異世界サモナー、神話の怪物達と人理修復に参加する 作:一般通過初心者作家
プロローグ ある召喚士の日常
北欧異聞帯の攻略から約一週間。
俺たちカルデアは彷徨海という場所に居た。
「〜〜〜〜〜♪」
廊下を歩いていると、少年とも少女とも取れるようなセーラー服の人物を発見した。
何でも彼らはこの彷徨海で召喚されたサーヴァントらしい。それが何を意味しているか俺には正直分からないが、初めてそれを聞いていたダ・ヴィンチ辺りはかなり驚いていた。
「あ、レイマさんだ、やっほ〜!」
「ん、えーっと、どうも」
「こんな所でどうしたの? この辺はまだ作りかけのエリアだよ?」
「あー、その事なんだが……」
彼らは今、この彷徨海にカルデアの基地を作るため忙しくしている。
目の前にいる小さな水兵も、そのための建材を抱えていた。
そんな彼らの手を煩わせるのはあまり良くないとは思うのだが……しかし、これを聞かなければ今の俺ではどうしようもない。
「その……ここ何処だ?」
先に言い訳をさせて欲しい。
俺は別に方向音痴なのでは無い、ただ初めて行った場所は地図があっても迷うと言うだけだ。
建設途中の彷徨海には地図がない。今のところ出来上がっている廊下も、基本的に同じような見た目でどこにいるか分からなくなる。
「もしかして迷子? 目的地は?」
「えっと、ダ・ヴィンチがいる……管制室だったか?」
「それならね〜……」
そう言うと、彼は管制室までの道のりを教えてくれた。
「じゃ、ボクたち仕事が沢山あるから!」
「あぁ、ありがとう。頑張って」
「じゃあね〜!」
忙しい中道を教えてくれた彼に感謝をしつつ、そういえば名前を知らないなということに気がつく。
初めてあった時も名乗りたくないと言っていたが、呼び方が決まっている? のは基本的にキャプテンだけだ。
まぁ、そのうち教えてくれはするのだろうが……正直名前が無いと呼びにくい。
「とりあえず行くか」
俺は教えられた通りに基地の中を進み、管制室までたどり着く。
すると、待ちくたびれたという様子のダ・ヴィンチが俺に駆け寄ってきた。
「お、やっと来た! 遅いよレイマ君」
「すみません、少し道に迷って」
「うーん、案内板とか付けた方がいいかな? どう思う?」
彼女は振り向くと、紫髪の人物へと視線を送る。
「そうですねぇ、あってもいいとは思いますよ? サーヴァントの皆さんが見てもわかりやすいのは大切だと思うし。あとで考えてみましょう……こんにちは、レイマさん。来ていただきありがとうございます」
「協力出来ることは協力するつもりですから」
「素晴らしい返答です、では早速本題に入りましよう」
シオン・エルトナム・ソカリス。
彼女はこの彷徨海でカルデアを待っていた錬金術師? の一人らしい。
なんでもカルデアはここにたどり着く前に、彼女からの通信を受け取って北を目指していたそうだ。
「おっけー! ということでレイマ君、先日受けてもらった第二回能力調査の結果が出たよ」
そういわれ、俺は検査をしたときの事を想い返す。
前回のように装置に一晩縛り付けられるものではなく、出来上がりつつあるカルデアの設備を利用したものだった。
「まずは、シュミレーターでの戦闘訓練の結果から行こうか」
「お願いします」
「結果から言えば、キミの戦闘力はサーヴァントと比較しても遜色のないものだ。また前回の検査結果通り、魔法を行使したり召喚獣を喚び出している間、キミの生体反応はサーヴァントに近いものになる。この辺りはデミ・サーヴァントのようにも疑似サーヴァントのようにも感じられるね」
デミ・サーヴァントというのは確か、生きた人間とサーヴァントが融合したもので、疑似サーヴァントというのは、生きた人間にサーヴァントが憑依したもの……と、ダ・ヴィンチとホームズが俺のために作ってくれた資料に書いてあったはずだ。
正直、量が多くてすべて読み切ったわけではないのだが、この辺りの資料はメルリなんかにも共有しておいたので、必要になれば彼女が助けてくれるだろう。
……まぁ、あまり頼り過ぎると後が怖いから、出来ればそんな機会が来ないで欲しいとも思うが。
「次に、医務室で行った方の検査結果だが……こちらは変わらず、あまりわかったことは多くなかった。未知の部分が多すぎる、というべきだろう。この辺りは名探偵にも聞いてみたんだけど……要約すれば『探偵は未知を明らかにするのではなく真実を明らかにするものだ』と言われてしまった、私としても同感だ。別世界というそもそもの法則が違うものを、こちらの基準で考えることは難しい」
「トリスメギストスも、現状では解答不能という結果を出していました。私としては、これ以上の調査もあまり実るものではないと思います」
「……確かにな」
この世界での俺がどういうものなのか、というのは気になる所だ。
しかし、それを知らなければいけないというわけでもない。
未だに記憶が曖昧なのは気になるが、体に異常らしい異常が起きてるわけでもないし、召喚獣たちが全員無事なのも確認した。それよりも重要なのは……
「……じゃあ、帰る手段についても、特に分かったことはないんですね?」
帰る手段が見つからない事だった。
「あぁ、頼りにならず申し訳ない」
「いえ、むしろ色々調べてもらいっぱなしですし」
流石に不安なので目途くらいは立ってほしいが、現状では難しいことも理解できてしまうし、そこまで急いで帰る必要があるのかと言われれば……まぁ、早いに越したことは無い。しかし。
「それに、協力するって言った以上は、そうすぐに帰るわけにもいきませんから」
その言葉に、ダ・ヴィンチはニコニコと微笑んだ。
「ありがとう、そう言ってもらえるとこちらも助かる。無論、調査は続けるから進展があったら都度伝えさせてもらうよ」
「では、続いての話に移りましょう、こちらは私から」
そういうと、シオンさんはモニターを弄り始めた。
少しして表示されるのは、現在取り掛かっているカルデア基地再建計画の設計図、そして……。
「現在、彷徨海はカルデア基地を再現するための改修を行っています。その裏で……カルデアの霊基グラフを使ったサーヴァント召喚の準備を進めています」
「……サーヴァントの召喚、か」
確か、ここに来る前……南極にカルデアの基地があった時は、縁を結んだサーヴァント達が施設内を歩いていたらしい。
歴史上の偉人たちがあちこちに居る環境ってすごくないか……?
「その際の懸念点とも言えるのが……レイマさんの存在です」
「俺の存在?」
「はい、承知しているとは思いますが、貴方の召喚獣は、神話・伝承で語られる存在です。無論、その伝承に関連するサーヴァントも数多くいます」
冷や汗が伝った。
確かに、これは北欧異聞帯でも感じたことだが、サーヴァントと縁があるような存在……言ってしまえば、敵対していた存在も居る事だろう。
「調査と共に提出してもらった召喚獣のリストから例を挙げるなら……そうですね、ヒュドラの原種、リコリス・ヒュドロスでしょうか。カルデアの召喚した英霊のひとりに、ヘラクレスの記録があります」
「ヘラクレス……?!」
確かに、リコリスはギリシャ神話でヘラクレスを殺した毒を発した怪物、その原典を持っていた。
そんな存在と、英霊であるヘラクレスが出会ったら……。
「……もしかして、結構やばい感じですか?」
「うーん、どうだろうね。英霊ヘラクレスは狂化……バーサーカーになっているし、話し合いというのも無理だろう。彼がどんな反応をするかはともかくとして、想定しうる衝突は出来る限り避けて置いたほうがいい」
「まぁ、ですよね」
「ということで、霊基グラフのリストを用意してもらいました、まずはご確認ください」
そう言うと、シオンさんはタブレットを手渡してきた。
それを受け取り、データを確認する。
「えっと……メデューサに酒吞童子……玉藻の前までいるのか?」
この辺りは俺の中にいる召喚獣にも、その原典を持つやつらが居る。
メデューサの原典を持ってるアルゴルとかはまだ大丈夫な気もするが、酒吞童子の原典を持っている死天あたりは何をやらかすかわかったもんじゃない。
「わかった、カルデア内で召喚獣は出来る限り出さないようにしておく」
「うん、そうしてくれると助かる。こちらも余裕があれば、召喚獣たちの為に出来ることをさせてもらおう」
その後、しばらくカルデアにおける注意点や、何か要望が無いかを聞かれたので、とりあえず一人部屋と召喚獣たちが使える部屋なんかがあればいいと伝えておいた。
◇ ◇ ◇
それから、さらに一週間後。
カルデア基地の再現の完了……彷徨海カルデアベースが完成し、管制室に集められた俺達は、今後の方針を確認することになった。
その中でも俺の気を引いたのは……。
「……大西洋の異聞帯……か」
与えられた一人部屋、そのベッドに寝そべりながら、俺はそう呟いた。
異聞帯がイフの世界、北欧のように実際の歴史とは違う道を歩んだものなのであれば、大西洋にあった歴史、もしくは文明。
それが指すものはたった一つだろう。
ギリシャ神話、そしてそこに語られる文明。
もしそんな異聞帯があるのなら、それは俺にとっても無視できないものになる。
……なぜなら、俺の中にいる召喚獣たちの中には、その神話に原典を持つものも少なくないからだ。
「……少し喚んでみるか」
ベッドから起き上がり、そのフチに腰かける。
「【サモン】リコリス・ヒュドロス」
最小限の明かりしかつけていなかった部屋の暗闇に、うっすらと影が浮かんだ。
紫黒色の長髪、琥珀色の瞳が僅かな光を吸い込んで、その虚ろ気な表情を際立たせる少女。
「……来たよ、レイマ」
現れたリコリスは、俺の方まで歩いて来ると、そのまま隣に腰かけた。
「無事なのは聞いてたけど、大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫……私以外も、最近はみんな落ち着いてきた。いつも通りやってる」
「そうなのか……なら良かった」
彷徨海に着いてからは呼ぶ機会もなかったから、そう聞いた俺は安堵のため息を漏らした。
ルナの話では記憶の混乱が発生していたらしいし、落ち着いたのなら安心だ。
すると、リコリスがこちらに手を差し出してきた。
「ん、どうかしたか?」
「手、握って」
「どうしたんだよ急に……」
「お願い」
少し困ったように彼女の顔をみてから、俺はその手を取った。
ひんやりとした手の感触が、昔の記憶を思い起こさせる。
「……やっぱり、暖かいね」
「まぁ、満足するならいいんだけど」
目を瞑り、普段無表情な彼女にしては穏やかな表情で、静かに手を握るリコリス。
そんな彼女を見ていると、そのまま、いつまでも時間が溶けてしまいそうな感覚に襲われる。
しかし、しばらくしてからリコリスが口を開いた。
「ねぇ、レイマ」
「……なんだ?」
「メルリが言ってた、このカルデアには、英霊……そういうものが、沢山いるって」
「……そうみたいだな、俺はまだ少ししか会ってないけど」
カルデアの英霊達の召喚は、今後行っていくらしいので、俺があった英霊は北欧であったナポレオン達だけになる。
「……不安か?」
英霊ヘラクレス、この世界における彼がどのような存在かはわからないが……少なくともリコリスとの因縁があることは間違いない。
彼女にとってヘラクレスは、自分を恨んでいるかもしれない存在の一人だ。
「ううん――心配なのは、レイマの方」
しかし、彼女は首を横に振り、閉じていた目を開けてまっすぐに見つめてきた。
「……俺?」
「レイマは優しいから、悩むと思って」
「まぁ悩むというか考えはするけど……みんなにとって必要な事だろ? だからなんの問題もないぞ?」
怪物、厄災として異世界で恐れられていた召喚獣たちにとっては、正しい歴史・伝承そのものが敵とも言える。
なにせ、彼女たちはそこに悪だと語られてしまっている存在を持っているからだ。
だからといって、俺の召喚獣たち全員が悪いやつらなわけではない。
まぁ、そういう性格のやつも居ることは事実だが……少なくとも、目の前にいるリコリスはそうじゃない。
「……そういうところ、レイマだよね」
リコリスはそういうと、ふいと視線を背けてしまった。
それからふと、何かに気が付いたような顔をして、視線を戻してきた。
「……人の気配がする」
「人?」
「うん、扉の向こう――通り過ぎて、どこか行ったみたいだけど」
そう言われ、枕元の時計で時間を確認すれば……もう夜の一時になるところだった。
「もうこんな時間なのか、俺も寝る前に水でも飲んで来るかな。リコリスはどうする?」
「私も……ついていく」
「まぁ、サーヴァント達はまだ居ないし大丈夫か」
こうして、俺達は部屋を出て、食堂の方へと向かった。
話し合いの後にしっかりあちこちを見て回り、地図も確認したので今度こそ迷わないはずだ。
しばらくすれば食堂が見えてきて、俺はその扉を開ける。
「――む」
暗い廊下に明るい光が差し込み、食堂の奥の人物と目が合った。
手にショートケーキが乗った皿を持っているその人物は、俺と……その少し後ろにいるリコリスを見て、ぽかんとした表情をした後、ふっと笑みを浮かべた。
「まさか、私以外にもフライングしてくる者がいるとはな。だが目の付けどころはいい、おおかた、甘いバターの匂いに釣られたのだな?」
「ゴルドルフ所長……?」
今まさにショートケーキを食べようとフォークをケーキに差したまま、所長は言葉を続けた。
「仕方あるまい。そこまで食べたいというのなら、半分わけてやろう。ポットにお茶も用意してあるぞ」
「いや、俺は喉が渇いただけだったんですけど……」
「はは、遠慮はしなくていい。とにかくこちらに来なさい」
有無を言わさぬその圧に、俺は渋々ゴルドルフ所長の方に近寄った……その時だった。
「レイマ、待って」
背後からリコリスが声をかけてきて、振り返る。
「どうかしたか? リコリス」
「む、リコリス……たしかヒュドラの召喚獣だったか、私もリストは目を通したが――」
「それ、毒がある」
「――え?」
リコリスの言葉に、素っ頓狂な声を上げたゴルドルフ所長。
ありとあらゆる毒を持つ彼女がそう言ったという事は――。
「あら、バレてしまいました? 魔術師ですら気が付かないようにしたスペシャルな一品でしたのに……」
そんな声が聞こえたと同時に、けたたましい警報が鳴り赤いランプが点滅する。
食堂の壁、ぐにゃりと歪んだそこから現れたのは、白いCA服のようなものを着たピンク髪の女性だった。
「貴様は
「その名前……」
たしか、ダ・ヴィンチから貰った資料に書いてあった気がする。
必死に記憶を手繰り寄せ、一つの記述を思い出した。
「――カルデアの襲撃犯?」
「そちらは……情報にありませんでしたね、北欧異聞帯でどこからか現れたことは確認しましたが……それ以外は
「……狩谷霊真だ」
「では、狩谷様と。それにしても……良い獣を連れていますね?」
彼女の目がリコリスを見る。
それに合わせて、俺は彼女の視線を遮るように前へ出た。
「そりゃどうも、それで……お前が毒を盛ったってことでいいんだよな?」
「えぇ、はい。しかし貴方のせいで失敗してしまいましたし……長居は無用ですね」
ドタバタと廊下から足音が聞こえてくる、警報を聞きつけた誰かが来ているのだろう。
しかし、コヤンスカヤと呼ばれた女はやれやれといった様子で言葉を続けた。
「暗殺はまた別の機会に致しましょう、
刹那、彼女の姿が青い光の粒子になって消えた。
「くっ……どこだ!」
「……遅かったか」
それとほぼ同タイミングで、白い小柄な人影が飛び込んできた。
キャプテンと呼ばれている彷徨海のサーヴァントのリーダー? のような存在。
彼は食堂を見渡すと、視線を廊下へと移した。
「……逃げたか? ふん、それなら良かった、まさか毒を盛られているとはな。よく気が付いたなレイマ・カリヤ、これであの女も――」
「……いや、でもさっきもう一つの任務って言ってなかったか? まだ何か……役目があるのか?」
そう呟いた次の瞬間、再び警報が鳴った。
入口付近に立っていたキャプテンが駆けだすのを見て、俺も追いかけるように走り出す。
「やっぱりまだ居るのか!?」
「……あぁ、だが……」
ついた先は収容室、カルデアに用意された牢屋のようなものであり。今は北欧異聞帯で救出したオフェリアさんが居る場所。
キャプテンが扉を開けると、そこには……。
「――居ない」
居るはずのオフェリアさんがおらず、代わりのように一枚の紙が置かれていた。
『こちらは返していただきます、機会があればまたお会いいたしましょう、狩谷様』