You are my Beginning   作:コンスタンシア

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Episode 26 - 告白と二人の関係

[Side:裕也]

 

1日中水族館を回って、夢のように楽しかった時間は、少しずつ終わりを迎えようとしていた。

夕方。閉館時間を知らせるアナウンスを聞きながら外に出た私たちは、島の反対側にある海辺のスポットを二人で歩く。

 

「……」

「……」

 

2人揃って、会話はない。

けれど、それは一昨日までの不安で押しつぶされそうな "気まずい沈黙" ではなく、お互いの体温や呼吸を感じ合い、気持ちが通じ合っているかのような……そんな "心地の良い沈黙" だった。

沈みかけた夕日が、海面をオレンジ色に染め上げている。

波打ち際からは、優しく穏やかなさざ波の音が聴こえていた。

 

(…私はもう、逃げない。 今ここで、君に "好き" って言うんだ)

 

決意を胸に、私は彼の腕に回していた手をそっと放した。

そして、少しだけ前を歩いてから、彼の方へ振り返る。

夕日を背にしているから、私の顔は逆光で少し見えにくいかもしれない。それでも、真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。

 

「裕也くん、今日はありがとう。 それから、私ね……」

 

「ほたる。待って!」

 

その続きの言葉を言おうとした時。

彼が少しばかり大きな声を出して、私の言葉を制止した。

 

(――え……?)

 

私の時間が、ピタリと止まる。

……待って? ……って、どういう事?

 

(……勘違い……だった? ……早すぎた……? ……迷惑……だった……?)

 

彼の拒絶の意図を探してしまい、冷たい黒い感情が頭の中を急速に埋め尽くしていく。

息の仕方を忘れそうになった。

けれど、そんな私の恐怖と心配は、続く彼の言葉で杞憂に終わる。

 

「君の覚悟を遮ってごめん。 けど、"君が言おうとしていた言葉" は、男である俺から言わせてほしい」

 

(――あ……)

 

彼が私に何を伝えたいのか。

何を、私より先に言わせて欲しかったのか。

それが分かってしまい、止まりかけていた心臓が、今度は破裂しそうなほど早く鼓動を打ち始めた。

 

(――なんだ……なんだ、君も同じ気持ちだったんだね……わたしの、私の勘違いじゃなくて……良かった)

 

安堵と喜びで、目頭が熱くなる。

 

「うん、わかった。 裕也くん……君の言葉を聞かせて?」

 

私は溢れそうになる涙をこらえ、静かに彼の瞳を見据え、彼の言葉を待った。

 

===================

[Side:裕也]

 

波打ち際から、規則正しいさざ波の音が返ってくる。

まるで世界に2人しかいないかのような、静寂で穏やかな空間。

その静寂を破る様に、彼女は微かに潤んだ瞳で、けれど何かを強く決意した瞳で俺を見据えて言葉を紡ぎ始めた。

 

『裕也くん、今日はありがとう。 それから、私ね……』

 

――その先の言葉は、痛いほど分かってしまう。

分かってしまうからこそ、"俺から彼女に伝えたかった"。

 

「ほたる。待って!」

 

俺が思わず強い口調で制止すると、彼女は時が止まったかの様な表情をした。

そして次の瞬間、その大きな瞳に "絶望" の色が垣間見えた。

しまった、と思った。言葉を遮られたことで、拒絶されたと勘違いさせてしまった。

 

(違う。 俺は君を拒みたかったんじゃない)

 

「君の覚悟を遮ってごめん。けど、"君が言おうとしていた言葉" は、男である俺から言わせてほしい」

 

手が微かに震えていて、今にも崩れ落ちそうな彼女に向かって、安心させるように言葉を紡ぐ。

 

――きっと、俺が伝えたい事と、彼女が伝えようとしてくれた事は "同じ意味" だから。

 

「うん、わかった。 裕也くん……君の言葉を聞かせて?」

 

彼女はホッとしたように微笑むと、真っすぐに俺の瞳を見据えてくれた。

俺は小さく一息吐くと、彼女の瞳を真正面から見据えながら、ずっと胸の奥に秘めていた言葉を紡ぐ。

 

「星川ほたる さん」

 

「……はい」

 

「貴方の事が、ずっと……ずっと好きでした」

 

夕風に言葉がさらわれないよう、はっきりと。

 

「高校の頃に君の事が好きだと自覚して、けれど君を縛りたくないと思って、幼馴染の距離感に甘えてしまっていた……」

 

「……」

 

彼女は何も言わず、静かに俺の言葉に耳を傾けてくれている。

 

「けど、そんな関係はもう終わりにしたい。 俺は君と新しい関係でこれからを一緒に歩いて行きたいんだ」

 

「……貴方の事が大好きです。 だから、俺と付き合って頂けませんか?」

 

彼女の潤んだ瞳を見つめながら、俺は全ての想いを言葉に乗せた。

 

===================

[Side:ほたる]

 

『星川ほたるさん』

 

彼が私の名前を呼ぶ。

私が大好きな、少しだけ低めの声色と優しいトーン。

 

「……はい」

 

『貴方の事が、ずっと……ずっと好きでした』

 

(うん。私もずっと……ずっと好きだったよ?)

 

『けれど君を縛りたくないと思って、幼馴染の距離感に甘えてしまっていた……』

 

彼の痛切な告白に、私は心の中でくすりと笑ってしまった。

 

(ふふっ、やっぱり私たち、似た者同士……だったんだね)

 

お互いを大切にし過ぎていたが故に、相手の未来を縛るのが怖くて踏み出せなかった。

そんな臆病で、不器用な関係。

でも、もうそれも終わりだ。

 

『俺は君と新しい関係でこれからを一緒に歩いて行きたいんだ』

 

そんな彼の言葉に、嬉しさと愛おしさが溢れて止まらない。

 

『貴方の事が大好きです。 だから、俺と付き合って頂けませんか?』

 

彼が紡いだ言葉。

私がずっと望んでいて、そして、私が今日必ず伝えようと思っていた言葉。

私は震えた声で答える。

悲しいんじゃない。嬉しくて……嬉しすぎて、涙が止まらないんだ。

 

「……ッ……はい。 わたしも裕也くん……貴方の事がずっと、ずっと好きでした」

 

涙でぼやける視界の中、私は彼に向かって精一杯の想いを返す。

 

「だから、私を……幼馴染なんかじゃなくて、君の……ううん、君だけの『特別』に……恋人にしてください」

 

私はそう返事をするのと同時に、たまらなくなって彼の胸に飛び込んだ。

トン、と軽い衝撃を受け止めた彼は、私を優しく抱き留め、強い力で抱きしめてくれた。

彼の心臓の音が、私の耳に心地よく響く。

 

(もう、我慢しなくていい……もう、引け目を感じなくてもいいんだ……)

(君の心が、気持ちがちゃんと伝わった。 私の心も、気持ちをちゃんと伝えることが出来た)

 

彼に包み込まれるこの温かさが、何よりも幸せだった。

 

(ありがとう、裕也くん。 大好き)

 

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[Side:裕也]

 

腕の中にすっぽりと収まっている彼女。

夕暮れの海辺で、俺たちはしばらくの間、無言で抱きしめ合っていた。

すると、彼女が腕の中で少しだけ顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見上げながら、とんでもないことを言ってきた。

 

「ねぇ、裕也くん。 ……キス……しよ?」

 

「ッ……」

 

(いきなり、それは反則だって……)

 

真っ赤な顔で、背伸びをするように見上げてくる彼女。

そんな彼女のあまりにも可愛いおねだりに、思わずニヤけそうになるのを必死に抑え込む。

断る理由なんて、あるはずがない。

 

「あぁ、丁度俺もしたいって思ってた」

 

彼女の言葉に、心からの喜びをもって応えた。

 

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[Side:ほたる]

 

『あぁ、丁度俺もしたいって思ってた』

 

彼が少しだけ声を上擦らせて答える。

 

(ふふっ、裕也くん。 顔に "それは反則" って書いてあるよ?)

 

いつも大人ぶっている彼の、照れ隠しのようなその反応が可愛くて、私は涙ぐんだままクスリと笑った。

 

「……」

 

私は彼を見つめたまま少し顎を上げ、ゆっくりと瞳を閉じて彼を待つ。

潮風の匂いに混じって、彼自身の優しい香りが近づいてくる。

 

「……ん……」

 

唇に、柔らかな温もりが重なる。

一昨日の夜、歩道でされたような焦燥感のあるキスじゃない。

お互いの気持ちを確かめ合うような、深く、甘く、ずっと長い時間のキス。

波の音だけが響く中、私たちはゆっくりと唇を離した。

目を開けると、すぐ目の前に、少しだけ頬を赤くした彼の顔があった。

きっと私の顔も、夕日と同じくらい真っ赤なのだろう。

けれど、心の中はこれ以上ないくらいの幸せに満ち溢れていた。

 

――私の、恋人としてのファーストキスは、涙みたいに少ししょっぱくて、でも、とびきり優しい味がした……。

 

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