You are my Beginning   作:コンスタンシア

30 / 37
Episode 29 - PECO発売

【Side: 星川ほたる】

 

東京ゲーム展で刺激を貰ってから2週間…ついにこの時が来た。

 

「…よし」

 

朝早くに目を覚まし、私は部屋の壁に掛けてあるカレンダーを見る。

今日の日付の枠には、赤いペンで書いた『PECOの発売日!』の文字。

あおっちとねねっち。私の大切な友人達が、それぞれの場所で頑張って一緒に作り上げたゲームが、ついに世に出る日。

私はいてもたってもいられず、直ぐにベッドから起きると、身支度を開始する。

 

『おはよう、裕也くん! 今日なんだけど、ちょっと付き合って欲しい場所があるんだ』

 

着替えとメイクを済ませ、スマホから彼にメッセージを送る。

急なお誘いだし、彼にも仕事の予定があるかもしれない。と少し考えたけれど、今日はどうしても彼と一緒に行きたくて、はやる気持ちが躊躇いを追い越した。

 

(…唐突でごめんね、裕也くん。 でも、今日だけは許して?)

 

心の中で彼に小さく謝りながら、画面の "既読" の文字を見つめる。

すると、すぐに返信のポップアップが表示された。

 

『おはよう、ほたる。 うん、大丈夫だよ。 

 …最寄り駅の店より、少し行った先の量販店の方が在庫在りそうだし、そっちに行ってみようか』

 

その返信を見て、私は思わずクスリと笑ってしまった。

 

(ふふっ、バレちゃってるかな?)

 

彼から返ってきたメッセージは "私がこれからどこへ向かおうとしているのか" をわかってくれている。

それがなんだか、通じ合っているみたいで嬉しい気持ちになる。

 

(たしかに、大型の量販店であれば、在庫も多いはず…だとしたら、あの駅かな?)

 

『私はもう身支度終わってるよ! 裕也くんは?』

 

そんな私の返信に、すかさず返答が返ってくる。

 

『俺も今日は早めに起きてたからね。 こちらももう終わってて、いつでも出られるよ』

 

『ありがとう! じゃあ、"いつもの場所"で待ち合わせだね!』

 

『了解!』

 

そんなテンポの良い短いやり取りを終えて、私は足取り軽く玄関に向かった。

 

===================

【Side: 葛城裕也】

 

『おはよう、裕也くん! 今日なんだけど、ちょっと付き合って欲しい場所があるんだ』

 

朝、淹れたての珈琲を飲んでいると、そんなメッセージが送られてきた。差出人はほたる。

 

「今日…ね」

 

俺はスマホのカレンダーアプリを開く。今日の予定欄には、事前に登録しておいた『イーグルジャンプ:PECO発売日』の予定が入っていた。

俺は苦笑しつつ、彼女の意図を察して返信を返す。

 

『少し行った先の量販店の方が在庫在りそうだし、そっちに行ってみようか』

 

多分、俺と彼女が "今日やろうとしている事" は全く同じだ。

 

(あの店であれば、在庫もそれなりに確保している筈だから、売り切れになる事はないだろう。)

 

そんな事を思って時計を見ていると、ほたるから『もう身支度終わってるよ!』と元気な返信が返ってきた。

 

『いつでも出られるよ』

 

彼女の返答にそう打ち込んで送信し、俺は椅子から立ち上がると、机に置いてある財布を手に取り、中身を確認する。

自分の分と、彼女の分。万が一現金のみだった場合でも問題なく買える金額が入っている事を確認して、俺は秋物のジャケットを羽織った。

この間のゲーム展までは少し暑いくらいだった外気も、今ではすっかり10月の冷たさになっている。

 

『"いつもの場所"で待ち合わせだね!』

 

彼女からの連絡に『了解!』とスタンプ付きで返すと、俺は玄関を開け、冷たい朝の空気の中へと足を踏み出した。

 

===================

 

ほたると合流し、電車を乗り継いぎ向かったのは、大きな家電量販店やゲームショップが立ち並ぶターミナル駅。

 

「おー! PECO一色だ」

 

「わー! すごい!」

 

ゲーム専門館の建物の入り口や壁面は、今日発売と書かれた『PECO』の巨大なポスターやポップで溢れかえっていた。

隣を歩く彼女に目をやると、彼女も目をキラキラと輝かせて、スマホでポスターの写真を撮っている。

まだ店が開いて2時間程度しか経っていないのにも関わらず、店の外にまで人が多く並んでいた。

 

「この人たちもPECOが目的なのかな?」

 

「今日、発売だからね。 そうだと良いよな」

 

彼女とそんなやりとりをしながら、列の最後尾へと並ぶ。

 

===================

【Side: 星川ほたる】

 

「わー! すごい!」

 

ゲームのお店なんて、いつ以来だろう?

久しぶりに見たゲームコーナーは、親友たちが一生懸命に形にした "作品" で溢れかえっていて、自分のことのようにとても感慨深い。

私は思わずスマホを取り出して、あおっちがデザインした可愛いキャラクターのポスターを何枚も撮影する。

裕也くんも、そんな私を急かすことなく、優しい目で見守ってくれていた。

ふと店内に目をやると、レジに向かって多くの人が列を作って並んでいる。

 

「この人たちもPECOが目的なのかな?」

 

「今日、発売だからね。 そうだと良いよな」

 

彼と話しつつ、最後尾と思われる場所まで足を進める。

プラカードを持った店員さんが立つ最後尾には、はっきりと "PECO購入列" と張り紙がされていた。

 

「あ、やっぱりPECOの列で良かったんだ。 凄い人だね」

 

こんな朝早くから、これだけの人があおっちやねねっちの作ったゲームを楽しみにして並んでくれている。

その事実がたまらなく嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなった。

列はスムーズに進み、いよいよ私たちはレジ前まで移動する。

店員さんに「お次のお客様」と呼ばれ、私は元気よく注文した。

 

「スミマセン、今日発売のPECOを6本お願いします」

 

「え? ちょっと、ほたる?」

 

意気揚々と複数本購入しようとする私に、隣にいた裕也くんが驚いた声を出す。

確かに、ゲームソフトをいきなり「6本ください」って言われると誰でも驚くよね。

 

「大学のお友達にも勧めてみよう。って思ったの…だから、自分の分とお友達の分」

 

(せっかく、あおっち達が頑張って作ったゲームなんだ。 沢山の人の手に触れて欲しい)

 

私の真剣な眼差しを見て、彼は小さく息を吐いた。

 

「…なるほどね。 わかったよ」

 

そして、彼は私の前に出ると、店員さんに向かって言い直す。

 

「すいません。 PECOを7本をお願いします」

 

彼はそういうと、財布からクレジットカードを取り出して支払いを済ませてしまった。彼自身の分と合わせて7本。

店員さんからPECOが入った専用の大きな紙袋を受け取り、私たちはレジを後にする。

 

「裕也くん。 お金、いくらだった?」

 

店を出て、私がお金を払おうと財布を出すと、彼は手を出してそれを制止した。

 

「ここは俺が持つから大丈夫だよ」

 

「え!? でも、結構お金掛かちゃったし払うよ!」

 

ゲームソフトが7本。いくらなんでも普通に考えてかなりの金額になる。

 

「布教用も合わせて6本分の代金は、大学生の身には苦しいだろ?」

 

苦笑気味の彼にそう言われ、ウッと詰まる。

――たしかに、お小遣いでやりくりしている私には、痛い出費なのは事実。

彼は私の分かりやすい反応にクックと笑い、優しい瞳で言葉を続ける。

 

「彼氏として、彼女のワガママは聞いてあげたいからね」

 

「…もう…。 …ありがとう、裕也くん!」

 

そのサラッとした「彼氏として」という言葉に胸がキュンとして、私は素直に甘えることにした。

 

「このお礼は必ずするね!」

 

今日の事は、私が出来る最大限の誠意で絶対にお返ししよう。そう固く心に誓った。

 

===================

 

無事に目当ての買い物ができた私たちは、近くのカフェでお茶をすることにした。

暖かい飲み物を飲みながら、彼と話をしている時、スマホが震え、ねねっちからメッセージが入る。

 

『ほたるん! 今から集まれたりしない? 今、あおっちと一緒にいるんだ!』

 

そんなメッセージを彼と見ていくと、指定された待ち合わせ場所はどうやら、私たちが今いる最寄り駅。

 

(すごい偶然)

 

私は彼に目を向けると、彼も同じことを考えていたらしく、笑顔で頷いてくれる。

 

『うん、いいよ! 私も丁度駅にいるんだよ。 すぐに行くね!』

 

「多分、"皆、今日の行動は一緒" の様な気がするな」

 

私がメッセージを返すと、彼は笑いながらそんな事を言う。

 

「ふふっ、そうだね。 じゃあ、私たちも行こっか。 あ、このお店は私が出させて?」

 

「わかった、お願いしようかな。 ありがとう、ほたる」

 

私は、彼から伝票を受け取り、一緒にレジまで向かう。

 

===================

 

「あおっち、ねねっち。 お待たせ!」

 

駅前の広場で二人を見つけると、私は手を振りながら駆け寄って声を掛けた。

 

「ほたるん! 葛城くんも一緒だったんだ!」

 

あおっちが嬉しそうに微笑む。

 

「2人とも駅で何やってたの?……って」

 

ねねっちが何気ない疑問を投げかけた直後、私の後ろにいる彼の手元――PECOのロゴが印字された巨大な紙袋の山を見て絶句した。

 

「あおっち、ねねっち。 発売おめでとう!!」

 

私が満面の笑みで祝福すると、二人は目を丸くした。

 

「う、うん。 ありがとう…でも、ほたるんそれ!」

 

ねねっちの視線に気づいたあおっちも、紙袋の束を見て戸惑っている。

 

「そんな風に買う方だったっけ?」

 

ねねっちも普段の私を知っているからこそ、驚きを隠せないでいる。

 

「ううん、こんなに買ったのは今日が初めて! 大学のお友達にもプレイしてもらいたいなって!」

「こういうの "ふきょう" って言うんでしょ?」

 

私は何も迷うことなく答える。だって、親友の作品を色んな人に知ってほしいという本心なのだから。

 

「ほたるんは変わらないなぁ…」

 

あおっちが、嬉しそうに少しだけ苦笑する。

 

「立ち話もなんだし、どこかカフェにでも入ろうよ! あおっちが凄い事をしてくれるよ?」

 

「わー!! ねねっち、それは言っちゃダメ!」

 

「なになに? 後で教えてね? おあっち」

 

そんなやりとりをしながら、楽しげな足取りで近くにあるカフェまで足を向けるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。