異世界サモナー、神話の怪物達と人理修復に参加する 作:一般通過初心者作家
翌日、俺は医療室と呼ばれる場所で目を覚ました。
覚ました、のだが……。
「体が……痛い……うぁ……」
背中を支える硬い寝台による影響で、朝から苦悶の声を上げる。
すると、そんな俺の声に反応したのか先に起きていたマシュが声をかけてくる。
「お、おはようございますレイマさん、その……お体の方は……」
「まぁ、うん。大丈夫……だと思う」
何とか起き上がり、寝台のフチに座る。
その様子をマシュは戸惑った様子で見てきていた。
「まさかこんなことになるとは思わず……すみません」
「いや……マシュのせいではないからな?」
ペコペコと頭を下げるマシュに対し、俺はそう返す事しか出来なかった。
では、何故マシュはこんなにも謝っているのか、何故俺の体は痛いのか、最後にどうしてこうなったのか。
「おはよう! それじゃあ早速一晩掛けて計測したデータを見ていこうか!」
それは今まさに医療室へと飛び込んできた、小学生ほどの背丈の少女のせいだった。
名前はレオナルド・ダ・ヴィンチ。
この名前を聞いたことがない人はそうそういないと断言出来るほどに有名な万能の天才。
何やら事情があるらしく、今はこの姿なのだというが……正直信じられない。
いや、それを言い出したらナポレオンさんの時もそうだったのだが。しかしそう名乗っても他の人達が疑ってないし、サーヴァントというものはそういう物だと言われてしまえば納得するしかない。
そんな俺の考えも露知らず、万能の天才少女は俺の寝そべっていたスキャン装置のパネルを弄り始める。
「ふむ、なるほど……データの収集事態に問題はなさそうだ。ただ流石に一晩中かけただけはあって量が多いね、さすがの私でも少し時間がかかりそうだから少し待っててもらえるかな?」
「あ、はい……」
「で、ではレイマさん、お腹は空いていますか? もし空いているのでしたら、今の内に朝食を済ませてしまいましょう」
「……そうだな」
ということで、俺はマシュに連れられて朝食を食べるために医療室を出た。
そして出て早々にマシュは再び頭を下げてくる。
「本当にすみません。まさかダ・ヴィンチちゃんがあんな反応を見せるとは思わなくて……」
「いや、まぁ気持ちは分かるよ。異世界の人間だもんな」
そう言う俺の頭の中には、全裸に白衣という頭のおかしな格好をしたとある女性が過っていた。
まぁ、あの人と比べたら服を着てるだけ何倍もマシ……というか、比べる方がおかしいだろうか。
ともかく、実験動物のような扱いにはいくらか心当たりがあるし、気持ちも理解は出来た。
……それはそれとして体は痛いのだが。
背中をさすりながら歩いていると、目の前の部屋から黒髪の人影が出てきた。
「おはよう、マシュ。それにレイマも」
「あー、おはよう立香」
「おはようございます先輩、先輩も朝食ですか?」
「うん、ということは二人もかな」
「はい、是非ご一緒させてください」
ということで、三人一列になった俺達はボーダーの中にあったキッチンへとたどり着く。
「……で、何の用かねキミ達ィ」
そこには恰幅の良い金のちょび髭を生やしたおじさんが居た。
ゴルドルフ・ムジーク。昨日の会議で少し聞いた話では、彼がこのカルデアのトップという事らしい。
「新所長。その、朝食を摂るためにですね……」
「なるほど、それで私の立つキッチンへと来たというわけか。まぁ確かに、諸君にはこれから報告書を作ってもらわねばならないし、部下のモチベーションを維持するのもデキる上司の務めというものだ。だが――その、彼についてはどうなんだ? 何か分かったのかね?」
新所長は、少し警戒した様子で俺の方を見てきていた。
「いえ、それについてはダ・ヴィンチちゃんが現在まとめているところです」
「つまり、まだ何もわかっていない。ということかね?」
「それは……はい、そうなりますね」
その言葉に、より一層視線が鋭くなる。
どうやら彼は所長という役職が示すように、今のカルデアという組織の代表のようだった。昨日もそんな感じの話をしていたし。
そんな人物であれば当然、自分たちの懐に突如飛び込んできた人を警戒しない訳が無い。
すると、所長は俺にこんなことを聞いてきた。
「ところでキミ……カリカリのベーコンは好きかね?」
「…………はい?」
◇ ◇ ◇
「……美味しい」
「ふふ、そうだろうとも。なにせこの私が直々に焼いたのだからな。素材から火加減、味付けまで完璧に施されているとも」
それからしばらく、俺は何故か所長の作った手料理を味わっていた。
「私も味見をしたが、過去最高と言ってもいいほどに素晴らしかった。これにはどんな人物であっても魅了される事間違いなし、これこそが私の交渉術……!」
言っていることはよく分からなかったが、まぁ美味しいのは確かだった。
「新所長、その、私たちもいいのでしょうか……?」
「ん? なに、まだそんなことを気にしているのか。これはあくまでそこの不審人物にこちらが最低限の姿勢を見せるために作った料理、そして君達の前にあるのはその時に出来てしまった作りすぎだ。むしろ早く食べてもらわねば困るというものだよキミィ」
ちょび髭を撫でながらそういう所長の言葉で、立香とマシュも朝食を食べ始める。
「美味しい!」
「はい、とても美味しいです!」
「ははは、そうかそうか。何、そう皆まで言わずとも良いが……そんなに言いたいというのなら仕方が無いな」
ご満悦に髭を撫でながら笑う所長を見ながら、俺は隣の立香へと耳打ちした。
「なんか……面白いというか……変な人だな?」
最初の態度と今の態度が全然違うし、さっきまで警戒していたと思ったら今は背中を見せて笑っているしで……正直よく分からない。
「でも、悪い人では無いよ」
「――そうだな、それは分かったよ。これがカルデアの所長か……」
隣で共に朝食を食べる二人を見ながら、ぴったりだなと感じる。
言動はともかく、それが悪い方向に向いている事だけはない。
二人に感じた物を、あの所長にも感じるような気がする。
「さて、これで流石のキミでも抵抗する気は無くなっただろう」
「……元々抵抗する気はありませんからね?」
「では、もっとその気が無くなったという事だ。念には念を、重要な事だろう?」
「まぁ、確かに……」
もしかして意外と考えてるのだろうか?
だが、その手段が食事を振舞うというのは……なんというか、無茶な気もする。
「昨日聞いたが、今のキミは我々に協力する気がある。ということでいいのかね?」
「それは、はい。出来る限りの協力はしたいと考えています」
「そうかそうか、無論その気持ちは受け取ったとも。ただ……やはりキミというイレギュラーな存在はリスクにもなりうる」
「……そう、ですね」
これまでの様子とは打って変わり……いや、それこそキッチンで会った時のように。彼の表情は再び真面目なものになっていた。
……切り替え早すぎないか?
「であるならばだ、信用というものは勝ち取る他ない。まずはこれからの行動をを見させてもらうとしよう」
「……と、いうことは?」
「コホン、ではカルデアの所長として、レイマ・カリヤが一時的にシャドウ・ボーダーに入ることを許可しよう」
わざとらしい咳払いと共に、所長は俺へとそう告げた。
「えっと……ありがとうございます?」
「うむ、では私は自室に戻るとしよう。なにせやらなければならないタスクは多いからな。君達も早く食事を終えて各々の業務に取り掛かりなさい」
そう言って、所長はこの場を離れて行ってしまった。
「……なんだったんだ?」
そんな俺のつぶやきは、二人の苦笑いの中に消えていくこととなった。
◇ ◇ ◇
「ということで、結果が出たよ!」
朝食を食べ終え、報告書を作るために立香の自室へと向かった二人を見送った直後。
車内のアナウンスで医療室に呼び戻された俺は、ウキウキ顔で待ち構えていた少女によって椅子に座らされていた。まるで病院の診察室のようである。
「えっと、それで……ダ・ヴィンチさん」
「随分硬いね、もっと気楽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれてもいいんだよ? 私の個人的な興味としても、もっと親しくなりたいからね!」
「あ、はい……」
年相応に見える満面の笑みとは裏腹に、俺は心底怯えていた。
いや、だって怖いじゃん。何言われるかわかんないし。
「早速だが、まずはキミの体についてだ。マシュからの報告によると、発見時点での魔力反応はアリ、サーヴァント反応はナシというものだったが……こちらでも同様の結果を確認した」
「なるほど、つまり俺はサーヴァントではないと」
「うん、基本的には一般の人間の範疇だ」
……基本的に? 俺はその言葉に引っかかった。
「えっと……例外があるんですか?」
「そうだね、その説明は次の話に進んでからの方がわかりやすいかな」
怖すぎる前振りにさらに怯えながら、俺は何とか椅子に座り込む。
「次はキミから直接聞いたことを交えながら説明しよう」
「はい……」
それは、狩谷霊真という人間についての話からだった。
一番始めの世界で事故に巻き込まれ、二番目の異世界で世界を救い、三番目の世界で冒険者として活動したというこれまでの経緯。
そして、四番目となるこの世界で目覚めた現状。
「異世界とやらの検証は流石の私でも骨が折れる、わからないことだらけだ。こんな時、そこで寝ている名探偵が起きてくれればいいんだけどな~!」
そんなことを言いながら、ダ・ヴィンチちゃんは医療室にあるポットへと目を向ける。
その中には、眠ってる男性の姿があった。
「あの人は……」
「彼はシャーロック・ホームズ、カルデアと協力関係にあるサーヴァントだ」
うん、もう何も驚かないぞ。
シャーロック・ホームズって言えば……あれだろ、名探偵の。
ミソロジアの影響で神話に関する知識はかなりあるが、それ以外については一般程度の知識しか無い。
「まぁ、そんな名探偵が居なくても、この世界で君がどのような状態にあるのかくらいは調べることが出来る、そして――」
「そして?」
「その結果、キミは普通の人間ではない……ということが判明した」
「……」
言葉が出なかった。
なんだかすごく当たり前の事を言われた気がするからだ。
「あ、もしかして当たり前だ~とか思わなかった?」
「うっ」
「でもね、その当たり前が大事なんだよ。この結果から考えるに、キミは間違いなくこの世界の人間ではない。その最たる例がキミの魔法さ」
「魔法が?」
「うん、イチから説明するとややこしいからざっくり説明するんだけどね? この世界で魔法と呼ばれるものとキミの魔法は違う。どちらかと言えば命名の基準が違うというべきかな?」
なんでも、この世界における魔法というのは『どんな手段を用いても再現不可能なもの』を指しているらしい。
俺の魔法は、この世界だと魔術と呼ばれるものに分類されるそうだ。
「だからといって完全に魔術かといえばそうでもない。その世界の魔法についてはまだ検証の余地がありそうだけど、少なくとも一致するものではないんだ」
故に、俺の扱う魔法は魔法でも魔術でもない、という。
「ここで、先ほどの例外の話だ。そのためにまずは召喚魔法を使ってみてほしい」
「えっと、喚び出すものは何か?」
「こちらからの指定は無いよ、出来れば面白そうなものだと私が嬉しいけど!」
俺の質問にダ・ヴィンチちゃんはそう答えた。
しかし、指定がないと言われる方が困る。召喚獣の誰かを出したら同じように検査三昧の目にあうだろうし……ここは武器がいいだろうか。
召喚魔法には武器を喚び出すことが出来るものもある。
俺は愛用の武器を取り出そうと決め、召喚魔法を使った。
「【ウェポンサモン】――レーヴァテイン」
それは剣としても杖としても扱える灼炎の武器。
かなり攻撃向きの武器だが、攻撃向き故の魔法効率の良さから支援の補助も可能な愛用武器だ。
「すっごい! 獣だけじゃなくて武器まで喚べるんだ、へ~~!」
ダ・ヴィンチちゃんは俺の右手のレーヴァテインを見ながらそう興奮した様子を見せ……少ししてからコホンと咳払いをした。
「やっぱり生で見ると中々興味深いね、それはそれとして今の召喚によって君の数値が変動した。どうやら魔法を使っている君はサーヴァントに似て非なる反応を示すらしい」
「はぁ……?」
ただでさえサーヴァントについての理解も追いついていないのに、それに似て非なるものと言われてももっとわからない。
「ここからは推測だけど、キミは一度異世界で死んでいるんだよね?」
「はい、そうです」
「そしてその力は、キミがその異世界での旅を通して得たものだ。私たちの世界風にいうのなら、キミは常に半分英霊のようなものといえるだろう」
だから、普段は何の反応も出ないけど魔法を使った時はそれに近しい反応が出る。
それがダ・ヴィンチちゃんの立てた仮説だった。
そう言われるとなんだか腑に落ちる気はする。
「じゃあ、この世界で目覚める直前の記憶が無いのは……」
「この影響を受けた可能性もあるね」
……なるほど、大体は理解出来た気がする。
「まぁ、これらはあくまで仮説だから、話半分程度に聞いておいて欲しい。ともかく、キミが普通の人間ではないことは間違いないけど、それ以上について分かることは少ないというのが結論だ。あまり力にはなれなかったようで申し訳ない」
「いやいや、何もわからない状態の時よりは何倍もマシですよ」
とりあえず自分が今どういう状態なのか、という疑問に答えが出ただけでもだいぶ良い。
正直自分が本当に人間かどうかも疑っていたし……いや、まぁ普通の人間ではないんだけど。
普通じゃないにせよ人間の部類であるのならそれでいい気がする。
「キミに協力するためにも、今後は更に情報を集めたい。成果が出るかの保証は出来ないけど……私も、君の帰還に手を貸すよ」
「……ありがとうございます」
「なに、ただの面白い物見たささ」
俺が伝えた感謝の言葉に、ダ・ヴィンチちゃんはそう言って笑うのだった。
◇ ◇ ◇
さて、昨日は検査の都合でスキャン装置の中で朝を迎えたわけだが、今日はそういう訳にも行かない。
医療室は現在マシュの部屋としても扱われているようだし、年頃の女子と部屋に二人きりというのはあまり良くないと思う。
まぁ、医療室の住人自体はもう一人居るわけだが。
という事をゴルドルフ所長に打診していたら、その話を聞いていた立香が「オレの部屋はどう?」と提案してくれた。
所長は少し悩んでいたが、当人がそう言ったこともあり俺はしばらく立香の部屋に居候することとなった。
「まぁ、こんなもんでいいか」
部屋の邪魔にならなそうなスペースにダ・ヴィンチちゃんが何処からか持ってきてくれた寝袋を広げ、俺はそう呟く。
すると、背後から扉の開く音が聞こえた。
振り返ると、少し前に部屋を出ていった立香が立っていた
「おかえり立香、どこ行ってたんだ?」
「ただいま、ちょっと星を見に」
そう言いつつ、立香は自分のベッドへと腰掛けた。
「オレはもう寝ようと思うけど……レイマはどうする?」
「確か、明日は城に向かうんだったか? 俺も早く寝たほうがいいか」
ナポレオン、ブリュンヒルデ、そして俺という新たな戦力を手に入れた事で、カルデア側は敵の本拠地に乗り込む算段を立てた。
本目標はとあるサーヴァントとそのマスターを倒すことらしい。
なら、明日は戦いの一日になるだろう。
俺と立香は双方の寝床に背を預けた。
電気も消え暗い部屋の中、俺は今日のことを振り返る。
異世界の人間に興味津々のダ・ヴィンチちゃんに、所長としての責務を全うしているゴルドルフ所長。
軽く話したカルデアの職員さん達も俺に優しく接してくれた。
……俺には、その優しさが少し怖かった。
「──まだ、起きてるか?」
「……起きてるよ」
寝たままそう呟けば、そんな言葉が帰ってくる。
「立香は……俺の事、怖いとか思わないのか?」
違う世界から来て、存在もよく分からない俺みたいなのは、誰かに怖いと思われても仕方がない存在だ。
「……怖い、とは思わないかな」
しかし、立香はそう言った。
「確かに、オレはレイマについて知らないけど……その分、知りたいと思ってる」
「……そっか。じゃあまた今度、この作戦が終わった時にでも話すよ」
「うん、楽しみにしてる」
互いに天井だけを見つめていたはずのその会話だが、どうしてか立香の表情がわかる気がした。