You are my Beginning   作:コンスタンシア

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Episode 33 - 旅立つ前の最後の寄り道

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【Side: 葛城裕也】

 

旅館の玄関をくぐると、木材と畳と、遠くから漂う湯の香りが鼻先をくすぐる。

案内された部屋は廊下の一番奥。障子を開くと、二間続きの広い和室が広がっていて、縁側の向こうには石造りの小さな露天風呂。

川の向こう、山の稜線が曇り空の白に溶け込んでいて、石の縁から温泉の湯気が静かに舞い上がっている。

 

「……綺麗」

 

ほたるが小さく声を上げた。

 

「眺め良いな」

 

「うん…。 個室のお風呂って、こういう感じなんだね。来たことなかったから新鮮かも」

 

「今まで皆で来るときは大部屋か2室で大浴場だったからね」

 

「そうだね。 …部屋の作りも少し違う? 昔もこんな感じの部屋だったかな?」

 

「…覚えてないな。 あの頃は部屋より廊下を走り回ってたから」

 

「お母さんと明菜さんに見つかって二人揃って怒られてたっけ」

 

「母さん達、目ざとかったから」

 

「……ふふっ、良いように解釈すれば私達をしっかり見ててくれてたよね」

 

ほたるが少し遠くを見るような目で笑った。

荷物をラックに置きながら、縁側の向こうの露天風呂へ視線を向ける。深さのある湯船。縁が広くて、二人でゆったり入れそうな造りだ。

昨日、予約確認のメールを転送してもらった時から、「個室露天風呂」という文字が頭の片隅に居座っていた。

 

(……何も起こらない。起こらないが、この距離で冷静でいるのは相当な努力がいる)

 

「荷物置いたら、広場の方に行ってみようか」

 

「うん、久しぶりに石畳を歩きたいな。 お饅頭も買いに行こう」

 

「ほたるはここの饅頭が気にってるみたいだね」

 

「だってここに来たらあれ食べないと始まらないもん」

 

俺は苦笑して、コートを羽織る。

 

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【Side: 星川ほたる】

 

石畳の上を、二人並んで歩く。

三月の温泉街は、記憶の中とほとんど変わっていなかった。

土産物屋の軒先に下がった暖簾、甘酒を売る小さな屋台、川沿いに並んだ旅館の屋根。時間の流れ方が都会とは違う。

例の菓子屋で蒸したての温泉饅頭を買って、石畳の上を歩きながら食べる。

 

「美味しい」

 

「その感想だけでも来た甲斐があったよ」

 

「うん」

 

そんなやり取りをしながら、お互い懐かしい味に頬を緩ませる。

去年の今頃はまだ海の向こうの彼をずっと待っていた筈なのに、今ではこうして好きなモノを一緒に食べて横で君の存在を感じる。

そんな些細なことが私にとって何よりも幸せだった。

 

(……その顔も好きだなあ)

 

好きなもの、美味しいものを前にした時だけ、こうして表情が柔らかくなる。

それが私だけの知っている彼の顔だと思うと、なんだか嬉しくなる。

 

「ここ、橋の手前でね」

 

「うん?」

 

「昔、裕也くんが川に石を投げようとして怒られたんだよ。覚えてる?」

 

「あの時は父さんに怒られたんだっけ」

 

「私、橋の手前で足が止まっちゃって。結局助けられなくて、ごめんね」

 

「今さらだろ」

 

「でも、ずっと覚えてるから」

 

裕也くんは短く笑って、橋を渡り始めた。川は透き通るほど澄んでいて、底の石まで見えた。

 

「……変わってないね、この景色」

 

「あぁ、覚えてる景色のままだ」

 

「でも私たち、変わったよね。 ……良い意味で」

 

少し間を置いてから、「そうだな」と彼は答えてくれる。

当たり前のような、でも彼が言うと揺るぎない言葉。

私はそれを聞いて、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

川沿いをしばらく歩くと、空の端がオレンジに染まり始めて、温泉街の提灯がひとつ、またひとつと灯っていく。

石畳に丸い光の輪が浮かんで、川の水面にゆらゆらと映っていた。

 

「……綺麗だね」

 

「あぁ」

 

「こういう景色、好き?」

 

「…好きだよ」

 

夕暮れに照らされた彼の横顔が、少しだけ照れくさそうに見えた。

 

(……ずっとここにいられたらいいのに)

 

でも四月が来る。春になれば、日本とは少し間お別れ。

だからこそ、今夜が特別なんだ。

 

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【Side: 葛城裕也】

 

夕食はゆったり食べたいというほたるの提案で部屋に運んでもらう事にした。

季節の山菜の小鉢、湯豆腐、川魚の塩焼き、地元の野菜を使ったお浸し。

並んだ料理はどれも美味しそうで、普段とは違う非日常感を醸し出している。

 

「豪勢だな、やっぱり」

 

「ふふっ、旅行だもん」

 

ほたるが笑う。

 

「…そういえば、向こうの食べ物は美味しかった?」

 

「うん、美味しかったよ。 カトリーヌさんの家のご飯が特に私は好きかな。 カトリーヌさん、お客さんが家に来た日は毎回豪華な食事を出してくれるんだ」

 

「へー、それはいつかご相伴にあずかりたいな」

 

「来てくれたら絶対に楽しいよ。 あ、この山菜凄く美味しい」

 

ほたるが表情を明るくする。

夕食の話は、フランスの食べ物のことから、これから借りるアパルトマンのこと、他愛もなく続き、それだけで夕食の一時間があっという間に過ぎた。

片付けが済んで、しばらく縁側に座って夜の川を眺める。

どこか遠くで旅館の三味線の音が聞こえていて、それも非日常感を演出する1つの装置のような役割をしていた。

 

「……静かだね」

 

「そうだね」

 

「こういう夜、久しぶりな気がする。何もしなくていい夜」

 

「向こうに行ったらしばらくは忙しくなるだろうな」

 

「そうだよね。……でも、こういう時間、また作れるといいな」

 

「作るよ」

 

「断言するの、早い」

 

「迷う理由がないからね」

 

「……もう」

 

ほたるは照れくさそうに俯いて、浴衣の袖口を少し引き下げた。

しばらく、川の音を聴いていた。

 

「ね、裕也くん。お風呂どうする?」

 

「…せっかくだし、部屋のお風呂にしようか。大浴場より落ち着いて入れそうだし。ほたるから入る?」

 

そう言った瞬間、ほたるは少しだけ間を置いた。

その間が、なんとなく気になった。

 

「……ね、裕也くん」

 

「ん?」

 

「……お、お風呂、一緒に入らない?」

 

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【Side: 星川ほたる】

 

言ってしまった。

夜の縁側に、その言葉が溶けていく。

心臓が耳元で鳴っている。顔が、さっきまでより遥かに熱い。

裕也くんもしばらく黙って…いや、固まっている。

 

その沈黙が怖くて、私は慌てて「やっぱり…」と言いかけた、その瞬間。

 

「…そんな目で言われたら、何も言えなくなるな」

 

ぼそり、と言って、彼は立ち上がる。

 

「ほたるが良いっていうのであれば、一緒に入ろうか」

 

「え? い、いいの?」

 

「…駄目って言えるか? 少し待ってて、湯加減見てくるから」

 

そう言いながら、露天風呂へ向かう。 その耳は、行灯の光でも分かるくらい赤い。

私はしばらく縁側に座ったまま動けなかった。

 

(……言えた。 ……一緒に、入れる)

 

嬉しいような、恥ずかしいような。じわじわと全身が熱くなっていく感覚に、私は一人小さくはにかんだ。

 

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【Side: 葛城裕也】

 

ほたると二人、湯船に並んで浸かる。

夜風が頬を撫でて、川の音は遠くから静かに聞こえてくる。

露天風呂の照明は淡く、彼女の輪郭を縁取っていた。

 

(……これは、かなり問題だ)

 

俺はできるだけ川の方を向いて、意識して視線を固定していた。

彼女は大切な人であり、恋人だ。 守りたいと思っている。

けど同時に…正直に言えば、この距離で完全に冷静でいるのは、相当な努力が必要だった。

彼女の全てを見たい気持ちと、彼女を大切にしたい気持ちが、同じ重さでせめぎ合う。

 

(……川を見ていた方がいい)

 

石畳の向こう…微かに見える川面は暗くて、でも月明かりで少しだけ光っていた。

 

「……ふふっ」

 

隣から、くすりと笑う声がする。

 

「…ほたる?」

 

「なんでもない」

 

「…笑ってる」

 

「笑ってない」

 

もう一度、くすり、と聞こえた。

 

「裕也くんが、ずっと川だけ見てるから」

 

「…川の音がいい」

 

「そっか」

 

「…そうだよ」

 

横目でほたるを見ると、彼女は少し楽しそうに、でもどこか優しい表情で川の方を見ていた。

 

(……責めてるわけじゃないんだよな、これは)

 

その表情が、不思議と俺の肩の力を抜かせた。

しばらく、二人で川の音を聴く。

 

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【Side: 星川ほたる】

 

(……伝わってるよ、ちゃんと)

 

裕也くんが川を向いている理由…。

その理由が分かるから、私は怒るより先に、なんだかとても嬉しかった。

でも、それとは別に。

胸の奥に、ずっとしまっておいたものがあった。

 

「……ねぇ、裕也くん」

 

今度は笑わずに。

声が少しだけ違うトーンになったのが自分でも分かって、私は湯の中に少し深く肩まで沈んだ。

 

「……私、向こうでちゃんとやっていけるかな」

 

言葉が、お湯の温かさの中に溶けていく。

 

「お仕事……ちゃんと出来るかな」

 

それは彼に聞いているようで、半分は自分自身に言い聞かせていた。

フランスに行くことは、決めた。カトリーヌさんから誘いを受けた時、私は「やりたい」と思った。

あおっちやねねっち、裕也くんの見ている景色を、自分も見てみたいと、そう思った。

でも——社会人として、プロとして働くのは初めての事。

大学の授業も、留学も、コンテストも——全部、学生としての私がやってきたことだ。

お金をもらって、仕事として絵を描く。それが、どういうことなのか、本当はまだよく分からないでいる。

 

(……あおっちも、こんな気持ちだったのかな)

 

二年前。高校を卒業して直ぐにイーグルジャンプへ入った彼女。

あの時の彼女は当然だけど今の私よりも幼かった。…それなのに『やりたい仕事』の為に一歩を踏み出していった。

あの時、彼女の中にも不安があったんだろうか。

あったとしたら——彼女はそれを、誰かにぶつけられたんだろうか。

 

(…私は…)

 

お風呂に一緒に入りたかった。

それは本当の気持ち。彼をもっと近くで感じたかった。

でも、それだけじゃない。

彼の体温が、近くにほしかった。

不安を彼にぶつけたかった。

彼の声で「大丈夫だよ」と言ってほしかった。

だから、こんな方法を選んだ。彼に甘えるためにした大胆な提案。

 

(……ずるい。本当に、ずるいな、私)

 

自己嫌悪が滲んで、目を伏せて指先をぎゅっと握りしめたその時だった。

お湯の中で彼の大きな手が、不安で小さく見える私の手を包んだ。

 

「ゆ、裕也くん……?」

 

「君なら大丈夫だよ、ほたる」

 

静かな声だった。 けれどもどの音よりも鮮明に私の耳に届く。

 

「向こうでもきっと上手くやれる。……それに、俺も一緒に行くんだから」

 

「……うん」

 

「落ち込んだり、うまくいかない時は、一緒に乗り越えていこう」

 

(……温かい)

 

お湯の中に浸かっているのに——それとは全然違う温かさが、握ってくれている手から伝わってきた。彼の温もりが。思いやりが。じわじわと広がっていく。

 

「もう……」

 

声が少し震えた。

 

「本当に……ダメに、なっちゃうよ……」

 

泣きたかった。

でも今夜はまだ泣きたくなかった。これ以上心配させたくなかったし——それより、今は、彼と笑っていたかった。せっかく一緒にいられる夜だから。

私は目に力を込めて、涙を引っ込めた。それから裕也くんの方に顔を向けて、精一杯の笑顔を作った。

 

「……ありがとう、裕也くん」

 

彼は川の方ではなく、こちらを向いてくれていた。 その瞳にはしっかりと私が写っている。

 

「私、笑えてる?」

 

「……うん、笑えてるよ」

 

「よかった……裕也くんもやっとこっちを向いてくれた」

 

「彼女が儚げだったからね」

 

「…さっきまで川しか見てなかったくせに」

 

「見てたほうが落ち着いた」

 

「落ち着く必要があったんだ」

 

「…………あったよ」

 

少しだけ間があって、彼が小さく答えた。その素直さが、おかしくて、嬉しくて。

私はくすりと笑った。

 

(……よかった)

 

笑えた。彼も少し困ったように笑っていた。

 

私はそのまま、繋いでいてくれる手を握り返しながら、少しだけ彼の方に体を傾けた。肩が、触れた。

 

「……ほたる」

 

「うん」

 

「無理するなよ。不安な時は、ちゃんと言っていいから」

 

「……うん」

 

「言ってくれれば、一緒に考える」

 

「……うん。言う。ちゃんと言うよ」

 

夜風が吹いて、湯煙が揺れる。月は雲の中にあって、でもその光はちゃんと降りてきていた。

私は彼の肩に、そっと頭を傾けた。

 

「……ここ、いいかな」

 

「もちろん」

 

私はそのまま、彼の肩に少しだけ重みをかけた。手は、繋いだまま。お湯は温かくて、夜風はまだ冷たい。

けれども、今の私はどこも寒くはなかった。

 

「……あおっちも、こんな気持ちだったのかなって」

 

「イーグルジャンプに入る時?」

 

「うん。 あおっちも迷ったり、不安だったりしてたのかなって」

 

「……少なからず不安はあったと思う」

 

「……」

 

「迷っていたとしても、それを見せなかっただけかもしれない」

 

「……」

 

「でも…ほたるは、ちゃんと迷えてるじゃないか。それでいいと思うよ」

 

私は少しだけ、裕也くんの肩に頬を押しつけた。

 

「……裕也くんって」

 

「うん?」

 

「そういうこと言う時、タイミングがいいよね」

 

「……たまたまだよ」

 

「たまたまじゃないと思う」

 

「……そうかな」

 

「そうだよ。 だから、私は君を好きになったんだよ?」

 

「…それは」

 

「それは?」

 

「俺も、同じだよ」

 

短く、それだけ言って。彼は繋いでくれていた手を、握り直してくれる。

私は返事をしなかった。言葉にしなくても、伝わっているから。

ただ、彼の肩に頭を預けたまま、夜の川の音を聴いていた。

 

(……向こうへ行ったら、また新しい不安が出てくると思う)

(でも、その時も、こうして話せる人が隣にいる)

 

それだけで、私はどこへでも行ける。

――そんな気がした。

 

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【Side: 葛城裕也】

 

翌朝は晴れていた。

縁側から見える山の稜線が、昨日よりくっきりと空に映えている。

川の音が、朝の冷たい空気の中でひどく澄んでいた。

彼女は俺より早く起きていて、縁側に腰を下ろして外を眺めている。

 

「おはよう、ほたる。 早いな」

 

「おはよう、裕也くん。 旅先では早起きしたいから。……見て、梅が咲いてる」

 

川を挟んだ向こうの斜面に昨日の夕暮れには気づかなかった、白い花が点々と見える。

 

「朝だと見えるんだな」

 

「夕方は暗かったもんね。……きれい」

 

俺も縁側に並んで、しばらく二人で梅を見ていた。

 

「向こうにも、梅ってあるのかな」

 

「フランスに? どうだろう……カトリーヌさんのお家にバラがあって、春になったら咲くって言ってたけど」

 

「バラか…」

 

「裕也くん、花は好き?」

 

「どうかな、でも、ほたると見る花は好きになれると思う」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

ほたるが笑う。昨夜より随分と明るい笑い方で安心する。

チェックアウトを済ませて、石畳の温泉街に出る。朝の温泉街は夜とは違う顔をしていた。

提灯は消えていて、まだほとんどの店はシャッターを下ろしているが、石畳に落ちている朝陽と川のせせらぎの音で清々しささえも感じてしまう。

 

「また来られたらいいね」

 

「うん。向こうから帰ってきたら、また来よう」

 

「…約束だよ?」

 

「あぁ、約束だ」

 

旅館の前の菓子屋が暖簾を出したのを見て、ほたるが「あ」と声を上げた。

 

「お土産、買っていってもいいかな? あおっちとねねっちに」

 

「いいんじゃないか? ここでしか買えないし」

 

俺は笑しながら彼女の手を引いて、菓子屋の方へ歩き出す。

朝早くから白髪のおばあさんが蒸籠に饅頭を並べている。

 

「おやまぁ、昨日も来てくれたね」

 

「はい。子供の頃にも来ていた場所なので」

 

「それは嬉しいねぇ。 …今度は是非、家族でおいで」

 

俺とほたるとの間に一瞬の間が出来る。

けれども、すぐさま二人揃って「はい」と答えた。

友人へのお土産を買い、石畳に戻った彼女が小さく笑う。

 

「…次は"家族で"…だって」

 

「はは、予想外だったから、少し困ったよ」

 

「私もだよ。 でも、嫌じゃなかったよ」

 

「あぁ。 …裏切らないようにしないとな」

 

「……っ。 ふふ、期待してるからね」

 

ほたるがそっと俺の腕に手を回した。その重みが、温かかった。

 

「行こうか」

 

「うん」

 

朝の石畳を、二人で歩いた。二人の影が、春の陽射しの中で長く伸びていた。

 

(……これから先、いろんなことがある)

 

向こうで仕事をして、うまくいく時も、そうでない時も。

でも…隣にほたるがいる。 彼女の隣には俺がいる。 それだけで、十分だと思えた。

駅のホームで列車を待ちながら、横に並んでいる彼女に目をやる。

 

「充実した一泊二日だったね」

 

「そうだな」

 

「お饅頭も、ご飯も、全部美味しかった」

 

「あぁ、特に塩焼きが美味しかった」

 

「それに……お風呂も、良かったよ?」

 

「…いい思い出が出来たよ」

 

恐らく、からかっているであろう彼女の言葉に少しだけ乗っかる。耳が熱くなっているのは分かっていたが、構わないことにした。

 

「ふふっ。 …裕也くんは旅行、楽しかった?」

 

彼女が『素直じゃないな~』と言いたげな顔で、そんな事を聞いてくる。

 

「あぁ、楽しかったよ。 ほたるは、楽しかった?」

 

俺の問い掛けに彼女は漫勉の笑みで答えてくれる。

 

「うん。 すっごく楽しかった」

 

その笑顔は雲一つない、晴れ渡った空のよう。

列車が駅のホームに滑り込んでくる。

俺たちは並んで乗り込み、窓側の席に腰を下す。

ゆっくりと列車が動きだし、石畳の温泉街が窓の外にゆっくりと遠ざかっていく。

旅館の屋根、川の水面、梅の白い花。それらが流れていくのを見ながら、隣に座るほたるを横目で見た。

窓の外を眺めている彼女の顔は、昨夜より静かで、それでいてどこか少し明るい。

 

「ほたる」

 

「ん?」

 

「行こう、フランス」

 

彼女はその言葉を聞いて、ふっと笑った。

 

「うん。行こう」

 

車窓の外に、春の景色が流れていく。

温泉街は遠くなり、やがて景色は田んぼ、住宅街になっていく。

もうすぐ、この旅行も終わってしまう。

しかし、不思議と寂しさは感じなかった。 あるのは、これからへの期待。

それはきっと彼女も同じだと思う…二人ならきっと向こうに行ってもやっていける。

そう思いながら、彼女の手を握り、振り返った彼女に笑いかけた。




ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

Episode 33 で "日本編" は一旦区切りとなります。
次の話からは "フランス:ブルーローズ編" としてまだまだ続きますので、お付き合いいただけますと幸いです。

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おまけ:ここまでで出てきた用語のパロディ元を紹介


1 ) Union of Heroes :League of Legends

2 ) Fantasia :Disney Resort

3 ) Falcon : Lightning Fast Run :Millennium Falcon: Smugglers Run

4 ) Vertex Legend :Apex Legends

5 ) 東京ゲーム展 :東京ゲームショウ

6 ) スニー :SONY

7 ) ナメコ :バンダイナムコエンターテインメント

8 ) ガガ :SEGA

9 ) 創生の護手 :原神

10 ) "カナダにも開発スタジオを置くあの会社" :miHoYo

11 ) Diver`s Assassin :Assassin's Creed

12 ) Unify :Unity

13 ) PhantomEngine :UnrealEngine

14 ) V-Wave :Wwise

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