You are my Beginning   作:コンスタンシア

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Episode 1 - 再会 Side:葛城裕也

日本に降り立った瞬間、肌に纏わりつくような湿気が、俺の帰還を無言で告げていた。

ロサンゼルス特有の、あの突き抜けるような青空と乾いた風とは違う。

少し重たくて、どこか懐かしい、アスファルトと緑の匂いが混じった空気。

 

(……帰ってきたんだな)

 

見慣れた、けれど二年という月日の分だけ僅かに形を変えた街並みを歩いていた。

空港から実家へ送った機材やトランクケースが届くのは明日になる。

今の俺にあるのは、商売道具一式を詰め込んだバックパックひとつだけだ。

身軽なはずの足取りが、自然と早くなる。

時差ボケの気だるさはあるはずなのに、胸の奥で燻る高鳴りがそれを打ち消していた。

この坂を登り切れば、実家はすぐそこだ。

そして、その数軒先には――彼女の家がある。

 

(ほたる……元気にしてるかな)

 

渡米する前、最後に見た彼女の顔が脳裏をよぎる。

メールや通話で近況は知っているし、写真だって見ている。

けれど、モニター越しのデータと、実際に触れられる距離にいるのとでは、訳が違う。

俺がこの二年間、向こうのスタジオで歯を食いしばってこれたのは、音楽への情熱だけじゃない。

いつか胸を張って、彼女の隣に立つためだ。

日本でも土台を作りたい、なんてそれらしい理由をつけたけれど、本当の理由はもっとシンプルで、少し気恥ずかしいものだった。

 

――まずは真っ先に、彼女に会いに行きたい。

逸る気持ちを抑えきれず、さらに歩調を速めようとした、その時だった。

 

「……?」

 

視界の端、見覚えのある公園の手前で、異質な影が目に入った。

歩道の脇、ガードレールの陰に、誰かがうずくまっている。

最初は捨てられた荷物か何かかと思った。

だが、近づくにつれて、それが人であることがわかる。

ショートヘアの女性は地面に崩れ落ちるようにして動かない。

5月の快晴。日差しは思いのほか強く、コンクリートからの照り返しもきつい。

 

(ただの休憩じゃないな……)

 

嫌な予感が背筋を走る。

俺はバックパックのベルトを握り締め、その影へと駆け寄った。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

声をかけながら、膝をついて目線の高さを合わせる。

返事はない。

ただ、浅く、早い呼吸の音だけが聞こえる。

前髪に隠れて表情はよく見えないが、露出している腕や首筋は、病的なほどに白く、じっとりと冷や汗が滲んでいた。

貧血か、それとも熱中症か。

どちらにせよ、この炎天下に放置しておける状態ではない。

 

「もしもし、聞こえますか? これ、水です。飲めますか?」

 

俺はバックパックのサイドポケットからミネラルウォーターを取り出し、キャップを開けた。

彼女の顔を覗き込むようにして、口元へボトルを差し出す。

彼女はわずかに瞼を震わせ、反応を示した。

震える手がボトルに伸びようとするが、力が入らないようだ。

 

「無理しないで。俺が支えるから」

 

俺は彼女の背に手を回し、上体を少し起こしてやる。

ボトルの縁を唇に当て、ゆっくりと傾ける。

こくり、と小さな音がして、彼女の喉が動いた。

一口、二口。

水分は確かに喉を通った。

だが、それだけだった。

水を飲んだ安堵よりも、身体の芯から力が抜け落ちていくような感覚が、支えている腕を通じて伝わってくる。

呼吸は整うどころか、さらに弱々しくなっていくようにさえ見えた。

意識が混濁しているのかもしれない。

 

(このままじゃ不味い……)

 

水を飲ませた程度で回復する段階じゃない。

まずは体温を下げて、安静にさせないと。

ここから数十メートル先に、木陰のあるベンチが見える。あそこなら、少なくとも直射日光は遮れる。

一刻の猶予もない。

俺は彼女の肩と膝裏に手を回した。

見ず知らずの女性に触れる躊躇いはあったが、緊急事態だ。

それに、思考よりも先に、向こうでの習慣が口をついて出た。

 

「Sorry, I need to move you to the shade! Hang in there!(ごめんね! 日陰まで運ばせてもらうよ)」

 

使い慣れた英語で断りを入れると同時に、俺は彼女の身体を抱きかかえた。

 

(……軽い)

 

華奢な体躯に驚きつつ、俺は慎重に立ち上がる。

腕の中にいる彼女は、抵抗する力もなく、俺の胸に頭を預けてくる。

その瞬間、ふわりと鼻先を掠める匂いがあった。

汗の匂いじゃない。

油絵具のような、独特の……けれど、俺にとっては強烈な既視感を伴う匂い。

記憶の奥底にある扉が、ノックされた気がした。

けれど今は、それを確かめている時間はない。

俺は腕の中の「誰か」を落とさないようしっかりと抱き抱え、公園のベンチを目指して足を速めた。




===キャラクターTips===

■ 主人公・葛城裕也

■ プロフィール
 ・ 誕生日:12/15
 ・ 身長:180cm
 ・ 血液型:O型
 ・ 好物:ハンバーグ、オムライス(子供舌)
 ・ 苦手なもの:激辛系の食べ物
 ・ 特技:ピアノ、タスク管理

■ 人物像
 星川ほたる の幼馴染であり、彼女の想い人。(本人も彼女の事が好き)

 高校3年生の5月に高校を辞めて、1人アメリカのロサンゼルスへ渡米する。
 渡米した理由は『国内で著名な作曲家である母親を追い越すため』
 渡米後はゲームオーディオを専門とするオーディオプロダクションに籍を置いていた。

 2年後の5月にとある理由で日本へ帰国。 
 帰国後は幼馴染である星川ほたると日本での落ち着いた日々を送っている。
 しかし、無職となったわけではなく、外部委託…フリーランスとして今も古巣のスタジオの仕事を受けている。
 
 星川ほたる がフランスへ留学していることを聞いていた為、日本の美術雑誌の他にフランスの美術雑誌を複数購入していた。
 フランス語が分かればもっと楽しくなるのか。と考え、スタジオのフランス人クリエイターにフランス語を2年間習っていた。フランス語チョットデキル。

 星川ほたる とは小学生からご近所さんだった為、幼馴染で家族ぐるみの付き合いをしている。
 日本への帰国理由は、"日本で挑戦をしていきたいから"としているが、本当の理由は "彼女の側に居たいから"
 昔は「ほっとけない女の子」だったが、高校入学時点で彼女への恋心を自覚している。
 しかし、自分の夢もあった手前、彼女を縛ることは出来ないと考え、想いを伝えず日本を発った。
 
 高校3年生の5月に渡米している為、彼女の友人である涼風青葉、桜ねねとは1か月ほどではあるが面識はある。(ほたるが紹介している)
 毎年、1/1に彼女から送られてくる3人の写真で2人が元気でいるという事は知っていた。

 『クリエイターの資本は身体から』という古巣のボスからの激励と、昼休みのバスケで惨敗した経験から体力を付けるようにしている。理由は悔しかったから。
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