ちょっと強めのアリサ 作:破裂保護
アリサです。いつの間にかロボトミーコーポレーションに就職していました。就職に至るまでの過程や記憶が一切ありません…
人間は過去の経験や記憶から人格を形作るって聞きましたけど、じゃあ逆にぽっと無から生えてきた私の人格は何で出来てるのかって話ですよね。L社の雇用制度的に、たぶん記憶貯蔵庫から生成されたコピー人間的な存在だからかもしれません。
初日は…パニックで訳の分からないまま管理人から命令を受けて罪善さんに作業しながら、足りない頭を必死に回して、今何が起こっていて、私は誰なのかを考えながら色々と罪善さんに打ち明けていた気がします。
同僚もいませんでしたから、困惑しながら罪善さんに一人で何回か作業をしていたら、いつの間にか一日が終わっていました。
状況も呑み込めないままマルクト様に連れられて寮へ案内されて、取り合えず疲れたし考えても意味がわからないしで、シャワーだけ浴びて寝ようと思ったんです。
本当は湯船に浸かりたかったんですけど…兎も角、シャワーを浴びる前に、脱衣所で無意識のうちに髪留めを解こうとして、洗面台に張り付けられた鏡を眺めた時、始めて自分の姿をはっきり見ました。
赤毛でツインテール。小柄な体格。やる気のなさげな気だるげな表情。…LCEの?アリサ?私?
鏡を見つめてそう思い、でもここは本社のはず。管理人の生声も聞きましたし、箱のマルクト様にも会いましたし、ついでにアンジェラ様の後姿も見ました。
L社でランダム生成される職員の中にはアリサっていう名前がデフォルトネームで含まれてますし、赤髪もランダム生成の候補に入ってます。ツインテールは…覚えてませんけど、あったようななかったような気がして、悩んでいました。
顔つきも似ている気がするけど二次元から三次元になった以上参考にならないというか…とにかく、私はランダム生成で偶然作られたLCEのアリサに似ているだけの別人。
100万年もループしているのだから、確率的には似た職員が生成されても全くおかしくはないですよね。一旦は、そう自分を納得させて、その日はそのまま泥のように眠りにつきました。
ベッドは柔らかかったけど、結局目が覚めても昨日見たのと同じ天井だった時は心底絶望したのを今でもはっきり覚えています。
それから、長い間私はこのロボトミーでどうにか生き永らえてきました。頭の中にあった知識が役に立ったことは否定しませんけど…どっちかというと運が良かっただけな気がします。
一職員にできることなんて限られていますし、管理人には逆らえませんから。
それでも死に物狂いでもがいて、戦って、殺して、管理してを繰り返しているうちに…私はいつの間にか、なぜか、49日目を乗り越えていて、そのまま図書館に行こうと思っていた、はずなんですけど…
「ふむ。アリサか。予定していたE.G.O抽出に関連する実験は差し止めてくれ。今日、上からLCBの団体健診及び囚人のデータ収集に関する承認が下りた。随分前に提出して長らく待たされたが、これで我が部門が予定していた定期検診がようやく行える。テスト用大罪の在庫をチェックしておいてくれ。私はモノリスの稼働準備に取り掛かるが故、マートンや各職員との調整は任せたぞ」
…はい。私、今リンバスカンパニーのLCE部署で働いています。運命なのか流れに身体が動かされたのかはわかりませんけど…私、どうやらLCEのアリサだったらしいです。
名前と髪色はともかく、羽生えてますし全身にギフトがべったり張り付いてて半分くらい存在が幻想体になってますけど…それでも、アリサらしいです。今もこうして、チーフの補佐をしているように。
「はい。わかりました。でも、本当にやるんですか?モノリス…私、アレ嫌いなんですけど」
ねじれを人為的に生み出すという性質はともかく、由来が全く分からない部分になんとなく違和感を感じるんですよね。一応本社で働いていたのに存在自体全く知りませんでしたし。
どうせろくでもないカルメンの暖かくて綺麗な声(思ったより低かったけど…)を増幅させて不安な気持ちでいっぱいにさせるとか、そんなのなんでしょうけど。
この世界が管理人が存続する流れの世界とやらの上にあるなら、チーフが大罪になることはないと思うんですけど、それでも私が本来のアリサじゃないから不安は拭えません。
「まあ、一般的に愉快なものではないというのはわかっている。それでも私の仮説を証明する機会はこれ以降ないであろう」
それだけ言い残すと、チーフは背を向けて去って行ってしまいました。随分素っ気ない辺り、今日は本当に忙しいみたいですね。
私も…ねじれてみたいという気持ちはありますけど、私がモノリスを浴びても大罪になるだけな予感がしてるんですよね。ねじれに必要なのは確固たる信念とトラウマであって、どちらも私は持ち合わせていなかったから。今のところはですけど。
時々、私もホーエンハイムさんみたいに置いて行ったロボトミーの同僚たちのことを思い出します。図書館が都市の星に指定されて外郭に放逐された以上、蘇って無事なことは頭ではわかっているんですけど…それでも、別れが最悪でしたから。
あの49日目を乗り越えて…何事もなく50日目をこなして、安心しきっていて忘れていたみたいです。50日目を越えた先にある本当の地獄を。今思えば、図鑑の完成率は100%でした。E.G.Oも揃っていましたし。だからこそ私が49日目を越えられたんでしょうけど。
アンジェラ様はやっぱり、生きてみたいと願ったみたいです。あの時の、内戦の状況は…そう、誰かがシェルターに入ってずっと出てこないみたいな感じでした。
抑止力を奪われて、殺しても殺してもまた脱走して、そのうちリアクターが止まって、一人、また一人と死んでいき…最後に、施設の明かりが消えて怪物の咆哮が響き渡りました。多分、黄昏持ちの職員が死んで終末鳥が脱走したんでしょうね。
光の種が無事に蒔かれるよう、耐えられるだけ耐えて見ましたけど、三日が限界で。死んでいく同僚たちを見送るしかなかったんです。どうして私が最後に残ったんだろうって。
何年も経ったのに、まだ考えが反芻していて、死ぬ前に…ウェルチアースを一本飲みたいなんて思ったのが間違いでした。いや、今こうしてLCEにいられるなら、それが正解だったのかも。
「アリサさん。またE.G.Oと話してたんですか?あんまり感応度を上げ過ぎるといざという時冷静な判断がしづらくなりますよ」
「あ、いや、E.G.Oと話してたわけじゃなくてただぼーっと…はは、仕事しなきゃですよね」
ロボトミーに比べればLCEは職場としてかなり気に入ってますけど、時々ぬるま湯に浸っているような感覚を覚えることがあります。本社と違ってクリフォト暴走も起きないし試練も発生しないしで、事故が起きるケースが殆どないんですよね。
ALEPHクラスも収容されていないから、部門が全滅するような事態は発生しないと思います。そんな風に皆考えているから蜘蛛の巣襲撃事件みたいなのが起きるんでしょうけど。
あんまりボケっとしてられないので、適当にLCEの廊下を歩きながら職員たちに共有を行って、大罪の様子をチェックしてPDFにしたためておきます。
とても朧気で霞んでしまった記憶ですけど、ゲームの頃はなんとなく怠惰大罪のEXクリアができなくてぶちぎれてたような…そんな気がします。
それにしても、定期検診。もうそんな時期なんですね。時間の進みは速いというか…いや、これはたぶん私が長いこと太湖で漂流生活をしてたせいでLCEに就職するのが遅れたせいですかね。
エビ漁船が沈むか飢え死にしそうになったら、脳内でカルメンに電波を送って招待状を送ってもらって脱出しようとしてたんですけど…意外と飢え死にも沈みもしませんでした。当面の間人魚のヒレ肉とエビだけで食いつないだので、しんどかったですけど…
けほん、ともかく、定期検診自体は凄く楽しみです。一度生で囚人たちに会ってみたかったんですよね。憧れの芸能人がやってくるみたいな感覚というか。まあ…社内では滅茶滅茶嫌われてますけど。金食いバスだの散々罵られてますし。バスに対する視点を持ってないと擁護が厳しいやらかしを山ほどしてますからね。一章は普通に任務失敗して、二章はLCCAの立てた作戦をぶち壊して、三章は検問所でバトって、もうたくさん。
そうしてバスへの思いをはせつつ仕事をこなしていれば、定期健診の準備も進んでいきました。研究員への許可取りとか大罪の使用申請とか色々済ませて、道中でマートンさんとチーフと合流して、今はポータルの前でLCBを待っています。
「やはり私が大罪になるとすれば、暴食だろうな。これでも知識や技術には貪欲であると自負している」
「傲慢というには少し優しさが見え隠れしているけど、やっぱり表面的には傲慢が一番似合ってると思います。この前は怠惰に懸けましたけど急遽撤回しますね」
「俺は…うーん、嫉妬だと思います。ほら、昔学生時代に自分より高い点数を取った生徒の弁当をつまみ食いしたとかなんだとか言っていましたよね。あ…。ポータルが唸りをあげてますね」
集まっていくポータルのエネルギーを肌で感じて僅かに光った後に、見覚えのあるけど、初対面の囚人たちがぞろぞろと白いもやの向こう側から歩いてきました。…15人の大所帯がぞろぞろと出てくると結構圧がありますね。
実際に会ってみれば、本当に千差万別で違う反応。みんながやがやと談笑しているのは同じですけど、きょろきょろと不安そうにあたりを眺めている人もいれば、逆に無口でただ瞼を瞑っている囚人もいます。
私たちとLCBの一行の目が合って、何か声をかけようと迷ったんですけど、なぜか誰も一言も発さず。そのままファウストさんとチーフが睨みあって…この微妙な雰囲気、いつまで続くんですかね…?