異世界サモナー、神話の怪物達と人理修復に参加する 作:一般通過初心者作家
翌朝、俺たちは目的地である城に向けて接近していた。
立香、マシュ、そしてナポレオンさんの三人はボーダーの上に。
そして、ブリュンヒルデさんと俺はボーダーの中で待機している。
「あの、俺も外に出た方がいいんじゃ……」
「……私も、ここに居たままでよろしいのでしょうか?」
どうやら俺とブリュンヒルデさんは同じことを考えていたらしい。
しかし、それを諫めるようにスピーカーからの声が聞こえてきた。
『二人ともありがとう、でも気持ちだけもらっておくよ。キミ達二人は本ミッションの要になるからね、道中の露払いの為に消耗させるわけにはいかないのさ』
立香たちが任されているのは量産型ワルキューレや巨人種の群れを迎撃する事。
『特にレイマ君、君は向こうにとっても想定外の存在のはずだ。昨日の時点で顔を見せてしまってはいるものの、それ以上に相手の脅威へとなりうると私は考えている』
「……だから温存しててほしいってことですね」
『うん、理解してもらえたようで何よりだ』
ただ、何もしないというのも居心地が悪い。
力を温存しておいてほしい……というのなら、改めて作戦内容を振り返っておくのが良いだろう。
俺達の目標は二つ。一つはペーパームーンと呼ばれる敵に奪われたカルデアの重要な物を取り返す事、そして空想樹というものを切除すること。
正直この辺りはさらっと資料を読んだ程度の理解で俺もあまりわかっていない、というか知らない事が多すぎる。
なので、俺が考えるべきはその道中にある敵との戦闘になるだろう。
「…………」
俺は静かに、しかしどこか不安げな表情を浮かべながら待機しているブリュンヒルデさんを見る。
俺達の障害になるであろうサーヴァント、彼女はその人と因縁があった。
シグルド、北欧の伝承に語られる龍殺しの英雄。
そして彼女はそれを殺した伝承を持っている。
ダ・ヴィンチちゃんの言う通り、そんな切り札を易々と出すわけにもいかない。
「……あの、困ります。そのように見られてしまっては……」
「あ、すまん。そりゃジロジロ見られたら嫌だよな」
「……いえ、そうではなく。今の私は、勇士を殺す者です。そういう者として、顕れています。だから、勇士に見られてしまうと、その。困ってしまいます……」
「勇士か……そんなんじゃないと思うんだが」
英雄として称えられたことはあった。だが、俺はただ目の前の助けられるものを助けたかっただけで、そんな大層なものじゃない。
「……勇士とは、戦いに命をかけられる者です。しかしそれは、蛮勇でも自滅でもあってはならない。戦うことで、命をかけることで、それ以上の大切なものを守る……それが、勇士と呼ばれる者です。私は、貴方にその資格を感じています」
相も変わらず困った様子で、しかし真っ直ぐに、彼女はそう言った。
「そう……ですか」
「はい、なので……あまり近づかないでください。私の槍が、貴方へと向かないように」
そう在ると定められたモノ、そうだったと記録されたモノ。
本人の意思に関係なく、それは大きな影響をもたらすものだ。俺はそれを召喚獣達でよく知っている。
どこかの世界を終わらせる原典を持っていたとしても、それが彼女達の全てではない。ブリュンヒルデさんもまた、そういう葛藤を抱えているのだろう。
「わかりました」
だから、俺はそれ以上言わなかった。
彼女はホッとしたような表情を浮かべると、再び静かに車窓から前方を眺める。
そちらでは現在、巨人種の群れを迎撃している立香たちの姿があった。
やはり戦えないというのは苦しいが、この程度でやられる三人じゃないことも分かっている。
俺に出来ることはただ一つ。仲間たちを信じて、任された事をするだけだ。
◇ ◇ ◇
それは、氷の城だった。
西洋を感じさせる美しいその城は、俺でも分かるほどに大きな魔力が渦巻いている。
その城に繋がる大橋の上で、俺達は巨人達と戦闘をしていた。
ナポレオンさんの砲撃が巨人を貫き、マシュは盾を使い器用に戦っている。
立香も簡易召喚というものでその二人を支援している。
俺とブリュンヒルデさんは相変わらず後方で温存という形だった。
「やぁっ!」
最後の巨人を、マシュの盾が強く殴打する。姿勢の崩れた巨人へ向けて続けざまに砲撃が放たれ……倒れた巨人は沈黙した。
「ムスペル巨人種及び氷の獣、撃破! 地下から上がってきた敵性存在はこれで全てです!」
マシュはそういうと同時に、橋の先へと視線を向ける。
俺もその視線の後を追えば、先ほどから感じてはいた何者かの存在。その存在がこちらへと接近してくるのが目で確認できた。
灰色の装甲、顔の大半を覆う黒いマスク、目元のレンズの向こうに見える赤の瞳。
「ク。クク。いいぞ。以前に比べて随分と勢いがある。急激な変化を遂げたわけでもあるまいに……そうまで変わるか。ヒトの仔、ヒトの英霊ども」
「ハッ! 英霊はお互い様だろ、大英雄?」
そう言いながら接近してくるそいつに、ブリュンヒルデさんが近づいていく。
「シグルド……!」
英霊シグルド、俺達に立ちはだかるであろうと予測されていた最大の壁。
彼はブリュンヒルデさんを前にしても、何一つ顔色を変えなかった。
「久しいな。おまえもまた汎人類史からの英霊であるならば、俺と戦う意味はあるか。ならば来い、ブリュンヒルデ。半神であれば殺し甲斐もある」
「……他人行儀、なのですね」
「他人だ。俺にとってはな」
俺達に敵対する……異聞帯に与する彼にとって、汎人類史の彼女など関係が無い。
彼の態度からはそれがにじみ出ていた。
しかし、ブリュンヒルデさんは一切退かずに言葉を続ける。
「貴方は異聞帯のサーヴァントであるとでも? 瞳の色が違う程度で、私は、私の得物を違えない。貴方はシグルド、あらゆる能力に優れた戦士の王。貴方は、この私が
そうして、ブリュンヒルデさんは槍を構えた。
「だから……死んで、くれますね。シグルド」
「死ぬのはお前だ、戦乙女」
二人の交わす視線が強い気を帯びる。そこへ、一つの影が舞い降りた。
白のローブに身を包む、黒髪赤目のワルキューレ。
「オルトリンデ、退きなさい。貴女は姉妹たちの願いを聞いた筈。ならば私と戦う意味も、必要もなく、私とシグルドの
彼女は一瞬だけ視線を伏せ……そして、再び姉の方を見る。
「私、考えてみました。でも、私には分かりません。微かにしか感じ取ることも出来ず、言葉にも出来ない。だから私は槍を振るいます。戦闘機能を強制拡大。機体性能、出力を過剰暴走状態にて引き上げ。魔剣グラムの魔力と同調し――連携戦闘を開始します!」
それと同時に、彼女の魔力が大きく膨れ上がっていく。
あの時戦った彼女たちの比じゃないほどに大きいそれは、傍から見てもその身を削るものだ。
「俺に付いてくるつもりか。小癪な、だが面白い」
「いいや違うね、健気っていうのさ魔剣使い! しかし胸の躍る光景だ、魔剣使いと戦乙女の同調とはな! そして、英霊として神秘を壊すのも得意と来る!」
「やってみろ。既に二度、おまえの砲撃は俺に通らなかった」
ナポレオンを一瞥し、当然だと言わんばかりに告げるシグルドに、ナポレオンは不敵な笑みを返し続ける。
「オーララ! 一度や二度がなんだって話さ、最後には勝つ! 三度目こそ風穴だ!」
「わたしたちには五度目です! 今度こそ、その魔剣を防ぎきります!」
「うん、戦闘準備!」
ナポレオンの宣誓に、全員が戦闘態勢を取った。俺もそれに合わせ、その姿勢を取る。
「【ウェポンサモン】レーヴァテイン、あとノワール」
召喚獣達は一旦様子見、この作戦はブリュンヒルデを軸としてシグルドを倒すというもの。
下手に数を増やして動きを邪魔しても良くないし、俺は支援を優先することにした。
「シグルド……出逢えたからには、此処で、殺します!」
ブリュンヒルデの先制攻撃がシグルドを捉える。
それを受け止めた魔剣から散る火花にとって、戦いの幕が上がった。
「【ストレングス】【ディフェンス】」
左手に握ったレーヴァテインで、攻撃と防御を強化する魔法を全員にかける。
その支援を受けてシグルドの攻撃を受け止めるマシュと、そこへ槍による攻撃を仕掛けるブリュンヒルデ。
「ほう、少年は銃も使うのか。オレほどじゃないが……悪くない!」
そして合間を縫うように砲撃を挟むナポレオン。
俺も右手に握るノワールの標準をシグルドに合わせた。
このノワールはデバフに特化したリボルバー式の拳銃で、ミソロジアではなく現代で手にした武器の一つだ。
ただ、今回はデバフはおまけで攻撃手段の一つとして取り出した。
俺はノワールに魔力を込め、撃ち出す。
しかし、その弾丸を光の槍が綺麗に撃ち落とした。
「ちっ、流石はワルキューレ。オレたちの攻撃をああも見事に捌くか!」
「先に貴方達を倒しましょう」
こちらへと接近してくるオルトリンデ、しかしそれを影法師が阻む。
立香の簡易召喚によって呼び出された英霊達だ。
五対二の混戦、数の有利はあるが相手の強さが尋常ではない。
片や魔剣を持つ北欧最強格の英雄、片や神の使いである戦乙女。
戦えてはいるもの、双方決定打と呼べそうな物には欠けていた。
「戦時の英雄としてのシグルドがこれ程とは。私が知るのは平穏な中で生きる彼の顔ばかりで、分かっていたつもりになっていたのですね」
彼女の動きが止まる、それに合わせてシグルドの動きも止まった。
「嗚呼、逞しい英雄。嗚呼、恐ろしい男。ならば私は……私は、魂をかけて燃え盛るより他にないでしょう――大神刻印・原型励起」
その瞬間、ブリュンヒルデの体から膨大な魔力があふれ出した。
先ほど見せたオルトリンデの物よりもはるかに大きい力だ。
すると、通信機から声と共に少女の姿が出てくる。
『これは――大神刻印! かつて神代に在った原初のルーンかな!?』
声の主はダ・ヴィンチ。どうやら魔力を観測してこちらの様子を見に来たらしい。
『少なくとも現代ルーンの数百倍の威力を有する、魔法にさえ等しい神代の魔術。そんなものを本格的に開放すれば、霊基どころか――』
「ええ、魂が消し飛ぶ。そうでしょうね」
「それは……」
「そこまでは聞いてない!」
ブリュンヒルデの発言に驚く俺と立香。
しかし、彼女は俺達の方を見て軽く微笑んで見せた。
「ありがとう、優しい子達。ですが……私が命を懸けるということは、こういうことです。さあ、お待たせしましたね、シグルド。再び
「――小賢しい、今さら大神の仕掛け如きか。興が覚めたぞ、戦士の真似事はやめだ。殺す。」
再びその槍と魔剣の切っ先が向かい合う。
「待って」
だが、それを制止する声があった。
視線を向ければ、そこには片目を眼帯で覆った茶髪の女性が居た。
その女性は少し呆れたような様子で、シグルドへと言葉を続ける。
「その魔剣で殺すのはサーヴァントたちだけでいい。そう何度も言ったはずなのに、全員殺すつもりだったわね」
「……オフェリアさん」
ゴーグルを外し、マシュはその女性へと呼びかける。
オフェリア・ファムルソローネ。聞いた話では元々カルデアに所属していた人物で、マシュとも交友関係があったらしい。
彼女はマシュの方をみて、一瞬だけ寂しそうな、悲しそうな顔をした。
「……また、来てしまったのねマシュ。どうして?」
「わたしたちには、責任があるからです」
「責任? 人理を守る、という使命感かしら」
「……わかりません、使命感と言えるほど、わたしは人間を知らないのです。でも、たとえこの異聞帯を滅ぼすとしても、わたしたちは……自分たちの世界を諦めてはいけないんです」
異聞帯を滅ぼさなければ、自分たちの未来はない。
言葉の節々から感じる罪悪感が、それでも世界を取り戻そうとする強い意志が、そこにはあった。
「……マシュ、アナタは随分と強くなった。私はアナタのようにはなれない、けれど道は譲らない。私は――キリシュタリア様の期待だけは裏切れない!」
オフェリアの眼帯が解ける。
その裏にあったのは、左目と同じ青の瞳ではなく。その正反対とも呼べる赤い瞳だった。
「魔眼――」
見た目だけで言えばバロールの目にも似ているそれを、彼女はブリュンヒルデへと定めた。
「――事象・
赤い瞳から魔力が放たれる。それと同時に、ブリュンヒルデが苦悶の声を上げた。
「くっ、う……! あああああああああああっ……!」
先ほどまでの魔力は消え失せ、ブリュンヒルデは地面へと倒れる。
「アナタの輝きは眩しすぎるの。だから、私の瞳は、その可能性が進む先を視ない」
「やはり事象の巻き戻り……でも、だとしても時間への干渉だけは有り得ません!」
「クク。大神刻印の原型励起などはその霊基に有り余るだろう、力の発現だけが停止され、霊核の崩壊だけが残ったな?」
地に伏せるブリュンヒルデを、シグルドは心底愉快そうな目で見つめていた。
ブリュンヒルデはなおも苦悶の声を上げ続けている。
「っ……すぐに礼装で回復を!」
そんな彼女へ、立香が駆け寄ろうとする、しかし――。
「……いいえ、まだ、まだですよ立香。そんな風に……心配されてしまうと、私……困ります……彼女の魔眼については、私にお任せ戴きたい」
ブリュンヒルデはそう言って立ち上がる。
そんな彼女へとオフェリアは再び目を向けた。
「! 事象・
「――いいえ。その瞳、ひとたび身に受け止めれば充分です。大神刻印・再励起」
一度消えたはずの魔力が、再びその身から溢れだす。
「私は! シグルドを! 殺す!」
先ほど以上の速度で、彼女がシグルドへと斬りかかる。
自身の体が砕けるほどの反動を受けてなお、ブリュンヒルデはそれを再起動した。
それが何を意味するか、この場に居た誰もが理解していただろう。
「嘘……彼女は、精神を固定させた……! 歩む道をひとつきりと定めきって、
オフェリアは驚愕していた。
その驚きの声に、シグルドが笑い返す。
「およそ人には叶うまい、ただの半神にも無理だ。しかし、自らを燃やす狂える半神ならば、或いは!」
先ほどの現象、そして今の発言。
そこから考えるに、あの魔眼は可能性を視てそれを固定することが出来るという代物なのだろう。
しかし、ブリュンヒルデはそれを制した。
自身はシグルドを殺すために全てを使うと、それ以外の全ての道を切り捨てた。
「シグルド! 我が炎、我が狂気、我が想い、悪を歩む貴方に……届かせる!」
溢れ出している膨大な魔力が、その手にある槍へと流れ込んでいく。
「――【
ブリュンヒルデの槍が、その魔力をもって巨大化する。
「戦士の命を貫くための槍、宝具か!」
「これこそは必殺の槍。龍殺しを、大英雄を、愛した男を殺すための渾身。この刃を避ける事は出来ない。貴方が、英霊シグルドである限り!」
その槍が、シグルドへと放たれる。間違いなくここが最大のチャンスだろう。
俺は彼女とその武器に、ありったけのバフを最大出力で乗せる。
「この大槍こそは――一撃! 必殺!」
彼女の宣言通り、本来なら
「――魔剣、一閃」
しかし、その槍をシグルドは迎え撃った。
巨大な槍を、大きな炎の一閃が受け止める。
「フ。ただの宝具だけなら、俺に傷を負わせても殺すまでは至らなかっただろう。だがこの一撃、重みであれば――俺を殺すに、いや、シグルドの霊核を砕くに値する」
その言葉通り、強大な槍が、シグルドを貫いた。
だが……彼は笑っていた。
「ククク、ははは! 遂に、シグルドの霊核が砕けた!
槍にその身を貫かれたまま、高笑いを上げるシグルド。
その様子を、オフェリアが怯えた目で見ていた。
『皆、何かおかしい。観測できる魔力が妙な数値を叩き出してる――』
その言葉で、俺は再びシグルドへと視線を向ける。
貫かれ、消えていくはずの彼の魔力は、ゆっくりと胎動するように力を高めていた。
「――事象・
次の瞬間、オフェリアが動いた。
「シグルドの霊核崩壊に伴う
再び魔眼が輝く、しかしそれはシグルドへ届かなかった。
いや、届いたうえで、意味がなかった。
「フ。効かんなァ。ソレの破り方は戦乙女が示したばかりだろうが」
「あ、あ……――だめ、止められない……
彼女は弱弱しく、その指を天に向けた。
その先にあるのは太陽だ。
しかし、その様子は大きく異なっていた。
先ほどまで白くこの銀世界を照らしていたはずのそれは、どこまでも黒く、底の見えない大穴のように変化している。
「――あぁ、炎が――――来る」
か細く、消え入りそうなその声と共に、その内から炎の手が現れたのだった。