ちょっと強めのアリサ   作:破裂保護

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三話

Extermination of Geometrical Organ…幾何学的機関の根絶。長ったらしいから、E.G.O。それを握る人の心に反応する武器と鎧。ただ振り回すだけなら簡単だけど、真の力を引き出すのは難しい、そんな武器。

 

E.G.Oからより多くの力を引き出すための方法は、大きく分けて二種類あります。

 

一つは、自身と相性の良い近しい心を持つE.G.Oの心と共感し、その思想と感情を理解してやること。この方法は最善とは言えないけど、才能のない凡人でもできるやり方だからやらざる負えないときがあります。おすすめはしません。

単純に元の自分の考えや想いが幻想体に塗りつぶされていきますからね。それに、この方法で100%の力を引き出すのはよほど頭がイカれていて幻想体そのものみたいな考えを持つ人じゃないと無理ですから、限界があります。

 

もう一つの方法は、自分の自我で屈服させ、認めさせること。ロボトミー良秀さんや赤い霧のやり方がこれですね。自分に自信があるなら、こっちがおすすめです。

自分の考えを飲まれる必要もないし、力も限界まで引き出せる可能性がありますから。ランクの低いE.G.Oなら何とかなるんですけど…失楽園は私のキャパを超えてるから無理でした。

だから、私がこの戦いを乗り越えるためには…白夜の心を理解するしか、ありません。粘るだけなら振り回すだけで大丈夫そうですけど、勝つつもりなら本気を出さないと。

 

「…大丈夫。私はいける」

 

瞼を閉じて、指先を震わして世界に意識を浸していく。心の内側にある境界を踏み越えて、感覚をE.G.Oと混ぜ合わせていく。鐘の音が聴こえる。幻聴でしょうけど。

 

他のE.G.Oと違って、失楽園の声は頭の中で反響して思考の隅から隅まで響き渡るような感じ。自分の言いたいことを一方的に話すだけですから、言い分を理解する必要はありません。神の僕として世界に救いを齎すという使命感に身を任せれば、それで大丈夫。

ただ…奈落に落ち行くかのような私のひとかけらの心を握りしめて手放すことだけはしてはならない。いつかは犯した罪に向き合って、裁きを受ける覚悟をしておかないと。それが失楽園と向き合う方法。

 

「待っててください、ドンキホーテさん。今私が救ってあげますからね…」

 

返事はありません。ただ目の前の血鬼は、唸り声をあげて飛び掛かってくるだけ。とても…哀れですね。私が救ってあげないと可哀想。だから、一旦死にましょうね。

鴻園の君主のように、神の杖を地に叩きつける。虚空から無数の杭と使途の鎌、槍が生み出され、救いを齎すために血鬼の身体中を貫いていく。実体があるのは一時だけですぐ消えますけど、それでも一瞬身動きは止まります。出鼻を挫くには十分。

きっと彼女も困惑してるでしょうね。PALE属性は死そのもので、食らった時の感覚が本当に気持ち悪いから。外傷はないのになぜか身体が弱っていって、どんどん指先から力が抜けてゆき、呼吸はか細くなり、最後には鼓動が止まる。そういうものだから。

 

だけど、まともに串刺しになったはずなのにサンチョちゃんはまだまだ動けそうです。きっと純粋な生命力が強いんでしょうね。おとなしく私に救われてくれればいいのに。

 

半ば反射で半歩身体をずらせば、そこにはもう血の矢が幾本も過ぎ去っていって、気づいた瞬間、眼前には血鬼が迫っている。濁流のように流れ去っていく世界に、身体の動きよりも思考が追い付きません。

右フックからのジャブ三連打を何とか身体を逸らして避け、最後のストレートは杖の切っ先に引っ掛けて受け流す。手の内に血刀が握られ、二、三撃を打ち合った後合間を縫った私のハイキックが彼女を吹き飛ばす。

距離が空けば、また失楽園を地に突き立てて鎌を呼び出し、その命を少しずつ削っていく。そのやり取りを、数度。

 

「畏れてはなりません。私があなたを果てしない渇きから救ってあげますから…動かないでって…私が新世界に導こうとしているのに、どうして逆らうんですか?」

 

杭を生み出し、杖を振りかざす。ランスと失楽園が鍔迫り合って、数度打ち合った後振り返り、E.G.Oに身を任せて床に流す。こじ開けた隙に、手の内で回した勢いのまま石突きで胸を貫いてそれでも止まらない。

空いた傷はすぐに塞がりますし、命を削っているのに堪えてない。嫌になってきました、こんなにしぶといだなんて…

 

「ううぅっめっちゃ食らいついてくるんですけど!」

 

遠距離では分が悪いと判断したのか、徹底的に張り付いてきて突き放す隙がありません。振るわれる無数の拳と二刀、そしてランスを受け流し、弾き返して、避けきれないものは仕方なしに身体で受け止めて、防戦一方。

失楽園は取り回しが悪いんです、一対一の決闘に向いた武器じゃないから、一度受けに回るとかなりきついです…そもそも遠距離武器なんだから、ここまで自衛できてる時点で褒めてほしいんだけど誰もわかってくれません。

 

結局、お互いに決定打がない。サンチョちゃんは血鬼特有の再生力でしぶといし、私も失楽園とギフトのおかげで多少の傷はすぐ塞がります。これは…もしかしたら、とんでもない泥仕合の始まりかもしれません。

勝ちに行くなら…もっと、感応度を上げないと。これ以上?ただでさえ私が私で白夜になりそうなのに?でも、やらないと。私が救ってあげないと。だって私は使徒なんだから。

 

歪み切った考えのままに武器を振るい、失楽園から斬撃を放つ。本来なら白夜が収容されていなければ出せない技を、感応度で無理やり引き出していく。私の境界が溶け落ちていくことを感じて、一線を画しそうになった時に何かに無理やり引き留められる。

感覚だけが先走っていく中で、目の前の血鬼以外にも救うべきものが増えた気がして、数瞬だけちらりと後ろを眺めればもう時計が巻き戻されていました。僅かな安心が胸を下ろして、それでも目の前には救わねばならない者がまだ残っています。

 

「…なんだよ、アイツあんだけに強いなら俺たちがミンチになる必要あったか?最初っから出てきてくれりゃいいじゃねえか」

 

「見・物。ペン持って俺たちを見物してたやつがこうして慌てふためいているさまを見ると…ふぅ、この煙草も悪くない。味が出てくるな」

 

さっきまで物見遊山してる側だったのに今度はされる側になってるんですけど…!案内人さんはいつ来るんですか!?私、負けないにしても勝つにはとんでもなく時間がかかりそうなんですけど!

ううぅっ…たぶん、この状況ならミミックかダ・カーポ辺りを握った方が楽ですよね。ないものねだりをしても仕方ないけど。それでも…やっぱり、きついです!感応度を上げすぎてまともに何も考えられなくなる!

 

徹底的な張り付きと猛攻を何とかさばきつつ、時折失楽園で殴りかかって体勢を整える。半歩でも合間が空けば杭を呼び出して割り込み、E.G.Oの囁くままにまた斬撃を飛ばし、削れゆく命の重さを掌に感じ取る。

けれど、まだ救われていない。どうして素直に私に救済されてくれないんですか?私が歩む道こそ救いの灯なんです。あなたのあらゆる病を治し、あなたを渇きから解放してあげるって…言ってるじゃないですか!?

 

「吾は…皆の母になるべきであるがゆえに…家族たちの、渇きが…」

 

「いいえ。あなたはここでは誰の父母にもなる必要もない…囚人でしかありません」

 

流れゆく視線と圧力を感じて、道を歩むべき人に譲り飛びのく。剣先から発される灼熱を感じて、呑まれ切った自我が振り出しに戻る。同時に感じるべきでない憤りを…胸の内に沈めようとして、それでも喉元から言葉が飛び出しました。

 

「だああああ!!!遅い!何やってるんですかヴェルギリウスさん!あなたが出る流れだったでしょう本来!」

 

私がいなかったらここでダンテ死んでたんですよ!?なんで遅れたんですか!?

 

「…俺が出なくても良い流れだった。結果が変わることがないのなら、もう少しカロンのアイス選びに付き合ってやるべきだろう」

 

あ…あ、あいす?私もう30分くらいはここで粘ってますよ?ふ、ふざけないでくださいアイスでそんなに悩むなんてどうかしてるし赤い視線さんなら全部買ってあげられるでしょっていうかサンチョを何とかした後に買えばいいじゃないですか!!!

 

「はぁぁぁあ!?たががアイス選びだけに私が前に立たたされてるんですか!?もし私が負けてたらどうするんです!」

 

「負けてないだろう」

 

いっ…イライラする!します!!後で絶対ぶん殴ってやる!特色なんか知ったこっちゃありません!それでも今だけは感謝してあげます!楽だから!

 

前と後ろで挟み込むように位置を取って、近距離は案内人さんに任せて使途の杭を召喚し続けます。これこそ失楽園のあるべき使い方ですよね、誰かに前を任せてひたすら串刺しにしてあげるべきでしょう。

距離次第では適度に殴りかかってあげるか、斬撃を放つのが得策ですけどね。でも、少しでも動きが止まれば隙をキッチリ刈ってくれる案内人さんがいるから本当に楽!黄昏持ちの職員が隣にいるみたいな安心感があります。

 

元々私のPALE攻撃で相当削れてたのか、案内人さんが出てからはあっさりとサンチョちゃんが崩れ始めましたね。まだ粘ってはいますけど、明らかに手数が足りてないし押され切ってる。

杭で足が止まった隙にサクッと四肢をもぎながら心臓を貫いて、E.G.Oも出さずに瞬殺でした。これ…もっと早く出てきてくれれば私が無駄な苦労をせずに済んだんじゃないですか?私の苦労…いります?

 

思わず床にへたり込んで、殴ろうと思ったのに殴る気力も尽きました。視界の端に駆け寄ってくる囚人たちが見えて、だらしないところは見せられないと思いつつ床から立ち上がれません…

 

「つ、疲れました。もう動けません…チーフ、今日の残りはサボらせてください…あと誰かおぶってください…」

 

「あの場を凌ぐには必要だったとはいえ、ALEPHクラスE.G.Oの感応度をあれほどまでに引き上げるのはあまり褒められたことではないが…やはり本社E.G.Oの安定度は素晴らしいな。ともかく、本当に良くやってくれた、今日はもう休むといい。後はマートンと私で引き継ごう」

 

「その…傷はなさそうですけど、良かったです。アリサさんって強いんですね…」

 

サンチョちゃんの方に皆さん駆け寄ると思ってたんですけど、意外と私のことを気遣ってくれてますね。ちょっと嬉しいかも。

 

「あ…はは、まあ、ALEPH背負ってこれくらいはできなかったらランクV職員の名折れですからね…」

 

疲れることは疲れましたけど、それでも赤い霧や調律者と戦った経験がある分、全然マシでしたね…緊張感が全然違うというか。気を抜いたら即やられるって感覚がありませんでした。

 

「取り合えず、ヴェルギリウスさんと一緒にお茶でも飲みに行きます…お疲れさまでした。それと、チーフ。戻ってくるって信じてますからね」

 

顔は…あえて、見たくありませんでした。私がアリサだけど、アリサじゃない以上。流れが変わってチーフが大罪になる可能性が捨てきれなかったから。それでも口に出すことで心持ちが楽になった気がします。

疲れ切った私と、全然余裕そうなヴェルギリウスさんが並んで歩くとなんだか私だけ惨めな気持ちになりつつも…未だ眠るドンキホーテさんの無事を祈って、ただ去りました。少しお茶を飲んだら、チーフがねじれるところを見守らないとですね。

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