異世界サモナー、神話の怪物達と人理修復に参加する 作:一般通過初心者作家
「■■■■■■■■■■――!」
「最っ高のタイミングでボクを喚んでくれたね、レイマ!」
大きな人影の持つ巨大な岩の剣と、小さな影が振り上げた拳が。
終末を告げる炎を真っ向から受け止めていた。
「あ、ゴメンゴメン。ボクの身長じゃ足りないからさ、肩借りてるね?」
「■■■■――!」
「うーん、なんて言ってるかはわかんないや、でも――」
眼前に迫る炎の剣、そしてその奥にいるスルトに向けて。
ニヤリ、とソルの口角が上がる。
「おまえ……お姉ちゃんを、いや。太陽を喰らったな?」
ソルの原典はルナと同じ双子のフェンリル。
エッダにおいて、その双子のフェンリル……スコルとハティは、それぞれ太陽と月を喰らうとされている。
彼女たちはその権能を引き継ぎ、太陽と月……炎と氷の力を扱うことが出来る。
だが今この状況に置いて、彼女の原典が意味することは――。
「なら、お前はボクのエサだ」
太陽を持つものへの特攻。
スルトの持つものと同様の、概念による優先権の獲得。
「……まあいいわ、今はあれを止めるのが最優先。むしろ彼女の助けが欲しいくらいだもの」
「ソル、このまま行けるか?」
「……全く、誰に言ってるの? って言いたいところだけど、どっちが先に食い尽くせるかだと思うな~」
つまり、双方共に完全に防ぎ切ることは不可能。
生命を殺す炎の剣と、太陽を喰らう狼の牙。どちらが相手を先に潰せるか。
だが……今は集落がある以上炎を喰らうことが出来るソルが防衛に回るしかない。
「あの攻撃を止めることが出来れば……」
「――お二人とも、お待たせしました!」
その声と共に、エンジンの駆動音が聞こえる。
やってきたボーダーから、立香とサーヴァントたちが降りてくる。
「オルトリンデよ、私たちはあの二人の支援をするぞ」
「了解、白鳥礼装を緊急起動。スルトの宝具を受け止める存在への補助を開始します」
バーサーカーとソルの周囲に盾が浮かび、彼女達の身を守るようにオルトリンデの補助が入る。
俺もそれに合わせて防御のバフを付与する。
『ソル・スコル、北欧に伝えられる太陽を喰らうとされる狼か。彼女が炎を概念的に取り込み続けていることもあり、まだしばらくは耐えられそうだ。もっとも、この拮抗が続けばの話だが』
「では、当方らは攻撃に回ろう。行くぞ、我が愛」
「――いえ、待ってください」
「……マシュ?」
攻撃に出ようとしたシグルドたちを、マシュが制止した。
『な、何を言っている、デミ・サーヴァントの小娘! いつまで持つかは分からんのだ、さっさとあの巨人王を倒さねば我々が危険に晒されるんだぞ!』
「ですが、オフェリアさんが――」
『あれは巨人王について行った、クリプターとして空想樹の力をスルトへ差し出した。間違いなく我々の敵だ、それは分かっているだろう!』
「……っ」
ゴルドルフ所長にそう叱られ、マシュは悔しそうに歯噛みする。
上空を見上げると……スルトの肩、そこに人影が辛うじて視認できる。
あれでは戦闘の余波を受けて彼女にも被害が出てしまうだろう。
俺だって彼女を倒したいわけではない、犠牲なんてない方が良いし、その上で助けられるものがあるなら助けたい。
だが、このスルトを相手にそんな余裕が、はたしてあるだろうか。
きっと、誰もがマシュの想いを分かっていた。分かっていて、すぐには言えなかった。
「――そうか、助けたいんだな」
ただ、一人の男を除いて。
「マシュ、お前は。オフェリアを助けたいと、そう願うんだな?」
「――はい、私は……彼女を助けたいです」
「そうか、なら――オレが、応えよう」
男は、そう言って砲身を空へ向けた。
『だから、無理だと言っているだろう!』
「無理? そう言ったか。あぁ、言ったよな。ソイツはオレに火を点ける言葉だぜ、オーララ!」
男は、破滅の陽よりもなお眩い、不敵な笑顔を浮かべる。
「当時、人々は願った。あの皇帝ナポレオンならば勝てるのではないか? 別の時にはこんな風に想った。もはや、あの皇帝は市民の幸福の邪魔なのでは? 結果、どうなったか分かるか」
彼の問いかけに応える者はいなかった。
しかし、彼の砲が、体が、炎を纏い始める。
「
纏う炎がより一層の強みを増し――英雄は、その砲身を固定する。
「――勝利砲・射線よし、射角よし、射高よし。砲弾、装填完了! 無理、不可能、行き詰まり……そいつは特段、今だけじゃあなかろうさ――たとえば、この異聞帯には希望が無い。人も、神も、巨人種さえも――誰しもが願いを、夢を、想いを抱けない」
チラリと、その視線が女王に向く。
だがすぐに、視線ははるか上空にある巨人の顔へと戻った。
「ならば……ああ、誰かが教えてやらねばなるまいさ! 希望を! 願いを! いや、いいや! それは、
快男児が笑う。
「ゆえに今、オレは! 此処に勝利の虹を撃ち放つ! とっておきの隠し玉だ、受け取れ怪物! ――【
放たれたのは、虹だった。
その虹は寸分違わずスルトの眉間……顔へと直撃する。
「グ――我が剣を! 阻んで見せるか、ヒトの英霊!」
下手に体へとダメージを入れるのではなく、彼の頭を直接狙ったその一撃。
それはスルトの攻撃を中断させるに十分だった。
そうして、ナポレオンは振り返る。
マシュと立香へと、先ほどとは違う申し訳なさそうな顔で笑いかけた。
その笑顔に、彼らもまた悲しそうに笑っていた。
既に体は消え掛け、虹の光が透けて見える。
それでも、彼はやってみせた。やり遂げて見せた。
不可能を、可能へと変えて見せた。
――彼は、正真正銘の英雄だ。
奪う事しか、殺す事しか出来ない俺とは違い、希望を与え、誰かを助けることのできる英雄だ。
ナポレオンさんだけじゃない、シグルドさんだって、ブリュンヒルデさんだって。
カルデアの助けになり、何かを守り、英霊として戦っていた。
俺に、何が出来るだろう。
英霊でもなければ英雄ですらない俺に。
「レイマ!」
快男児の声が聞こえた。
立香達と会話していたはずのその男の視線は、俺へと向いていた。
「オレは信じてる、あの時お前が見せた優しさを――強さを! だから、お前も信じろ!」
彼の姿が消えていく。耀ける虹を、希望を、夢を残して。
そして――上空から、一人の影が落ちてきていた。
もう、躊躇う理由は無い。
俺はソルとルナへ視線を送り……彼女たちもまた、それに頷いた。
「神殺しの双狼よ、太陽と月の権能を喰らえ──
原典の解放と共に人の姿の二人の背中に浮かぶ、光輪のような太陽と月。
それは、
その力が今、この異聞帯最強の神殺しへと牙を突き立てた。
◇ ◇ ◇
それは神話の再現と言っても差し支えない、壮絶な力のぶつけ合いだった。
「行くよ、お姉ちゃん」
「合わせてよルナ、今回はさすがにボクのほうが相性が良さそうだから」
「わかってる」
彼女達の四肢に纏う焔と冷気が、それぞれスルトの身体へと放たれる。
莫大なパワーを誇るそれらの攻撃は、スルトに当たると大きな爆発を引き起こしてその身体を揺らす。
「凄まじい力だ、当方らも加勢しよう。行くぞ、我が愛」
「はい……」
「では、私もルーンで導こう」
スカサハ=スカディがルーンを描くと、二人の体が宙に浮いていく。
ルナとソル、そしてシグルドさんとブリュンヒルデさんの四人が、未だ攻撃を再開しないスルトへ追い打ちをかけるように畳みかけていく。
だが……それでも巨人王は倒れる様子を見せない。
「回復されてるのか?」
『ミスター・カリヤの言う通り、あれは空想樹との接続を果たしている。今のスルトを倒しきるのは中々難しいだろう』
「……いえ。彼は一度、あの炎の剣を振るっている。空想樹との接続はあれど、それでも魔力の消耗は激しい。なので、最後の一手として……私が、彼とのサーヴァント契約を強制解除します」
ホームズの言葉にそう答えたのは……先ほど空から降ってきたオフェリアさんだった。
「なるほど、それが此処で叶うならば、奴はマスターを失ったサーヴァントに過ぎない」
「ここまで来てマスターからの魔力供給まで切れてしまえば、奴はナポレオンから受けた傷の回復を待って、一度体勢を立て直すだろう」
「……ここで逃がすわけには行かない」
「はい、対巨人王戦闘準備、いつでも行けます!」
残るメンバーも総じて攻撃に転じる準備をする。
俺も改めてレーヴァテインを構え、その巨躯を見上げた。
「オフェリア。キミは引き続きスルトについて――」
「いいえ。私が知っていることはそう多くはありません。なので――今この場で、サーヴァント契約を断ち切ります」
彼女はそう言って、眼帯を外す。
「巨人王は膨大な魔力を有しますが、魔力供給を失えば効率的な存在維持は難しくなる。そうすればあの巨人王を討つことも出来るでしょう」
「いいのか、オフェリア。あれは、おまえの瞳を要石としているのだろう」
「……オフェリアさん!」
「フォウ!」
スカサハ=スカディの言う事が本当ならば、彼女の魔眼がスルトをこの世界に結び付けていることになる。
この世界に来たばかりの俺でも、これから彼女の起こす行動がかなりの代償を払うことになる事を理解してしまった。
「……フォウ。そう言えば、アナタも久しぶりだったわね。一度撫でてみたかったの、いいかしら」
「フォ……」
「――ありがとう。満足よ。マシュも、ありがとう。心配してくれて」
でも。そう言って、彼女はその魔眼をスルトへと向けた。
「私は、希望を持ってこうするの。だって、せめて、私はあのひとの期待に応えたい。自分の失敗に対する始末は自分でつける。それが、私をクリプターと認めて下さった――いえ、生きるに値する者と身を捧げてくれた、キリシュタリア様への、唯一の……!」
魔眼が、より一層の輝きを帯びる。
「私の魔眼、その真価は……要石! 神霊にも等しい巨人王を現世に留めおくだけの役割を、この魔眼は担えている! この瞳を排除して……スルトとの契約を、切り離す……!」
「魔眼は脳に強く結び付くものです! 繊細な処置が無ければ、溢れる魔力が――あなたの脳を破壊します! オフェリアさん!」
「なっ――!」
「覚悟の上の事。そうだな、オフェリア」
「はい……!」
彼女の魔瞳から血が流れる。その痛みに、苦痛の声を上げる。
それでも、彼女が止まることは無かった。
彼女の覚悟が、何者も止めることを許さなかった。
「っ――魔眼と、魔術回路の接続を……解除! 魔眼は……力を失い……! 要石としての機能も、同時に、消え失せる!」
「オフェリアさん、もういい!」
「まだ、まだよ! 更に――」
魔眼とは対照的な青の光が、輝き始めた。
それから溢れ出る魔力は既に、彼女の限界を超えている。
――それは、ダメだ。
止めようと手を伸ばす前に、俺の身体から何かが飛び出した。
「いいや、
発されたのは言霊、言ったことがそのまま起こるというそれに、オフェリアさんの魔力が止まる。
「そう、それ以上の責任をキミが負う理由はない」
真珠のような色の髪に、とんがり帽子を被るその少女が、彼女を優しく抱擁する。
「まったく、レイマ以外では特別なんだぞ? でも――
「貴女……は……」
すると、オフェリアさんは気を失って倒れてしまった。
彼女を受け止めたメルリは、マシュの方へと呼びかける。
「盾の少女、頼めるかい?」
「は、はい! すぐに医療室へ連れて行きます!」
「うん、いい子だ。あの子も随分と素直なんだね」
「……助かった、メルリ」
「いいや、さっきも言っただろう?
メルリは悪戯っぽくそう俺に笑いかけた。
俺はそれに頷き……立香の方を見る。
彼も、俺を見て頷いた。
「俺は一撃の準備をする、バックアップを任せたいんだが……いけるか?」
「うん、任せて」
そう言って、俺と立香もスカサハ=スカディのルーンでスルトの元へと飛んでいく。
「ソル! ルナ! 待たせた!」
「おっそ~い! このままレイマの出る幕もなくボクが終わらせてもいいんだけど!」
「出来るなら全然そうしてくれ、ほら、追加のバフ行くぞ」
攻撃力と防御力、火炎耐性に加えて移動速度に関連するバフも付与する。
それから俺は改めて杖を構え、魔力を充填し始めた。
この世界なら三分もあれば溜まるだろう。
立香も簡易召喚でシグルド達と連携を取りながら戦っている。
「 邪魔、だ 」
「そう言われて退くわけないでしょ、馬鹿なの?」
「お姉ちゃん……でも、同意」
「この状況、負けるわけにはいかぬな。合わせろ我が愛」
「はい」
魔剣と槍、その二つはスルトの両肩へとそれぞれ放たれた。
それへ合わせるように、ソルとルナが拳を掲げる。
「【ラディーレン・ソル】!」
「【デーストルークティオー・ルナ】!」
「 グ、オ、オオォ――! 」
それらの攻撃はスルトへとしっかりダメージを与えている。しかしその躯体が倒れることは無い、むしろ――。
「 ここで、ここで終わってたまるかァァ! 」
そう咆えた。
「 俺は、星を……灼き尽くす……! オフェリアァァァ! 」
右手が降りあがる。
その一撃は、先ほどよりも重い、まさに全てを賭けた一撃だった。
その剣が、俺めがけて降り下ろされる。
魔力の充填はまだ終わっていない、俺はそれを受け止めるべく一度充填を中断しようとして――。
「今、ボクのレイマを狙ったな?」
太陽を宿し燃える両腕が、その剣を受け止めた。
炎同士が喰らい合い、互いから零れた炎が火花のように飛び散っていく。
「レイマ、あとどのくらい?」
「まだ時間かかりそうだったけど……これなら!」
俺は飛び散った炎……その魔力を吸収し、レーヴァテインへと込める。
「当方らも合わせよう」
「はい、参ります――」
「オレも!」
シグルド、ブリュンヒルデ、そして立香の簡易召喚した英霊による一撃。
「【
「【
再び、スルトの剣が防がれる。
魔力の充填も終わった、この後隙こそが絶好のタイミングだった。
「――レイマ!」
「あぁ、任せろ――存在開放」
立香の声に応え、俺は言葉を紡ぎ始める。
「灼熱の空、堕ちる世界、全てを灰へと戻そうか。これはそう――世界を断ち切る、スルトの剣」
詠唱を終えた瞬間、炎があふれ出した。
これこそ、俺の居た異世界で見たスルトの巨剣の再現。
この世界で星をも破壊せんとした、終末を告げる攻撃。
「お前に返すぜ、今の一撃を――ムスペルヘイム・レーヴァテイン!」
その剣は、スルトの身体を見事に両断してみせた。