ちょっと強めのアリサ   作:破裂保護

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四話

意外なことに、LCE部署には談話室があります。皆勤勉ですから、研究中は碌に使われてるのを見たことがありません。私はよくサボりに使わせてもらってるんですけどね。

ソファも柔らかいしおやつも支給されてるのに、どうして誰も使わないんだろう…実質チーフとその補助研究員の専用部屋みたいになってます。

 

ともかく、ヴェルギリウスさんが隣にいると圧がやばいですね…って思いながら少しだけお茶と食べ残したケーキをつまんで、一息つきました。

 

「その、ヴェルギリウスさん。結局どうして遅れたんですか?アイス選び…は嘘でもないと思うんですけど、ヴェルギリウスさんが管理人の存続が掛かった場面で他人に流れを委ねるような人間だとは思えなくて」

 

僅かな沈黙の後、ソファに座ったままヴェルギリウスさんはゆっくりと口を開きました。これは…言葉を選んでる感じですね。本当に目を合わせたくないですけど、それでも礼儀なので顔は伺っておきます。

 

「囚人三番の件に関しては、申し訳ありませんでした。アリサさん。私もすぐ出ようとしたのですが…LCAのお偉いさんに引き留められまして。現場のLCEが何とかするから、暫く様子を見ていろと」

 

LCAの…偉い人ですか?え、えぇ~、なんだか急にきな臭くなりましたね。どうしてヴェルギリウスさんを引き留めてまで…いや、私をサンチョちゃんと戦わせる理由があったってことですか?

最終的にヴェルギリウスさんが始末をつけた以上、結果は変わってないと思うんですけど、私がどれだけやれるかのデータが欲しかったとか?それとも…もしかして、私のこと殺そうとしようとしてます?ただの早とちりかもしれませんけど。

 

「そうですか。別にLCEだけでも何とかなりそうだったのは事実ですけど…やっぱり上からの印象が良くないってことですよね。どうしようかな…」

 

こいつ研究員にしてはいざという時強すぎてめんどくさいな…って上層部には思われてるはずです。特に九章関連で。

 

下手にリアンさんとかカリストさんをぶっ殺してしまうと運命がぐちゃぐちゃになって黄金の枝も共鳴しないし、シンクレア君の覚醒フラグもへし折ることになって勝ったのにFATELOSTする…ってことが起こりえますから。

だから、今のうちにサンチョちゃんと戦って事故死あるいは長期入院してくれたら蜘蛛の巣の襲撃がやりやすいとか…そんな風に考えたのかな。でも、囚人たちの心象を下げてまでやることかなあ、自分でも理論が飛躍しすぎてる感はあります。

何もわかりませんね。情報が足りていないのなら、おいおい考えましょう。…この思考の打ち切り方、研究員としては失格なんでしょうね。ロボトミーで生き残るには都合がいいんですけど。

 

「上の連中が何を企んでいるのか…はぁ、俺はともかく、アリサさんは念頭に置いておくべきでしょう。あなたなら自分の命は十分守れるとは思いますが…周りもそうとは限りませんので」

 

ううぅっ…ヴェルギリウスさんに直で言われるとかなり怖いんですけど…いや、気を遣ってくれてるのはわかってるんです、特色に言われるとただの警句も重みが増しますから…

 

「この会社にいる以上、代表の生み出す巨大な流れに飲み込まれてそのうち爪弾きにされそうですよね…。ヴェルギリウスさんは契約がある以上、暫くは持つでしょうけど私はそういうのないですから…」

 

見事な出オチをかましたウアジェトを鑑みるに、蜘蛛の巣襲撃日の私は何らかの理由で失楽園を着ていないか休暇を取らされてそうですよね。

失楽園ならリアンさんと戦っても何とかなりそうですけど、紅炎殺ならたぶん負けて胸にゼノンぶっさされそうですし…普通に死んじゃうかもしれませんね。

 

やっぱりこの会社胡散臭すぎる上に人間の命が軽すぎます。もういっそのこと、図書館に夜逃げするかN社にでも転職しようかな…いや、意味のない考えでしたね。皆を生かすのは無理でも、マートンさんには生きててほしいです。

 

別に、死んじゃっても大して機微も動かないだろうし、心にも波風一つ立つことはないでしょうけど。ギフトが付きすぎたせいで、感情がちょっと薄くなった気がするんですよね。チーフが死んだら、少し驚くくらいかな。

L社で長く生き残っていると、段々と感情が摩耗してきて鈍くなるんですよね。ランクV職員なんて皆そんなものですけど。でも…同僚が死ぬ前提で毎日を過ごしたくないなぁ。本当に、嫌になります…

 

「「はぁ…」」

 

二人で憂いが重なったのか、溜め息も重なって妙に一体感があります。

同情…されてるんですかね、案内人さんは案内人さんで大変でしょうけど、こちらも上の都合次第でいつでも切り捨てられますから…ほんとクソですねこの会社。わかってて入社したからまだ耐えられますけど。

 

「…教えてくれてありがとうございました。私はそろそろ仕事に戻りますね…あんまり道草を食べてるとチーフに叱られそうですから」

 

一日休んでいてもいいとは言われましたけど、まあ、別に仕事はできますから。真面目である必要はないんですけどね…でも、今日はチーフがねじれになる日ですから見届けないと。

まだちょっと体に倦怠感が残ってる気がしますけど、ぺこりとお辞儀だけしたら、談話室を離れました。

 

取り合えず、囚人の戦闘力ランキングをつける下りも見ておきたかったんですけど…もうモノリス稼働してますね。ポータルも開いてますし、どうしよう、チーフがねじれになるところ見逃しちゃいました。これ今から私が中に入っちゃだめですかね?

まあ…大罪になってないだけで大当たり、やっと胸がほっと降りた気がします。少し逸脱したけど、LCBの流れはまだ大筋を通ってるってことですから。あーよかった、態々チーフの黒歴史ファイルを削除せずに済みました。

 

「戻って来られたんですね、アリサさん。もう少し休んでいても…いえ、やっぱりチーフが心配ですよね」

 

「どーもマートンさん、別に心配はしてませんけど、知り合いがねじれるところは初めてですからちょっと気になったってだけです」

 

心象鏡ダンジョンの中でわちゃわちゃチーフをぶん殴ってるのはわかるんですけど…ポータル越しだといまいちよくわかりませんね、私が来る前から結構戦ってたのかお互いボロボロに見えます。

ねじれたチーフが頭からレーザー飛ばしてるの、結構絵面が凄いですね。私、赤の便利屋の置き土産レーザーに焼かれてクソ痛かった記憶があるから、レーザーは嫌いなんですけど…囚人たちは上手く搔い潜ったみたいです。

ポータルが軋んでるのを見るにもう終わったのかな。なんか見覚えがあるような、チーフの心象風景がぼんやり鏡面越しに浮かんで…支部が崩れ落ちてくる地響きが、微かに外にも伝わってきます。

心象鏡ダンジョンが少しずつ消えていって…囚人たちとチーフが、無事に立っていました。本当にすぐ終わっちゃった。

 

「無事戻って来られたな」

 

ねじれた人が元に戻ると大体気絶してるって聞く割にはピンピンしてますね、チーフ。私に5レベル負けてるくせに意外とたくましい…

 

「お帰りなさい、チーフ」

「もっと堪えてるかと思いましたけど、意外と元気そうですね、チーフ。お疲れさまでした」

 

やっぱりチーフの願望とトラウマは、私が変わってもそのままだったみたいです。ヒースクリフ君のような人になりたかったのだ、って言ってますから。

妙な嫌味とか人の神経を逆なでする口調とか、人として嫌われる素養は十分ですけど…それでも、私はチーフのこと、まあまあ好きですよ。数字遊びよりも可能性と浪漫に生きる選択っていうのは、誰にでもできることではありませんから。

 

そんなこんなで最後の検診も無事に失敗したことですし、これでLCBとはお別れですか。せっかく囚人たちに会えたのに、すぐ終わっちゃいましたね、定期検診。まだ名残惜しい気もしますけど、あんまり長く関わってると未練が増しそうです。

 

「いつか…また会えますよね?」

 

だからお別れの挨拶だけして、手を振ってそれでおしまい。ポータルの向こう側に去り行く囚人たちと、案内人さんとカロンちゃんの後姿を見ると…やっぱり、寂しいです。短い間だけど、楽しかったな。

次合う時は蜘蛛の巣襲撃日って考えると…はぁ、まだ先の話なのに、もう嫌になってきました。上の陰謀を防がなきゃ同僚が死ぬのに、陰謀を防ぐと運命離脱するっていう…あの、私詰んでませんか?

 




紅炎殺だと絶望ロージャくらいの強さです ディアスは頭抱えてる
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