You are my Beginning   作:コンスタンシア

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Episode 20 - 事態急変

[Side:裕也]

 

俺の仕事に関する話題でひとしきり盛り上がった後、場の空気は穏やかなものに戻った。

いよいよ、今日の本来の目的である「桜ねね作・自作ゲーム」の試遊会が始まる。

テーブルの上にはノートPCが広げられ、『NENE QUEST』というタイトル画面が表示されていた。

 

「じゃあ、いくよ! ニューゲーム!」

 

涼風さんがエンターキーを押すと、軽快なBGMと共にゲームがスタートする。

 

「すごい……ねねっち、本当に動いてる! これ全部一人で作ったの?」

 

「えへへ、頑張ったんだよ。あおっちやほたるんに遊んでもらいたくて!」

 

「ふふ、プレイヤー第一号なんて嬉しいな」

 

「あ、葛城くんもやる?」

 

涼風さんがコントローラーをこちらに差し出してくる。

俺は少しだけ申し訳なく思いつつも、手を振って遠慮した。

 

「……まずは、3人で楽しみなよ。桜さんも3人目の知恵は想定していない筈だしね?」

 

「むぅ、確かにそうかも。変なバグが出たら怖いし……」

 

「それに、俺がやるとデバッグモードみたいな挙動になっちゃうかもしれないからさ」

 

涼風さんからの誘いを "想定人数過多" というもっともらしい理由で打ち返す。

3人の時間を大切にしてあげたい……というのも本音だが、本当の理由は別にある。

実は俺、昔からこの手のゲームへの適性が高すぎて、初見でも最適解を見つけて直ぐにクリアしてしまうのだ。

一生懸命作ったゲームを、ものの数分で「クリアしちゃった」なんて空気の読めない行動は、クリエイターの端くれとして絶対に避けたい。

 

涼風さんとほたるが、二人であーだこーだと意見を出し合い、ようやくステージを攻略した様子を眺めながら、俺はアイスティーを口する。

その時、テーブルに置いてあった涼風さんのスマートフォンが、ブブブと断続的な振動音を立てた。

 

「ん? 社内チャット? 誰だろ? ……え!? 八神さん!?」

 

画面を見た涼風さんの表情が引き締まる。

八神コウ。

彼女が尊敬してやまない上司であり、キャラクターデザインの師匠らしい。

涼風さんはメッセージを食い入るように読んでいる。

 

「あおっち……? 八神さん……なんだって?」

 

横から桜さんが心配そうに覗き込む。

涼風さんは困ったように眉を下げ、画面から顔を上げた。

 

「えーと……私たちに直接関係はないみたいなんだけど……」

 

彼女は少し言い淀んでから、状況を説明した。

 

「……今日この後、会社で作ってるゲームの音楽をレコーディングする予定らしいんだけど……作曲家さんに確認したいことを連絡したら、全然連絡が返ってこなくて困ってるみたい……」

 

そんな内容を聞いていると、今度は俺のポケットの中でスマートフォンが震えた。

また涼風さんの追加連絡かと思ったが、違う。俺のスマホだ。

画面を確認すると、着信元には『父親』の文字が表示されている。

 

「? 父さんから? なんだろ……」

 

普段、この時間に連絡してくることは珍しい。

俺は少し胸騒ぎを覚えながら通話ボタンを押した。

 

「もしもし、父さん? どうしたの?」

 

『裕也か? ……すまない、急に。実は、母さんが先ほど収録の帰りに倒れてな……』

 

「は? 母さんが倒れた?」

 

俺の出した言葉に、その場に居た3人の動きがピタリと止まる。

特にほたるの瞳には、俺と同じ動揺の色が広がっているのが見えた。

 

「母さんは……大丈夫なのか?」

 

『あぁ、その収録には私も一緒に同行していたから、直ぐに母さんを病院に搬送できた。医者が言うには "過労" だそうだ。今は点滴をしてもらって、睡眠不足もあったんだろうな、眠っているよ』

 

受話器の向こうから聞こえる父さんの声も、少し疲れているように聞こえる。

 

「過労……まぁ、確かに最近仕事を頼まれ過ぎてた傾向があったね。断れない性格はクリエイターとして危険だなって感じてはいたよ。……けど、一旦無事でよかった」

 

俺が息を吐きながらそう言うと、固唾を呑んで見守っていた3人からも安堵のため息が漏れた。

 

「「よかった……」」

「うん。おばさんが無事でよかった」

 

"母親が無事だった" という事実を俺の口から聞けたからなのか、先ほどまで身体を強張らせていた3人の力がフッと抜けるのを感じた。

 

『裕也? 今は誰かと一緒かい?』

 

「ん? あぁ、今日はちょっと予定の変更もあって、ほたるや高校の頃の友人たちと一緒だよ」

 

『……それは悪い事をした……』

 

「いやいや、緊急時だから良いよ。帰る時に何か果物でも買っていくよ」

 

『すまないな、心配かけてしまって。……しかし、母さん今日はもう1件別の収録があってだな……母さんの事ももちろん心配だが、私が無断で彼女の仕事に穴をあけるわけにもいかなくてな……裕也……少し知恵を貸してくれないか?』

 

「父さん、変なところで真面目過ぎ……」

 

俺は額に手を当てた。

妻が倒れた時くらい、仕事を放り投げても誰も文句は言わないだろうに。

 

「知恵を貸してくれって言っても、この場合バラすしかない気がするけど……別日の振り替えは……って、そもそも母さんが倒れてるから、暫くはスケジュール入れない方がいいのか……」

 

『あぁ……。そのクライアントもα版を盤石なモノにしたいらしく……開発もひっ迫しているそうだ……』

 

「んー、ゲーム会社らしいといえばらしいけど……」

 

(ん? まてよ?)

 

父親とそんなやりとりをしていた時、ふと、涼風さんの先ほどの言葉が蘇った。

涼風さんの会社は "イーグルジャンプ"。そして、今日これからの収録で作曲家と連絡が取れていないと言っていた。

ウチの母親である "葛城明菜" が主に担当しているのも、"イーグルジャンプ" を含む、"芳文堂" のタイトルが圧倒的に多い……。

このカフェのテラス席が自分たちだけなのが幸いだった。周りに他の人が居ないことを確認し、父に尋ねる。

 

「父さん。そのこれから収録の案件って…… "イーグルジャンプ" 関連だったりする?」

 

「「え?」」

 

俺の発した予想外の言葉に、桜さんと涼風さんが二人同時に声を上げた。

 

『あぁ、そうだ。イーグルジャンプの開発中のタイトルで名前は……』

 

「あ、あの! もしかして "PECO" …じゃないですか?」

 

電話口から漏れた微かな音を聞き取ったのか、それとも状況から察したのか、涼風さんが身を乗り出して反応する。

 

『あぁ、うん。たしかに "PECO" という名前で契約書も確認しているよ。……ん? でもなぜ、そこのお嬢さん? が知っているんだい?』

 

「彼女……涼風さんはイーグルジャンプの社員だよ」

 

「はい! ……あと、上司と一緒にPECOのキャラクターデザインを担当させてもらってます」

 

『……ッ。 なんと……』

 

向こうで父親が息をのんで、少し考えこむ気配が伝わってきた。

数秒の沈黙の後、父さんの声色が、保護者のものから仕事人のものへと変わる。

 

『……裕也。楽曲制作における "葛城明菜" の癖は、どの程度把握してる?』

 

「……そう言うと思ったよ」

 

俺はニヤリと口角を上げた。

 

「向こうに居ても欠かさずチェックはしていたからね…大丈夫。母さんの癖、して欲しい事、やりたい事。全部把握できてるよ……伊達に、母さんの息子やってないって」

 

『……いっきに逞しくなったな…ダニエルの所にお前を託して正解だったよ……じゃあ、裕也。お願いできるか? クライアントには私が連絡しておく』

 

「もちろん。 "葛城明菜" の代打、受けて立つよ」

 

===============

 

父親との電話を切ると、俺は3人に向き直る。

何がどうなっているのかわからない、という顔をしている桜さんと涼風さん。

俺はどこから説明しようか……と悩んでいると、ほたるが助け舟を出してくれた。

 

「まずは、おばさんが無事でよかった……。そして、あおっち、ねねっち。裕也くんのお母さんの名前は『葛城明菜』さんって言うの……どこかで聞き覚えは無い?」

 

「かつらぎ……あきな……あ! フェアリーズストーリーの作曲家の人! 確か、今回のPECOも葛城さんにお願いするって、遠山さんとしずくさんが言ってた!」

 

(これで確信に変わったな……)

 

「涼風さん、ありがとう。その情報で確信することができたよ」

「じゃあ、ここは俺が出すから、収録に遅れちゃう前に行こうか」

 

丁度良いタイミングで、父さんから収録するスタジオの住所がメッセージで送られてくる。

(メッセージで送ってこなくとも、葛城明菜が使うスタジオは1つしかないんだけどな……)

 

俺はそのメッセージを見て苦笑しながら、財布を取り出した。

 

「ごめん、桜さん。今日、これからの予定は今度でも良いかな?」

 

「え!? う、うん。私は全然問題ないけど……」

 

急に話を振られたからか、桜さんは一瞬ビクッと震わせた後、大きく頷いてくれた。

 

「ありがとう。じゃあ、行きますか」

 

俺は伝票を掴み、 "父さんのスタジオ" へ向かうべく席を立った。

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