You are my Beginning 作:コンスタンシア
[Side:ほたる]
周囲の喧騒が、まるで遠い世界の出来事のように感じる。
目の前には、トレイを置いた裕也くんが座っていて、私と同じ空間でランチを食べている。
それだけのことが、こんなにも特別に思えるなんて。
「……でね、今日はなんだか筆の進みがすごく早くて。色使いも、いつもより明るいパステルカラーになったりしてて」
私は日替わりのパスタを食べながら、午前中のアトリエでの出来事を夢中で話す。
彼に聞いてほしかった。
私の絵が変わったのは、君のおかげなんだよって。
「気持ち次第で色使いやタッチが変わるって言うからね。ほたるが楽しそうに描いていて安心したよ」
彼はハンバーグランチを食べながら、私の話をうんうんと頷いて聞いてくれる。
その表情が、あまりにも優しくて。
ふと、彼が箸を止め、私を見てふわりと微笑んだ。
「……っ」
その笑顔が、心臓を直撃する。
大人の余裕と、昔と変わらない少年のような無邪気さが混ざった、反則級の破壊力。
見惚れてしまって、思考が数秒停止する。
(だ、だめ……直視できないっ)
顔が熱くなるのを誤魔化すように、私は慌てて視線を泳がせた。
何か、話を変えないと。
私の心臓の音が彼に聞こえてしまいそうだから。
「あ、あのね! 向こう……ロサンゼルスでは、お昼ってどんな感じだったの?」
唐突な質問に、彼は少し驚いたようだったけれど、すぐに懐かしむような目を細めた。
「向こうは自由だったな。食事はサッと済ませて、スタジオの裏でバスケしたり、ボードゲームをしたり」
「え、バスケ? お仕事中なのに?」
「クリエイティブな職場だからね。息抜きも重要なんだ。少人数のスタジオだったし、みんなでワイワイやってたよ」
彼は楽しそうに語る。
そんな彼の顔を見ていると、遠い場所で充実した時間を過ごしてきたことが伝わってくる。
少し寂しいけれど、それ以上に、今の彼を作っている要素を知れることが嬉しかった。
でも……やっぱり。
話している彼の口元が、表情が、どうしても気になってしまう。
さっきの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
私は無意識のうちに、彼の顔をじっと見つめてしまっていた。
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[Side:裕也]
向こうでの日々を話していると、ふと視線を感じる。
目の前のほたるが、俺の顔――口元あたりをじっと見つめている。
箸が止まっているし、何か言いたげな瞳だ。
(……ああ、そういえば)
俺は自分のトレイにある、デザートのミニパフェに目を落とした。
甘いものが食べたくなって追加したが、彼女も気になっているのだろうか。
昔から、美味しいものは二人で分け合うのが当たり前だった。
彼女の視線は、無言のおねだりに見えた。
「……食べる? これ、美味いよ?」
俺はスプーンでパフェのアイスとフルーツをひとすくいすると、自然な動作で彼女の口元へと差し出した。
「ほら、ほたる」
「え……?」
彼女がきょとんとして固まる。
遠慮しているのかな?
俺はスプーンをもう少し近づけて、子供にするように促した。
「口、開けて。あーん」
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[Side:ほたる]
思考が真っ白になった。
目の前に差し出されたスプーン。
その上には、美味しそうなバニラアイスとベリー。
そして、向こう側には「食べるだろ?」と言わんばかりの彼の顔。
「あ、あーん……」
反射的に、口が開いてしまった。
冷たくて甘い塊が、口の中に滑り込んでくる。
美味しい。
すごく美味しいけれど、味なんて正直わからなかった。
だって、これ……。
パクりとスプーンをくわえた瞬間、遅れてやってきた事実に全身が沸騰する。
(これ……裕也くんが使ってた、スプーン……!)
つまり、間接キス。
しかも、大学の学食で。
大勢の学生がいる中で、「あーん」なんて!
「……っ!!」
カァァッ、と音が聞こえるくらい、顔が一気に熱くなる。
口の中の甘さが、急激に胸の奥まで広がって、恥ずかしさと嬉しさで爆発しそう。
「どう? 甘すぎなかった?」
彼は平然と聞いてくる。
無自覚だ。絶対に無自覚でやってる。
それが余計にタチが悪いし、ドキドキさせられる。
「お、おいひい……です……」
私は真っ赤な顔を両手で覆いながら、消え入りそうな声で答えるのが精一杯だった。
このパフェの味は、一生忘れないと思う。
甘くて、冷たくて、心臓が壊れそうになる、初恋の味がした。