異世界サモナー、神話の怪物達と人理修復に参加する 作:一般通過初心者作家
「……美味いな」
ゲルダの家に招かれた俺達は、彼女が作ってくれた夕食を味わっていた。
あまり濃い味付けではないが、その分魚の旨みが口いっぱいに広がるスープ。
全身に染み渡る暖かさも相まって、まさに最高の一杯といった感じだ。
「そうですね、とても優しい味のスープです」
「ふふ。褒めてもらって嬉しいわ。魚のスープ、第23集落の伝統の味なんですって」
……そういえば。
ここに来る前にも第23集落って言ってたけど、それがこの集落の名前なのだろうか?
なんというか、地名って感じじゃないのが少し引っかかる。
だが、ゲルダは何も表情を変える事無くそれを言っていた、多分これがこの世界の常識なのだろう。
思えば俺はまだこの世界について詳しく知らない、というか冷静に考えたらおかしくないか?
地球はまっさらにされたんだろ? なんでここには集落があるんだ?
異聞帯がどう、とは聞いたが結局詳細まで聞ける時間が無かった。
夕食が終わった後に改めて話を聞くのが良いかもしれない。
「ご馳走様、すっげー美味かった」
「ふふふ。じゃあ、あたしはお片付けしてくるわね」
「あ、ゲルダさん。わたしもお手伝いします」
「いいわ、マシュさまもお兄さん達もゆっくりして? お客さまはこういう時、くつろぐものって昔話で聞いたわ」
ゲルダはそういうと、空になった四つ分のお皿を持って席を立ちあがった。
「でも、まさか。ほんとにお客さまをお家に迎えることになるなんて……ふふふ。ほんとに、ゆっくりしててね」
そう言い残し、彼女は席を離れていく。
その背中を、立香とキリエライトさんが寂しそうな、悲しそうな顔で眺めていた。
……さすがに声をかけにくいな。
聞こうと思ってたことは山積みだったが、少なくとも今ではない事くらいは分かる。
すると、そこに快活な声が聞こえてきた
「おぉ、食事は終わったみたいだな、丁度いい」
声のした方を見れば、そこにはナポレオンさんとブリュンヒルデさんが居た。
あの二人はサーヴァントであり、サーヴァントは食事を必要としないらしい。
なので、先の夕食には同席せず街の周辺の警戒に出ていた。
「おかえりなさい、お二人とも。それで――何か分かったことなどありましたでしょうか」
「はい。この集落を守る結界に、小さな綻びがありました」
「多分、前回オレたちが御使いの群れと戦った時の影響だろう」
「――ですが、その結界の上から、ルーン魔術ではない結界が上書きされていました」
「ルーン魔術ではない結界……ですか」
キリエライトが反芻した言葉に、彼女は頷いた。
なんでも、この国? を管理している存在が施した結界とは別の、かなり強力な結界が付与されていたようだ。
ということは、それ以外に誰かがこの集落を守ろうと動いていたことになる。
「巨人達がこの集落に来たのはその結界の綻びが原因だろう、そしてその綻びを補うように別の結界が貼られてる。タイミング的にも、俺達が戦闘をしている間に施された感じだが……何も気が付かなかったな」
「一体誰が……」
「異聞帯側の戦力の中で、ルーン以外の術式を操ることが出来るのは……いえ、でも……」
反応から見るに、素性の割れた人物ではないようだ。
だが、完全に敵というわけではないだろう。
「まぁ、こっちはそんなもんだ。で、そっちはどうだ? ボーダーとの通信ってのは繋がるか?」
「いえ、何度も試してみたものの、シャドウ・ボーダーとの回線は開きませんでした。昼間のも辛うじてつながっていたようなものですし……もしかしたら、件の結界の影響という事も考えられます」
「有り得るな……情報としてはこんなところか。ひとまずは無事に集落を守れてよかったとしよう」
ナポレオンさんの発言に、その場にいた全員が頷いた。
こうしてこの場は一度解散、ゲルダに言われた通りにゆっくりと過ごすことになったのだが……。
「あの。立香、とキリエライトさん」
「どうしたの?」「はい、なんでしょうか?」
「その、改めてこの世界とかについて聞きたくて……いいかな?」
「はい、構いません。こちらとしてもお聞きしたいことがありますし」
ということで、俺達三人は改めて話し合いをすることになった。
「まずはすまん。戦えることについてなんだが……隠すつもりはなかった」
「いえいえそんな、確認する時間もありませんでしたし……ですが。あまり見たことの無い形式でしたね、オフェリアさんのような召喚魔術の類でしょうか?」
「まぁ、そうだと思う」
どうやら召喚魔法の概念はこの世界にも存在しているようだった。
少なくとも不審過ぎる力として疑われることは無いだろう。
「で、俺はその召喚魔術? ってのをメインで使えるんだ」
「なるほど、ではレイマさんは使い魔に戦闘を行わせるのですね」
「いや、一応俺自身も戦えるんだけど……まぁ、基本はそんな感じか」
今重要なのは俺の戦闘能力云々の話ではない。
「それで……教えて欲しいんだ。この世界……いや、この国について」
「……わかりました。先輩も、それでいいですか?」
「うん、元よりそのつもりだし」
「ありがとう二人とも……って、キリエライトさんにも口調が崩れてますね」
立香と話す延長線みたいな感じで口調が崩れて、それに気が付いて謝った俺に、キリエライトさんは笑顔でこう返してきた。
「いえ、全然。むしろそこまで堅苦しくなくても大丈夫です、気軽にマシュとお呼びください」
「そう……か。わかった、マシュ」
「はい、では早速ですがこの……北欧異聞帯について、我々が知ってることをお話しします」
そもそも、異聞帯というのはイフの世界なんだそうだ。
この北欧で言えば……神代が終わらなかった世界線。
ただ一人残ったスカサハ=スカディという神が玉座に座り、人は完全な管理のもとで暮らし続ける。それを三千年も続けてきたのがこの場所だという。
それを聞いて、先ほどの集落の名前についての疑問も腑に落ちた。
「……そんなの」
奥歯がギィと音を鳴らす。
許せない……というよりは、去来する悲しさの方が大きかった。
ゲルダも、この世界の規則に則り死んでしまうかもしれない所だったらしい。
「そう思うよね、オレも同じだ」
「そうだな、それは……間違ってると思う。王だろうが何だろうが止めて、皆がそうならなくてもいいように――」
だが、俺の話を聞く立香の顔はどこか暗かった。
先ほどゲルダの背中を見ていた時と同じような、そんな顔。
「……どうしたんだ?」
「その、異聞帯に関してなのですが……消えて、しまうんです」
「――え」
「我々の地球を取り戻すためには、空想樹を切除しなければなりません。そして……空想樹を切除した世界は消滅します」
少し考えれば分かる事だった。
つまりそれは、ゲルダやこの集落に居る人々、それだけじゃなくてこの世界そのものを破壊することになる。
それを、カルデアは……彼らは、使命としている。
「そうか……そう、だよな……」
何か言おうと口を開いて、そんな言葉しか出てこなかった。
二人も、そんな俺の様子をみてまた顔を伏せる。
それだけで、二人がこの世界が消えてしまうことを良しとしているわけではないとわかった。
でも、そうしなければ失われたものは取り返せない。
とても重たい沈黙が、その場を流れていた。
「……悪い、話を変えよう。それで、マシュのほうも聞きたいことがあるんだよな?」
「はい、そうでした。改めてですが、レイマさんはこの世界の人間ではない、ということでよろしいんですよね?」
「まぁ……はい、信じてもらえるかはあれだけど」
「いえ、世界を渡ることが出来る方を知っているので、そこまでの驚きはないと言いますか……」
「武蔵ちゃんとかね」
「はい、なのでそこは問題ありません」
まじか、居るのか。
むしろこっちが驚いて、マシュの隣に座る立香に目を向ければ彼もうんうんと頷いていた。
どうやら本当に要るらしい、もしかしてそんなに珍しいことじゃないのか?
いや、例があるだけで珍しいことには変わらないと思いたいが。
「それで、レイマさんはこれからどうしようと考えているのでしょうか。やはり元の世界に戻る事が目標でしょうか」
正直ここまでドタバタで一切考えてなかった。
無論、帰りたい気持ちはある。
元の世界に帰るために頑張ってたのに、その状況でまた別の世界に来てしまうだなんて思ってもいなかったわけで。
「……そう、だな。元の世界には戻りたい。ただ、どうすればいいのかは検討もつかない状況だけど」
「そこでご提案なのですが……今後も、わたし達に同行してはいただけないでしょうか?」
「と、言うと?」
「シャドウ・ボーダーであれば、レイマさんの記憶や元の世界への帰還方法についてもう少し詳しく調べたりすることが出来ると思います」
「そうだね、オレ達としてもレイマが居てくれるなら嬉しいし」
「ありがたいけど……いいのか?」
「もちろん!」
そう訊ねる俺に、立香はすぐに返事をした。
ここまで話していて、二人が優しいことは十分に理解出来た。
二人の所属するカルデアという組織も悪い組織ではなさそうだ。
だが、しかし……。
「――少し、考えさせてくれ」
「もちろんです、ではわたしは少し休息を。お二人はどうしますか?」
「オレも休もうかな」
「俺は……少し、外の風に当たってくる」
そう言って席を立ちあがり、玄関の方へと向かう。
すると、片付けを終えたのかゲルダがそこへやってきた。
「あら、もしかしてお散歩?」
「まぁ、そんなところです」
「わかった、でもあんまり外に居すぎちゃだめよ? 見つかっちゃうかもしれないし……なにより寒いもの」
「……そうだな。わかった、ありがとう」
ふりふりと小さく手を振るゲルダに見送られ、俺はゲルダの家を出た。
そのまま家の影に入り、召喚魔法で取り出したステルス効果をもつローブを装備する。
「ルナ、まだ居るよな?」
「……うん、いるよますた」
そう呼びかければ、俺の影からぬるりとルナの姿が出てきた。
「いったん集落から出て人目のつかない場所に行こう、話したいこともあるしな」
「ん、わかった」
こうして、俺は再びルナにまたがって集落を囲む塀を飛び越える。
それから少し雪原を走り……すぐに集落に戻れるくらいの場所で停止した。
「この辺りでいいか。ありがとうルナ」
「ん、なら――」
俺がルナから降りると、彼女はそう言いながら人の姿へと変身し……。
「撫でて?」
そう、俺の前ですこし屈んでみせた。
狼の時の毛並みと同じ、蒼の髪がさらりと揺れる。
「まぁ、撫でるのは良いけど」
俺はルナの方へと手を伸ばし、優しくその頭を撫でる。
それと同時に、なんだかこの状況が酷く懐かしいものに感じた。
「……なんか、前にもこんなことしなかったか?」
「いくら撫でたって良い、ご褒美は働きによって渡されるべき」
「まぁ……そうか。それでルナ、幾つか聞きたいことがあるんだが」
「うん、何?」
「召喚獣たちは大丈夫か?」
まず真っ先に確認すべきはそこだろう。
俺がこの世界に来た影響が気になる。
すると、ルナはこくりと縦に頷いた。
「うん、皆居るよ。ただ……」
「ただ?」
「一部の記憶が曖昧だったり、こんがらがったりしてる。レイマと同じ」
「なるほど……そうか」
俺の状態が皆にも影響を与えてしまったのだろうか?
だが、聞く限りでは大事はないようだった。
「それで……ここはどうやら北欧らしい、何か感じるか?」
そう聞くと、ルナは夜空を見上げてこう答える。
「うん、懐かしいような……私の記憶じゃないけど、原典が疼くような、そんな感じはする」
「なるほどな、じゃあやっぱりなんかの縁はあるのか?」
「わからない……けど、悪くない気分」
ルナの原典は、北欧神話に登場する双子のフェンリルだ。
俺目線でもルナはいつもより元気そうだし、神代が終わっていない北欧とのことなので空気や土地みたいなものが合っているのだろう。
「あ、ますた。そういえば、メルリが呼べるときに呼んで欲しいって言ってた」
「メルリが?」
「うん、色々確認したいことがあるって」
「……喚ぶか、気乗りしないけど――【サモン】オティヌス・アンブロシウス・メルリヌス」
軽くため息をついてから、俺は彼女の名前を口にした。
手元の魔法陣が輝くと同時に、こんな声が聞こえてきた。
「全く、なんで気乗りしないんだい? こんなぱーふぇくと美少女のお姉さんを喚ぶっていうのに何か問題でも?」
「……問題しかないと思う」
「なんだいルナ、喧嘩なら買うよ?」
いつもの口調で現れたのは、真珠のような色の髪にルビーのような瞳。
先の長く尖ったエルフ耳に悪魔の尻尾という属性過多の美少女だった。
「喧嘩はしないでくれ、マジで。あとさ……なんで俺、撫でられてるの?」
「いいじゃないか、別に減るもんじゃないだろう?」
「気力とか諸々の方が減ってくんだが?」
ルナの事を俺が撫でて、その俺の事をメリルが後ろから撫でる。
傍から見たらだいぶおかしな状況だった。
「ふむ、魔力に関しては問題なさそうだ。相変わらず全盛期ほどではないにしろ、感覚でいえばミソロジアの頃に近いはずだ、六から七割くらいといったところかな?」
「そうなのか?」
「うん、ただ……始めの内は控えていた方が良いだろうね。どうにも完全に馴染んでいるわけではなさそうだし」
それに関しては、言われずともそのつもりだった。
魔力がどうとかの話ではなく、単純にどこまでやるか、という話だ。
「まぁ、レイマの懸念ももっともだね。カルデアという組織も、聞く限りでは人類の味方だ。もし君が世界にとっての脅威と見なされれば、その時は対峙することになるだろう」
「さりげなく人の心を読まないでくれ」
俺の召喚獣たちはミソロジアの特性上、様々な神話にルーツを持っているしその中で怪物や敵として語られている奴もいる。
神代の英霊なんて存在がいるのなら、彼らにとって俺という存在は間違いなく危険な物だろう。
それで召喚獣たちに危害が及ぶことだけは阻止したい。
「……でも、俺は立香とマシュに――カルデアに協力したいと思ってる」
「へぇ、どうしてだい?」
「助けてもらった恩もあるけど、いや、それ以上に俺が協力したいと思ったんだ」
世界が白紙化したという結論だけが目の前に投げ出されて、それでも取り戻すために頑張っているのだという二人。
そうすればこの世界が消えることも分かっていて、ゲルダと楽しそうに話す二人が合間に見せる悲しそうな……辛そうな表情を見て。
俺には二人がどれだけ傷ついて、そしてこの先どれだけ傷つくのかは分からない。
でも……。
「あんなに優しい二人が傷つかないで済むなら、その為に俺に出来ることがあるならやりたいんだ」
まだ完全に信頼出来るわけではない、懸念も残る。
……それでも、俺はあの二人を助けたいと思った。
「まぁ、助けたいってのは少し傲慢かもしれないけど――」
「ふっふっふ、それでこそ私の英雄だ。傲慢? それで結構、そうやってこれまでも掴み取ってきただろう?」
「……そうだな、そうだったわ」
メルリのその言葉で、俺の意思は固まった。
俺はカルデアに出来る限りの協力をする、その上で帰る方法を探す。
新所長? みたいなことも言ってたし、責任者は別で居るのだろうが少なくともあの二人は協力してくれると言ってくれて、まぁwin-winというやつだろう。
「じゃ、私が確認したいことも確認したから、そろそろ戻るよ」
「なんか随分とあっさりしてるな」
普段ならもっと執拗に色々おせっかいを焼きに来るのだが。
「ん? もしかして撫でられ足りないのかい? そうかそうか、あのレイマがそこまで言うのなら――」
「そういうのじゃなくてな?」
完全に失言だった、余計な事は言わない方が良いに限る。
「ま、今回は別に死んで別の世界に来た……というわけでもなさそうだしね、いつも通りなのも分かってたから。それに……」
俺の頭から手を離し、背後から俺の前の方へと回ってきたメルリは、オーロラのかかる星空を見上げた。
「なんとなく、感じるんだ。見届けたい……いや、見届けることしか、してはいけないってね。それじゃ、またねレイマ!」
そういうと、彼女は勝手に俺の中へと戻っていった。
「……なんだったんだ?」
「わからない、けど、メルリがそう言ってるならそういうものだと思う」
「まぁ、何か思うところはあるんだろうな」
なにせ、彼女の原典は二つ。
そのうちの一つはアーサー王伝説に語られた王を導く予言の魔術師。
そしてもう一つは……多分、この異聞帯でもっとも大事になるであろう北欧神話の神のもの。
片目を捧げ隻眼となった、