You are my Beginning 作:コンスタンシア
【Side: 星川ほたる】
「うん。 …じゃあ、後で住所をメッセージで送るね」
私は電話の向こうのあおっちに明るく返事をして、通話を切った。
明日は1月の第2月曜日…成人式。
私たちが「大人」として社会に一歩足を踏み出す、特別な日だ。
(せっかくの成人式だもん。 皆で振袖を着て参加したいよね)
あおっちから「ほたるんのお家で着付けしてもらえないかな?」と提案があった事もあり、明日はあおっち、ねねっちと振袖を着る約束をしている。
――それに、裕也くんは私の振り袖姿…可愛いって思ってくれるかな?
少しの期待を胸に、あおっち達とのグループメッセージに家の住所と明日の予定時間を送信した後、裕也くんにもメッセージを送る。
『裕也くん。 明日の成人式だけど、参加ってするのかな?』
送信して数秒もしないうちに直ぐに既読が付き、返信が返ってくる。
『両親が出とけって聞かないからね、参加する予定だよ。 ほたるは?』
その言葉と一緒に、呆れたようにため息をつくキャラクターのスタンプが送られてきて、私は彼の顔を思い浮かべて思わず微笑む。
『よかった! 私も参加するよ。 ただ、朝はあおっち達と待ち合わせる予定なの』
『そっかそっか。 じゃあ、明日は現地で待ち合わせかな? 会場は市民ホールだよね?』
『うん! そうしてくれると嬉しいかな。 うん、そうだよ。市民ホール』
『了解!』
彼からの返信を確認し、私は最後に、思い切りハードルを上げるようなメッセージを入力した。
『明日を楽しみにしておいてね?』
私は彼へのサプライズのつもりでそんな内容を送信し、スマホを置いてベッドに横になる。
(あおっちは確か、ねねっちともう二人一緒に来るって言っていたけど…)
最近お友達になった、二人の顔を思い浮かべる。
『すごく上手いって聞きました。 星川さんの作品を見せて頂けませんか!』
そんな風に言って、わざわざ私のところまで絵を見に来てくれた、あおっちの後輩の紅葉ちゃん。
『ももが心配で、今日はついてきちゃいました。鳴海ツバメです』
そんな友達想いで、少しだけ心配性なツバメちゃん。
(…多分、紅葉ちゃん達であってそう…かな)
きっと明日は振袖姿の女の子が四人も集まって賑やかになる。
私はそんなワクワクする想像をしながら、明日の為にいつもより少しだけ早めに就寝する事にした。
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『ほたるん。 家の前に着いたよ』
翌朝、あおっちから連絡を受けて、玄関の扉を開ける。
「みんないらっしゃい~! さっ、成人式の準備を始めましょ!」
冬の冷たい空気と一緒にやってきた四人を迎え入れ、私はそのまま皆を着付けが出来そうな大広間まで案内した。
「そうだ…。ほたるん、紹介するね」
「こちら望月紅葉ちゃんと、鳴海ツバメちゃん。 春から入社でちょうど成人式の会場も一緒なんだ」
そう言って、あおっちが彼女たちを私に紹介する。
(あれ?)
「へ? あ、うん。 星川ほたるです。 よろしく~」
前に会って知っている二人だったけれど、あおっちの手前、私もつい初対面のふりをして返事がおかしくなる。
「せ…成人式は諦めてたので、誘ってもらえて嬉しいっす」
「よ、よろしくお願いします」
二人を見ると、どこか苦笑い気味な表情を浮かべながら、私に合わせて違和感のない様に挨拶をしてくれる。
そんな少し噛み合わない私たちのよそよそしい様子を見て、あおっちも不思議そうに首をかしげている。
(もしかして、あおっちには私達が会ったこと、言ってない感じなのかな?)
そう思って私は、準備をしながらコッソリ紅葉ちゃんだけに聞こえる声で聞いてみた。
「私達がたまに会ってること、あおっちには秘密にしてるの?」
「秘密ってわけじゃないですけど…いうタイミングを失ったというか…」
彼女もおずおずといった感じで、私にトーンを合わせるように小声で喋ってくれる。
(……これはこれで秘密の共有みたいで楽しいから、いっか)
「でも、なんだかワクワクするね」
「相変わらずですね」
私が笑いかけると、彼女も少しだけ肩の力を抜いて微笑んでくれる。
「さて。 じゃあ、始めようか。 …着付けは私と…?」
「はい! 母から習ってるので私もできます!」
「ありがとう! じゃあ、私とツバメちゃんが着付け役だね」
私一人が着付けをやる想定でいたけれど、ツバメちゃんがいてくれて助かった。二人であおっちや紅葉ちゃんの着付けを進めていく。
途中、ねねっちが一人で着付けをしようとして帯が大変なことになってたりと、予想通りのトラブルはあったけれど、無事に全員の着付けが終わってホッとした。
「それじゃあ、成人式にレッツゴー!」
色鮮やかな振袖を身に纏い、ねねっちの元気な掛け声で私達は成人式の会場へ向かう。
(――裕也くん。 どう思ってくれるかな?)
私は皆と一緒に歩きながらも、彼の事を考えて、少しだけ微笑む。
――可愛いって…綺麗って、言ってくれると嬉しいな。
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【Side: 葛城裕也】
「結構、人が多いな…」
スーツに身を包み、会場である市民ホールに到着した俺は、周囲の熱気に少しだけ圧倒されていた。
複数の市が合同で式を開いているせいか、それだけ新成人の数が多く、色とりどりの振袖と真新しいスーツで視界が埋め尽くされている。
(これじゃあ、現地で見つけるのは難しいか…?)
そう思っていると、スマホから振動が伝わる。
『おはよう。 今、会場に着いたよ。 裕也くんはどこに居るのかな?』
ポケットからスマホを取り出し、確認してみると彼女からのメッセージ。
(よかった。 無事に着けたんだ)
『ホールの中にいるんだけど、人が多くて…一旦、外で落ち合う?』
『あ、うん。わかった。 じゃあ、ホールの入り口辺りで待ってるね』
彼女からの連絡を貰い、人波を掻き分けながら一旦ホールの外に出る。
「裕也くん! こっちだよ」
外に出て、彼女を探していると、少し離れた場所から名前を呼ぶ声が聞こえたので振り返る。
「…ッ……」
思わず、自分の時間が停止する。
ほたる や涼風さん、桜さん は、それぞれに見合った鮮やかな振袖を着て、振り返る俺を見つめていた。
特にほたる。淡い桃色の振袖に、丁寧に結い上げられた髪。いつもとは全く違う、大人びた艶やかさ。
(それは…ズルいだろ…)
心臓が大きく跳ねるのを感じながら、彼女たちの元へと駆け寄る。
「葛城くんも来てたんだね!」
「おはよう。 あぁ。皆、振袖なの驚いたよ」
涼風さんの言葉に頷いて答えるけれど、視線はどうしてもほたるに引き寄せられてしまう。
「……それで~? 振袖を着てるほたるんに何か一言はないの~?」
桜さんがニヤニヤしながら俺を小突いてくる。
「…わかってるよ…。 ほたるの振り袖姿、凄く似合ってる。その、凄く綺麗だ…」
改まって言葉に出すと、自分でも少々照れくさい。けれど、どうしても真っ直ぐに伝えたかった。
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【Side: 星川ほたる】
『ほたるの振り袖姿、凄く似合ってる。その、凄く綺麗だ…』
「あぅ…」
ねねっちに囃し立てられた彼は、凄くド直球に、私が一番聞きたかった言葉を言ってくれる。
(確かに、『綺麗』って言って貰いたかったけど…真っすぐに言われると凄く恥ずかしい…)
「え、えへへ。 その、ありがとね?」
私は友達の前という事もあって、恥ずかしさを必死に抑えながら彼に出来るだけ優しくはにかんで答える。
「ほたるん、かわいいー!」
「今のは反則だよ、ほたるん」
あおっちとねねっちがそんな事を言ってきて、更に私は顔を赤くする。
「ほ、ほたるさんが…凄く乙女な顔をしてる…」
「ほたるさん、凄く可愛いですね」
後ろで私たちのやり取りを見守っていた、紅葉ちゃんやツバメちゃんまでもがそんな事を言っている。
「そ、そうだ! 裕也くん、紹介するね」
「彼女たちはあおっちの会社の新入社員さんで、望月紅葉ちゃんと、鳴海ツバメちゃん」
これ以上いじられるのを避けるように、私は話題をそらして彼に紅葉ちゃんとツバメちゃんを紹介する。
「望月紅葉です。…よろしくお願いします」
「鳴海ツバメです!」
「望月さんに、鳴海さんね。 葛城裕也です。 ほたる とは幼馴染なんだ」
彼がそう自己紹介すると、望月さんが少し訝しげな顔をする。
「幼馴染の距離感じゃないような…?」
「うっ…」
鋭い指摘に、私は彼の顔を見る。彼は苦笑して頷く。
「…うん、そうだね。 彼は、私の彼氏さんだよ」
私は紅葉ちゃんの言葉に応えるようにして、彼との関係を口にする。
顔が熱い。きっと今、私の顔は真っ赤なんだと思う。
「ほたるさんの恋人にしては普通の人っぽい…?」
「もも、失礼だよ」
「はははっ、確かに ほたる がお付き合いする人は、もっと凄い人のイメージあるよね」
紅葉ちゃんの素直な感想に、彼も笑顔で答える。
(ううん、そんな事ないんだよ? 君は私なんかには勿体ないくらい素敵な人)
私は心の中で思う。
「も、紅葉ちゃん…葛城くんは… "普通の人" じゃないんだよ…」
ねねっちが鬼気迫る表情で自分の持っているスマホを紅葉ちゃんに渡す。
「…『"創生の護手" 大型アップデート。待望の"和風"モチーフの世界観を独占インタビュー』…」
スマホを手渡された紅葉ちゃんは、ツバメちゃんと一緒に画面の記事を目で追っていく。
"創生の護手" たしか、前にあおっちも「このゲームが凄い!」って言ってたっけ。
「…『本作で追加されたフィールドには多数の和風アレンジが施された楽曲が用意されている』…」
「…『楽曲の制作は "Union of Heroes"、"Diver`s Assassin" など名作の楽曲に携わってきた "葛城裕也氏"』…」
二人はそこまで読み進めて、ピタリと口を止める。
「"葛城裕也氏"って…葛城さん!?」
「うそ!?」
二人は揃って驚きの声を上げる。
「その記事の事、まだ誰にも言っていないのに…情報が早いな…」
ねねっちのアンテナに感心する裕也くん。
(後で、私も読んでおこうかな)
彼が受けていたインタビューは凄く気になる。
「全然、普通の人じゃなかった…」
「ま、まぁ、続きは後にして、待ち合わせも出来たし、まずは中に入っちゃおうか」
「あ、そうだね! 移動しておかないと始まっちゃいそうだし」
彼のそんな言葉で、我に返った私たちは、式が始まる前にホールの中へ移動する。
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成人式が平和に進む中、私はあおっちやねねっち、紅葉ちゃん、ツバメちゃんの顔をそっと眺める。
皆、まだまだ "大人になった" という実感が湧いていないような顔をしているけれど、その横顔は少しだけ大人びて見えた。
――それは私の横にいる彼も同じ。
「…」
「…」
彼の横顔を盗み見ていると、目があって彼は優しく微笑んでくれる。
私もそれに微笑み返して、ゆっくりと前を向く。
…これで大人になったという実感はまだない気もするけれど…。
それでも、周りを…皆を…君を見ていると、やっぱりどこか成長を感じる。
――私も、負けていられないな。とそんな事を密かに思うのだった。
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【Side: 葛城裕也】
無事に成人式も終わり、皆やほたると別れた後、自室で今日撮った写真を見返していた。
(皆、いい笑顔で写ってる)
"成人の日" という自分たちが少しだけ大人になる節目の日…写真に写る彼女たちは皆、昨日までとは違う、少しだけ大人びている…そんな気がした。
(俺もそろそろ、仕事のこと、色々と決めていかないとな…)
(? こんな時間に着信?)
スマホの着信に気付き、画面を見る。そこには国際電話の番号だけが表示されている。
「Hello, this is Katsuragi. How can I help you?(葛城ですが、どのようなご用件でしょうか?)」
『Bonjour Yuya, ça fait un bail ! Tu vas bien ?(やぁ、久しぶりだねユーヤ。 元気にしていたかな?)』
フランス語…。けれど、その声の主には聞き覚えがあった。
「『お久しぶりです、カトリーヌさん。 クリスティーナさんの時はありがとうございました』」
『なに礼には及ばないさ。 僕は事実を言ったまでだ』
「『それでもあの場は本当に助かりました。 しかし、なぜ私の電話番号を……ってクリスティーナさんですかね?』」
『さすが鋭いね。 そうだよ、君に連絡を取りたかったから姉さんに教えてもらったんだ』
「『私に…ですか?』」
『あぁ。 勿体ぶるのは好きじゃないから単刀直入に言う。 ユーヤ…フランスで働く気は無いかい?』
「『…フランス "で" …ですか?』」
思わぬ言葉に、息を呑む。
『あぁ。…今開発してる新規タイトルは過去最高のクオリティで作りたいと考えていてね。世界観やグラフィックだけじゃない…今作はサウンドにも徹底的に拘りたい』
『…そうだな…。 具体的なビジョンを挙げるなら…今作はブルーローズで初のサラウンド仕様…できればイーマシブオーディオの対応を視野に入れたいと思っている』
「『…Seven-one-four Atmos(7.1.4ch Dolby Atmos)ですか?』」
『察しが良いね。 その為には外部のサウンド制作だけでなく "内部でもサウンドを見れる人間が欲しい"』
『ユーヤ。 君には "Project Utopia" のオーディオリードを任せたい』
カトリーヌさんの言葉に時が止まる。
ブルーローズの…AAAタイトルのオーディオリード。
それは今までアウトソースでしかゲーム開発をしてきていない俺にとっては、またとないチャンス。
…しかし、真っ先に頭をよぎったのは彼女の…ほたるの事。
彼女をまた置いてけぼりにさせたくない。
(…いや、違うな…俺自身が彼女ともう二度と離れたくない)
深く息を吸い込み、言葉を絞り出す。
「『ありがとうございます、カトリーヌさん。 私の実力を買ってリードの提案を持ちかけて頂いて、本当に光栄です』」
「『…必ず返事はします。 ただ、少しだけ時間をくれませんか?』」
『あぁ、構わない。 最初から即答を想定していたわけじゃないからね』
電話口のカトリーヌさんは想定通りとばかりに笑ってみせる。
『ただ、こちらも悠長にしていられる時間は短い。 できれば、二か月の間に頼むよ』
「『ありがとうございます。 はい、二か月も待たせはしないつもりです』」
『…いい返事を期待しているよ。 それじゃあ』
カトリーヌさんからの電話が切れ、しばらくの間、その場で動けずにいた。
究極の二択。クリエイターとしての夢か。一人の男としての幸せか。
(これは…色々考える必要がありそう…だな)
スマホを机に置き、椅子から立ち上がった俺は、そのままベッドへと深く倒れ込んだ。