後追い星は願う   作:メメント森

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 週一のペースで投稿したいと言ったが、週一のペースで投稿するとは言ってない。


歯車は廻る

 

 ──初めてあった時から雫にぃは変わっていた。

 

 

 初めて雫にぃと会った時、私はおかしな人だなって思ってた。私とお兄ちゃんを見た途端にニヤニヤし出して、正直言って引いた。……冗談だよ。

 変な人だとは思ったけど、関わってみれば凄く優しい人だった。それはそれはとっっても優しい人。誰かが困っていると率先して手を差し伸ばして、一生懸命になって、悩みを解決しようとする。まるで物語のヒーローみたいな人。

 

 

 でも、私ちょっと思うんだよね。

 雫にぃは少し優しすぎると思うんだ。確かに人助けは悪いことじゃない。けど、全く関わりもない人でも、自分を削ってまで助けようとする。優しいのはいいけどさ、まずは自分を大切にしようよ。自分を削ってまで他者を助けようとすることを雫にぃ自身が何とも思わなくても、周りの人たちがどう思うかぐらいは考えてよ。あかねちゃんも、みなみちゃんも、フリルだってそう。先輩やMEMちょにお兄ちゃん、ミヤコさんたちだって貴方を大切にしてる。もちろん、私もだってそうだよ。

 

 

 みーんな、雫にぃが大切なんだよ。正直、十数年一緒にいて、知れたことは多くない。むしろ、少ないぐらいだなぁ。雫にぃはあの時からずっと、何かを押し殺すかのように生きていたのはもちろん知ってる。私だけじゃなくて、お兄ちゃんやミヤコさんにすらそれに気づいてる。

 

 

 ……ねぇ、なんで一人で進んじゃうのかな。私たち兄妹なんだよ。雫にぃが私とお兄ちゃんを大切に想ってくれてるのも知ってる。お兄ちゃんが道を外さないようにずっと見守ってくれていたのも知ってる。

 

 

 だからって、これは違うんじゃないかな。

 私たちをずっと想ってた?私たちの為?理由がどうであれ、こんなのは間違ってるよ。絶対に間違ってる。こんなことあっていいはずがないもん。本当なら、ドームを終えたはずの私をお兄ちゃんと雫にぃがよく頑張ったなって褒めてくれるはずなんだよ……?それで、私が二人に思いっきり甘えてたくさん褒めてもらうの。三人共とびっきりの笑顔でドームを振り返って、幸せな気持ちで川の字になって寝るはずだったんだよ。

 

 

 ……なのにさぁ、こんなのってないじゃん。

 どうしてなのかな。どうしてなのかな。どうしてなのかな。どうして──

 

 

 

 

 

 「……どう……し……てっ……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──物語はもうとっくに始まっている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 気がつけば、アクアとルビーと出会ってから数ヶ月が経っていた。

 最初の頃は、二人にかなり距離を置かれているようにも感じたが、そんな杞憂も消えてしまうほど、あっという間に俺たちは仲良くなっていった。ただまぁ、二人に比べて俺は前世の記憶がない普通の人間として扱われているため、俺に対しての接し方で時々悩んでいたのはなんだか少し微笑ましかった。

 まぁ、流石に前世があると言えど、貴方たちのお話が創作物の世界から来ましたなんて言うわけにもいかず、俺は前世の記憶などとは無縁の普通の児童を演じている。

 

 

 「……っし、これでよしっと」

 

 

 俺は今、星野家での出来事をノートに軽くまとめている。

 作品の通りであれば、星野アイという人間はそう遠くないうちに、リョースケと呼ばれる人物に殺害されてしまう。

 その未来が起こらない為に俺は、常日頃から周辺のチェックや星野家での出来事を逐一メモにとるようにしているのだ。とは言え、幼子にできることは限られており、あくまで俺にできる範疇で、ある。

 

 

 

 プルルッ!プルルッ!

 

 

 「ん、電話?誰だろうか?」

 

 

 「はいもしもし、星野です………

 

 

 

 

 ──俺はこの後の選択を未来永劫後悔することになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 「ばあちゃん!!!」

 

 

 「なんだい、もう来たのかい。家から近いと言えど随分早いねぇ。息も切れているみたいだし、もしかして走ってきたのかい?」

 

 

 「……はぁっ、はぁ、そうっ……だよぉ……っ!」

 

 

 「……ふぅ、体調は大丈夫なの……?」

 

 

 「んまぁ、ただの貧血だってばさ。そんなに焦ることでもないじゃんね。心配してくれるのは嬉しいんだがね。車とかいるし、走ってくるのは危ないから気をつけるんだよ」

 

 

 「……わかってるよ」

 

 

 ばあちゃんが倒れた。

 どうやら、職場で突然倒れたらしい。そんな知らせを聞いた俺はいてもたってもいられずに家を飛び出した。かなり全速力で走った気がするが、幼子の体じゃ程度が知れてるのか、本気で走ったとて、そんなに早くはなかった。

 ベットで座っている元気なばあちゃんを見る感じ、貧血で倒れたというのは本当のことだろう。とは言え、心配なことには変わりはない。

 

 

 「……貧血だからといって、油断してると危険なんだからね。いつ何が起こるかわからないんだからさ」

 

 

 「そないなこと言われんでもわかってるさ、雫は心配性やなぁ」

 

 

 何はともあれ、ばあちゃんが無事でよかった。

 少しだけ様子をみたら、暗くなる前に家に帰ろう。流石に小学校にすら上がっていない子供が一人で外をぶらついているわけにもいかない。軽く様子を見たら帰らねば。

 

 

 「そう言えば、今日の夜ご飯なんだけどさ、あたしゃ作れそうにもないだろ?アイちゃんとこにお世話になってもらってきな」

 

 

 「……お世話になってこいって、今から行ってお世話になっても良いですかーってのは少し迷惑じゃないか?」

 

 

 「安心しなさいな、連絡ならさっきアイちゃんにしてあるさ。今夜はアイちゃんとこに世話になってき」

 

 

 「……まぁ、そういうなら良いけどさぁ」

 

 

 

 

 なんてことがあり、俺は急遽自分の家ではなく、お隣の星野家に向かっている。……まぁ、俺んちも星野家ではあるんだが。

 アイの作るご飯は、生前作品で見ていたアイのイメージからは少し離れていた。多少の料理はできるかも知れないが、手の込んだものは無理だと思っていたからだ。だからこそ、たまにお邪魔した時に出てくる手の込んだアイの手料理たちにはとても驚いた記憶がある。もちろん、味も大変美味しかった。ミヤコさんや壱護さんだって美味い美味い言いながら食べてたし、料理が上手な方なんだろうな。

 今日は何を作るのだろうか。なんて少しばかり考えてしまうのはきっと、彼女の料理が凄く美味しいからだろう。

 

 

 「……?今の黒フードの青年、どっかで見たことあるような?」

 

 

 前方を全速力で走り抜けていった黒フードの青年。

 彼とは会ったことはないはずだ。なにせ、そもそも生まれてから関わった人間が両手に収まるくらいだ。なんなら、今日ばあちゃんの見舞いに病院にいって、その人数が増えたぐらいだ。少なくとも、関わったことがある人間ではないのは確かなはずである。

 

 

 「じゃあ、何処かで見たとか?でも、どこで……」

 

 

 普段、アクアたちと遊ぶときでさえどっちかの家でだ。家の外に出ることはあまりない。加えて、幼稚園などに通わない俺は尚のこと外に出る機会は少ない。では、どこ見かけたのだろうか。

 

 

 「……黒フードに対しての既視感、黒フードなんて何処にでもいるだろうに何でだ?言われて思い浮かぶにしたって……」

 

 

 ……リョースケ?

 苗字は覚えていないが、『推しの子』において、アイを殺害した男である。彼はさっきの人みたいに黒フードを着用していた記憶がある。なんなら、アイを殺害したときも──

 

 

 「……は?いや待て、いやいや、嘘だろ?」

 

 

 ドーム公演までまだ二ヶ月はあるんだぞ?そんなわけないだろ。

 彼がアイを殺害したのは、ドーム公演当日のはずだ。彼女の誕生日に行われるドーム公演。その日に合わせて殺害は行われた。今日はその日でないはずだ。アイが殺害されるだなんてそんなこと有り得るはずが……。だって、余程のイレギュラーなことが起こらない限りはそんなこと起こり得るはずな……い……?

 

 

 「……まさかっ!?」

 

 

 俺は走った。

 とにかく全速力で走った。ばあちゃんが倒れたと聞いて病院に向かったとさほど変わらない速さで走った。ただアイが無事でいることを願う一心で走った。

 

 

 「……はぁっ、はぁ、はぁ」

 

 

 星野家の前に着いた。きっと、この扉を開ければいつものように騒ぐ二人の声が、楽しそうに笑うアイの声が聞こえるはずだ。いつものように笑顔でみんなが出迎えてくれるはずだ。

 

 

 「……鍵が、空いてる」

 

 

 リョースケの件があるから、俺は常日頃からアイには戸締りに関することは口煩く言っていた。特にチェーンはしっかりかけるべきであると。にも関わらず、鍵が空いている。それだけじゃない、チェーンすらかかっていない。

 

 

 「おーい、チェーンどころか鍵すらかかってないぞー………」

 

 

 俺は普段のように大きな声で言う。

 信じたかったのだ。何も起きていないことを。いつものようにみんながそこにはいることを。ただ、平穏であることを信じていた。だから、いつものように言う。

 

 

 ──けれど、現実というものは常に一番残酷なものが真実なのである

 

 

 「……あ、ぃ、?」

 

 

 「……し……ず、く、?」

 

 

 ──扉を開けて先に待ち構えていた現実は一番残酷なもので、それでいて何よりも正しかった。このとき、光を失ったアクアの瞳に微かに映る俺はどんな顔をしていたのだろうか。

 

 

 

 ──俺は間違えたのだ

 

 

 

 ──自らを過信した結果がこれである

 

 

 

 ──俺のせいでアイが死んだのだ

 

 

 

 「……あ、あ、あ、あ、あ、あァァァァッ」

 

 

 

 ──思い返せば、違和感はいくらでもあった

 

 

 

 ──なぜ、アイは原作と違う家に住んでいた?

 

 

 

 ──料理の腕前が明らかに違うのどうして?

 

 

 

 明らかに俺の知る原作と異なる点が存在するのは確かだ。

 何の理由もなしに、原作と異なった展開になるはずがない。すなわち、あるのだ。俺の原作とは異なるナニカが。

 

 

 そんなもの一つしか存在しない。

 原作に存在せず、この世界に存在する異物にして異端。

 原作知識を持って転生し、結末を変えようと足掻いていた人間がいるのだ。

 

 

 俺である。

 原作知識を持つ俺が我儘に結末を歪めようとしたから因果が狂ったのだ。そのせいで起こってしまった。本来よりも早くにアイが死ぬというシナリオが。

 ようは、俺のせいなのだ。俺が中途半端に介入しようとしていたから、明確に助ける手立ても立てずに行動したから。全部全部全部全部ぜっっっっんぶ過信した俺のせいなのだ。

 

 

 ……俺のせいで死んだのだ。俺のせいで。俺が中途半端なせいで。俺が勝手な行動をしたせいで。おれの、せいで。おれのせいで。おれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいでおれのせいで──

 

 

 「……ご、めん…な、さぃ」

 

 

 おれのせいであいはしんだんだおれのせいであくあがあんなかおをおれのせいで──。

 

 

 

 遠のく視界に最後に映ったのは、光を失った海色の瞳の君の姿だった。

 

 

 




 かなり駆け足気味ですが、多分もう少しだけ駆け抜けます。

 この作品はラブコメに持っていくはずなんだけども、いかんせんシリアス要素が顔を出してくるのが悩みどころ。
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