You are my Beginning   作:コンスタンシア

10 / 37
Episode 9 - 恋の味

[Side:ほたる]

 

周囲の喧騒が、まるで遠い世界の出来事のように感じる。

目の前には、トレイを置いた裕也くんが座っていて、私と同じ空間でランチを食べている。

それだけのことが、こんなにも特別に思えるなんて。

 

「……でね、今日はなんだか筆の進みがすごく早くて。色使いも、いつもより明るいパステルカラーになったりしてて」

 

私は日替わりのパスタを食べながら、午前中のアトリエでの出来事を夢中で話す。

彼に聞いてほしかった。

私の絵が変わったのは、君のおかげなんだよって。

 

「気持ち次第で色使いやタッチが変わるって言うからね。ほたるが楽しそうに描いていて安心したよ」

 

彼はハンバーグランチを食べながら、私の話をうんうんと頷いて聞いてくれる。

その表情が、あまりにも優しくて。

ふと、彼が箸を止め、私を見てふわりと微笑んだ。

 

「……っ」

 

その笑顔が、心臓を直撃する。

大人の余裕と、昔と変わらない少年のような無邪気さが混ざった、反則級の破壊力。

見惚れてしまって、思考が数秒停止する。

 

(だ、だめ……直視できないっ)

 

顔が熱くなるのを誤魔化すように、私は慌てて視線を泳がせた。

何か、話を変えないと。

私の心臓の音が彼に聞こえてしまいそうだから。

 

「あ、あのね! 向こう……ロサンゼルスでは、お昼ってどんな感じだったの?」

 

唐突な質問に、彼は少し驚いたようだったけれど、すぐに懐かしむような目を細めた。

 

「向こうは自由だったな。食事はサッと済ませて、スタジオの裏でバスケしたり、ボードゲームをしたり」

 

「え、バスケ? お仕事中なのに?」

 

「クリエイティブな職場だからね。息抜きも重要なんだ。少人数のスタジオだったし、みんなでワイワイやってたよ」

 

彼は楽しそうに語る。

そんな彼の顔を見ていると、遠い場所で充実した時間を過ごしてきたことが伝わってくる。

少し寂しいけれど、それ以上に、今の彼を作っている要素を知れることが嬉しかった。

でも……やっぱり。

話している彼の口元が、表情が、どうしても気になってしまう。

さっきの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。

私は無意識のうちに、彼の顔をじっと見つめてしまっていた。

 

===================

[Side:裕也]

 

向こうでの日々を話していると、ふと視線を感じる。

目の前のほたるが、俺の顔――口元あたりをじっと見つめている。

箸が止まっているし、何か言いたげな瞳だ。

 

(……ああ、そういえば)

 

俺は自分のトレイにある、デザートのミニパフェに目を落とした。

甘いものが食べたくなって追加したが、彼女も気になっているのだろうか。

昔から、美味しいものは二人で分け合うのが当たり前だった。

彼女の視線は、無言のおねだりに見えた。

 

「……食べる? これ、美味いよ?」

 

俺はスプーンでパフェのアイスとフルーツをひとすくいすると、自然な動作で彼女の口元へと差し出した。

 

「ほら、ほたる」

 

「え……?」

 

彼女がきょとんとして固まる。

遠慮しているのかな?

俺はスプーンをもう少し近づけて、子供にするように促した。

 

「口、開けて。あーん」

 

===================

[Side:ほたる]

 

思考が真っ白になった。

目の前に差し出されたスプーン。

その上には、美味しそうなバニラアイスとベリー。

そして、向こう側には「食べるだろ?」と言わんばかりの彼の顔。

 

「あ、あーん……」

 

反射的に、口が開いてしまった。

冷たくて甘い塊が、口の中に滑り込んでくる。

美味しい。

すごく美味しいけれど、味なんて正直わからなかった。

だって、これ……。

パクりとスプーンをくわえた瞬間、遅れてやってきた事実に全身が沸騰する。

 

(これ……裕也くんが使ってた、スプーン……!)

 

つまり、間接キス。

しかも、大学の学食で。

大勢の学生がいる中で、「あーん」なんて!

 

「……っ!!」

 

カァァッ、と音が聞こえるくらい、顔が一気に熱くなる。

口の中の甘さが、急激に胸の奥まで広がって、恥ずかしさと嬉しさで爆発しそう。

 

「どう? 甘すぎなかった?」

 

彼は平然と聞いてくる。

無自覚だ。絶対に無自覚でやってる。

それが余計にタチが悪いし、ドキドキさせられる。

 

「お、おいひい……です……」

 

私は真っ赤な顔を両手で覆いながら、消え入りそうな声で答えるのが精一杯だった。

このパフェの味は、一生忘れないと思う。

甘くて、冷たくて、心臓が壊れそうになる、初恋の味がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。