後追い星は願う   作:メメント森

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 元々予定していた構成の都合や時系列の多少の変化から、新章投稿に合わせて現在投稿済みの「ハッピーエンドを目指して」までの四話分の加筆及び軽めの修正を行いました。
 基本的には、文章の改善と話の順序に対する小さな修正、それに付随して会話と心情描写の加筆を行いました。おおまかな設定や話の流れは変わらずなので、既に第四話まで読まれている方なら、改めて読み直す必要はなく、そのまま新章を読んでも問題ないと思います。


 新章からは時系列が少しずれているため、読みずらい場合もあると思いますが、楽しんでいたただければ幸いです。


星から零れた愛は何を見る
海から零れて


 

 

 

 今日も今日とて、私は足を運ぶ。

 別に大した理由なんてものは存在しない。ただ、なんとなく此処に来れば何かが変わりそうな気がしたから。

 そう、それだけ。

 

 

 相も変わらず、ここの匂いは私には合わない。

 なんというか、新品の家具の匂いと古びた役所の匂いを足して割ったような匂い。正直、自分でも何を言っているのかと思うが、実際にここはそんな匂いがするのだ。

 人の匂いが溢れていながら、どこか機械的。

 ここは、そんな形容しがたい匂いを放っている。

 

 

 そんなことを考えていると、どうやら目当ての部屋の前まで来ていたらしい。

 正直、ここに何度も来ようとも、この扉を開けることに対する苦手意識は一向に払拭できない。

 私は怖いのだ。この扉を開けてしまったら、受け入れたくもない現実が襲ってくる。そんな事実にいつも打ちのめされる。

 この扉を開けた先に彼はいる。

 そう、未だに目を覚まさない()が──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 ここに来た回数はもう数えていない。

 ただ言えることとして、私はここに数えきれないほど訪れているのは間違いないということ。

 …………そして、そのたびに眠る彼の横顔を見ているということ。

 何度此処に訪れようとも、彼は常に眠ったままだ。目を覚ます気配なんてものは一切ない。

 その事実に、私を含め何人もの人間が心を病んでいる。

 

 

 「…………一体、いつになったらアンタは起きんのよ。もうそろ起きても良くないわけ」

 

 

 「みんなさ、アンタが目を覚ますのずっと待ってる」

 

 

 彼にこの言葉が届いていないことぐらい、何度もここに通えば嫌というほど痛感する。

 それでも、この胸に秘めた思いというものは零さずにはいられない。

 

 

 「最初こそは良かったわ。みーんな、アンタが生きていたことに希望を見出していたし、すぐ目覚めるものとばかり信じていた」

 

 

 「…………けどね、みんながみんなずっと待っていられるわけじゃないのよ。ルビーはあれからほとんど部屋を出ちゃいない。MEMは常に作り笑いを浮かべてる。」

 

 

 「そんな私たちでB小町が上手くいくわけもなく、気が付けば無期限の活動休止」

 

 

 「世間じゃあ、B小町の活動休止にアンタの件が絡んでるんじゃって憶測が飛び交ってる。そのせいか、ルビーは余計に外に出るのを拒むようになったわ」

 

 

 あれは随分と酷いものであった

 ただでさえ、私たちの活動休止の理由が雫であると噂されるのもあまり良いものではなかったのに、世間は私たちと雫の間に男女的トラブルがあったのではないかなどと噓っぱちだらけのゴシップで盛り上がり始めていた。

 まったくの事実無根であっても、それを否定する人が表舞台には誰一人としていなかった。

 そんな状況が噂をより多くの人に広め、そして多くの人がそれを本当なのではないかと信じ始める。

 

 

 正直に言って反吐が出るほど気持ち悪かった。

 最終的には収まりつつあったものの、未だに信じてやまない人は少なくない。

 社長やあの女のおかげで抑えることは多少できたが、所詮は抑え込んでいるだけ。いつかはまた封じ込めきれないときが来るはずだ。もし今度、そうなってしまったときに今と同じようにいくとは思いつかない。

 ただでさえ、壊滅的な者もいるのにこれ以上悪化したらどうなるのかだなんて想像すらしたくない。

 

 

 「…………そーいや、あいつも最近は酷いのよ。そう、黒川あかね。」

 

 

 「最近じゃ、ほとんど休みを取らずに働いているって話。なんなら、過労で一回ぶっ倒れたって聞いたわ」

 

 

 「あいつがそこまでなるなんて珍しいものでしょ」

 

 

 あいつは特に酷い。

 ルビーたち同様、あからさまに壊れているにも関わらず、そんな自分を自分自身で気づかないほどに偽っている。

 正直、最も壊れていると言っても過言ではない。

 

 

 「目が覚めたら、真っ先にあいつに顔見せてやんなさいよ?ほんと、今のあいつはどう考えたって正気の沙汰じゃないわよ」

 

 

 「…………まぁ、それぐらいにはアンタを想っていたってことなんでしょうけど」

 

 

 そんな他愛もない世間話を彼にしていたら、気づけば外は夕暮れ見え始めていた。

 そこまで話していたつもりはなかったが、思った以上に話す内容が多くてあっという間に時間は過ぎ去っていた。

 …………まぁ、他愛もないは少し言いすぎな気もするが。

 

 

 「兎にも角にも、さっさと目を覚ましなさいよ。みんな、アンタのことを待ってる。」

 

 

 「…………それこそ、あーくんだって」

 

 

 「目を覚ましたくない理由があるのもわかるけど、一回くらいはみんなの話を聞いてやんなさいよ」

 

 

 「それこそ、アンタを見つけたっていうあの爆弾みたいなスタイルのグラドルのとかさ」

 

 

 「彼女、あれ以降仕事を一切受け付けてないってさ」

 

 

 「責任取ってちゃんと面倒みなさいよねほんと」

 

 

 「アンタの影響で、同じような状態のやつは多い。ルビーやMEM、社長や黒川あかねはもちろんのこと、あの不知火フr──

 

 

 

 

 「失礼するわ。貴方は、今日も眠ったままなのかし……ら?」

 

 

 

 ──る?」

 

 

 

 どうやら、私はまだ帰れそうにもないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 「…………」

 

 

 「…………」

 

 

 うーん、何を話そう。

 この女、自分から横に座ってきたくせして何も話さないんだが。自分から横に来たんだから、一言ぐらいなんか言いなさいよ……。すごい気まずいんだけど。そのくせ、私の方チラチラ見ては言葉を探しているみたいだし、やりづらいったらありゃしない。

 はて、どうしたものかしらね。話題を出そうにも思いつかないのよ。……私、別にこいつと仲良くないし。共通の話題と言っても、目の前で未だ目を覚まさないこいつのことぐらいだけど、かといって気軽に出していい話題じゃない気がするし。

 

 

 「……いつも、来てるのかしら」

 

 

 「……えぇ、よほどのことがない限りは毎日」

 

 

 「毎日………」

 

 

 「意外だったかしら」

 

 

 私が雫のお見舞いに来ることはあっても、流石に毎日は意外だったのだろう。その証拠に小さく言葉を零した彼女の顔には、誰が見ても分かるような困惑が浮かんでいた。

 

 

 「えぇ、少しだけね。雫と仲が良いのは知ってはいたけど、そこまでとは思わなかったわ」

 

 

 「……まぁ、いろんな理由があんのよ」

 

 

 「いろいろ……?」

 

 

 「そう、いろいろ。まぁ、そんなに大したもんじゃないし、あんまし気にしないで」

 

 

 「……? そう」

 

 

 そう、別に特別大層なものではない。

 ただ、約束したから。たったそれだけのこと。

 

 

 「……にしても、てっきりアンタはもう来ないものとばかり思ってたんだけど、どういう心境の変化なわけ?」

 

 

 「別に何かがあったわけじゃないわ。ただ……」

 

 

 「ただ?」

 

 

 「逸らしていたものに向き合っただけのこと。それだけのこと」

 

 

 「……ほーん、それで? 何と向き合ったわけよ。少なくともこの半年間、一回も来なかったアンタが来るほどのものってなんなわけ?」

 

 

 「少なくとも、ちっぽけなものではないでしょう?」

 

 

 「……そうね、小さなことではないわ」

 

 

 「私の話を聞いてくれる?」

 

 

 「えぇ。時間が許す限りは」

 

 

 そうして語りだす彼女の瞳は、今まで見た中で何よりも碧かった。

 まるで、希望に目を輝かせる幼子のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 少しだけ驚いた。

 私の知る限り、彼女は彼とは普通の友人程度の関係のはずだった。多少は仲が良いかもしれないが、ここまでとは思わなかった。

 まさか。彼に想いを……? いや、ルビーの話ではアクアさんの方に想いを寄せていたと聞いた。

 些か疑問は残るものの、数か月に彼の話を他の人とできて少し気持ちが晴れた気がする。それに、あのことまで話してしまった。正直、他の誰かに話す気はなかったのだけども、何故か彼女と話していると思わず話してしまった。

 

 

 「でも、これで良かった気がする」

 

 

 そう、これで良いのだ。

 あれから半年。半年という時間は思ったよりみんなの心の傷を癒してはくれなかった。きっと、この先何年と時間が流れてもそれは変わらないのだろう。ならば、私たちは時間が傷を癒してくれるのをただひたすらに待つのではなく、自分たちで傷を癒さなければいけなのだ。

 人間、人が思うほど強くはない。傷を放ったままにしてしまえば、いつか壊れてしまう。それこそ、彼のように。

 

 

 「……ルビーやみなみにも会わないとだよね」

 

 

 きっとまだ、心を閉ざしたままの友人たちを私は想う。

 彼女たちだけではない。前を向くべき人は他にもいる。その人たちが少しでも前を向けるようにすることが、私にできる小さな償いのはずだ。

 

 

 「綺麗……」

 

 

 海が見えるこの病室に差し込む淡い光。

 まるで、今から立ち上がろうとする私を鼓舞するかのように煌びやかとしている。

 

 

 「……ほんとは、君にも見せてあげたかったな」

 

 

 「だから……はやく、目を……覚まし……っ」

 

 

 少女に呼応するかのように鴉の声が響く。

 過去に懺悔を込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 「君は優しいけど、優しすぎるのが玉に瑕だ」

 

 

 「それに、自己評価が低いのもだよ」

 

 

 「そのせいで、みーんなおかしくなっちゃった。君が自分の価値をちゃんとは理解しないお馬鹿さんだからだよ」

 

 

 黒い少女は夕日に呟く。

 誰かを慈しむように語る少女の声は少し震えている。

 

 

 「……あれだけ、やめてって言ったのになぁ」

 

 

 「私の制止すら振り切って進んだ結果がこんなものだと知っていたら、きっと私は協力なんてしなかった」

 

 

 「それこそ、二人に協力する方が何倍も良かった」

 

 

 「けど、それを誰よりも望まない君だからこそのこの結末なんだろうね」

 

 

 「ほんと皮肉な話だよ」

 

 

 「君を待つ者は少なくはない」

 

 

 「……だからさ、早く帰ってきてもいいんじゃないかな」

 

 

 そう呟く彼女に答える誰かはいない。

 彼女もそれを理解している。

 けれど、頭では理解していても心はそう簡単には受け入れてくれはしない。縋るしかないのだ。

 明日を生きようとする()()がいる結末を。

 

 

 だから、傍らに一羽の黒を携える彼女は想い続ける。

 未だ、目を覚まさない誰かを。

 

 

 己の罪に囚われ続けている偽りの星を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……っ、ぁぁ。ぅぁぁ?」

 

 

 奇しくも制止していた時は零れだす。

 絡み合う幾度の後悔と共に。

 

 

 

 

 




 
 ようやく続きが出せました。時系列が大きくずれていくため、この先の描写で時系列の把握が難しい場合があると思いますが、飽きずに付き合っていただけると幸いです。

 一週間に一回のペースでをモットーに頑張りますので、走れるところまで付き合ってくださると、泣いて喜びます。
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