後追い星は願う   作:メメント森

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 ようやく、前座が終わる。


ハッピーエンドを目指して

 

 ──初めて会った時の君は、とても苦しそうだった。

 

 

 覚えてるかな?私としずく君が初めて出会った時のことを。あの恋愛リアリティショーのことは今でも鮮明に覚えてる。楽しい思い出が沢山あったから。もちろん、楽しい思い出だけじゃない。辛い思い出だってあるにはある。それでも、あの思い出が私にとって何よりも大事なのは、きっと君と出会えたからだと思うんだ。

 

 

 初めて出会った時の君は、凄く辛そうな瞳をしていた。今思えば、あれは自己嫌悪からくるものだったのかな。君はずっとそうだった。『みんな』っていう言葉をよく使うくせに、その中に自分を入れない。何をしても他者を優先していて、そんなに自分のことが赦せなかったのかな。

 

 

 君がアクアくんやルビーちゃんのことを大切に想っていることも、二人に対して強い罪悪感を抱いていることも知ってるよ。だけどさ、だからって二人のために自分の人生を棒にするのは違うと思うんだ。二人だってきっと、三人で一緒に歩んでいくことを望んでいたはずだよ。なのに、自分ばっかり先に進んでさ。ほんとに酷い人だよ君は。

 酷いと言えば、私もだよね。君と喧嘩したときにさ、沢山酷い言葉を浴びせちゃったよね。……ごめんなさい。本当は、一緒にいたかった。できることなら、君の隣にずっといたかった。君の弱さも孤独も、何かもを抱きしめて癒してあげたかった。

 

 

 ……ねぇ、君にはまだ言えてない言葉が沢山あるんだよ。君の好きなところとか、知ってほしい私のこととか、たっくさんあるんだよ。なのに、なんで君は私たちを置いていっちゃったのかな。どうしてかな。

 

 

 「……まだ、告白の答えも聞いてないのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──この海に染まれば、私は少しでも君に近づけるのかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 アイが死んでから二年の月日が流れた。

 当時のことはよく覚えていない。気がついたら俺は病院にいた。どうやら、精神的ショックで俺はそのまま倒れてしまったらしい。肝心のアイを殺したリョースケは数日後に近くの山で首を吊って亡くなっていたのが発見された。どうして、リョースケによる殺害が早まったのかは俺には見当もつかなかったが、ただ一つ言えることとして、俺が原作知識を持って介入したからこそ、本来起こり得る未来の出来事が少し前倒しで起きたのだろう。

 ようは、俺のせいである。俺が必要以上に彼女らに介入したからこそ、彼女は本来よりも早く殺されたのだ。別に俺が介入しなくとても本来であればアイは殺されていた。けれども、俺が必要以上に介入していなければ、ここまでにはならなかったのではないかと考えずにはいられない。だから、俺のせいなのだ。

 アクアにアイが最後に残した言葉はないかを尋ねた。別に何か理由があったわけではない。ただなんとなく気になったからだ。

 

 

 ──アイは特に何も言わずに静かに眠ったよ

 

 

 その言葉が常に頭にこびり付く。本来であれば、亡くなる間際にアイは二人の子供に愛していると伝えるのだ。嘘で固め、偽り続けてきた彼女が本心からそう伝えるはずなのだ。最初で最後の愛の言葉。曲がりなりにも、歪んだ彼女が子を想っていたのが伝わる場面だ。

 

 

 そんな大切な言葉が二人には紡がれていない。

 これもきっと俺のせいなのだろう。そう考えると、自分のしでかした罪の重さに心が押しつぶされになる。気を抜けば、あの時の光景が蘇ってきて、動悸が早くなり気持ち悪い汗が流れてくる。

 

 

 よく覚えてはいないものの、完全に覚えていないわけではない。だからこそ、覚えているものは鮮明に記憶に残ってしまう。あの時の、アクアの悲惨そうな顔を。

 俺は悲惨な未来を辿るアクアやアイを本来であれば救うべく暗躍しようとしていたはずだった。にも関わらず、俺自身の選択のせいでアイを本来よりも早く死なせてしまった。

 それだけじゃない。アクアやルビーに本来紡がれるはずだった母からの最初で最後の愛を俺は潰してしまったのだ。

 

 

 俺のせいだ。

 何が俺が変えてみせるだよ。偽善者ぶってんじゃねぇよ。俺が彼女たちのためにしてあげたことなんて何一つとしてない。むしろ、俺のせいでアクアもルビーも心に深い傷を負ってしまったんじゃないか。アイを助けるどころか本来よりも早く死なせたのは誰だ。俺だろ。

 俺が全て悪いんだ。俺が中途半端だったから。慢心をしていたから。過信していたから。無力だから。

 ……もう、全てがどうでもいい。『推しの子』、原作、未来改変、そんなのどうでもいい。俺が介入したって碌なことになりやしない。今回の件で、痛いほどに知ったはずだ。俺なんかのせいで、みんなが余計に危険な目にあったらどうする。それこそあってはならないことだ。

 

 

 それでも、介入しなくてはいけない理由が一つだけ存在するのだ。

 このままいけば、きっとアクアは原作同様の終わりを迎えてしまうだろう。それだけは許されない。俺のせいで二人は辛い思いをした。なのにこれ以上、アクアやルビーが悲しむようなことがあってはいいはずがない。たとえ、めちゃくちゃな結末を迎えたとしても、せめて二人だけは幸せにしなくてはならない。

 だから俺は、自我を殺してでも二人を幸せにするのだ。もう原作なんて関係ない。あくまで俺は二人の兄として、二人をハッピーエンドに連れていく。そこに俺がいなくたってかまわない。

 

 

 そのためになら、俺はこの身すら捧げよう。

 それが俺にできる唯一の贖罪だから。

 

 

 ──少年はハッピーエンドを目指して歩み出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 「……少しいいか?」

 

 

 「ん、アクア?どしたの、何かあった?」

 

 

 「……雫の父親について聞きたいことがある」

 

 

 やはり来たか。

 しかし、聞きに来るのに随分と時間が経ったな。アイが亡くなってからもう二年も経っている。

 アクアの聞きたいことは予想が付くが、聞いてくるまで随分時間がかかったものだ。内容としては、おおよそ僕の父親に関してのことだろう。

 いや、もしかしたら母親についてもか。なにせ、苗字が同じ星野ときた。流石に気にならないはずがないだろう。

 

 

 「……多分、想像通りだよ。僕の父親は君たちの父親と同じだと思う。壱護さん曰く、瓜二つな僕と君たち兄妹の間には血縁関係が存在するらしい。まぁ、残念なことに僕にもそれが誰かはわからないんだけどね」

 

 

 「……そうか。急に聞いて悪かった」

 

 

 「いいよ、別に気にしてないし。てか、母親についてもほんとは聞きたいんじゃないの?てっきり聞かれるとばかり思ってたんだけど」

 

 

 「いや、気になっているのはそうだが……」

 

 

 「じゃあ、教えてあげるよ。って言っても、アクアが望むようなことは何にもないけどね」

 

 

 薄々感づいてはいたが、僕の母親と星野アイには意外な繋がりが存在していた。

 些細なものでありながら、どこか不思議な因縁を表すかのように。

 

 

 「……僕の母さんはさ、アイさんの従姉妹にあたるらしいんだ」

 

 

 「……従姉妹だと?」

 

 

 そう、従姉妹である。

 僕の母さんとアイは従姉妹にあたる。両親同士が姉妹なのだ。とは言っても、母と祖母との間に血縁関係はないらしく、関係値は無いに等しい。ほぼ、赤の他人のような間合い柄である。

 

 

 「曽祖母の話からして、多分そうなんだろうなって。だから、少しだけ調べてみたって感じ」

 

 

 「そしたら、戸籍上は従姉妹に当たるって分かったんだ。……けどまぁ、母さんは祖母とは血縁関係がないみたいだし、ほとんど赤の他人だけどね」

 

 

 「……そうか」

 

 

 「アクアはさ、したいんでしょ」

 

 

 「…………何がだ」

 

 

 「…………復讐だよ。自分の母を殺した父親であろう人物にさ」

 

 

 「……あぁ、そうだよ。俺はアイをあんな目に合わせたやつを必ず地獄に堕とす。そのためだったら、この命すら掲げてやる」

 

 

 そう語る彼の瞳は何も映していないかのように真っ黒であった。

 まるで、深淵を覗き込んでいるかのようだ。

 

 

 ……ダメだよ、そんな瞳をしちゃ。

 これ以上、その綺麗な海色の瞳が濁らせてはいけない。。

 

 

 「そっか、じゃあ手伝おっか?その復讐」

 

 

 「……どうして?」

 

 

 「どうしてって、僕も君と同じ理由だよ。僕も母さんを殺されてる。不思議に思わなかったの?僕が曽祖母と一緒に暮らしていた理由をさ」

 

 

 「……そういうことか。互いに目標は合致している。ならば、手を組まない通りはないってわけか」

 

 

 「そゆこと。どっちにしたって、僕たちはもう兄弟じゃん。なら、一緒に手を取り合うのが普通だと思うんだよね。だからさ、手伝ってあげるよ」

 

 

 「……どこまでもね」

 

 

 僕は嘘をつく。

 別にカミキヒカルに対して復讐がしたいわけではない。死ぬほど憎んでいるわけでもない。

 ただ、アクアを見守るためには必要なことなのだ。彼と共犯者となり彼を見守る。アクアが道を踏み外さないように。

 ……万が一にも、アクアが道を踏み外す場合は、僕が代わりに全てを背負うと決めた。だから僕は、彼のそばで彼の行いを見守り続けると決めたのだ。あわよくば、これ以上辛い思いをしないように。

 

 

 別に自らを投げ捨てることぐらいどうってことはない。

 もう俺に価値はない。アクアとルビーをハッピーエンドに連れていくだけのこと。そのためになら、俺なんかいくらでも捨ててやる。俺は二人の兄だから。兄ならば下の者たちのために命を張ることぐらい普通のことだ。

 

 

 ばあちゃんはアイが亡くなったあと、後を追うように亡くなった。

 ただの貧血だなんて言ってたくせして、随分と体にガタがきていたみたいだったらしく、少しの間病院で過ごしたのち亡くなってしまった。かくして、ばあちゃんを亡くした俺は一人の身となり、そんな俺を危惧したミヤコさんにアクアやルビーたち同様引き取られたのだ。

 

 今の俺は二人の兄である。

 俺のせいでこれ以上不幸な目に合わないように兄として導き、二人への贖罪としハッピーエンドに連れていく。それが俺が歩むべき道なのだ。

 だからこそ、俺は二人のために全てを捧げようと誓った。

 この人生も、心も、何もかもを捧げて二人を幸せにできるのであれば俺はそれで構わない。

 

 

 二人の幸せのためなら、俺の自我すら捨ててくれる。

 俺なんかがいたって、きっと前と同じ目に遭うに違いない。

 

 

 …………僕にはもう、俺は不必要なのだ。

 

 

 「困ったことがあったら、なんでも言ってよ。ほら、あれじゃん?一応、僕はお兄ちゃんに当たるわけだし」

 

 

 「……お兄ちゃんがどうとかは別として、頼りにはしてるよ雫」

 

 

 「うん!いっくらでも頼ってね、アクア」

 

 

 ──かくして、歪んだ少年の物語は動き出す

 

 

 




 これにて前座が終わりです。随分と早く駆け抜けましたが、これからゆったりとなるはず?

 一応、プロローグ時点での主人公(たち)の説明を載せておくのでよかったらご覧ください。


 ・星野 雫
 『推しの子』の世界に転生してきた者。アイが自分のせいで早く死んじゃったことで心を大きく壊してしまった。気がついた頃にはアクアとルビー絶対マンに。二人のために、自らの命すら捨てかねない危うい思想は、近い将来たくさんの人を曇らせること間違い無いでしょう。

 ・星野 愛久愛海
 原作『推しの子』主人公。原作と違う点として、共犯者の存在や自分の境遇をある程度理解できる者がいること。原作よりは多少は思想がまろやかになってたりなってなかったり。

 ・星野 瑠美衣
 みんな大好きさりなちゃんことルビーちゃん。今の所、アイ同様に一言も出ていない人。原作とは違い、兄が一人多い。料理が原作よりも上手だったりする。

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