ちょっと強めのアリサ   作:破裂保護

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六話

 

「のど…乾いた…」

 

思い浮かぶのは波の光景ばかり。海の上の果てしない孤独と、隔離室で回る無機質なファンの音。

 

「ウェルチアース、飲みたい…だめ、今度は飲まないって、決めたのに」

 

私が見ているもの、聴こえているもの。感じている甘ったるいブドウの臭いすら、全部が幻であることはよくわかっています。

E.G.Oの感応度を限界まで引き上げて…更に、望を二つも編んだから、精神力を削り過ぎたんでしょう。土に埋めておいたトラウマが掘り起こされて、理性的な私は頭の片隅に追いやられて、追い詰められているだけ。

少しでも多くの人を救うためなら…私は、今ここで立ち止まってないで、誰か一人でも親方を足止めしなきゃいけない。そうしなきゃならないのに…私は、立ち上がることができませんでした。

 

今、海原の地平線の向こう側に何か見えた気がします…船かな、それとも鯨かな。誰かがずっと話しかけてきて…すごく、懐かしい。ボンボン、ダコタ、スローランター…昔死んだユミの声までします。私、福祉チームに戻っちゃったのかな。

ユミがいれば、きっと月光でガシガシ殴ってくれたのかな。エンケファリンでもコーヒーでも何でもいいから、何か口にしたら作業に戻らないと…でも、管理人は何も指示をくれません…

 

ああ…私って、人間なのかな。アブノーマリティも結局、人間と魂を共有する存在で…ギフトも、沢山ついてるから、むしろ幻想体に近いんだろうな…

観測日誌を書くのがめんどくさすぎますね…新しい幻想体が出てくるたびに、いつも回されるんですよね。初日雇用とはいえ、ロボトミーの報告書の殆どを私が書かされてる気がするんですけど。

ロボトミーで仲間を作る意味なんかないんです。でも仲間がいないと耐えられないから、いつ失うかもわからない繋がりに縋るしかなくてそれが怖くて…

 

もしかしたら、あの時燃え尽きたのは私の身体じゃなくて、精神力だったのかも。灰に変わってしまえばそれ以上燃える物もなくなってしまうから。

パニックになってないだけ、マシなんでしょうね。私はシャットダウン性だから…より、状況が悪化してただろうな。今より最悪な状況なんて、ないだろうけど。

 

明日は何人死んで、何人新人が入ってくるんでしょうね。私は初日雇用だから、ロボトミーの職員は全員私の後輩ってことになります。

教育チームにいた期間も長かったから名前も顔も覚えてあげないと…でも、どうせ皆死ぬのに誰かを育てたり覚えてあげることに何の意味があるのかな…

 

「アリサさん!アリサさん!!!しっかりしてください!!!」

 

たまに、長い眠りから覚めた感じがします。ロボトミーに長くいると、自分が今生きているのか、死んでいるかすら曖昧になって、どこに立っているのかわからなくなります。

ずっと眠っていられればいいのに…でも、守るべき立場とか後輩とか、私にしかできない仕事があるから縛られているんですよね…もういっそ、死んだら楽になるのかな。でも、きっとTT2で巻き戻されて、死のうにも終われないだろうな…

 

「おい、こういう時こそぶん殴って正気を取り戻させるときじゃねえか?何言っても聞いてなさそうだしよ」

 

「うむ…。アリサ君の正気を取り戻すためには…致し方あるまい」

 

人間らしさってなんでしょうか…殻は所詮殻にすぎないなら、私がアリサである意味ってないのかもしれません。

目に見える物の先を見つめいっっったい!!!ちょっ…やめ…!一回で十分ですから!!!何回も殴らないで!!!

 

「待って待ってもういいです!!!私正気に戻りました!!!」

 

本当に容赦ないですね、この勢いで殴られたら誰だって嫌でも正気に戻りますよ。まだ頬がちょっとひりひりします…

 

「…大丈夫ですか?立ち上がれそうですか?目立った外傷はなさそうですけど…アリサさんが正気を失うほどのことって、一体…」

「何があったんだ?」

 

私、LCBが来るまでの間、ずっと倒れてたんですね。我ながら情けないですね…まだ休みたい気持ちはあるけど、取り合えず状況を説明してあげないと。何も、わからないだろうから。

 

「取り合えず、状況を説明しますね。見ての通りLCEが襲撃されました。順を追って説明すると…まず初めに、灯りが消えました。警告音はなりませんでしたから、誰も警戒しなかったんです。ちょうど電力を食う実験をやっているって、チーフがぼやいてましたから…皆、自然と復旧すると思ったんでしょうね。その直後…肉が千切れる音を境に、終わりのない阿鼻叫喚が続きました。誰も…反応できませんでした。私は、昔本社で脱走すると灯りが消える幻想体を管理していたから、すぐに武器を取る習慣がついていたんです…」

 

「明らかに計画的な襲撃だったと言わざるを得ないな。襲撃者の正体はわかるか?それがどれくらいで何人ほどだ?」

 

「…私が戦ったのは、人差し指の代行者でした。強さは、靴を脱いだドンキホーテさんくらいだと思います。少なくとも、私の廊下の付近にいた数十名の職員は皆そいつ一人に何もできず殺されました…だけど、他の廊下も壊滅している以上、襲撃者は一人ではないでしょう。闇の中で、一人ずっと戦っていたら…どこかに逃げていきました。その直後、隔離室が強制開放されて、幻想体も大罪も、全部脱走して…私がわかることは、これが全部です。正気を失った理由は、E.G.O感応度を限界まで引き上げたせいです。戦闘が終わったころには、もう立ち上がれなくって…このザマです。笑ってください。何も守れなかった…」

 

守れなかったって、何言ってるんだろう、私。そもそも最初から切り捨てたのに。本気で皆を守りたかったのなら…流れとディアスに逆らって、計画を最初から阻止するべきだったんです。

それをしなかったのは…私が、単にLCEに命を懸けるほどの思い入れがなかったのと、流れが変わるのを恐れたから。切り捨てたものに、どうしてここまで引きずられているんだろう…私、こんなに弱かったかな。

 

「いや、五体満足で生き残っただけでも大したものだろう」

 

「ふむ。ホーエンハイムさんや他の方々とは、一緒にいなかったんですね」

 

そうだ、私…ここで立ち止まってないで、チーフに、会いに行かないと。あの二人だけは、生き残ってほしいんです。でも、おかしな話ですよね。友達が死んでも平気でご飯が食べれるような人間なのに…私は、どうしてそこまで助けたがってるんだろう。

 

「チーフ…チーフは、発表室の近くにいらっしゃたはずです。無事かどうかは…わかりません。それでも、うちのチーフは簡単にやられるような人じゃないです…だから、皆を助けに行ってあげてください…お願いします。道は私が案内しますから、どうか…皆さんの協力が必要です。チーフを助けてあげてください…」

 

「な・さ・立。怪我がないならグズグズしてないで早く進むぞ」

 

良秀さんに腕を引っ張られて、私は否応にも歩かざる負えませんでした。

 

本当に、バスの皆は行動力があって羨ましいですね。何事にも素早く決断して一歩踏み出せるのが、LCBの一番の強みだと思います。割り切ったと思っていたのに、私はまだ過去に囚われてるみたいですから。

立ち上がって、紅炎殺を握りしめて、死体だらけの廊下をどうにか先導していきます。道中幻想体も相当脱走してましたけど…戦闘訓練で相当戦ってたから、効率の良い倒し方は頭に入ってます。そうしてやっと、正気が戻ってきました。

 

妖精提灯は誘惑される前にボコスカ殴りまって、道を失った乗客は片腕だけ集中狙いして、黒檀女王の林檎は足をぶっ壊した後にリンゴを殴りまくります。幻想体鎮圧は私の専門分野です、対人戦よりよっぽどやりやすい。

そんなこんなでわちゃわちゃ連携しながら、大罪と幻想体をなぎ倒しながら進んでいきます。連携も何もお互い好き勝手殴ってるだけ感はありますけど…

 

「そういや、この前とは着てるE.G.O装備が違くねえか?いや、こっちの紅炎殺?ってヤツでもめちゃくちゃ強いけどよ…」

 

「…数日前に、LCAが実験に使いたいからって言ってLCEのE.G.Oを幾つか持ち出していったんです。失楽園ならもっと…いえ、私が未熟なだけですね」

 

「アリサさんのおかげで僕たちすごく楽できてますよね…アリサさんよりE.G.Oを上手く使いこなす人なんて想像できませんよ」

 

うーん…赤い霧なら、紅炎殺でもリアンどころか親方と子方全員なぎ倒してそうですけど。上を知ってしまった以上、自分のE.G.Oの扱いが稚拙に見えてくるんですよね。

E.G.Oに振り回される方向を定めて向けるくらいは、私でもできます。それ以上を超えて潜在能力を限界まで引き出すなんて全くできる気がしません。比べるだけ、無駄かもしれませんけど。

 

そんなこんなで軽く雑談を交わしながら、実験室…いや、放送セクターに向かって足を運んでます。結局一本道だから私の案内なんていらなかったと思いますけど…この隔離壁ディアスがこっそり操作してるんですかね?…待ち遠しいです、早く、会って確かめたいです。でも、なんだか怖くてたまらなくて…それでも、一歩踏み出さないと。

 

「…結局一本道でしたね。なんだか怪しくないですか?」

「放送セクターに繋がる道以外は、全て塞がっていたとみて差し支えない」

「いずれにせよ、ここに来るしかなかったってことか。まあアリサさんがいるなら何が出てこようと何とかなるだろ」

 

なんだか囚人たちからの扱いが案内人さんみたいになってる気がするんですけど…私、そこまで強くないからそんなに頼られても困るんですよね。自分を守れるくらいの力しかないから。

 

「止まれ。もう一歩でも近づいたら即座に武力で対処する。こっちには保安用地雷も戦闘可能な人員もとにかく沢山…」

「待て、今アリサと言ったか?ふむ…取り合えず、入れて差し支えない者たちではあるな。入ってくるがよい」

 

…よかったぁ、チーフ、生きてたんですね。死ぬわけがない人だとは思っていましたけど…やっぱり、実感が湧くと、嬉しくてたまりません。

 

「チーフ!!!マートンさん!!!」

 

自分でも訳の分からない感情に駆られて、思うより先に駆け出していて、扉が開く数秒にも満たない時が遥かに永遠にも感じられて、私は…胸が張り裂けそうなくらい、苦しい。

 

「ふむ、やはり無事であったか」

「…ああ、良かった。本当に、良かった。アリサ…俺、」

 

視界が、潤んできて、ちゃんと二人の顔を見たいのに…なにもみえない。みずっぽくて…しょっぱくて、でも、なぜか嬉しくてたまらないんです。

なんで、泣いてるんだろう…私。二人って、そんなに大事な人だったのかな…

 




アリサちゃんには残念ながら確固たる信念や信条が確立されていないので、メンタルが弱ってもねじれたりE.G.Oを発現させることは難しいでしょう。本家アリサちゃんに負けてる部分。
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