You are my Beginning 作:コンスタンシア
[Side:ほたる]
「ふぅ……」
筆を置き、大きく息を吐き出す。
アトリエの窓から差し込む午後の日差しが、描き上げたばかりのキャンバスを温かく照らしていた。
ここ数日、筆の走りが驚くほどいい。
以前のような迷いや焦りは消え、今はただ、キャンバスに向かう時間が愛おしくてたまらない。
(……よし、今日はここまで)
パレットナイフで余った絵の具を削ぎ落とし、筆洗油の中で筆を泳がせる。
独特の匂いが鼻をくすぐるけれど、私にはそれが落ち着く香りだ。
筆の汚れが溶け出していく様をぼんやりと見つめながら、思考は自然とあの日――彼と大学で過ごした日のことへとスライドしていく。
『また明日も、会える?』
『もちろん』
あの日以来、私たちは毎日のように顔を合わせている。
一緒に親に頼まれた夕飯の買い物に出掛けたり、彼が仕事の合間にふらっと家に来てくれたり。
恋人同士のような、でもまだ少しだけくすぐったい距離感。
(次は……少しだけ抱き着いてみようかな。……なんて)
そんな大胆な妄想をして、一人で顔を赤くしていると、机の上に置いてあったスマホがブブッ、と短く震えた。
「ん……?」
手を拭いて画面を確認すると、ポップなスタンプと共にメッセージが表示されていた。
差出人は、『ねねっち』
『こんにちは、ほたるん! 今度の土曜日だけど予定空いてる? 空いてたらあおっちも誘って一緒に遊ばない?
やっとね、作ってたゲームが完成したんだー! それで2人に遊んで欲しくて……どうかな?』
「えっ……!」
思わず声が出た。
ねねっちがプログラミングの勉強をして、ゲームを作っていることは聞いていた。
でも、まさかもう完成させるなんて。
あおっちはキャラクターデザイナーとして、ねねっちはプログラマーとして。
みんな、それぞれの場所で、自分の「作品」を作り上げている。
(すごい……! 私の友達って、やっぱりすごい!)
自分のことのように胸が熱くなる。
私たち、ジャンルは違うけれど「何かを生み出す」仲間なんだ。
負けてられないな、という心地よい刺激と共に、私はすぐに返信を打ち込んだ。
『うん、大丈夫。空いてるよ! ねねっちのゲーム、すごく楽しみ!』
送信ボタンを押して、カレンダーアプリを開く。
今週の土曜日。予定に『ねねっち・あおっちと遊ぶ』と入力する。
ふと、また彼の顔が浮かんだ。
このことを裕也くんに話したら、どんな顔をするだろう。
「きっと、『桜さん、本当に作ったの!? すごい行動力だな』ってビックリするだろうな……ふふっ」
彼の驚く顔と、その後に浮かべるであろう優しい賞賛の笑顔を想像して、私はクスクスと笑った。
嬉しいニュースがあると、真っ先に彼に伝えたくなる。
それが今の私にとって、何より幸せな「変化」だった。