを尻目にエシュールがジト目で教主を見る。
「……。どうせ教主も仕事が嫌で逃げ出してきたんじゃないですか…?」
うぐっ!?と教主がうなる。
その時ーーー
「見つけましたよ、女王様!教主様!」
ネルの声だ。エルフィンは口にパンを咥えて離さないものの体を縮こまらせた。
「教主、まずいわ!ネルが来た!隠れましょう!」
教主は困った顔をしたが、エルフィンに引っ張られるまま、店の奥に隠れた。コミーとバターも慌てて後を追った。
数舜ののちにネルが店内に入ってきた。
エシュールは困惑した表情でネルを迎えた。
「エシュール、女王様達をどこに隠しましたか?」
エシュールは額に汗を浮かばせながら言った。
「それは…その…」
エルフィンは店の奥で、まだパンを次々と平らげていた。
その足元で、床板がかすかにきしむ。
「ここなら立てこもりながら食料があるわ!完璧ね!」
「どこが完璧なんだ!ここにいてもネルに見つかるのは時間の問題だろ!」
一方でバターはかくれんぼだと思って、楽しそうに周囲を見回していた。足元ではわずかにパンが揺れていた。
「わぁ、かくれんぼ楽しいです~」
いままで黙っていたコミーはエシュールの家の書棚を漁りはじめ、いくつかの本を手に取った。
「へへっ、おもった通りにゃ。バターから話を聞いてから、ここには珍しい本がたくさんあるにゃ。コミーが頭がよくなることがエーリアスにとって最善にゃ、だからコミーは悪くないにゃ。」
「コミーがまた難しい本読んでる…。」
バターはそんなコミーの様子に気づいて言う。
「バター…」
「うん?」
「コミーが合図したらわかってるにゃよね?」
「えっと、パチンコで全員眠ってもらうってこと?」
「そうにゃ、よく覚えていたにゃ。バター。バターはえらいこにゃ」
「えへへ…」
教主からはコミーの考えが筒抜けだった。
「なんだって!」
大声にびくりと反応するエルフィン。
「ちょっと教主!大声出したらネルに見つかるじゃない!」
エシュールの店の奥に斧を携えた妖精の気配が少しづつ近づいてきていた。
その時だった。
突然、店内が激しく揺れた。
「えっ?」
エルフィンが驚いた表情で周囲を見渡す。次の瞬間、店の床が爆発し、煙と炎が立ち上った。
「ぎゃあああああ」
エシュールの悲鳴が上がった。エルフィンと教主、コミーとバターは慌てて外へ飛び出した。店の床には大きな穴が開いており、その中から妖精のマリーとマヨが這い上がってきた。
「あれ…?私、どこ掘ってたんだっけ…?」
「収集品!助けにきたっす!」
マヨは土を払いながら、満足げにうなずいた。
「収集品、けがはなさそうっすね」
彼女は崩れた床を見下ろす。
「今日の爆発はいいデータが取れたっす。次は地下から直通通路を作るっす」
マリーは呆然とした表情で周囲を見渡した。彼女の手にはダイナマイトの残骸が握られている。マヨは教主のそばに立つとあたりを警戒している。
「マリー!お前、何をやったんだ!!」
教主が叫んだ。マリーは慌てて弁解した。
「いやぁ、地下で採掘していたら、間違えてダイナマイトを起爆させちゃって」
「収集品!うちは収集品がピンチだと聞いて駆けつけてきたっす!」
エシュールは呆然と立ち尽くし、崩れかけた店を見つめていた。
「私の…、私のベーカリー…いや、魔法学校が…。」
その時、すすをかぶりながらネルが駆けつけてきた。
「見付けましたよ!二人とも!」
マヨは怒り心頭のネルを見て、教主を庇うように立つ。
「収集品!今のうちに逃げるっす!」
ネルは怒りに満ちた表情で、エルフィンと教主をにらみつけた。そして、マリーにも視線を向けた。
「マリー、あなたもですか。一体何をやっていたんですか?」
マリーは縮こまりながら言った。
「いや、その…地下道を掘ってたら、間違えて…」
ネルは深くため息をついた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!まったく…今日は災難続きですね…」
コミーもエシュールと同じく呆然と立ち尽くしていた。コミーがエシュールの家から無断で持ち出そうと抱えていた本は、爆発の炎で真っ黒に焼けてしまっていた。
「コミーの本が…焼けてしまったにゃ…」
コミーは涙目になりながら、焼けた本を見つめた。
バターは穴に足を滑らせ、そのまま落ちてしまった。
「わあああああ!」
「バター!」
教主が慌ててバターを助けようと穴に近づいた。ネルもすぐに駆けつけ、バターを引き上げた。
「大丈夫ですか、バター?」
バターは泥だらけになりながらも、笑顔で答えた。
「はい、大丈夫です〜!でも、ちょっと怖かったです〜」
ネルはマリーを捕まえ、厳しい表情で言った。
「マリー、後でしっかりと説明してもらいますからね」
マリーは縮こまりながら頷いた。
「はい…ごめんなさい…」
エシュールは呆然と立ち尽くし、ぶつぶつとつぶやき続けていた。
エルフィンは申し訳なさそうに、エシュールに近づいた。
「エシュール、ごめんなさい…私たちが隠れてたから…。これ食べかけのパンだけど…。」
言ってから断ってほしいというエルフィンの内面が透けて見える。
「いりませんよ!」
「うちは収集品が無事ならそれでよかったっす」
と言い放つマヨ。
エシュールは深くため息をつき、エルフィンに微笑んだ。
「女王様、あなたのせいではありませんよ。でも、これからしばらく営業できそうにないですね」
教主も申し訳なさそうに頭を下げた。
「エシュール。何か手伝えることがあれば言って?」
そう言いながら彷徨わせた教主の手をガチリと包み込んだ者がいた。
「それなら教主様には今回の件を片付けていただきましょうか?」
教主には、司祭長のその微笑みが悪魔のように映った。
ネルはエルフィンと教主、そしてコミーとバターを連れて、世界樹教会へと戻った。道中、ネルは厳しい表情で全員を叱った。
「まったく、今日はどれだけ手間を増やすつもりですか?女王様、教主様、お二人ともしっかりと反省してください」
エルフィンは口を尖らせた。
「だって、仕事なんてつまらないんだもん」
ネルは冷たい視線でエルフィンを見た。
「女王様、あなたは王国を治める立場にあるのですよ。少しは責任を持ってください」
エルフィンは小さくなりながらも、反論した。
「でも、私、女王なんだから…」
ネルはため息をつき、教主に視線を向けた。
「教主様も、もっとしっかりしてください。女王様を甘やかしてばかりいては、彼女も成長しません」
「いや、私は...」
「なにか言いました?」
「いえ、なにも...」
コミーは焼けた本を抱えたまま、しょんぼりとしていた。エシュールの書棚から持ってきたままである。
「コミーの勉強が台無しになったにゃ…」
バターは元気に言った。
「でも、今日は楽しかったです〜!教主様たちと遊べて嬉しかったです〜!」
ネルは厳しい表情でバターを見た。
「バター、遊ぶのもいいですが、節度を持ってください」
バターは縮こまりながら頷いた。
「はい…ごめんなさい…」
世界樹教会に到着すると、ネルは教主に向かって言った。
「教主様、コミーとバターを獣人の村まで送り届けてください。それから、戻ってきたらすぐに書類仕事に戻っていただきます」
教主は驚いた表情で言った。
「えっ、今から?」
ネルは冷たく言い放った。
「教主様?教主様は、今日何回私を怒らせれば済むのですか?もちろん、今からです。お二人を無事に送り届けるのも、教主様の責任です」
教主は深くため息をつき、コミーとバターに向き直った。
「それじゃあ、二人とも、村まで送っていくよ」
コミーは焼けた本を抱えたまま、しょんぼりと頷いた。
「ありがとうにゃ、教主」
バターは嬉しそうに飛び跳ねた。
「教主様と一緒に帰れるなんて嬉しいです〜!」
エルフィンは不満そうに言った。
「私も行きたいわ!」
ネルは冷たく遮った。
「女王様…!!!」
「ひぃぃぃ...」
ネルの剣幕に耐えられず、エルフィンはうめき声を漏らした。
教主はコミーとバターを連れて、獣人の村へと向かった。道中、コミーはずっと焼けた本を見つめていた。
「コミー、あの計画って何だったの?」
教主が声をかけると、コミーは小さく頷いた。
「コミー、あの妖精についてバターから聞いて、使えそうな本を片っ端から借りていくつもりだっただけにゃ。」
なにか言いたいのをぐっとこらえた教主は次の質問をする。
「それでその合図ってのは?」
バターは元気に走り回りながら言った。
「コミーが合図をしたら、みんなを眠らせてあげるつもりだったんです~」
「どうしてそんなことを…?」
「コミーが合図したときがみんなが困っているときだとバターに伝えたにゃん。喧嘩になりそうなときにみんなを眠らせれば喧嘩にならないにゃん。」
教主はバターの肩をつかんで、安易にパチンコで眠らせるのはだめだと厳命した…。
しばらくしてーーー
「教主様、今日は本当に楽しかったです〜!また遊びに来てもいいですか?」
教主は笑顔で頷いた。
「もちろんだよ、バター。いつでも遊びに来てね」
バターは嬉しそうに飛び跳ねた。
「やったー!また来ます〜!」
獣人の村に到着すると、ディアナ村長が出迎えてくれた。
「おや教主様、ご苦労様です。コミーとバター、無事に帰ってきたようですね」
教主は頭を下げた。
「すみません、今日は色々と騒がせてしまって」
村長は笑顔で手を振った。
「いえいえ、二人の顔を見る限りよほど楽しかったんでしょうねぇ。また機会があれば、遊びに行かせてください」
教主は微笑んで頷いた。
「ぜひ、またいつでも」
コミーとバターは教主に手を振りながら、村へと戻っていった。
「またにゃ、教主!」
「また遊びましょう〜!」
教主は二人を見送りながら、深くため息をついた。
「さて、これからネルに怒られるんだろうな…」
教主が世界樹教会に戻ると、ネルが執務室の前で腕を組んで待っていた。
「教主様、お帰りなさい。さあ、すぐに書類仕事に取り掛かってください」
教主は疲れた表情で頷いた。
「はい…わかりました…」
執務室に入ると、机の上には先ほどよりもさらに多くの書類が積まれていた。
「えっ…これ、増えてる…?」
ネルは冷たく言い放った。
「はい、教主様が不在の間に、新たな書類が届きました。全て今日中に片付けてください」
教主は深く深くため息をつき、椅子に座った。
「わかりました…頑張ります…」
エルフィンも隣の席で、渋々書類に向き合っていた。
「もう…つまらないわ…」
ネルは厳しい表情で二人を見つめた。
「お二人とも、しっかりと仕事をしてください。遊んでばかりいては、王国も教会も成り立ちませんよ」
エルフィンは小さく頷いた。
「わかったわよ…」
教主も羽ペンを握り、書類に向き合い始めた。
「はぁ…今日は本当に疲れたな…」
その日の夜、教主とエルフィンは執務室で書類仕事を終え、疲れ果てていた。
「やっと終わったわ…」
エルフィンがぐったりとした表情で言った。教主も同じく疲れた顔をしていた。
「本当に疲れたね…」
そのとき、ネルが執務室に入ってきた。
「お疲れ様です、お二人とも。今日は反省していただけましたか?」
エルフィンは口を尖らせた。
「反省してるわよ!ちゃんと“今日”は逃げないって言ってるじゃない!」」
ネルは冷たく笑った。
「『今日』だけでは困りますね、女王様」
教主は苦笑いを浮かべながら言った。
「ネル、今日は本当にごめん。でも、コミーとバターは楽しそうだったよ」
ネルは少しだけ表情を和らげた。
「それは良かったですね。でも、次からはもっと計画的に行動してください」
エルフィンは小さく頷いた。
「わかったわ…次はちゃんとするわ」
ネルは微笑んだ。
「それでいいです。さあ、今日はもう休んでください」
教主とエルフィンは安堵の表情を浮かべ、執務室を後にした。
翌朝、教主は執務室で書類仕事を再開していた。エルフィンは隣で、あくびをしながら書類に向き合っていた。
「ふわぁ…今日も仕事かぁ…」
教主は微笑んだ。
「でも、昨日は楽しかったね」
エルフィンは少しだけ笑顔を見せた。
「そうね…また遊びたいわ」
そのとき、執務室の扉がノックされた。
「失礼します」
ネルが入ってきて、二人に向かって言った。
「教主様、女王様、今日も一日頑張ってください」
こうして、世界樹教団の騒がしい一日は幕を閉じ、また新しい一日が始まるのだった。