異世界サモナー、神話の怪物達と人理修復に参加する 作:一般通過初心者作家
両断されたスルトは、唸るような悲鳴をあげながら消えていった。
それを見届けた二騎の英霊もまた、最後に笑顔で消えていった。
俺達が地上へと戻ると、笑顔のマシュがこちらへと駆け寄ってきた。
「先輩! レイマさん!」
「マシュ、オフェリアさんの様子は?」
「ダ・ヴィンチちゃんによると、命に別状まではないそうで……それも全部レイマさんのお陰です」
「いや、礼なら俺より――」
「そうだね、私が止めたんだからもっと私に感謝をするべきだ」
俺が視線を向ければ、無い胸を張りながらメルリがそう言った。
「はい、ありがとうございます!」
「ふふ、やっぱり素直な子はいいね!」
その様子をみて、ソルとルナが何とも言えなさそうな顔をする。
「ねぇレイマ、あのバカエロフ調子に乗ってない?」
「別にいいだろうソル、私が活躍したのは事実なんだし」
「止めただけ……」
「それが大活躍じゃなかったらなんなのさ? まぁ……それでハッピーエンドとは、いかないみたいだけどね」
「……そうさな」
答えたのはこの異聞帯の女王だった。
彼女の背後で、これまで見えていなかった巨大な樹がその姿を顕わす。
空想樹、おそらくあれが、そう呼ばれる樹なのだろう。
その前に、彼女は沈黙していた。
ただ黙って――いや、何かを悩み言い淀むような、そんな沈黙だった。
その様子に、メルリが呆れたように言う。
「…………全く、彼も彼なら君も君だな」
「――貴様は、いや、お前はやはりそうなのだな」
確信めいたその言葉。
なによりずっと待ちわびていたような、しかし目を背けていたかったような。
相反した感情に、彼女の表情は揺れ動いていた。
「先に言っておくけど、私は君の思う
「……そんなこと、わかっておる。異世界の賢者よ。だが、故に問うておくことがある。なぜオフェリアを止めた?」
「それは君だって思っていたんじゃないかい? 確かに、スルトをこの地に再び招いたのは彼女の責任だ。サーヴァントとの契約を切ることは、彼女自身のケジメにもなるだろう。だけど……
「……お前は、何を――」
北欧神話における主神オーディン。
その神は自身の片目を捧げ、逆さに吊られることで全てを見通す全知全能の神となった。
「この異聞帯に来てから、どうにも私の力が強まっていてね。まぁ、それ以上に彼の残したものの影響もあるのだろうけど……私は、この異聞帯の彼について、知ってしまったのさ。いやぁ、別の世界の自分か、レイマもこんな感じの気持ちだったのかな?」
「……今俺と一緒にするなよ」
まぁ、状況的には似ているのだろうが、立場も中身も違いすぎる。
それに、メルリを見つめる彼女の視線もある。
「……そうか」
「おや、何を知ったのかは聞かないんだね」
「――それを聞く必要はない、叶う事も無い。なぜなら、お前たちはここで私が倒すからだ」
スカサハ=スカディの服が変化していく。
女王の威厳と母の慈愛を兼ね備えたような紫のドレスから、美しさと覚悟を持つ白い装束へと。
「全く、頑固なお姫様だ。でも私は戦わないよ?」
「……構わぬ、お前たちが手を出さなくとも、私はこの北欧を守らねばならないのだから。オルトリンデよ」
自分に言い聞かせるよう、そう呟いた彼女は最後の御使いの名を呼んだ。
「はい、我が神」
「おまえはどうする? 許す、好きに選ぶがよいぞ」
「……私は、私の意思で貴女にお供します。お父様より北欧を継いだスカサハ=スカディ――命令の、入力を」
「そうか、では戦闘準備。我らは、是なる『樹』を守り抜く」
「了解しました」
そして高く上空を舞う鳥が、静かになった北欧へとその鳴き声を響かせた。
「聞こえるかカルデア、炎の巨人王さえ斃してみせた怪物ども。空にて羽ばたく、あの鳥たち。見事、私を斃し、空想樹を切り倒した暁には……あれの正体をおしえてやろう」
「――本当に頑固だな、貴女は。いや、頑固なのではなくて……」
「それ以上喋ることは許さんぞ、異世界の賢者」
「はいはい、まったくもう。怖いんだから……」
そう言って、メルリは俺の傍まで逃げかえるように戻ってきた。
彼女はそのまま、俺の耳元まで顔を近づけてこう言う。
「ねぇレイマ、頼みがあるんだけど」
「なんだ?」
「今回は、この戦いに手を出さないでくれないかい?」
「……本当にそれでいいのか?」
「いいのさ、これは
そんな、柄にもない事を。
普段の……いや、本来の? 彼女は、人の心なんて微塵も無いし、故に様々な問題を起こす召喚獣屈指の自由人だ。
大概人の意見も聞かない彼女が……ワガママだと、わざわざ口にした。
そんな彼女への返答は、もう決まっている。
「わかった、俺は手を出さないよ。本当に不味そうな時は助けようと思うけど」
「ありがとう、私の英雄」
それだけ言い残し、彼女は俺の後ろへと下がっていった。
「……ボクも気持ちはわからなくもないけど、それにしたっていつも以上に変じゃない?」
「うるさいなぁ、あっちの戦闘に手を出す気はないけど、ソルの相手程度ならいくらでもしてあげるよ?」
「……そんな場合じゃ、ないでしょ」
なんだかだいぶ不穏な発言が聞こえたが、気を引き締めて俺は前方を見る。
元々、手助けはするつもりだった。でも異聞帯の行く末を決めるのは、俺じゃないとも思っていた。
俺はあくまで異分子だ、助けてもらった恩を返そうと思っても、それが行き過ぎて二人の道を狭めることはしてはいけない。
俺を導いてくれた英雄達も、きっとそう思っていたはずだ。
「その、立香、マシュ。すまん、聞いての通りだ」
「ううん、ありがとう。オレ達は、そのつもりでここにいるんだ」
「……はい、私たちは責任と覚悟を持って、異聞帯に挑まねばならないのです」
二人が前へと歩み出る。
スカサハ=スカディの目つきも、一層鋭いものになる。
「――時に、おまえたちの汎人類史に、ヒトはいかほど生きる? 万を超え、幾百万、幾千万、幾億……獣や草木を数えれば数限りなかろうな。ならば私は、我が一万の民への愛がため、那由多の命をもこの手で奪ってみせよう!
その宣戦布告と共に、異聞帯最後の戦いの幕は開けた。
前に出て槍と盾を交わすオルトリンデとマシュ、その後方から互いに支援と攻撃を繰り出すスカサハ=スカディと立香。
その戦いをただ、俺は見守っていた。
『……ミスター・カリヤ、まずはカルデアの経営顧問として、こちらの方針に過度な干渉をしなかったその心遣いに感謝したい』
「いや、当然の事だと思いますよ。」
『それを当然と言えて、かつ根の善性が崩れないというのは、それだけの経験を踏んできたからと見る。どうかな、今後も我々に助力する気はないかね?』
「まぁ、元よりそのつもりではありますけど……この異聞帯が消えたら俺も消えません?」
通信機越しに声をかけてきたホームズに、そんなことを聞いてみた。
『可能性は否定できない、いくら
「その理由は?」
『それは……今はまだ、語るべき時ではない』
「……なら、消えなかったら協力させてもらいます」
『ハハ、そうしてくれると嬉しい』
それ以降、ホームズが喋ることは無かった。
ホームズだけじゃなくて、ダ・ヴィンチちゃんも、度々苦い表情を見せていたゴルドルフ所長も、何か声をかけてくることは無かった。
戦う音が、次第に弱弱しくなっていき……オルトリンデが倒れた。
続くように……いや、最後の抵抗を見せた上で、スカサハ=スカディもその場に倒れ、天を見上げる。
カルデアの勝利だった。
「見事――ああ、やはり。私は女王となるには弱すぎた」
天を見上げ、そう呟いた女王に。沈黙していたホームズが再び口を開く。
『何故、黙っていたのですか。貴女の魔力はスルト戦から殆ど回復していない。そんな状態で何故、ほぼ万全の状態に近い私たちと戦ったのです』
「……スルトめが傷付けたばかりの大地や命を癒さねばならぬのだ。おまえたちとの戦いに割ける魔力なぞは、元より些末なものではあった。ふふ」
彼女は、再び啼いた鳥を見て、指を指す。
「そうだ、おまえたちには教えてやろう。あれこそは、オーディンの遣いたる比翼である」
「大神の使い魔だと! そ、それでは、あの二羽はフギンとムニン――思考と記憶の名を有する最高位の使い魔か!」
「まさか、おまえたちをも、あの二羽で導いていたとはな」
上がった腕が、力なく再び地に落ちる。
それを皮切りに、大地が微かに揺れ始めた。
通信機からダ・ヴィンチちゃんの声が聞こえ、今すぐボーダーに戻るように指示が飛ぶ。
「……ひとつ、最後に贈り物をしよう。カルデアの者たち。我が異聞帯に根付く筈であったあれなる空想樹、その名を、おまえたちに教えよう。アレの名はソンブレロ。神代に生きた私には意味の無い名であったが……おまえたちには、どうかな……?」
立香達は、その言葉を背中で受けとめてボーダーに向かった。
『レイマくん、君も早く乗り込むんだ!』
「あー、先に行っててください、すぐ追いつくんで」
俺は、ただ一人倒れた女王に近づいていく人物の方を見た。
彼女は、その赤い瞳で女王の事を見下ろしている。
「……なんだ、こちらから言う事は何もないぞ」
「私にはあるのさ、いや、君にもあったはずだけど……君はそれを、覚悟で飲み込んだ、違うかい?」
宣戦布告という名の自己暗示、自分が女王であると、揺れず、ブレず、戦い抜くための決意表明。
誰の目にも映っていたであろうそれを、
「もう、この異聞帯は終わる。君は負けた、後には何も残らない」
淡々と、メルリはそう告げた。
「……だからこそ、もう全ての枷は無くなったはずだ。ずっと、言いたいことがあったんだろう?」
その言葉に、彼女が目を瞑って――再び瞼を上げて口を開くまで、少しだけ間があった。
まるで何かを躊躇っているような、このまま、何も言葉にならないのではとすら思う間が。
でも、メルリは待っていた。急いで戻らないといけないにも関わらず、急かすことも焦る事も無く。ただ、彼女が自ら言葉を口にするのを待っていた。
「――なぜだ」
涙が、彼女の瞳から零れていた。
この北欧の冷たさのような、酷く冷え切った涙だった。
目から伝う涙を隠す素振りもなく、スカサハ=スカディは泣いていた。
「わかっている、おまえがオーディンではないことも。でも、なぜ――なぜ、私に北欧を残した。なぜ、私に愛し子たちを残した……なぜ、私と我が子を、救ってはくれなかったのだ――」
彼女の経緯は、既に氷の城で聞いている。
ただ
「私は、ここで……空想樹という奇跡の中、必死に手を伸ばし続けた。だが、結局は偽りだ。愛を口にし、口にさせて、三千年もの間。幾多の命を殺し続けた」
「でも、そうしなければこの世界は生きられなかっただろう?」
「……だとしても、私がそんな地獄を運営せしめた神であることには変わりない。なあ、オーディン。どうして、おまえは……私を、殺してくれなかったのだ……?」
その神は、目の前の大神にそう問いかけた。
この三千年の間、ずっと思っていたであろう苦しみを、メルリへとぶつけていた。
そして……当のメルリは、その言葉を聞いて満足そうな表情を浮かべていた。
「なら、私はその言葉に応えよう。何度も言う通り、本物の
そう言って、彼女は女王の傍に座り込んだ。
「だから、私がこれから話す事は、私が
「……願い?」
「あぁ、意外だろう? かの全知全能の大神は、最後に願いを
「え…………」
ピタリと、涙が止まった。驚いたように目を見開いて、それからまた、彼女は泣き始めた。
「……そんなもの、あまりに……勝手だ」
「そうだね、私もそう思う。こうして苦しむことだって、彼は予見していたはずだ。だからこそ後悔している、しかしそれ以上に――貴女に、生きていてほしかった」
「……もし、それが真実なのだとしたら。オーディンは、大
「でも、それが私の見たものさ」
そういうと、彼女は魔法であるものを取り出した。
それは、小さな雪の精霊のような使い魔と、かき氷機だった。
メルリは指先一つでそれを動かし、あっという間にかき氷を完成させる。
それにどこからともなく取り出した苺シロップを掛け――そっと、彼女の傍に置いた。
「じゃあ、私はこれで」
返事は、彼女のすすり泣きだけだった。
それでもメルリは立ち上がり、俺達の方へと戻ってくる。
「待たせたね、レイマ」
「いや、必要なことだったんだろ? なら、それでいい」
「……相変わらずだね、それじゃあ行こうか! 皆を待たせすぎるのは良くない!」
「じゃ、レイマはボクに乗って? ルナはもう随分と乗せてたでしょ。それにボクのほうがルナより早いし」
「……それは聞き捨てならない」
「よし、ならルナには私が乗ろう! 競争と行こうじゃないか、レイマ!」
――彼らが去った世界で。
彼女は未だ、天を見上げていた。
いや、その視界は滲みに滲んで天すら映っていない。
吐いてやろうとどこかで思っていた沢山の恨み言が、涙と一緒に流れて言葉にならない。
なんてことを、言うのだ。
今更、神一柱からの愛を受け、私が何を思うというのか。
そんなことも見抜けぬ大神とは、よもや思わなんだ。
…………だから、きっと、わかっているのだろう。
私がそれに応えないと、私がそう言うと、分かっていたからこそ。
ただ、私を
滲んだ視界に、二羽の鳥が映る。
……あれらも、大神にそう言われ飛び続けたのだろうか。
もはや知る術こそないが。だったら、あんなやつの思い通りになんて、なってたまるか。
何を出来るわけでもなく、彼女は顔を横へ倒す。
「――あ」
そこには、透明な水晶の器に盛られた、氷菓子があった。
いつか自分が作ったものに似ているようだが、この氷は細かく削られていた。
起き上がり、彼女はその器を手に取る。
刺さっていたスプーンを握り、赤い液体と混ざり合った氷を……おそるおそる、口へと運んだ。
「……甘いな」
二口、三口、彼女は無言でかき氷を食べる。
それと共に、いつかの
『氷菓子なるもの、この私が口にしたならば…………』
彼女は想う。想い、自分の
ついには来なかった春、神々の愛に満ちていた過去、そこに居た、片目だけの大神を。
「……やはり、懐かしい味がしたな」
まだ、涙の滲む瞳で。まだ、震えている声で。
それでも彼女は氷菓子を頬張り、満面の笑みを咲かせていた。
その頬を、暖かな風が浚うように撫で……彼女は愛する北欧と共に消えた。
無間氷焔世紀ゲッテルデメルング編 空想切除
(投稿時間が夜なので)こんばんは、一般通過初心者作家です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
わざわざ貴重なお時間を使っていただくので、その分の損だけはさせたくないという想いで書かせていただきました。
最低限プラマイゼロであれば、作者としてこれ以上の喜びはありません。
今後についてですが、今のところ続き執筆は考えていません。
というか二部三章の展開が一切思いつきません。
毒を盛られた二人をレイマ君が魔法で直して終わりです、解毒魔法の前に未知の塩基配列などは無意味なのです。このままでは逆上したカルデア面々にぐっちゃん先輩と始皇帝が瞬殺されてしまいます。
ということで続きを書くとしたら少し飛ばして二部五章アトランティスだと考えていますが、これも気が向き次第とさせてください。
カルデアでの日常、みたいな単話も書きたいので、更新する場合はそちらが先だと思います。
改めて、ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
良かったらこの小説ではなく原作である『Fate/Grand Order』と『異世界サモナー、神話の怪物達と現代で無双する』の両作品の事を好きになってください。もう好きだという方は改めて好きになってください。
一般通過初心者作家でした、おやすみなさい。