ちょっと強めのアリサ   作:破裂保護

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二話

チーフに注目が集まると思っていたんですけど、思ったより私に目線が集まってます。好奇心と一緒になんか奇異の目で見られてるような。いや、LCBに限った話じゃないです。初対面だと大体変な目で見られるし、もう慣れてます…

 

「旧L社の…装備ですか?でも、なんだか一人様子がおかしい人が混じっているんですけど」

 

「…リンバス・カンパニー式でE.G.O装備が作られたという話は聞いていましたが、実物を目にするのは初めてですね。しかし…」

 

「様子がおかしいってなんですか?今思いっきり私を見て言いましたよね?傷つきました。あと私が着てる物はL社から持ち逃げした奴だから関係ありません」

 

そう言って、くるくると手の内で杖を振り回し、僅かにE.G.Oに意識を傾けて血を通わす。私がL社から持ち逃げして、ずっと着続けているこのE.G.Oは…そう、失楽園。

 

白夜未収用だから性能は落ちてますけど…それでも、黄昏を除けば最強のE.G.Oです。私だけが最後に残った理由は、実は明白でした。E.G.Oウェポンそのものに回復効果があるから、リアクターが止まっても関係なかったんです。

貴重な本社産のALEPHクラスE.G.Oだし、研究のためとか言って没収されるかと思ってたんですけど、私以外に誰も着れる人がいないという理由で私の手に帰ってきました。

強さは折り紙付きですけど、あんまり感応度を上げ過ぎると誰これ構わず『救済』したくなるので制御に心血を注がないと大変なことになりますけどね。漁船で限界極まってたころはよく失楽園と話してましたけど、今思えば正気の沙汰じゃない。

 

「L社から持ち逃げってことはアンタ、ロボトミー支部で働いてたのか。…ユーリさんが埋没したって言ってたが、よく抜け出せたな」

 

「…あ、はは。まあ、何とか…なりましたから」

 

わざと合間を濁して、気まずさを演出して会話を打ち切りたい感を醸し出します。あんまり過去を掘り下げるとぼろが出て周りに気づかれそうですからね。私が本社出身なのが。

 

実を言うと、本社出身であることが露見すると色々めんどくさいことになりそうなので対外的にはU社支部に勤めていたってことにしています。太湖を漂流してたのは本当ですから。

たぶん上層部とかチーフには普通に気付かれてると思いますけど。支部に勤めてた人なら感覚的にわかりますし、そうでなくても明らかに場違い感がすごいので騙されてるのは新人くらいだと思います。それでも言い張りますけど。

 

この微妙な雰囲気と沈黙にチーフが気を使ってくれたのか、E.G.O装備やLCEの隔離対象なんかを解説して話題を持って行ってくれましたね。やっぱり、なんかチーフからは同情の目で見られてる気がします。

私の同僚は図書館で生き返ったはずだから…気にする必要はないんですけどね。まあ過去が過去ですから、仕方ないですよね。私も、まだ割り切れてない部分がありますから。

 

<…この人、なんか雰囲気が人間というより幻想体っぽい気がするんだけど…>

 

「ふぅむ…?確かに、少々見た目が変わっておりまするが…否!こうして言の葉を交わしている以上、人間であることには変わりありませぬぞ!ところで…その…翼を触ってみても良いでありまするか?」

 

あ、なんかダンテが私を見てカチコチ言ってますね。うーん…?なんとなく言葉のニュアンスがわかるような、わからないような感じ。まあ何が言いたいのかはわかります。確かに人間は結構やめてる自信があるので。

 

「ギフトを貰いすぎるとちょっと生死の境目が曖昧になったり自我が薄まったりして幻想体に近づくので…でも、人間です、一応。確かに人間に見えないのは否定しませんけど…。ううぅっ…神経通ってるから優しくしてくださいね」

 

これでも笑顔や規制済みなんかのギフトは避けてるから、本社の人外の中では比較的マシな見た目をしてると自負してます。羽は生えてますけど。

本社だとみんな羽付いてたから別に気にされたこともないのに、LCEに入ってからは結構羽を触られて満更でもない感じがします。この後靴を脱いで大暴走する人に揉まれてると思うとなんだか複雑ですけど…

 

「ちょ…やめ、ロージャさん下がってください…」

 

羽をモフモフされること自体は悪い気分じゃないけど、取り囲まれてべたべた触られるとなんだかくすぐったくて…それにさっきからチーフがさっさと始めたいという視線を送ってきてるので、何とか一人一人引き剝がしました。

最初のテストに私が巻き込まれるとテストの意味がなくなっちゃいますし。

 

「談笑に耽るのも悪くはないものだがあまり無意味に時間を潰していると本来の目的を見失いそうなのでな。早速始めるとしよう。最初は危機対応能力テストである」

 

脈絡はあるけど気配はなく、ガシャンと隔壁が作動していきなり囚人たちを閉じ込めましたね。そういう予定でしたけど。

 

「おい!ふざけんな何だよこれ!テストっつーからにはもっと準備ってもんがあるだろ!」

 

この隔離壁が下がる仕様、基本的には便利なんですけど九章みたいにシステムを乗っ取られると逆に牙を向いてくるからあんまり頼りたくないですね。ロボトミー時代の扉はシステムが乗っ取られても(マルクト抑制)ちゃんと開閉してくれる便利仕様だったのでその辺りも真似してほしいものですけど。あと、エレベーターがテレポート仕様じゃない致命的欠陥もありますし…リアクターの性能も微妙だし…そう思うと至れり尽くせりでしたね、本社は。HP弾も暴走が起こるたびにバカスカ撃ってましたし。下手したら毎日100発くらい撃ってた気がします。HP弾…アレ、どれだけお金かかってたんでしょうね。リンバスカンパニーもお金持ちのはずなのに、L社に比べたら色々と霞んで見えます…ともかく。

 

「応援してます。皆さん頑張ってください」

 

チーフの言う通り、あくまで私は主人公ではなく補助研究員でしかありません。しっかり仕事は全うしないとですね。大罪と格闘する囚人たちを観察しながら、マニュアル通りに囚人たちの反応速度や対応能力を記録していきます。

正直裏路地出身だから大した学もなくてデータの活用自体にはちんぷんかんぷんですけど…その辺はいつもチーフが上手くやってくれます。

 

それにしても、隣に案内人さんが立ってると圧が凄いですね。視線はこっちに向いてないけど、意識は私に向けてる気がします。何も悪いことしてないのに警戒されてる…

やっぱり上層部経由で私が本社出身であることが把握されてるのかな。ファウストさんは私を見て眉をひそめてたから、全部が全部ってわけでもなさそうですけど。そのままマートンさんと一緒にお茶に行ってください…なんだか気が重いです。

 

そうして案内人さんたちが行った後に、大罪を使った指揮能力テストや…個人個人への性格診断、分野別の常識検査に…とにかく色々やって、それだけで数時間が過ぎていきました。

皆さん、大体想像していた通りの性格でしたけど、時々ふと驚く結果もありましたし、やっぱり人間は直接会ってみないとわかりませんね。ついでに身長や体重なんかの団体基礎検査もやって、ようやく一息が付けそうです。

 

「ふむ。検診を実施する前に、巻きでテストを進めていたせいで大事なことを一つ忘れていたようだ。助手…テストを円滑に進めるのを手伝ってくれる助手が必要なのだよ」

 

あ、このくだり忘れてました。大体全部終わったと思ってたんですけど…そういえばありましたね、助手選び。

 

「それなら…あなたの後ろにいない?二人も」

 

「私たちはホーエンハイムさんの助手ではありません。補助研究員です。実質助手なのは否定しませんけど…」

 

もし私が、チーフの願望とトラウマを抜きにして、純粋に助手として役立つ人を選ぶなら…良秀さんかヒースクリフさんを選びます。良秀さんは仕事はキッチリこなしますし、純粋に人として有能ですから。

ヒースクリフさんはバスの中では散々バカ扱いされてますけど、実はしっかり公教育を受けてる上に裏路地出身特有の勢いと観察眼があって、今のLCEに必要な能力を持ってると思います。

 

「似ているように見えるものであるが、実はこの二つには明白な違いが認められるのだよ。検診を手伝う助手を諸君らのうち一人が受け持ってくれるといいのだが…」

 

「私はパス!こういうのは性に合わなくてね~」

「私も辞退します」

「ぼ、僕は学生の時副学級委員長として」

「助手やりたいのか…?出しゃばっても面倒なだけだぞ…」

 

囚人たちが熱烈な意思表明を矢継ぎ早に送ってきてます。多分、チーフは最初からヒースクリフさんを助手にすることを決めていたからアピールしても意味ないですけどね…

 

「諸君らの熱烈な意思は歓迎しよう。全ての判断基準はあくまで私の主観的な見解に基づくということを断っておこう。ふむ、そこのオレンジ髪の囚人…」

 

待ってましたと言わんばかりにばたんと立ちあがって、イシュメールさんがめちゃくちゃ早口で自己アピールしてますけど、選ぶ対象を知っていればなんだか哀れに見えてきますね。

身振り手振りで言葉より先に身体で自己表現をして、よっぽど嬉しかったのか早とちりなのか。こうしてみても、やっぱりイシュメールさんは倫理より先に感情が突っ走り過ぎるタイプだから向いてないと思います。

 

「…いや、オレンジ髪の囚人の後ろにいる囚人のことを言ったのだ。君が前に出過ぎて見えなかったからな」

 

皆さんの視線が、ヒースクリフさんに集まりましたね。なんだよ…オ…オレ?って驚いてるけど実はLCBで一番洞察力が優れてますよね、ヒースさん。人となりを知っていれば納得のいく人選です。ヘアクーポンに目を瞑れば。

 

「ど…どうしてですか!?どうして私じゃなくてあ、あんな…!」

 

「イシュメールさんは委員長気質に見えていざという時感情で突っ走る上に私は冷静ですよ?って自分を言い聞かせながら全く冷静じゃないケースが多すぎるから助手にはぜっんぜん向いてないですよね。いっそのことリーダーになるか、使い走りが向いた気質だと思います」

 

がくんと崩れ落ちるオレンジのモップが一つ床に増えました。これでぶちぎれてくれるなら、ほほ、イシュメールという子には反骨の気質がある故理解してやらねばのう。って言いたかったんですけど普通に折れちゃった。

 

「私が求める気質と能力は即興と直観である。ほとんどの偉大な発見はそれらから生まれるということを知っているかね?まさにこのものにピッタリ当てはまるのだよ。

どうだねヒースクリフ君。我々研究者には稀有なその猪突猛進的な直観と情熱あふれる勢いは、私の代わりにこの者たちを率いるに十分な資格があると見込んだのだが」

 

もっともらしい意見にも聞こえます。けど、背景を知っていれば純粋な能力だけで選んだ人選でないというのこともわかります。ヨハンさん…の勢いをヒースクリフさんに重ねてますよね、チーフ。

 

「あっ…その…そうか?わかった。けほん、それじゃ…オレはまず何からすれば…いいんだ?」

 

「我が助手になったことを歓迎しようではないか。それと、難しく考える必要はない。君の持っている自由奔放な気質をあるがままに発揮してくれればいいだけだ。よろしく頼む」

 

しっかりと握手を交わして、なんだかんだヒースクリフさんも上手く馴染めそうですね。周りは全然納得いかないないみたいですけど、実際セブン協会の人格やワイルドハントの人格の冷静さを見るにヒースクリフさんは絶対向いてると思うんですよね、研究職。

いつの間にか戻って来たマートンさんがヒースクリフさんの分の眼鏡も持ってきてくれたので、そろそろアレやりましょうかね。あの…眼鏡クイックイッってする奴。

 

「いつから眼鏡なんか掛けてるんですか?というより…目隠し付けてるのにその上に眼鏡かけて意味あるんですか?」

 

「うっ…これは、雰囲気が大事なんです!」

 

普通に見えてるから存在自体忘れてましたけど、そういえば私星の音で目隠れしてました。自分からはわかりませんけど、相当変な見た目してるだろうな…でも、やってみたかったんです!一回!

そんなこんなで、チーフとマートンさんと新たに加わった助手で眼鏡カチャッもやりましたし、最後の大罪でのテストに移りましょうかね。やっぱりヒースクリフさんがいると皆さんすぐ言うこと聞いて便利…いや、段取り良く事が進みます。

 

そうして助手の協力もあってか、憤怒大罪や怠惰大罪のテストも順調に終わって…嫉妬大罪も終わりましたし、死体を片付けて次に移ろうと思ってたんですけど…なんかまだ実験室でイサンさんとドンキホーテさんが騒いでますね。

 

「ふと気になりけれど。今のドンキホーテ嬢はロシナンテを脱ぐと一体いかがならんや?ファウスト嬢に聞きたかりけれど、答え、かたじけなし…」

 

「ん?何を言うか、ロシナンテは永遠なる愛馬にして運命を共にする相棒!何物にも我らを割くことはできぬ!」

 

…ついに来ましたね。爆弾処理。そして私も知りたかったことを自然な流れで知れる…チャンスです。

 

「私にはわかりません。」

「ええぇ…?」

「確保されたデータがない以上、当然の結論です」

 

「わからないってことは…あなたは、純真なファウストですね」

 

「…?はい。肯定します。なぜ私の」

 

すっごい訝しんでます。明らかに関りがない私が、なぜ把握しているのか。疑問が山ほどあるでしょう。実は私もわかりません。

 

「聞かないでください、確かめたかっただけです。私も、自分がどの世界の上になぞっているかは知っておきたかったので」

 

ファウストさんがまだ純真ということは、どうやら私はゲームの時と同じ鏡の世界にいるらしいです。それっておかしくないですか?私はアリサですけど、本社出身のアリサじゃないですか。

私が変わっている時点で鏡の世界が分岐しているはずなら、この世界のファウストさんは純真なファウストではなく別のあだ名を持つファウストになっていると思っていたんですけど…

いや、わからない問いを考えてもしょうがないですね。専門家じゃありませんし。ともかく、これで確証は得られました。靴を脱いでもヴェルギリウスさんが何とかしてくれるってことです。

 

「じゃあ…今ここで試してみればよくない?こんな実験室でもなきゃ、調べられっこないでしょ!」

 

ああ本当に地雷を踏みぬいて爆弾処理する流れになってる。私は関係ないから楽ですけど、復活するとわかっていても囚人たちが肉片になるのは気がやっぱり重い気がしますね。

ドンキホーテさんとファウストさんはやるべきでないとおっしゃっていますけど…今後の世界の流れを考えれば必要な実験だったと思います。そのほかの囚人たちは意外とノリ気ですし。

私もドンキちゃんがサンチョになるところは見て見たかったですし、そのままチーフと私で安い挑発を繰り返して…

 

「良く考えてみると…我らがロシナンテにも少し休息の時間が必要かもしれぬ。そして皆に見せてみようぞ!このドンキホーテはロシナンテがおらずともちゃんと核を保てていることを!」

 

乗り気になりましたね。紐も解いたし、イサンさんも靴を履かす無意味な準備をしましたし、これで…あ、脱いだ。瞳も真っ赤に染まってぎらついてますし…唾も垂れてます。理性も消えて何かに揺らめてるみたい。

全部の渇きが押し寄せて理性を押し流して、わかってはいましたけど…全然大丈夫じゃなさそうです。あーあ、言わんこっちゃない。知ってましたし、止める気もありませんでしたけど。私のせいじゃありませんからね、これ。

 

ダンテもめっちゃカチコチ鳴ってるし、囚人たちもぎゃあぎゃあ騒いでますし、まだドンキホーテさんが耐えてるのに皆さん焦って今にも暴れ出しそうな勢いです。

 

「ふぅ…この煙草は上…あ?なんだこの煙草?」

 

「この煙草もE.G.Oギフトです。吸ってどうなるかは保証しません…」

 

良秀さんが私から奪ったマッチの火を一息吸った後、遂にドンキホーテさんが限界を迎えて…皆さん本当に鎮圧に向かいましたね。眺めている限り、ダンテさんの指揮自体は有能ですけど根本的な力の差が大きすぎて全然マッチに勝ててません。なんだか足爪と戦った時のことを思い出す強さです、速さと力の強さが結構似てる。

 

理性を失って暴れてるように見えても、硬血式で自在に武器を作って操ってる辺り技量もそれなりに残ってそうですね。速いし強いし、血鬼特有の再生力もあって多少の攻撃では全然平気そうですし、これはヴェルギリウスさんも骨が折れると思います。色々な武器を扱えるから手数も多くて慣れるまで大変そう。

 

皆さんまだ粘ってますけど…限界が来たのか陣形が崩れ始めてる。血の渦を作って隙をこじ開けて…一気に飛び上がって、おー。アレがラ・アヴェントゥラ・ア・テルミナードですね。

 

凄い威力と範囲…結構頑丈に出来てるはずのLCE部署の床にクレーターができてます。囚人たちも…全員まとめて吹き飛びましたね。本当に瞬殺でした。チーフが喜びそうな実験結果です。

 

無事にLCBも全滅しましたし、そろそろヴェルギリウスさんが来るはず…なのに、なんか気配がない?なっ、なんで来ないんですか?目の前にはぎらついた目の血鬼がいるのに…LCBは全滅してる。ヴェルギリウスさんはまだお茶を飲んでて…

その、待ってください。ちょ…嘘ですよね?これ私が相手しないとFATELOSTする奴ですか?嘘…え、マジで言ってます?私が?アレの相手をしろと?なんか運命離脱してません?

 

「あ、あの…チーフ。次の会食奢ってください」

 

「…善処しよう」

 

は、はは。好奇心の代償を支払うのって…もしかして、私?

 





E.G.Oギフト 愛と憎しみの名のもとに・不調和・星の音・マッチの火・冬の残酷さとバラの香りを知るもの・緑の幹・銀河・黄金狂・抜け殻・蒼の傷跡・闇の黄昏を過しもの
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