東京都立呪術高等専門学校、グラウンド。
初夏の陽射しが校庭を照らす。乾いた土がわずかに舞い、白線が鋭く光る。
木刀がぶつかり、鈍く硬い音が響いた。
「今の入っただろ」
「入ってません」
「しゃけ」
「棘は入ったって」
「どっちだよ」
釘崎は肩で息をし、前髪を払った。
伏黒は距離を取り直し、身体の軸を整える。無駄のない動きが視覚に残る。
その横で禪院真希は、木刀を肩に担いだまま微動だにせず立っている。汗ひとつ見せず、視線は揺れない。
「悪くないな、一年坊」
一言。簡潔で、無駄がない。
釘崎は思い出したように言葉を継ぐ。
「そういえばさ、三年って何してんの? 見たことないけど」
伏黒が淡々と答える。
「三人いる。そのうち二人は停学中」
「停学?」
「上層部と揉めたらしい」
空気が一瞬、硬くなる。真希は表情を変えず、視線を向けることもない。
「残り一人は?」
伏黒の視線がグラウンドの端、鉄柱に向く。
高さ一メートルほど、直径三センチほどの鉄柱が地面に打ち込まれている。
その頂点に、一人。
片足のつま先だけで立ち、座禅を組んでいる。支えはない。背筋は糸で吊られたように真っ直ぐ。
呼吸は一定で、全身に薄く均一に呪力が纏われている。凹凸も波もなく、強弱の差もない。尖りもない、乱れもない。
「禪院総司。三年」
「禪院?」
釘崎が真希を見る。
「分家だ」
風が吹き抜け、砂が舞う。総司の髪がわずかに揺れ、視線が落ちる。
片足のまま、ゆっくりと立ち上がる。
次の瞬間、地面に降りている。踏み込みも跳躍も視認できなかった。
ただ位置が変わり、着地音は土を撫でる程度にしか響かない。
総司は一年の横を通り過ぎる。一瞬だけ視線が交差するが、言葉も反応もない。
呪力は薄く、均一なまま変化していない。
真希は口角をわずかに上げ、視線を総司に置く。ぶっきらぼうな口調で、視線は総司に向けたままわずかに柔らかさが残っている。
「三年だ」
総司は背を向け歩き出す。
「おい総司。せっかくだからお前も相手していけよ」
総司は足を止める。
「……仕方がない」
踵を返し、歩みを止めずに一年の前に立つ。
視線は一定、呪力は変わらず。淡く、均一、揺れない。
「禪院総司だ」
真希は小さく鼻を鳴らす。
「ったく、しゃぁねーな」
釘崎は伏黒に小声で囁く。
「さっきから真希さんの態度、少し優しく見えない? あの三年と具体的にどういう関係なのよ」
伏黒も小声で答える。
「俺も詳しいことはあんまり知らない…」
釘崎はさらに小声で続ける。
「ふーん……じゃあ真希さんとどっちが強いの? あんまり強そうには見えないけど」
肩越しに、ふふふ、と揶揄う声がかかる。
「ふふふ、いいこと教えてやろうか、野薔薇〜。あー見えて真希のやつ、総司にゾッコンなんだぜ」
釘崎と伏黒が顔を見合わせる。パンダは得意げに立っている。釘崎は目を細め、伏黒は眉をわずかにひそめる。
真希が舌打ちし、声を投げる。
「さっきから好きに言いやがって……聞こえてるぞお前ら」
ぶっきらぼうな口調だが、頬が僅かに染まっているようにも見える。
少し間を置いて、低く付け足す。
「後で覚悟しとけよ」
真希は視線を総司に戻し、ぶっきらぼうながらも説明を続ける。
「まぁいい、さっき言ったように、こいつの名前は禪院総司。
準特級術師で、禪院家次期当主最有力候補様だよ」
初めての物書きで拙いとこばかりでしょうが楽しんでいただけたら幸いです